緊急に 幹部会議を 開きます
結局、領都に進出するか否かは明日の朝に答えを出す事にさせてもらった。ディナー営業前のクロエの店で主なメンバーを集めて会議だ。
ロンに走り回ってもらった。こういう時には携帯が有れば便利なのにな。
「ここは会議室じゃないんだけど!」
皆が集まる所と言えばクロエの店しか思い付かなかった。店に入った途端に突っかかるのはクロエ流の挨拶みたいな物だと認識している。
ちなみにこの店の名前は『季節風』と言うらしい。クレアによれば、春夏秋冬それぞれの旬の素材を使った料理を出す店と言う事だそうな。
今の看板メニューがハンバーグになっているが、クロエよ、それで良いのか?
付け合わせは季節の物っぽいけど。
幹部会議のメンバーは当然クロエ、クレアも駆け付けた。他にはリーチさん夫妻と商人達、エセドワーフの連中って、主なメンバーのつもりがほぼ全員集合してる!
「先生、これで全員です!」
ロンの奴、ベンまで連れて来た。副市長が一企業の会議に出て良いのか?
「お疲れ様です。集まってもらったのは……」
俺は領都進出の概要を説明した。
先ずは俺の意見を述べる。
アベニールは領内第2位の都市だが、領都の規模は4倍であるとの事。故に市場規模も違う。
大きなビジネスチャンスであるし、アルフレッドの事気になる。
勿論アルフレッドの事は皆には伏せておくが、領都で証拠を固めて退治しないと気が済まない。
俺がそんな世直しみたいな事をやる必要は無いのかも知れないが乗り掛かった船だし、その為の魔力なんじゃないかと最近思う。
椎名さんなら同じ様にするんじゃないかと。
「私はエイジさんはもっと大きい仕事をする人だと思っていました。微力ながら老骨に鞭打ってお手伝いさせて頂ければ」
リーチさんは領都進出に賛成だった。どうやらここ最近の仕事でリーチさんの気持ちに火が付いた様だ。引退を言い出していた事が嘘の様だ。
「腕が鳴るのう!」
エセドワーフの建築家、トニーも賛成だ。
「それに、このままではこの街では建てる建物が無くなってしまうさぁ。もっと大きい都市に打って出るべきだなぁ」
他のエセドワーフ達も軒並み賛成の様だ。
「いずれは領都進出するにしても、ショッピングモールが軌道に乗ってからにして頂きたいのが本音です」
商人達が口を揃えて言う。
確かにそうだろうな。言い出しっぺが真っ先に居なくなるなんて無責任過ぎにも程が有る。
「ねぇエイジさん、私はこの店から動く気は無いけど、この店も領都に支店を出す形になるの?」
クロエが探る様な口調だ。
「そうだな。でもクロエが難しい様なら祭りで出したハンバーガーをメインにしても良いと思っている。評判も上々だったし」
あれならスキルはそんなに要らない。その気になれば今すぐにハンバーガーショップとして1号店を開店する事も難しくはないだろう。
食べて気に入ったらしいアルフレッドからも、領都での出店を促されている。
「クレアはどうするの?連れて行くの?」
言われてクロエの隣に居るクレアに視線を送る。
今の俺にクレアの居ない生活は考えられない!
「夫婦なんだから当然だろう。クレアが嫌なら考えるけど」
本音は是が非でも連れて行きたいが、一番大事なのはクレアの気持ちだ。クレアがこの街から離れたくないのなら尊重したいと思う。最悪は単身赴任?
「あなた、離れて暮らすなんて考えられませんよ!」
クレアは真っ直ぐに俺を見つめている。
「それじゃあ。クレア、俺と領都に行ってくれ!」
「はい!あなたとならば、何処へでも喜んで!」
ニッコリ微笑むクレアに見とれていたが、少し経って冷静に考えてみる。
俺は何故、自分の妻に改めてプロポーズみたいな事を言っているんだ?
しかもクレアがやけに嬉しそうだし!
「仕方ないわね!クレアが行くのなら私も行くわ!」
クロエが何かを諦めたかの様に言った。
「行かないんじゃなかったのか?」
「事情が変わったのよ!」
えっ?クロエの奴、妹大好き?
「いい?クレアが行って、私が行かないとエイジさんはクレアが作った料理を食べる可能性が出てくるかも知れないわ」
クロエは俺の首根っこを引き寄せ、俺にしか聞こえない様に小声で言った。
それを受けて俺は、妻の手料理で死にかけた一件を思い出して背筋が凍り付く。毒素の無い食材で何故か死にかけたクレアの手料理を!
「私は妹を夫殺しにしたくないの」
「俺も死にたくはない!クロエ、俺達と領都に行ってくれ」
こうしてクロエも領都行きが決まったが、真の理由を知る由も無いクレアは首を捻るばかりであった。




