プロポーズ 魔道士らしく 打ち上げる
「ところでエイジ様、プロポーズの言葉は考えられましたか?」
「普通に「結婚して下さい」ではダメなのか?」
途端にスーは呆れ顔になる。
「一世一代のイベントなのですから、もっと大袈裟になさって下さい。エイジ様らしさが発揮されれば尚、宜しいかと」
とは言え、詞のような言葉を並べる事は俺には難しい。
俺らしく?異世界から来た魔道士らしいプロポーズか。
暫く考えた末に結論が出た。
「スー、頼みがあるんだが」
「改まって如何しましたか?」
スーの口元が緩む。思い通りの展開になったと確信したのだろう。
「プロポーズの言葉を教えてくれ!」
「喜んで!」
為て遣ったりと言わんばかりの表情をされるのは面白くないが、経験者に従った方が楽!
プロポーズとして成立する言葉をスーに文字に起こしてもらい、それを何とか覚えるつもりだ。その方がクレアもきっと喜ぶだろう。
『結婚して下さい』と言う内容は変わらない。スーは憮然たる態度を取って抗議していたが、演出プランを聞いて小躍りしていた。
「楽しみにしています!」
満面に笑みを浮かべるスーに送り出された俺はその後、戻ってクレアが読み書きを教えている部屋に顔を出してみる。
今回覚えた文字が5文字の単語から始まり、3文字、2文字、4文字の合計14文字の短い文章だ。
その14文字だって完璧に暗記したかどうかは我ながら怪しい。
『結婚して下さい』と言う意味は変わらない筈なのに、日本語の倍の文字数となる。
つくづく思う、日本語って便利だな。
「クレア、少し良いか?」
「もうすぐ終わります。少しお待ち下さい」
言い方は素っ気ない。あまりにも素っ気ないので、さっきの事は夢なのかとも思ったが、言い終わったクレアは俺を見つめて微笑む。夢ではなかった様でほっと胸をなで下ろす。
程なく今日の授業が終わり、娘達はクロエの店へと移動した。この建物には俺とクレアだけだ。
「あの、さっきの事ですけど…」
まさか、この期に及んで取り消したりしないよな!
「私、変なのかも知れません」
「変?」
俺を好きなのが変なのか?
「折角エイジさんに受け入れてもらえたのに、こんな事を言ったら嫌われるかも知れませんが」
言葉には力等無く、恥ずかしいのか眼を逸らしながらクレアは続ける。
「エイジさんが初めてお店に来た日からずっと気になっていて、不思議なお料理を知っていて凄いなって」
「その分俺はこの国の事を何も知らない」
「気が付くとエイジさんの事が気になって仕方がなくて」
「俺もクレアの事が気になっていた。最初は何となくだったけど、最近では強く思う」
「本当ですか?」
「クレアに仕事を手伝ってもらった事が有っただろ?ずっとこうしたいと思ったもんだよ」
「私もです!でも私は変なんですよ!だから1度距離を置いて、冷静になろうと彼女たちの先生に専念したりして。卑怯ですよね。自分の為に彼女たちを利用して」
そこまで言うのなら、どう変なのか気になって仕方ない。
「エイジさんに好意を抱く私が、エイジさんと結ばれる事まで考えてしまったり、挙げ句の果てには……」
ここまで言ったクレアは両手で顔を覆い、耳たぶまで真っ赤に染め上げ俯いてしまった。
それが何とも、可愛い!
考えてみればクレアも二十歳前の乙女だ。これ以上言わせる事は、男として失格だろ。
「クレア、クレアの気持ちは本当に嬉しい。今度は俺の気持ちを見てくれ!」
「気持ちを見る?」
俺は首を傾げるクレアを外に連れ出すと、火魔法の応用で花火を打ち上げる。
何年か前にテレビ番組で文字になる打ち上げ花火を見た事がある。やはりと言うべきか、プロポーズに使っている人も多いらしい。
今回はそれを真似させてもらう。
先ずは5文字!
単語として成立する様に、頭文字が消える前に5文字全てが揃わないと意味が無い!
本物の花火師宛らの緊張感だ。
上手く行った!1番文字数が多い単語をクリア!
次は3文字!
これも上手く行った!文字も間違ってない筈だ。
だが間髪を入れずに打ち続ける事はしんどい。特に今日は昼間も死闘をしたので尚更。
次は2文字だ!
たったの2文字だが気は抜けない!
1文字たりとも間違いは許されない。
ラストは4文字の筈だ。
かなり苦しい。
一瞬、クレアが赤くなった内容が頭を過るが、イカン!
それはこのプロポーズが成功後、たっぷりとすれば良い。今は集中!
4文字打ち上げた!
何とか成功だ!
クレアの方を見ようとして一呼吸入って初めて気が付いた。
花火を打ち続けている時、1度も呼吸していなかった!そりゃ苦しい訳だ。
赤い顔のまま空をぼーっと見つめているクレアに、肩で息をしながら向き直る。
「結婚して下さい!」
「はい。私でよければ」
返事の言葉を発した瞬間クレアの瞳から大粒の涙が溢れ出し、静寂が訪れた。




