帰宅後に 大一番が 待っていた
「ウォー!」
自然に叫んでいた。
来るな!とだけ念じた。
「ギャワン!」
俺を目掛けて木から飛び降りて来た狼達は、次の瞬間には彼等の意図しない姿勢で宙を舞っていた。
何だ?何が起こった?
その答えはすぐに判明した。
「魔力の放出か!」
思わず自分の両手を見つめる。
何のイメージも出来なかった。
この世界に来て初めて魔力を行使した時も、カールの攻撃から逃れたい一心で放った無属性の魔力放出だった。
何もイメージ出来ない時にはこれしか無いって事か。
とは言え、この魔力放出は効率は悪い。
属性魔法の方が威力も強いし、魔力の消費も少ない様だ。
咄嗟の場合を除き、これ以上使う事は現実的ではないだろう。
この狼達にさっきは風属性魔法を使ったが、それくらいしか使える魔法が思い付かない。
森の奥では木の根が張り巡らされていて、絡み合っている。これではゴーレムは作れないし、仮に作れたとしても狼達のスピードには対応不可能だろう。
森林火災を引き起こすから火属性は以ての外。
水でコイツらが怯む姿は想像出来ないし、闇を使うにも囲まれている状況では無理が有る。
それにしても狼達は単体でも強い。更に素早い上に集団で襲い掛かって来るので達が悪い。
そんな敵には弾幕を張るつもりで魔法を使うしかない!
下手な鉄砲とも思ったがこっちも必死だ、意外と当たる!ひたすら撃った甲斐有ってか、数が目に見えて減っている。
仲間達の数が減った事で無闇に近寄らなくはなったが、残った狼達は一定の間合いを取って伺っている。
うっそうと生い茂る樹木に身を隠す狼達は、森と言う地の利を活かした戦い方を熟知していて、俺に余裕は全く無い。
この緊張状態は嫌だな。
焦れったくなった俺は、まず自分に影響無い様に魔法障壁を発動させて竜巻を作り出す。竜巻で狼達が身を隠している木ごと吸い上げる。
やり方は無茶苦茶だが、こうする他は思い付かないから仕方がない。
流石に根を張っている木は吸い上げられなかったが、多くの木が折れた。
立っている木も枝葉が無くなりスッキリとして、狼達の隠れ場所は無くなったが、肝心の狼達の姿はそこには無く、枝葉と一緒にグルグルと竜巻の中を旋回している事がシルエットで確認出来た。
どうやら戦いは終わった様だ。
今日はもう帰ろう。
ゴーレムを作成出来る所まで戻ると、そこで竜巻を解除する。流石に狼達はぐったりしていたが、俺も魔力を使ってぐったりだ。
数えると、狼達は25匹もいやがった。
しかも意識が無い状態だと戦闘時よりも一回り小さい。これが狼達の特殊能力か?
生命の危険が有る戦闘はやはり疲れる。その一方で、闘争心からか精神は昂ぶっている気がする。
この高揚感、悪くない。
捕まえてきた魔物は、以前から街を囲っていた壁と俺達が造った土塁の間に放しておく。
万一に備えてゴーレムの監視付きだ。逃走は勿論、魔物同士で戦わない様に万全を期している。
今日やるべき事はやった。後は取り敢えず休みたい。
自分の寝床で少し休んで、その後にクロエに何か食べさせてもらおう。
戻るとまだクレアによる授業が続いている。
「お帰りなさい」
クレアと授業を受ける6人の娘達に迎えられるが、事情を話して自室に向かう。すると、小走りして追い掛けて来る足音が聞こえる。
「エイジさん、少し良いですか?」
クレアが、至って真剣って表情だ。その瞳の輝きは悲しさを思わせる曇りがある気がする。
「良いけど、彼女たちは?」
「自習させています」
「そうか」
俺はクレアを自室へとエスコートした。
ああ、この世界にセクシーな物とか、女性に見せられない物が無くて本当によかった!
「エイジさん、また戦われたのですね」
「まぁ、仕事上の成り行きでな」
今日の目的は木材の入手であり、魔物は副産物の様な物だ。
「もっとご自身を大切にして下さい!」
クレアが瞳に涙を浮かべられると、思わず息を呑む。心配掛けて申し訳ないと思う一方で、この涙を美しいとも思ってしまった。
危ない、また勘違いする所だ。
「クレア、そういう顔は惚れた男にする顔だ」
「そんな、私は…」
言い掛けてクレアは口をつぐむ。
「手紙はまだ読めませんか?」
「手紙?あれか?」
恋文かと思ったら、そうではなかったアレね!
その旨をクレアに伝えると、途端に怪訝な表情に変わる。
その流れでロンが教えてくれた単語をクレアに見せると、破顔一笑!今度は笑いだした。
「ロンさんの書いた単語は、挨拶状やお礼状で使う単語です!」
えっ!あの野郎、明日はシゴキだな!
「このままエイジさんが読めないのでは私、おばあさんになってしまいます」
それでも読めないと思う。この世界の文字は。
「もう待てません。内容を言いますから、聞いて下さい」
「分かった」
クレアの表情は一転して真剣そのもの。何か覚悟を決めた様子だ。
「貴方が訪れてからと言うもの、私は大きく変わりました。それまでの退屈な日々が嘘の様に、貴方と過ごした日々は充実して、私の心の中で輝き続ける宝物となりました。いつの間にか貴方の存在がとても大きく…」
クレアは言葉を詰まらせたが、それも一瞬。すぐに続ける。
「愛おしく想っています」
「クレア、それって…」
「エイジさん、クレア・オブライエンは貴方をお慕いしております」
思いも掛けなかった、クレアからの告白だった。




