③謎の飴
第三回目は、謎解き風味で進行いたします。どんなモノなのか、文章から推理してみてくださいね?
君はどんなモノを食した事があるか。
必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。
或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。
人はモノを食い生きる。
ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。
ただそれだけの為に食べるのだ。
しかし、人は飽きる生き物である。毎日同じじゃあ、つまらんぞ?
たまには好奇心の赴くままに、食してみないか?
……旨いモノに限らずどんなモノでも、だが。
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出会いはいつも唐突である。
他人に変わったモノを与えては、反応を見て楽しむ癖の上司の元で働くと、様々な恩恵が有る。
無論彼にも好き嫌いはあるのだが、その食べ物が値段に勝る価値(話のタネとして)が有るなら躊躇わず購入する理由となり、それが巡り巡って我が元に来るのだ。
前置きが長くなったが、そうした経緯を踏まえて先に読み進めて頂ければ幸いである。そして今回は、読み手のワクワク感を維持する為、敢えて終盤まで食材名は記さない。推理するつもりでお読み頂ければ、少しは楽しんで頂けるかもしれない。
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仕事先で唐突に現れたその飴は、禁煙出来る飴という触れ込みで差し出された。
しかし稲村某は馬鹿かもしれないが愚者ではない。パッケージをチラッと見ただけでモノが舶来品だと判り、(……ははぁ、コイツは話のネタとして使えるな)、と即座に受け取った。
「禁煙効果が高まるかもしれないから、二つ位一度に食べてみなよ(リアクション見たいから沢山食え)」
手を出した稲村某の真意を汲み取ったかは判らないが、彼は優しくお勧めしてくれたので、
「話のタネになりますから沢山ください沢山ください(これで禁煙出来たら嬉しいですね!)」
そう話を合わせながら、期待でパンパンになった好奇心を抑えつつ、差し出されたモノを受け取った。
まずは、見た目である。
……黒い。
はて、カラメル色素やハーブ成分で色付けされているなら、もう少し澄んだ色をしているものだが、この飴はひたすらに、
……黒い。
そう、松崎しげる若しくはたいめいけんのシェフ位に、黒い。真っ黒だ。世界中の罪と悪意を取り込んだかのように、真っ黒である。あ、もちろん松崎しげるもたいめいけんのシェフも悪意や罪とは全く無縁な地黒な方々である。きっと好い人達だ、たぶん。
話が逸れたが、決して食べたくない訳ではない。逆に食べたくて食べたくて仕方ないのだ。その証拠に匂いなんて嗅いだり……しないんだからねッ!!
……スンスン。
意外にも臭さは感じない。ただ、食材としての情報も希薄、と言う事にも繋がる訳なのだが。ホンの僅かだが湿布薬に似た、ハッカに近い匂いがする……ような気もする。その薄さは食材を触った指先に残った香り程度、であるが。見た目の形は型押しされたような二等辺三角形で、断面は艶やかである。蛇足だが中央部に凹みが有り、見た目の印象としては古くから在る会社の社章っぼくも見える。但し、真っ黒だが。
見た目、匂い。そして形状。
全てが稲村某に訴えて来る。これはとても【オイシイ】モノなのだ、と。
うん、誤解しないでくれたまえ。決して【美味しい】モノじゃないからな? 稲村某は別にドMではない。好き好んでウニを殻ごと丸かじりしたりはしないし、焼けた石炭を食ったりはしない。あくまでも、ネタとしてである。
前置きがまた長くなってしまった。
……さあ、食してみようか。うええぇ……。
ポイ、と口の中へと放り込み、舌の上でゆっくりと溶かsh
ほんの一瞬だけ、目に写る景色は色を失い、同時に稲村某は思考停止した。
それから数瞬後、やっと稲村某の味蕾から発せられた信号が脳に到達。刺激で喚起された危険性に対する防衛本能だろうか、意識の中で様々な情報が駆け巡る中、何故か極端に限定化された味覚情報のみが尖鋭化し、分析しようと試みたのだが……
あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ あ゛ ぁ ! ! ! !
苦くて苦くて舌がバグって塩味に誤解する位に苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い苦い!!
そして舌全体を包み込むような負のイメージ!! まるで口の中の感覚全部が闇に呪われたかのような、味覚全体が破壊される印象! そして一切の甘味を排した強烈な個性!! 何だよこの鉛や薬品に共通する【食べるな危険】風味は!! 飴なんだろ? 飴なんだろ!! 【甘い】から飴なんじゃないの!?
「……しょっぱいですね、これ」
「えぇ!? しょっぱい? う~ん、二粒まとめて食ったからか? 俺は違ったけどなぁ……」
あ、貴方も食べたんですか、そうですか。何だか安心した。
さて、改めて味わって(最初は苦味の印象が強烈過ぎて味を感じなかった)みると、やはり苦い。しかしカフェインや薬品みたいな舌が痺れる感じは無く、意外と優しい苦さ……いや、優しくはない。苦味が強過ぎて舌の脇の塩味ポイント(塩味を感じる味蕾が集中している箇所)がバグって反応する程度には苦い。
そして、これでもか! と言わんばかりのしつこさに近いハーブ系香料……だが、表現出来るような似た風味が見当たらない。それでも敢えて例えるならば、「かつおぶし飴」にニッキを混ぜて、甘味とダシ風味を除去したような感じ……いや、何の事か全く判らないだろうが、そうとしか言い様が無いのだ。
序盤に感じた苦味は、何か薬草のエキス(すっぽんエキス入りゼリーは苦いらしい)、若しくは有り得ないが胆系のエキスなのか……とにかく一見さんお断り!! 的な味が印象的でした。
……さて、この飴……一体何なんでしょうかねぇ?(食べた直後までパッケージを見ていません)
さて、皆様は判りましたか? 答えは『サルミアッキ』でした! ……そりゃあ、謎な味がする筈ですね。塩化アンモニウムとリコリス(香料)が主原料なんですから。