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⑩怒りのクレームブリュレ

美味しいモノに出会えたなら、暫し幸せになれる。不味いモノに出会えたなら、暫し話のネタに出来る。



 君はどんなモノを食した事があるか。


 必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。


 或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。



 人はモノを食い生きる。


 ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。


 ただそれだけの為に食べるのだ。



 しかし、人は飽きる生き物である。毎日同じじゃあ、つまらんぞ?


 たまには好奇心の赴くままに、食してみないか?



 ……時には大ハズレを引く事もあるけれど。







 先日、嫁御とコンビニ(店名は伏せる)に行った際、あれだこれだと言いながら彼女が手に取ったモノの一つが、クレームブリュレだった。



 稲村某と嫁御は、新婚当初まで東京に住んでいた。結婚に至るまでの一年ちょっとの間、彼女の住んでいた北関東某所と稲村某の住んでいた東京都立川市を互いに行き来しつつ、所謂(いわゆる)プチ長距離恋愛的な事をしていたのだが、東京に遊びに来た彼女を接待する為に良く寄った店に、名物のクレームブリュレが有った。


 店自体は大きな店舗で、焼き鳥主体の居酒屋風だったのだが、何故かクレームブリュレは自家製を出していた。


 「私さ、【アメリ】見てからクレームブリュレが好きになったんだよね!」


 そう言いながら彼女は、スプーンでパシパシとカラメル状になった表面を叩き、嬉しそうに割りながら食べていたもんである。




 ……そんな思い出深いクレームブリュレである。最近とんとお目に掛かっていなかったのだが、まさかコンビニスィーツになっていたとは……世の流れとは誠に判らないものである。


 さて、そんな感慨深い気分の稲村某を尻目に、ワクワクしながら嫁御と娘がブリュレの蓋を開けて、三等分(大した大きさではないので一口分しか無いが)にしようとスプーンを取り出し、


 「昔はよくこーやって叩いて割ったもんよね~♪」

 「え~? どこで食べたの?」

 「アンタが生まれる前に、東京でだよ~!」


 そんな会話をする二人なのだが、嫁御がスプーンで表面を割ろうと叩き付けた瞬間、彼女の表情が凍りついた。


 「……あれ? なにこれ……叩いても割れないんだけど?」


 そう言いながら、数回叩いてみたのだが、直ぐにスプーンはブリュレ部分へと到達した。



 ……だが、それはカラメル状になった表面が割れたからではなく、端を叩いた瞬間、表面全体が《忍法畳返し》のように一回転し、無傷のままブリュレ部分にスプーンを逃したからなのだ。


 「……こんなの、クレームブリュレじゃない……」


 嫁御は吐き捨てるように呟きながら表面を皿に出してブリュレを一口含み、そして無言のままカラメル部分を割ってブリュレと共に娘と俺に配ると、二度とそれらを口にすることは無かった。


 稲村某も食べてみたが、カラメル部分はまるでべっこう飴のようで香ばしさは無く、ブリュレ部分も中途半端な口当たりと舌触りで、


 (……こんなの、クレームブリュレじゃない……)


 と、心の中で呟いた。






 ……でだ!! 昨日は十四日!! つまりホワイトデーだっ!!


 俺はこの【偽クレームブリュレにクレーム付けたいが「クレームブリュレだけにクレームですかぁ~? バッカみたぁ~い! ウププ~ウケるんですけど~♪」って言われたくないから我慢してるんだよ! 判ってんのか○○○○よ!?】事件に遭遇し、期待し過ぎた我々にも落ち度はあったのかもな、と思ったが、このまま引き下がるつもりも毛頭無かった!! ついでに職場も超ヒマだったから嫁御と娘にクレームブリュレを作ってお返しにする事を思い付いたのだっ!!



 ……で、一切の予備知識及び下調べ無しで、作ってみた。



 結果は……【スポンジ状の卵料理ですが、何か?】が二回も出来たので、諦めました。


 いや、茶碗蒸しは作れますし、材料も器材も有るんですよ? 普通にいけるかな~? って思って当然でしょ!?


 ……で、ココット皿にクリームと混ぜた砂糖入り卵を流し込み、蒸し器で蒸して作ってみたら……シフォンケーキみたいになったんですって!! 俺は悪くない!!



 ……でも、諦めなかったのです。


 蒸されて膨らんだ卵をココット皿から取り出して、とにかく自宅へと持ち帰ってみてから考えました。


 (……味は悪くなかったから、裏漉しして作り替えるか?)


 そう結論を出して、稲村某はココット皿から卵シフォンケーキを取り出すと、パックに入れて持ち帰りました。その後、車を走らせて自宅に到着すると手を洗ってから早速裏漉ししてみた。


 ……おお、悪くない。いや、見方を変えれば……これ、少しも変じゃないぞ!!


 出来上がった黄色いフワフワなスイーツを蕎麦猪口(深さ的に合った器がそれしかなかった)に移し、そう結論付けると表面に砂糖(本当はグラニュー糖)を振り掛けて、バーナーで炙ってカラメライゼして、冷蔵庫へと仕舞った。



 こうしてクレームブリュレ事件は終了し、稲村某は執筆出来たのである。


 さて、問題は明くる日の朝、嫁御がそれを見て何と言うかだが、果たしてどうなるのやら。




食べた感想は「良く出来たスフレケーキみたいだがブリュレじゃない、好き嫌いは判れる」だそうだ。しょーがないじゃん、専門外なんだもん!

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[良い点] 「……こんなの、クレームブリュレじゃない……」ww [一言] 結局真のブリュレは現れなかったのか…… 作品には関係のないことで申し訳ないですが、運営さんも言っているように悪質なスパム的…
[一言]  クレームブリュレじゃないやつ……うむむ、想像できない^^  何故そうなった? というか、製法が凄く気になります笑  考えられる原因はこんな感じですかね? ①上にかける砂糖の量間違えてか…
[良い点] 失敗から新しいスイーツ(料理)が誕生する…。 アップルパイの失敗作から生まれたのがタルトタタンでしたっけ?パイをひっくり返しちゃったとかだったかな。うろ覚えですいません。 稲さんのクリーム…
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