遂に出た 108人目は 黒幕か
確実にゴーレムの右ストレートを入れられたと思った瞬間、俺はゴーレムを見上げていた。
スリップ!
この前までの対戦で放水しまくったので足下がかなりぬかるんでいた。
お陰で尻餅をついて逃れるという間抜けな躱し方だが、運はまだ有った様だ。
運も実力の内!
下からゴーレムを見上げ、焦って何もイメージ出来なかった俺は咄嗟に無属性の魔力を放出した!
爆発の中、ゴーレムを形勢していた土が飛び散る。
次の瞬間、尻餅をついたままの俺のすぐ側にゴーレムの下半身だけが倒れ込んだ。
上半身は放出した魔力により吹き飛んでいて、埋め込まれていた割り符だけが虚しく転がっていた。
制約が有るとは言え、手強い相手だった。操っていた者はここからは見えない。どんな奴なんだか。
「次は2人組での対戦を希望していますが」
駆け寄って来たロンからそんな事を聞いて嫌な予感しかしない。
次もこんな奴等なら2人での連携プレーで来るだろう。疲労も有るから正直言うと同時は厳しい。
「他にそういう事を希望している参加者はいるか?」
ここに来て参加者が何かおかしい。これまでの参加者とはレベルが違う手練だったり、2人組希望とか。
何となくだけど、何か企みの様な物を感じる。確証は無いが。
「今の所はいません」
「そうか、なら参加者の雰囲気がおかしいとか無かったか?本当は仲間なのに他人を装っている様な白々しさが有るとか」
言われてロンは少し考えこんだ。
「確かに。先生の仰る通り、残った参加者はお互いに顔を見合わせません」
やはりそうか。残った参加者は全員仲間で、108人目がラスボスなんだろう。
仲間なら仲間って言えば良いのに、何故隠すのか?
「ロン、こっちから逆に提案だ。次で残りの7人全員と対戦する!」
「えっ?全員ですか?」
「ああ。理由付けは、近隣住民と取り決めたイベント終了時間になったとでも言ってくれ!」
奴等は只者じゃない。狙いは分からないが、今度はこちらから仕掛けてやる!
「先生、参加者全員が了承しました。残りの7人全員で戦うそうです」
「よし、すぐに終わらせるぞ!」
俺は最後の試合に向けて気合を入れる。
もしも目的が俺の実力を見る事なら、ご期待通りに圧倒的な実力差を見せ付けてやる!
「さぁ、大変な事になりました。7対1です!」
「当代随一の魔道士でも、これは難しいでしょう!」
司会者のアナウンスに会場が響めく。
当然だろう。前の試合で苦戦したばかりだ。
正気の沙汰じゃないかも知れない。尤も、正気なら最初から108体のゴーレムとなんか戦わない。
俺の準備が整った所で7体のゴーレムが入場して来た。
他人の振りをした理由は分からないが、しっかりとフォーメーションを組んでいる。やはり一味か。
サッカー風に言うならば、ゴールキーパーが居て、その前にセンターバック2人、その前にボックス型の中盤って感じだ。
となると、あのゴールキーパーがボスなんだろう。
「最終試合、開始です!」
戦いの火蓋が切られる!
それと同時に俺はこれまでのゴーレム100体をスタンドの前、横一列に整列させた。
俺がこれから使う魔法で万が一にも観客に被害有ってはならない。
「氷弾丸」
そのまんまなので良いネーミングが有れば改名したいが、とどのつまり機関銃から氷の弾丸が放たれるイメージ。
極めて単純だが多数を相手にする方法を他に思い付かなかったのだから仕方ない。
だが弾丸の形その物は空気抵抗を考えているし、狙うなのはゴーレムの首だ。
ゴーレムを操る割り符が入っている所は頭だ。だから首を落としてやれば動きが止まる。
氷では質量的に頼り無いものの、徹底的に首を狙えば勝てる筈だ。
俺は左右両腕から氷弾丸を放ち、まずは前の2体に浴びせる。
俺の出方を伺っていたのか、その2体は何もしないままあっさりと首を落とされた。
次はダブルボランチの2体だ!
左右に展開する。自然と俺の両腕もそれに会わせて左右に広げる。
体の正面はがら空きになったって言うのに、センターバックの2体は攻めて来ない。
どうやら相当ゴールキーパーが大事な様だ。
「なら、これでどうだ!」
ダブルボランチとはまだ距離が有る。左右に開いた腕を戻し、両腕を揃えてゴールキーパー目掛けて氷弾丸を放つ。
すると左右に展開していたダブルボランチが2体揃って突進して来た。
目論見通りだ!
そんな一直線に突進して来たら、狙って下さいと言っている様な物だ。
必死過ぎてすっかりガードを忘れている首を狙わせてもらった。
次はセンターバックだ!
だが、動きを少し見れば分かる。弱い!
格闘技経験どころか、運動神経も無いのだろう。
コイツらはゴールキーパーであるボスの単なる腰巾着か?
「ウォータージェット!」
案の定、俺が接近しても何も出来ない。
最後まで無抵抗主義を貫き通したセンターバックは、そのまま高圧の水の刃で首を落とされ戦闘不能となった。
「いよいよキーパーか!」
このキーパーの動きは悪くない。体の捌きで分かる。格闘技の経験者だろう。
101人目は別格だが、全ての参加者中でも上位に入る動きだと思う。
しかし、勝つのは俺だ!
「ウォーターボール!」
放水ではなくて、水の玉を投げる。このウォーターボールは術者の俺は掴んで投げる事が出来るが、俺以外には掴む事が出来ない水の塊。俺が投げた所から流れる事無く、重力を無視してその場に水の塊として留まる。
最初に使ったのは、村包みで他の村から略奪行為をしていたしていた盗賊の首領だったな。
あの時は身体は炎で焼かれながら、ウォーターボールが顔面に付いての溺死だったなぁ。
盗賊と言えば、あの連中の上前を撥ねていた領主の息子、アルフレッドの事もリックは調べている筈だ。
もうすぐ戻って来るリックに情け無い所は見せられないな。
ウォーターボールが関節に当たったゴーレムは動きが鈍る。そこを逃さずに次々とウォーターボールを当てていたら、ゴーレムの全身を水の塊の中に閉じ込めた。
凍らせはしなかったが、ゴーレムは身動きが取れずに戦闘不能と見なされた。
こうして、108人との対戦が終わった。
さすがに疲れた。早く帰って休みたい。
関係者席でクレアが小さく手を振っているのが分かる。今まで縁が無かったから、こういうのも新鮮!
でもこの疲労じゃ、今夜はクレアを可愛がってやれるかは微妙だな。
「先生、お疲れ様でした!」
ロンが駆け寄って来た。正直、男に駆け寄られてもウザいかな。
「先生、最後の対戦相手が先生にご挨拶したいと」
「挨拶?」
「はい。あっ、もう向かって来てます!」
その男はゆっくりと歩み寄って来た。
身なりは悪くない。歳は俺より年下かな?後ろに数人を引き連れている。やはり仲間か。
「貴方の評判を耳にして以来、是非お会いしたいと思っていました」
誠実そうで穏やかな口調だ。
「光栄です」
笑顔で差し出された手を握った。常日頃から使われている、ゴツゴツとした手だ。
「貴方の実力を肌で感じたかったのですが、完敗です!」
その男は愛想笑いを浮かべて言った。
「いえいえ、運が良かっただけです」
勿論、謙遜だ。
「アルフレッド・エリクソンです」
「!」
あの領主の息子で盗賊の黒幕の?
「あの領主様の」
「倅です」
「知らぬ事とは言え、御無礼を致しました」
言葉とは裏腹に、俺はアルフレッドと握手を交わす右手に力を加えた。




