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黒幕の アルフレッドに 仕掛けます

「領都ですか?」

「ええ。貴方の魔法(ちから)はもっと多くの人の為、全領民に享受されるべきです!」

 そんな大袈裟な。


「現にこのアベニールには土塁と堀を築かれたではないですか」

「確かにゴーレムを使って工事しました。しかしそれは市長、副市長のご理解が有って出来た工法です。協力者が居ない場所ではとても」

 今にして思えば、ゴーレムを土木工事に使うなんてよく許可されたもんだ。


「先程、工事の記録を拝見しました。この費用と工期、考えられません!普通は準備だけでももっと掛かりますよ!」

 アルフレッドは熱くなって語った。溢れ出しているのは品位ではなく熱意だ。こうなると領主の息子と言うよりは、熱心な営業マンの様に見える。


「現在、新しい港を作る計画が有ります。是非!」

「港ですか?」

「ええ。その他にも治水事業や道路整備等お願いしたい案件は山ほど有ります!」

 アルフレッドは身を乗り出して語り続ける。


「恐れながら」

「何だ?」

 ヒートアップするアルフレッドにブレーキを掛けようとしたのはベンだ。

「アベニールとしましてもエイジ殿と契約を交わした工事が残っています。更に申せば、エイジ殿は先日このアベニール市民の女性と結婚されたばかり。若く美しい夫人を置いてアベニールを離れられる方ではございません」

 

「ならばご夫婦揃って領都へお出で下さい。アベニールの契約済み案件につきましては、調整しましょう。なぁ、市長」

「御意!」

 あっさりだな、市長!

 ベンはそんな市長に冷たい視線を浴びせている。


「私達夫婦は領都に知り合いが居ません。私が家を空けると妻は孤独です。それに」

 俺はここで1つ息を呑んだ。アルフレッドの表情がどう変わるのか、慎重に言葉を選ばなければ。


「こうしています今も、妻は読み書きを教えています」

「奥様は教師ですか?」

「いえ。教えているのは15歳以上の女性ばかりです。彼女達はまだ年端もいかない頃に村を盗賊に襲撃され、親を殺され、攫われた者ばかりです」

「!………」

 アルフレッドは声も出せない様だ。

 お前の息の掛かった盗賊を全滅させたのは俺だ。

 どうだ?自分の悪事の尻尾を掴まれている気分は?


「その者たちが何故アベニールに?」

 動揺している様だ。そりゃそうだろう。盗賊が村ごと無くなった事は知っている筈だ。


「もうお分かりではないですか?その盗賊をブコンという村ごと消滅させた魔道士こそ、この俺だからですよ!」

 言うタイミングは早かったかも知れない。王都で伯爵家の事を調べているリックを待ってからの方が確実だったかも知れない。

 でも、止まらなかった。


「文字は10歳迄に基本を覚えなければ、大人になってから覚える事は至難の業です。しかし、彼女達は歯を食いしばって覚えようとしている。何故か!」

 これまでの彼女達の事を思うと、自然と声が荒くなる。感情を抑える事は出来ない。


「彼女達は盗賊に家族も、故郷も奪われた。攫われた理由だって盗賊の性奴隷にするか、人買いに売る為だ!」

 結局の所、盗賊の首領がEDだった為に処女だったが、そんな事はどうでも良い。

 彼女達の少女時代は戻らないし、人買いに売られた者は今も地獄を見ているに違いない。


「奪われた幸せを取り戻す事は出来ないかも知れないが、少しでも未来を明るくしようとしている!人は誰しも、健康で文化的な最低限度の生活を送る権利が有る!俺はそんな彼女達の手助けをしている妻を、誇りに思う」

 

「貴様、アルフレッド様に向かってその態度、無礼にも程が有る!」

 アルフレッドの後ろに控える2人がいきり立つ。このご主人様べったり振りからして恐らく、昨夜のセンターバックの2人だろう。

 アルフレッドは沈痛な面持ちで右手を上げ2人を制する。


「盗賊が横行している事は把握しているつもりでしたが、そんな実情は初めて知りました。お恥ずかしい限りです」

 絞り出す様にアルフレッドが言った。何か予想と違う。

 開き直ってくれたら楽だったのだが。


「アルフレッド様はこれまでどの様な盗賊対策をされてきましたか?」

 これでボロを出すだろう。

「恥ずかしながら具体策が有りませんでした」

 悔しそうに押し殺した声だ。


「横行している事を知りながらですか?」

 挑発的な口調になる。自分では見られないが、多分そういう表情になっているのだろう。

 アルフレッドの後ろの2人が、苦虫を噛み潰した様な顔だ。


「はい。言い訳になりますが、盗賊が横行する時期には何故か隣国との国境で小競り合いが有りまして、そちらに人も時間も取られていました」

「その小競り合いの為に徴兵もしますよね?」

「ええ。こちらが弱味を見せれば攻め込まれ兼ねませんからね」

 落ち着きを取り戻したアルフレッドは元の丁寧な口調に戻っていた。


 これ以上の追求は止めておこう。後はもっと証拠を揃えてからだ。

 それにアルフレッドにこれだけ言ったのだ。何か事態が変化するかも知れない。

 

 と思ったら、早速アルフレッドが切り出してきた。

「エイジさん、奥様が勉学をご教授されている皆さんに会わせて頂けませんか?」

「彼女達ですか?」

「代官として、この地の(まつりごと)に関わっている者として謝らせて頂きたいと思いまして」


「アルフレッド様、彼女達も戸惑う事でしょう。そのお気持ちだけ伝えておきます」

 会ったら深々と頭を下げるのだろう。

 偉ぶる所も無く、想像してた領主の息子と全然違う。この男の真意は不明だが、これ以上の追求は止めておこう。

 握っている情報を全部曝け出す事はない。

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