延長戦 対戦相手は 108人
「串刺し!」
地面から勢い良く伸びた鋭利な土の槍が俺に駆け寄ろうとするゴーレムを貫く!
四足歩行の魔物相手に効果を発揮する魔法で土が局所的に、鋭角の三角錐状で隆起して槍となる。その先端には硬さと切れ味を持たせる事が可能だ。
これを突進してくるゴーレムの一歩先で斜めに出る様に仕掛けてやると、素人の操るゴーレムの土手っ腹にカウンターで突き刺さる。
今回のゴーレムには硬さを持たせなかったから出来る芸当だが、これで身動きが採れなくなり終わりだ。
「流石は当代随一の魔道士!これで54人抜きとなりました!」
この実況にうんざりする。やっと半分か!
参加料を支払えば、漏れなく参加出来る俺との対戦は、参加料を高めに設定したにも拘らず総勢108名の参加希望者が集まった。
何の因果か煩悩と同じ数だ。やり遂げれば何か俺に良い事が有るのだろうか?
それは兎も角、想定より遥かに多い人数だ。勝手に30人足らずだろうと想定していたが、蓋を開けたら100人組手をする事になるとは、想定外だ。
出来れば10人くらいずつ、まとめて対戦したかったがそれは許されない。
安くもない参加料を徴収するのだ。それに見合う対応を一人一人にしなければならない。
ゴーレムには火属性の魔法は効かない。薬品火災の際には砂を使って酸素の供給を断ち切る窒息消火という方法も有るくらいだ。
と言う訳で水魔法と土魔法を多用している。
圧を高めた放水をして吹き飛ばしたり、それでも向かって来る場合は濡れたゴーレムを凍らせたり、それも掻い潜って来たらウォータージェットで切断する。
それだけだと芸が無いので、時折こうして土魔法を使用している。
ゴーレムに効果ありそうな風魔法となると、周囲への影響も大きいであろうからそれは使用を自粛している。
「70人目突破です!」
流石に疲れる。まだ38人も残っているのか!
「少しだけ休憩させて下さい!」
実行委員のロンに訴えるクレアの声が僅かに聞こえた。
もう止めさせて、ではなくて休憩なんだな、妻よ。
更に言うなら、少しだけか!
でも言ってみるものだ。クレアの要求が通り、休憩が与えられた。
まず水が飲みたい!水魔法は使っていたが、それとは違う水を。魔法の水って飲用なのかどうか分からないし。
次に俺はクレアを連れて休憩時間が終わるまで関係者控室に籠もる事にした。
やっぱりクレアの存在は励みになるし、守りたいと本当に思う。
「あなた」
クレアがその先の言葉を発する事は無かった。
素人の操るゴーレムとは言え70回戦った直後だ。流石に疲れていたし、精神が昂ぶっていた俺は本能の赴くまま乱暴にクレアの唇を奪った。
数秒後クレアを解放したが、今度は俺の背中に回ったクレアの細い腕が俺を離さない。
改めて瞳を閉じたクレアの柔らかな唇にむしゃぶりついた。
長いキスをしてようやく落ち着いた俺は、今度こそクレアを解放した。
「さっさと終わらせて帰ろう!」
「はい」
クレアは俺を見つめたまま、コクッと小さく頷く。
「続きは帰ってからだ!」
「えっ、ええ」
もう慣れたかと思ったが、突然言われて目が泳いでいる。
「もう、知らない!」
かと思えば、調子に乗るなと言わんばかりにそっぽを向く。
ここ数日でクレアの態度に変化が有った。
普通にしている時は相変わらず俺に対して敬語を使うが、甘えている時や夫婦の夜の営みの時には敬語を使わなくなった。
本人は意識していない様だが、その方が親密で可愛らしくて良いと思う。
出会った頃は美人度は中の上だと思っていたが、今ではすっかりと心を掴まれてしまった。
さてリフレッシュしたし、休憩は終わりだ。後の楽しみが有るからペースアップして終わらせよう!
それから1時間くらい経った頃、ようやく100人目が終わった。
あと8人。
なのに、この101人目は今まで相手とは違う!
これまでも裏社会の人間が操るゴーレムは一般人とは動きが違ったが、そんなただ単にケンカが強いみたいな動きではない!
足の運び、体捌きが違う。
明らかに戦闘の訓練を受けている動きだ!
恐らくコイツは俺の動きをパターン化して予測している筈だ。
だから串刺しも、放水も寸前の所で躱される。
動きに無駄が無い!
気が付いた時には間合いも入られてしまった!
「!」
ゴーレムが右ストレートで正確に俺を狙う姿が見えた。




