予想より 王宮魔術師 偉かった
誤字脱字のご指摘、ありがとうございます。
「アルフレッドが福祉に力を入れていたのも裏取引の為と言う事になりますね」
さて、答え合わせだが、俺もリックも同じ答えに辿り着いた。こういうのは気持ち良い物だ。
「アルフレッドにとっては孤児院なんて商品を育てる場所でしかない。農場と一緒」
商品の管理をしつつ、自分の名声は上がる。一石二鳥だな。
アルフレッドにとってはこの上なく都合良いという訳か。
「更には貧しい者へと施しをしている様です。安心させておいて…」
「炊き出しでもしてやれば、イチコロって訳か」
「はい。こう言っては語弊が有りますが、貧民街に住んでいる者は他人がいなくなっても気にしません。正確には気にする余裕が有りません。自分の生活で精一杯ですから」
「施しを受ける人を気兼ね無く連れて行ける訳だな」
「甘い言葉でも使ったのでしょう」
「奴隷になるとも知らずにな」
昔から言われているが本当に悪い奴等は甘い言葉、優しい態度で接してくる。
信頼させて根刮ぎ奪う。
「近年は外国に売っているようです。領内では秘密が漏れる恐れも有りますからね。数を少なくして厳選した奴隷だけを領都に置いているようです」
「外国に奴隷を送るには船が要る。他の船乗りの目に付かない様な港があれば最高か」
「軍港ならば、軍事上の機密が有るので関係者以外は立ち入り禁止です」
「アルフレッドの野郎、俺に目眩ましの為の新しい港を作れってか!なぁリック、伯爵家が軍港なんて必要なのか?」
「いえ。国防に関わる事は国の直轄です。ですから軍港は王家の直轄地にしか在りません」
地方の領主が軍事力を保有していたら王家には都合悪いだろう。
謀反とか、軍事力を持って外国と連むとかで。
「王都で各地の盗賊被害を調べたのですが、このエリクソン伯爵領の近隣の領地、伯爵領に近くなるほどに被害が増えています。しかし伯爵領は盗賊被害は無いと主張しています」
近隣の領地の被害が多いのは納得だ。盗賊が足を延ばしたのだろう。
エリクソン伯爵領で被害が無いなんて、白々しいったらありゃしない!
「奴等が船を自由に使える様になったら海賊行為も増えるかも知れないな」
「既に沿岸部では幾つか被害が報告されています」
もうやっていたか。
「港が出来たらもっと増えそうだな」
「させませんけどね!」
ニッと笑うリックは矢鱈と自信有り気だ。
頼もしいけど、何かまだ隠し球が有るのか?
「エイジ、思うのですが」
真顔に戻ったリックが改まって聞いてきた。一体何だろ?
「これはアルフレッドというよりもエリクソン伯爵家、更には王国の膿にまで関わりかねない問題になると思います」
「アルフレッドは末端に過ぎないと?」
「はい。盗賊を締め上げればアルフレッドの名前が出てくる事が証拠とも言えます。アルフレッドはいざとなったら切られるトカゲの尻尾かと」
そうなると実際、アルフレッドはどこまで絡んでいるんだ?
あの祭りの翌日、港建設を熱く語るアルフレッドを思い出す。
偉ぶった所も無かった。あれが本来の彼なら間違いない好漢なんだがな。
あの情熱は奴隷運搬船の為だったのか?
「もしかしたらだけど、アルフレッドは伯爵家の悪事を知らないのかも知れない。だから港建設に熱くなっていたのかも」
もしそうなら憐れだな。長男でありながら妾腹という事で家督を継げず、何も知らずに悪事に加担する。
父や弟は安全な王都に居て、悪事が白日の下にさらされれば全てを押し付けられて切り捨てられる。
「エリクソン伯爵は犯罪捜査を取り仕切っているトルーマン公爵に取り入っている様です。本当の黒幕はそちらでしょう」
王都に居る公爵まで出てくると流石に話がデカくなり過ぎだ!
それに疑問も有る。
「あの、リックは子爵家の3男だろ?伯爵や公爵の悪事を暴く様な事をして大丈夫なのか?」
俺は盗賊被害を許せないと思ったからこの件に首を突っ込んでいるが、リックの立場が不安だ。
「ご心配には及びません。これを」
そう言うと更に不敵な笑みを浮かべるリックは1枚の紙を書類入れから取り出して俺にスッと差し出す。
折角だけど、読めないんだよね!
「王宮魔術師団は国王陛下直属の部隊です。ですから誰であろうと王宮魔術師のする事に口を挟む事は出来ません!」
「口を挟むとどうなる?」
「最悪の場合は反逆罪となり、家財没収の上死罪となります」
怖っ!
「それじゃ、捜査権は有る訳か」
「はい。そしてエリクソン伯爵の名前は伏せてありますが概要は国王陛下のお耳に届いています。これは国王陛下直筆の命令書です!」
字は読めないけど、そう聞くと有り難く感じる。
いざとなれば印籠の様に見せ付けてやれば良いのかな?
その場合、カッコよく口上を述べられる様に練習しておかないと。




