⑦熟成ハバネロ油漬け(12年物)
過去に取り上げたハバネロたんの現状です。
君はどんなモノを食した事があるか。
必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。
或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。
人はモノを食い生きる。
ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。
ただそれだけの為に食べるのだ。
しかし、人は飽きる生き物である。毎日同じじゃあ、つまらんぞ?
たまには好奇心の赴くままに、食してみないか?
……まぁ、馴染みの味、ってのも、たまには悪くないものだが。
諸兄は冷蔵庫の中に何が入っているのか、ご理解しているだろうか。
我が家の冷蔵庫は一般的な三人家族分には必要な容量である。しかし、我が嫁御は子年で必要以上に溜め込む性癖があるらしく、野菜庫内にはジュースや何やらが犇めいている。但し、本人曰く「中身は把握しているから食材を無駄にはしない」と言っているので、たぶん問題は無い。たぶん、
ちなみに稲村某は卯年である。卯年はどのような状況や環境でも、必ず誰か一人が味方や道案内役になって色々と導いてくれる。職場を変えようと住環境を変えようと、困った時にはきっと誰かが稲村某に手を差し伸べてくれるのである。
……根拠? そんなものは無い。ただ、思い起こせばきっとそうなのだ。但し、卯年は時折やたらと羽目を外す。海外では春のウサギは恋に狂って常軌を逸する、等と言われるそうだ。照らし合わせると、あながち間違いでは、無い……かも。
話が逸れてしまったが、我が家の冷蔵庫は潤沢な在庫を有している。だがその中には不可触在庫が存在しているのだ。それこそが、タイトルの「熟成ハバネロ油漬け」である。蛇足だが熟年数は推定である。
さて、さて。
相手は年古きハバネロ。普通の物ならばとっくの昔に廃棄されて然るべきモノである。だが、稲村某にとっては現役である。
まず、慎重にスプーンを保存用瓶に挿し込み……み、みれない。いや、入れられないのだ。瓶の口は我が家のスプーンより狭く、入れられない。
仕方がないので箸を入れて、僅かな量を使うとしようか。
今回のお供はカレー。何処にでもある安売りのレトルトである。しかも中辛。中途半端に辛い、やる気の無い奴である、
ふっ! これからお前を漢にしてやるぜ……!!
瓶からオレンジ色に染まった油と最早形を成さぬまで熟成しきった(腐ってないよ)ハバネロを取り出す事、三回。
後はコイツらを適度に混ぜ混ぜして、熟成ハバネロカレーの完成である。
……待たせたな。早速、食しようか。
お約束のカレースプーン(我が家ではコレを使うのは稲村某だけである)で掬い取り、口へと運ぶ。
意外にも若干の香ばしさと僅かな甘さが感じら……
かはっ!? い、いや……辛ぇなあ……舌がビリビリすっぞ?
判ってます、判ってますって!! ハバネロなんですから!
しかし、我が家のハバネロたんは、その昔見た小柄な幼女の姿は何処かに掻き消えていて、今やどっしりとした風格と貫禄を備えたヤリ手ロリBBAそのモノに変貌しているのだ。
……あ、一応説明しておきますが、その昔貰ったハバネロの苗木を植えて鉢植えで楽しんでいたんですが、30センチ程のサイズに育ったハバネロの木に白くて小さな花が咲いたんですよ。
で、それを眺めながら「まー、全部に実が付く筈無いか?」と甘く見てたんですがね……まさか全ての花が結実するとは思いませんでしたねぇ……。
で、三センチにも満たない黄色とオレンジの艶やかな実(確か四十個はあった)を擂り潰して瓶詰めにし、油を注ぎ込んで空気を遮断して……少しづつ少しづつ使っては油を足し、今日に至ります。
ちなみに、いつもは辛さが欲しい時はハバネロ粉末(既製品)で済むんですが、たま~に取り出して使っています。先程も表記しましたが、甘さと香ばしさが断然違うのですよ、これが。
お読みの諸兄、もしハバネロの実が手に入ったならば一度試して欲しい。生の実が持つ爽快な辛さと秘められた奥深く複雑な味わいは、一度口にすると病み付きになる……かもしれませんよ?
あ、辛いの苦手な方は遠慮した方がいいです。翌朝のトイレで悶絶する事間違いなしですからね?
ちなみに種は毒性を有するらしいのですが、今のところ稲村某は元気です。ではまた!!