ハリーとは 仕事キッチリ する男
この祭りは、『夏のゴーレム祭り』が本来のテーマだった筈だ。
そこで祭りの序盤はゴーレムとのふれ合いに重点を置いた。
高さ3メートルのゴーレムの肩に乗って、歩いてもらう。当然ながら一般市民にゴーレムに乗った経験者はいない。
「怖い!」
と叫んでいた乗客も1周回って戻って来る頃には口許が緩みっ放しで、降りたその足で再び乗る為に列に並ぶ。初めての体験を気に入ってもらえた様で一安心だ。
もっと人気が出たアトラクションは、ゴーレム操縦体験だ!
俺が魔力を込めた割り札の片方をゴーレムに埋め込む。そしてもう片方の札を持って念じれば誰でもゴーレムを操れる!
動力源は俺の魔力なので、魔力の無い人でも操縦が可能な事が最大のポイントだ!
巨大なゴーレムを意のままに操れるのだ!面白く無い訳が無い!
スケジュールではもう暫くしてからビンゴを行う。その後に花火を打ち上げて前半は終了だ。
魔物とゴーレムの対戦は、残虐なシーンが予想されるので後半、親子連れがいなくなってからにする。
出店もそれぞれ好調の様だ。中でもエリスのかき氷屋は群を抜いて、列の長さが尋常ではない!
氷を食べるなんて習慣は無い上に、美少女が魔法で氷を削る珍しさも相俟って大人気なのだろう。
男性客のほぼ全員が、かき氷を笑顔で手渡すシャルロッテの大きく開いた胸元をガン見している事も行列の一因なんだろうな。悲しいかな、男の本能だ。
さて、俺もビンゴの仕込みをしなければ。
まずは箱に番号の書いたボールを入れるのだが、ハリーに渡した用紙に書いてある番号は除いてある。
つまり、先に入れているボールは全部ハズレとなる。
ハズレになるこのボールは水で濡らしてあって、入れ終わったら蓋の穴から手を突っ込み氷結魔法で凍らせる。すると表面が濡れているボールはカチンコチンに周りのボールに結着して動かない。
最後に当選番号のボールを入れてやって仕込みは完了した。
これで当選番号のボールは凍り付いたハズレボールの上で弾み、それしか取り出せなくなった。
「ご来場の皆様、ここでビンゴゲームを開始します!」
祭り会場中に男性司会者の声が響き渡る。
マイクもスピーカーも無いが、風魔法を使えばある程度は遠くまで声を飛ばせる様になった。尤も、この魔法は今回くらいしか使い様が無いが。
「ご購入頂きましたビンゴ用紙の数字が縦横斜めのいずれかで5つ揃えば当選となります!」
ご来場の皆様方、響めきが止まらない様だ。
ビンゴ用紙を金を出して購入するシステムは、建設現場のバーベキュー大会ではよくある。
ゼネコンの現場なので流石に金銭は賭けないが、豪華景品が当たる。
パソコンや高級家電製品、旅行券に食事券、それに商品券が1枚千円のビンゴ用紙で当たるのだから、皆こぞって複数枚買って参加する。
「当選金は勝者の総取りです!大金を手にするチャンスです!まだ用紙をご購入していない方は是非、ご参加下さい!」
今度は女性の声が響く。
今回イベントの司会者として、旅芸人がちょうど街に来ていたのでお願いした。壇上には男女ペアの芸人が司会進行役として上がっている。
こういうイベントの司会は素人がやっても面白くならない。場数踏んで慣れていて、機転が利く人に頼んだ方が絶対に良い!
「それでは、第1回目分を締め切ります。今回、当選番号を書いたボールを引き当てるのは主催者であり、あの偉大なる伝説の大魔道士シーナと同郷、ドラゴンを倒せる唯一の魔道士、エイジ・ナガサキです!」
我ながら長い肩書きだ!
ビンゴ用紙の真ん中はボーナスで最初から空いている。つまり真ん中を通る縦横斜めなら、最短で4つの数字で上がりとなる。
俺の筋書き通り、ハリーは6つ目のボールで上がった。
流石に4つの数字で決まるのは不自然過ぎる。そこで敢えて2つ外したのだが、その間にリーチの人間がハリー以外に2人出て正直焦った!
ハリーに渡した用紙しか書いていない番号が2つあったので、それに救われた形だ。危なかった!
安心した所で証拠隠滅だ。風と火の合わせ技の熱風を箱の中で作り出す。これで氷は溶けてイカサマの証拠はなくなって一安心!
「おめでとうございます!今回の当選金額、金貨30枚です!何にお使いになりますか?」
日本円に換算して、300万円くらいかな。本当はもっと少なかったが、興味を引く為に俺の方から少し足した。
「俺はもっと大金が欲しい!だから次の回に全額を注ぎ込む!」
「おお!」
「なんと豪気な!」
ハリーの言葉に周囲から、彼を讃える声が上がる。
「どうだ!俺と運比べをしようって奴はいないか?」
ハリーが不敵な笑みを浮かべる。
1回目の当選金額がそのまま2回目に注ぎ込まれるので、それだけ2回目の当選金額は増える。だから参加者が飛躍的に増えた。
ハリーはしっかりと呼び水の役割を果たしてくれた。後で改めてお礼をしなければ!
ここの人々は娯楽の無い世界なので少し教えてやればすぐ夢中になって、のめり込む様だ。
それに司会進行役が絶妙で、ハズレても楽しいビンゴ大会になった。
俺も当選者が出る度に花火を打ち上げて盛り上げる!
お陰で参加者は回を追う毎に増え続け、予想を上回る大盛況となった!




