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飲んでみて アルフレッドは いい奴か?

「アルフレッド!」

 どうやらこちらに気が付いてはいない様だ。俺はクレアを店の中に戻してから、行列の最後尾に7人組で並ぶアルフレッドに声を掛けた。

「これはエイジさん!奇遇ですね」

 奇遇って、白々しい。俺の事は調べ上げてある筈だろうに!


「アルフレッド様、自らがお並びになられていらっしゃるのですか?」

「ええ、明日の午前中にこのアベニールを発つので、今晩はこの街の評判の料理をと思いまして」

 そうか、それでここのハンバーグか。昨夜のハンバーガーとは違うから、せいぜい肉汁溢れるハンバーグを味わってくれ。


「しかしアルフレッド様がお並びにならなくても。一言頂ければ」

 飽くまでも下手に、伺う様に言ってみた。

「いえ、その様なお気遣いは不要です。領主の息子で代官である事を笠に着る訳にはいきません」

 意外と律儀者だな。


「アルフレッド様、ご存知かと思われますがこの店は弊社飲食店部門の旗艦店です」

 旗艦店も何も、店舗はここしか無いけど。

「私共が急な会合で使用する為の席がございますので、そちらにお通し出来るか確認して参ります」

 俺はそれだけ告げると店に戻った。飛んで火に入る夏の虫だな、アルフレッド。


「クロエ、急で悪いが7人組のお客様だ。テーブルを用意してくれ!」

「予約はいっぱいよ!」

「すまん。個室が無理なら当日客用の席で頼む。後、ヨハンは厨房か?」

「まったく、本当に急なんだから!ヨハンなら厨房で下拵えしているけど」

 俺はクロエの言葉が終わらない内に厨房へと向かっていた。


「ヨハン、店がオープンしたら7人組のお客様が入って来る。その7人の中に知っている顔がいないか確認してくれ!」

 俺はせっせと真面目に肉を捏ねているヨハンに声を掛ける。すっかりと厨房スタッフとして馴染んでいる様だ。

「知っている顔ですか?」

「ああ。つまりは、お前に俺の暗殺を依頼した人間がその中にいないか見てもらいたい」

 依頼者が居れば間違いなくクロとなる。

「それは無理ですよ。ブローカーが中に入っていますから、依頼者の顔はちょっと」

 ヨハンは申し訳なさそうに言った。

「そうか。でも、万が一という事もある。念の為に見てくれ」

「畏まりました。オープンしたら見てみますが、期待はしないで下さい」

 期待に応えられないと思っているのだろう。ヨハンはボソボソと呟く様に言った。



「いやぁ、申し訳ありません。ご無理を言ったのではありませんでしたか?」

 俺は席を用意出来た旨をアルフレッドに伝えると、矢鱈と恐縮するので拍子抜けもいいとこだ。

 だが、悪い奴ほど善人面をするって昔から言うし、油断させようったってそうはいかない!


 そしてディナー営業オープンの時間がやってきた。

「さぁ、アルフレッド様!」

「恐縮です。あのエイジさん、良かったらご一緒にどうですか?」

「えっ?」

 アルフレッドのテーブルには潰すつもりで強い酒を用意させる様に指示してある。潰して情報を漏れさせる算段だ。

 でもこのままでは俺まで潰れてしまう。

 断るのも不自然だし。


 


「さあっ、アルさん!もう一杯!」

「いやぁ!エイっさんこそ良い飲みっぷりだ!」

 

 他の6人は既に潰れているテーブルで、気が付くと俺達は意気投合していた。

 お互いろれつは回ってないが、俺の方はミラが何かの魔法を掛けてくれたので、ご機嫌に酔っ払ってはいるが意識は有る。


「エイっさん!港作りましょ!港!」

「おう!港に繋がる道も作るよ!港にはデカい道が要るだろ!」


「エイっさん、道を通すには魔物が邪魔だ!」

「おう!退治してやる!任せとけって!」

 おっ、アルフレッドのグラスが空だ。注ごうにも酒瓶も空だ。


「クレア!酒だ!」

「程々にして下さいね。それにこの店は居酒屋ではありませんよ!」

 帰り損ねて久し振りにウエイトレスとして店に出たクレアは、そう言いながらも酒瓶を持って来る。


「アルさん、見てみろ!これが俺の女房だ!」

 酔っ払い口調で言われたアルフレッドはすっかりと座っている目でクレアに視線を送る。イヤラシい眼で見るなよ!

「なるほど!確かに!」

 何かに納得したのか?


「奥さん!エイっさんは俺に啖呵切ってねぇ」

「啖呵ですか?それは主人が失礼しました」

 事情も知らずに頭を下げようとするクレアをアルフレッドは手で制した。


「いやいや奥さん!貴女の旦那は、若くて美しい妻を置いて行けないし、領都に連れて行けば妻は孤独になると言って領都行きを拒みました!更に、妻は俺の誇りだとも!」


「バラすな!」

 俺もかなり酒が入っている。だからクレアがどんな表情なのかが見られなかった。

 小っ恥ずかしさを紛らわす為に店内を見渡す。

 そうだ、盗賊の事を聞けなければ!

 

「なぁアルさん、女房以外のウエイトレスが盗賊の被害者だ」

「本当か?」

 へべれけに酔っ払っていたアルフレッドの背筋がピンと伸びた。酔いが覚めたか?

 かと思えばスタスタと彼女たちに歩み寄る。

「すまなかったぁ!」

 そして一人一人に号泣しながら謝って回っている。

 冷ややかな眼でそれを見ていたら俺の酔いも覚める。コイツは何なんだ?黒幕のくせに!



「エイっさん、今度は父に逆らってでも領内の警備を充実させる!力を貸してくれ!」

「アルさん、どうした?」

 急に力強く言い出した。数分前までの酔っ払いはもう居ない。

「今までは隣国との国境がキナ臭くなると盗賊が動いていた。今度そうなっても国境より、領内の盗賊を一掃するぞ!」

「盗賊なら殲滅させたぞ」

 彼奴らだけでもかなりの被害をもたらしていた筈だと思うが。

「報告された被害はあまり変わっていない!」

 アルフレッドは目こそ座っているが、口調は力強かった。

「何か裏が有るんじゃ無いのか?誰か権力側の人間が陰で操っているとか」

 鈍い様なのでここまで言ってやった。いい加減にボロを出せ!


「エイっさん、俺はねぇ、部下が裏で盗賊と繋がっていたら絶対に許さない!」

 盗賊の黒幕という予備知識が無ければ、いい奴なのにな。

 

 一瞬の静寂の後、俺は視線を感じた。厨房からヨハンがこっちを伺っている。

 ヨハンが厨房から出たら不自然だからな。俺からヨハンに歩み寄る。

 今更、シロとか言うなよ。


「酒に酔って寝ている小肥りの中年男、見た事があります」

 やはりそうか。残念だよ、アルフレッド。


お読み頂きましてありがとうございます。

都合により次話は11月12日になります。

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