日も暮れて 遂に祭りが 始まった
祭りの中盤で景品の当たるビンゴ大会を行う。
参加者には数字の書いてある用紙を買って参加してもらうのだが、景品と言っても景品交換所を設けて換金可能だから、事実上のギャンブルだ。
「ここの市民はギャンブルには縁の無い慎ましい生活を送っていた様だ。だからサクラとして最初の当選者となって、呼び水になってもらいたいんだ!」
「それで目立たなければならないのですね?」
説明に納得してくれたのだろう。ハリーは小さく何度も頷いた。
「そしてすぐに換金して、目立つ様に全額を次の回に注ぎ込んでくれ!」
「エイジ様にこっそりお渡しするのでは?」
「俺は、上がりを頂く事になっている。賭ける額が増えれば、初回の当選金なんて比較にならない程儲かる!だから射幸心を煽るサクラが必要なんだ!」
思わずその気になるメールを男性会員に送る出会い系サイトのサクラや、当たる台を朝から晩まで打ち続けるパチンコ店のサクラよりかは楽だと思う。
「畏まりました。私がお力になれるのでしたら、主もきっと喜びましょう」
「ありがとう!これがハリーのビンゴ用紙だ!」
特別な用紙をハリーに手渡すが、この用紙にしか書いていない番号を最初に引き当てる手筈だ。
魔法を使ったイカサマを行うので、他の人間がハリーより早く上がる事はあり得ない!
「その時がくるまで、祭りを楽しんでくれ!」
「ありがとうございます」
静かに礼を言うハリーとは一旦別れる。
祭りの賑やかさが似合う様には見えないが、リックが居ない時くらいは羽を伸ばしても罰は当たらないだろう。
「先生、そろそろ開場しましょう!」
実行委員に任命したロンが、俺を見かけるなり駆け寄って来た。
「ロン、それは実行委員のお前が決めろ!」
「分かりました。では!」
ロンは踵を返すと小走りで去って行った。今のロンは実行委員としてのやる気に満ち溢れている。
こんな仕事、ロンには働いているのは初めてかも知れない。
体験した事の無い充実感を味わってくれ!そうすれば一皮剥ける筈だ。
さて開場すると、みるみるうちに人が流れ込んで来る。
ご来場の皆様、良い席の確保に行かれる方、屋台を覗く方、それぞれ期待に満ちた笑顔を浮かべている。
嬉しく有り難い一方で、プレッシャーだ!
開場を早めたは良いが、本来の開始予定時間までは早められない。
開始と同時に花火を打ち上げるからだ。日が暮れなければ始められない。
急に出来た空いた時間を使って俺はハンバーガー、明石焼き、焼きうどんの店をそれぞれ覗いてみた。
「エイジ!」
俺を見付けて声を掛けてきたのほミラだ。
ミラにはこの3店のサポートを頼んである。代金の計算は娘達ではまだ難しいのでミラに3店まとめて面倒見てもらう事にした。
「盛況みたいだな!」
「見ての通りよ!」
連日、行列が出来る店が新メニューで出店するとあって、凄い人集りだ!
「クロエとクレアはどうした?」
あの2人の姿が見えない。絶対にここに居ると思ったのに。
「2人は祭りが始まるまでには来るって!」
「そうか」
空いた時間にクレアと会場を回りたかったんだが。
これまでの人生で恋人がいた事は無かった。当然ながら、彼女と祭りに行くという楽しそうなイベントも無縁だった。
ようやく行けると思ったが、そうは問屋が卸さなかった!
俺ってどうやら彼女とお祭りイベントとは無縁の様だ。ハァ。
「ウリャー!」
切り替えて今度はエリスのかき氷屋に行ってみると甲高い叫び声が響き渡る!こちらも凄い人集りだ!
その理由は、必死に風魔法を使って氷を刻むエリスだ!
ぱっと見エルフの少女が氷を刻むその様は、もはや大道芸にしか見えない!
前に籠でも置いておけば、お捻りが入っても不思議では無い!
「エイジさん!」
エリスの手伝いはシャルロッテに頼んだ。
店員のスマイルは大事だが、残念ながらエリスにそれは望めない!
そこで、いつも朗らかなシャルロッテにフォローしてもらう。おまけにシャルロッテは、ハッキリ言って巨乳だ!
鬼の形相で氷を削るエルフと、天使の様に微笑む巨乳という構図になってしまったが、この組み合わせの受けは良い!
エリスとシャルロッテのコンビは男性に、かき氷その物は女性に好評の様だ。
他の屋台も好調の様だ。
美味そうな物を購入してみたが、どれも期待通りだ!
俺にとって初めての味や食感もあって目新しい!
「明日から建設工事が始まるショッピングモールのフードコートに是非とも入ってもらいたい!」
思わず声に出してしまったが、聞いた店主はえらく感激していた。
独立を目指している料理人で、今日は師匠から快く送り出されたそうだ。
腹も膨れて気分も良くなった時には日も暮れていた。
差し入れのつもりで買った料理を持ってスタッフルームに行ってみたが、数人しか居ない。
警備や案内等のスタッフとして参加してもらった建築職人は会場に配置済みなので、閑散としたスタッフルームでは格好付けて檄を飛ばす訳にもいかない。
本当は円陣とか組みたかったけど。
「そろそろ行こうか!」
残っていたスタッフに軽く声を掛け、小走りで外に出る。
開始を告げる花火を3発打ち上げると、会場中から歓声が沸き上がる!
さぁ、お祭りの始まりだ!




