季節風 思わぬゲスト 登場か
領都に進出する事は決定したが、本店はアベニールに置く事が決定した。
この店、『季節風』はクレアの大事な実家なので只の本店という扱いにはしないつもりだ。
それに主なメンバー全員で領都に行って、アベニール本店をもぬけの殻にする訳にもいかない。
「エイジ、私は?」
聞いてきたミラの処遇は難しい問題だ。
ハッキリ言うとミラは何でも出来る。頭も良いし、手先も器用で見た目良い!
能力的にどっちにも置きたいが、彼女の身の上を考えると、ミラの居場所は俺の傍しか考えられない。
鏡に封印されていた聖女である可能性が高いミラ。
見た目の年齢だけなら同世代のシャルロッテ達と一緒に居ても友達関係ではないし、残念ながら会話も弾まない。
彼女達に取ってミラは頼れる先輩なのだ。
この関係は変わらないだろうから、環境を変えるのも良いだろう。
残りの人員の割り振りは俺に一任されて会議が終わろうとした時、待ったを掛ける奴がいた。
恋愛職人を自称するスーだ。
「エイジ様、もっと人材を揃えなければなりません。今のままでクロエさんが領都に行けばこの店は死に体です。領都でもアベニールでも経験者を積極的に取り入れてみれば如何でしょうか?」
恋バナ大好きのスーが珍しく的を得た発言をした。
「クロエ、来てくれそうな料理人の経験者って知らないか?」
お義父さんの弟子筋とかで居れば良いのだが。
「お父さんの弟子は皆それぞれ独立して自分の店を持っているわ。無理は言えないけど、短期間なら何とかなるかも」
アテが有るとは思わなかった。お義父さんの人徳なんだろうな。
でも短期間か。恒久的に勤務してくれる経験者を募集だな。
「姉さん、嫌かも知れないけどあの人は?」
クレアが思い出した様に勢い良く越えるを上げた。
「アイツ?ダメよ!イヤよ!お断りよ!」
条件反射で拒否するとは。
「誰なんだ?」
クレアが思い付くのだから、それなりの料理人に違いない。
「クレア!」
クロエの怒気を含んだ声にはクレアでなくてもビクつく。
「後で言います」
小声で言うクレアだが、相変わらず甘えモード以外は夫の俺に対して敬語を使う。
でもまぁ、そこがまた可愛いのだが。
「方向性は決まったが、人材面での課題もある。良いアイデアが有れば遠慮せずに提案してくれ!」
これで会議は閉会となった。
「昨日の祭りの収支計算をする」
という名目で俺はクレアを別室に連れ出した。
「クロエが毛嫌いしていた料理人ってどんな奴だ?口止めする様な奴なのか?」
「ああ、それですか。でもあなたが知っていたら私から聞いた事は明らかですから」
クレアは俺に敬語を使ってやんわりと断りクロエの口止めを守ろうとする。クレアよ、夫に対してその態度か?それならば!
「!」
クレアの黒く艶やかな長い髪を撫でてやるとあっさりと落ちて、甘えモードになった。お互いに慣れてきた様だ。
「モーガンさんって言って、料理人としての評判も上々なの。でも姉さんとは合わなくて」
クロエって間口が狭いからな。そこまで悪い奴ではないのだけど。
「性格が合わないのか?」
「お父さんを安心させようとしてお互いに無理したのが悪かったの」
「どういう話だ?」
妻よ、話が見えないぞ。
「モーガンさんって、姉さんの元旦那なの!」
「へ?」
クロエの元旦那?
「姉さんって実はバツイチなの!モーガンさんと結婚して半年で別れて」
すごく意外だ!あのクロエがって感じだ!
しかもスピード離婚か!
「お父さんが亡くなる少し前にお父さんを安心させようとして結婚したの。でも合わなくて、結婚して半年後、お父さんが亡くなってからすぐに別れたの。だから私だけ幸せになって、何だか申し訳ないわ」
そう言って俺を見つめるクレアを可愛がってやりながら続けて尋ねた。
「そのモーガンは今は?」
「領都にある大きな店で働いているらしいわ」
「領都か」
何の因果かこれから行く領都に居るのか。問題が起きませんように!
「ねえ、家に帰りましょ」
目がとろーんとしている!中途半端に可愛がったせいか、クレアに火に付いてしまった様だ。
仕方ないな、自分で蒔いた種だ。それに正直、俺自身がそんなクレアを見ると自分を抑える事が難しい!
最初こそ中の上だと思っていたが、見る度に可愛く見える!これが惚れたと言う事なんだな。
そんな訳で夫婦揃って意気揚々と帰路に就くが、『季節風』を出ると既に行列が出来ている現実を目にして興が冷める。
店舗の従業員はこれから仕事なのに自分達だけ浮かれていた事に申し訳無く思う。バカップルその物って感じで。
流石に、この状況で夫婦で愛し合おうなんて出来ませんがな。
冷静に行列見ると有り難い事に、結構並んでいる。
「ん?」
最後尾には見覚えのある顔があった。そう、意外な事にアルフレッド御一行様がお行儀良く並んでいた。




