イケメンに 何か裏が ありそうな
ソフィの家に着くものの、そこにソフィの姿は無くステラが1人で夕食の支度をしている。
「ステラさんの料理、美味しそうですね」
「ありがとう。でもステラさんなんて言わなくていいのよ!お義母さんって呼んでくれれば」
ステラは微笑みを絶やさずに下ごしらえをしている。
「全ては盗賊を撃退した暁にしたいと思っています」
「あら、そうなの」
ステラは俺を一瞥しただけで、手を休める事はない。
「ところで、村長としてのステラさんにお聞きします。盗賊から村を守る手は?」
「無いのよ。魔道士なら何とかならないかしら?」
「やりますよ!でも、昨日まではどうするつもりだったのですか?」
「何も。でも盗賊の要求に応じる訳にはいかなかったの」
「そんなに酷い要求なのですか?」
ここでステラは手を止めて俺を注視した。その表情は美人顔に似合わず険しい。美人は眉間にしわを寄せない方が良い。
「要求を倍増してきたわ。とても出せない!」
「訴え出る事は?」
「どこに?領主様だって隣国との紛争で手一杯よ。それで村の男達も駆り出されたのに」
ステラの声が俄に大きくなる。痛い所突いたか?
「八方塞がりか」
「それでソフィはカールの所へ行ったのよ。頭を抱える私を見かねてね」
それが昨晩の出来事に繋がる訳だな。
「盗賊との交渉は誰が?」
「副村長よ。女の私が行くわけにも」
ステラが行ったら、その場で乱暴されそうだ。
「でも、あなたという魔道士が来てくれたわ!」
ステラの声が急に明るくなった。同時に眉間のしわも消えた。
「ご期待に沿えるように頑張ります!でも、俺の魔法を見てステラさんまで俺に惚れないで下さいよ!」
「そんな、私はもう32歳よ。揶揄わないで!」
ステラが実年齢で近いせいか、とても魅力的に感じる。
「女性の32歳って、俺の国では女盛りって言うんですよ」
「そんな歳で?」
「若さと色気が良い塩梅になって」
「貴方の国に生まれたかったわ」
ステラが明らかに動揺している。それがまた、そそる!
「この国では18歳の女性と40歳の男性が結婚するのが普通らしいけど、俺の国では珍しい」
「そうなの?」
「俺の国では40歳と32歳こそが、普通だ」
「私の娘は貴方の婚約者なのよ!義理の母を揶揄わないで!お願い、もう言わないで!」
ステラはかなり動揺している様で、俯いてしまった。
いくら何でも調子に乗りすぎたか。空気が重い。
「ただいま!」
重い空気に響いたのは、ソフィの明るい声であった。
「遅くなっちゃった。すぐ手伝うね!」
「おかえり、ソフィ」
「エイジ!」
「おかえりなさい、エイジを迎え入れるから今日はご馳走よ!早く手伝って!」
ステラは眉間にしわを寄せる村長の顔でも、32歳の女でもなく、今度は朗らかな母親の顔になった。
「俺の分も有るんですか?」
「当たり前でしょう!今日からはここで暮らしてね♪」
ステラは2分前まで俯いていたとは思えないくらいの明るい声で言った。
「お母さん、そんな急に…」
ソフィはまたしても赤くなって俯く。
「あらソフィ、エイジを何処に寝かせるつもりだったの?」
「それは…」
ソフィはそのまま黙ってしまった。
一方でステラは手際良く料理を進めている。
「ソフィ、早く手伝って!」
後はリックだな。
「リックの泊まる部屋もありますか?」
「ええ、この村には今は宿屋なんてロクに無いから、そのつもりで客間を用意してあるわ」
「俺も客間ですか?」
「何言ってるの!ソフィの部屋で寝たらいいでしょ!」
ステラはオーブンの肉の焼き加減を確認しながら、そう大胆で嬉しい事を言う。
その事はひとまず置いといて、問題はリックだ。彼は謙虚そうだから、誘ってやらないと来ないかもしれない。
「俺、リックを探してきます!」
家を出たが周囲は黄昏時を過ぎてかなり暗くなっていた。
当然ながら街灯など有るわけない。
取り敢えず唯一の心当たり、昨晩の小屋に行ってみる。リックはあまり当てが無いだろうから。
小屋に着くと中にリックが居るのか、屋根の穴から光が漏れている。あれは炎の明かりではなく、光属性の魔法の光だろう。
入ろうとすると、中から話し声が聞こえる。リックは誰かと一緒なのか?
「収穫は今日からだよ」
リック?
「それじゃ、もうすぐですね」
もう1人居る!
「ああ、襲撃の日は面白くなりそうだね」
「御武運を!」
「おいおい、僕は戦わないよ。見てるだけだ」
「そうでした!これは失礼を」」
その後は中の2人で高笑いしていた。会話からしてリックの方が偉そうだったけど。
「もう行った方が良いかな」
「はっ!」
小屋から小柄な男が1人出て来たと思ったら、足早に去って行った。何者だ?
俺は敢えて離れた空中目掛けて光の球を放つ。屋根から差し込む光でリックは気が付く筈だ。
こうする事で彼に準備の時間をやりたかった。
彼を盗賊の仲間だと思いたくない。もしそうならば、俺に魔導書を見せるメリットが無いからだ。
「リック、やっぱりここか!」
「エイジ!どうしたのですか?」
ドアを開けて、さも今来た様にわざとらしく言う。リックもわざとらしく応えているように見える。
「ステラさんが泊まって欲しいって言っている。さあ行こう!今日はご馳走だぞ!」
「それは楽しみですね」
リックが笑みを浮かべ、自分の鞄を持ち上げた。
俺は誓う!リックが何者だろうと、ソフィは俺が守る!