表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

それはここから始まる

                 10/25。AM8:00。水曜日_

多くの人が活動している中で俺はベッドの上でにらめっこしていた。

 「もうすぐで…ランキング一位に…」

 いつからだろうか。ふとした瞬間だった。なぜ大学に行かなければならないのかという疑問にたどり着いた。何かが嫌になったわけではない。友達はそこそこいたし、勉強もそこそこできる方だった。だけども急激なめんどくささに襲われて一日さぼってしまった。しかし、いつしか不登校に陥っていた。幸い一人暮らしでさらに市内でも家賃が安いおんぼろなアパートに住んでいるため、実家の仕送りで家賃や光熱費などは事足りた。

 しかしながら、引きこもりになると最終的に

「チッ…やっぱりこのキャラクターいるのかよ…」

 スマホとにらめっこする引きこもりのニートの出来上がりである。とはいっても、引きこもりは名ばかりで、少しでも食費などを浮かせるために買い物には行っている。

 「食い物…は昨日尽きたのか…買い出しに行くか…」

 約一週間ぶりの買い物に感じるものは気怠さだけだった。


******************************************


 俺の家は坂の多い地区の頂上付近にある。長崎のあの坂の感じを思い浮かべてもらえば、伝わりやすいであろう。そして買い物に行くスーパーが徒歩で約三十分の道のりである。正直すごくめんどくさい。

 次こそは車を買おう、貯金をしようなどと思いながらも結局はそのまま保留にしてある。


 坂を下り、歩いて約三十分後、ようやくスーパーについた。秋なんて言葉だけで、今なお照り付ける日差しが身を焼く。店内がものすごく天国である。

 だがしかし、のうのうとこんな所にいるわけにはいかない。安い食材やカップ麺などを買いだめて、早々にスーパーを出ていった。

 あぁ、惨めだな。なんでこんなことになったのだろう。あぁ、日陰を歩こう。などと無駄な考えに馳せていた。


 スーパーと自宅の間には、三つほど信号機がある。そのうち一つは、オフィスが日陰になって少しの間だが涼むことができる。日陰で信号をただぼーっと眺めていた時だった。スマホを見ながら歩いていた女性が、赤信号の中横断を始めた。さらに魔の悪いことに、一台の車が女性めがけて走っていた。

 ―あぁ、動くなよ。俺はそんな奴じゃなかったはずだ。見知らぬ女性を助けるような善人じゃないはずだ。なに馬鹿みたいに走り出してるんだ…

 買い物袋を投げ捨て、大声で女性を呼び止めながら俺は走っていた。あと少し、ほんの少しで彼女の腕を掴めそうだった。しかしながら、その少しが出なかった。頭痛がひどかった。頭が割れそうなほど痛く、ノイズが大音量で流れ、激しいめまいに襲われた。

 人間危機的な時ほど何も考えられなくなる。

 あ、やばい…

 そして俺の意識は幕を閉じた。


****************************************

              5月14日。PM12:35.月曜日_


 高校生にもなると、月曜日というものはどうしても憂鬱な気分になる。休み明けなんて疲れるだけだ。ただ多くの友人と他愛もない会話をすることでやる気を出している。

 「おーい、もう授業終わったぞ」と友人が声をかけてくれた。クラスメイトは弁当を取り出し、いくつかのグループに分かれて食事をしていた。

 「…あれ?4限の国語は?」

 「寝すぎだろ。どれだけ眠かったんだよ」

 「あーまぁ。食堂行くか」

 「おう、早く行こうぜ」


****************************************

 

 予想はしていたが、多くの生徒がごった返していた。

 カレーを注文し、受け取ったはいいものの、どうすることもできない。

 「座る場所ねぇな」

 「そうだな」と曖昧な返事を返す。座る場所を確保しないと飯さえ食べることができない。困っていた時に後ろから女性が声をかけてきた。

 「あ、――くん。私たちもう教室に戻るから、よかったら座って」

 確か同じクラスの…名前は何だったかな

 「篠原さん、ありがとう。おい――、早く食って教室に戻ろうぜ」

 「あ、あぁ。ありがとね篠原さん」

 「ううん、いいの。じゃあまた後でね――くん」

 今日のカレーは少し辛かった。


 教室に戻ると、男子が固まってカードゲームをしていた。

 「お、――じゃん!一緒にやろーぜ!」

 「おう、いいぜやろうか」

 「今日こそ負けねぇからな!」

 残りの時間が少なかったこともあり、いいところでチャイムが鳴ってしまい中断せざるを得なかった。

 5限と6限なんてただただ眠いだけだ。特に春先の心地よい風を受けて眠くならない方がおかしい。

―あぁ、早く終わらねぇかな…

瞼が重くなり目が覚めると―

****************************************

              10月25日。AM9:43分。月曜日_


 俺は、オフィスの陰で青信号を待っていた。そこにスマホを見ながら歩いていた女性がやってきた。彼女は赤信号の中、横断を始めた。さらに魔の悪いことに、一台の車が女性めがけて走っていた。数年ほど前のことだが面影はある。彼女は篠原だ。

 ―あぁ、動けよ。俺は確かにそんな奴だが、級友を見捨てるほどクズじゃなかったはずだ。早く動け―!

 ようやく足が動く。俺は買い物袋を投げ捨て、大声で彼女を呼び止めながら走っていた。あと少し、ほんの少しで彼女の腕を掴めそうだった。しかしながら、その少しが間に合わなかった。彼女は振り返った。その姿はあの頃のままきれいだった。しかし、そんな姿は一瞬で、瞬く間にその場から消え去った。俺は呆然とする。

 ―間に合わなかった…何もできなかった…

 自己嫌悪に陥る。周りが救急車を呼んだり、処置を施している中で俺はただ茫然と見つめることしかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ