①蚕の蛹
お待たせいたしました、「極メシ!!」続編、開始いたします!!
君はどんなモノを食した事があるか。
必要以上に身分不相応な山海の珍味を食したか。
或いはまだ見ぬ未経験の味に驚愕したか。
人はモノを食い生きる。
ただそれだけの為に生きて何時か死ぬ。
ただそれだけの為に食べるのだ。
しかし、人は飽きる生き物である。毎日同じじゃあ、つまらんぞ?
たまには好奇心の赴くままに、食してみないか?
まぁ、毒とか無ければ大丈夫だって!!
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ここのところ、この作品を始める為にネタ探しをしていたのですが……
そーゆー時って、何故かネタの方から此方に向かってやって来るのです。
勤務先で退職した方が、置き土産で幾つかのモノを残していったのです。その中に、稲村某が以前から興味を持っていたブツが有りまして、晴れて御対面!! と、相成りました。
……それこそが、まさかのカイコ(のマユ)である。
外側のパッケージに打たれたプライスダクには、クッキリと『1000円』の字が記されている。つまり、千円である。つーか千円ッ!? オイコラ随分とお高いなぁ!!
あ、毎度お馴染み稲村某で御座います。又、始めちゃいましたよ? 極メシ。前作を知らない方は作者のマイページから辿ると見られますから。但し、第一話のタイトルを見てゾワゾワした方は降車ボタンを押してくださいね?
……平気? ……大丈夫? 旧作のタイトル見て、無理無理ッ!! とか、ヤバいヤバい鳥肌立つって!! と思った方は無理せずホンワカしそうな項目から読んでくださいね? まー、たぶん全話問題無いと思いますが。
さて、もう引っ張る余裕は無いので、ズバッ!! と始めちゃいましょう!!
今回の食材は『カイコの繭』です! タイトルそのまんま!!
……てな訳で、毎度お馴染みの決め台詞おば、失礼いたしまして……
では、食してみようか。
と、その前に先ず、パッケージを愛でてみよう。
『シルクワーム』と書いてある。それはそうだ、カイコだからな。因みに産地はタイランド、タイ産である。個人的にはムエタイと仏教の国である。きっと彼の地、遠きナユタヤの寺院で涅槃経を唱えている僧侶の法衣にも、きっと絹糸の類いは使われているかもしれない。主に使われているのは綿かもしれないが、それはさておき。
続けて主原料を見てみよう。
『シルクワーム・塩』
わーお!! ……シンプルだなぁ。余計な味付けは本来の味わいを損なう、そんな気遣いが見え隠れして……いない。単純にスナックとして売られているからだろう。せめてカレー粉位使ってほしかった。
で、注意書の箇所には、
『虫はエビ・カニと類似する点が多く、アレルギーに注意して食してください』と記されている。稲村某、極めて弱めのエビアレルギー体質だが、どんぶり一杯山盛りで食わなければ問題はなかろう。一度にそんな食いたくないが。
まぁ、そろそろ限界だろう。く、食うか……。
まず国産のグミ系菓子っぽいパッケージ(ご丁寧にカイコのサナギのリアルなイラスト付き)を開けると、中からジップロック風の二重包装に入ったブツが現れる。内容量は15グラム。大した量ではない。だが、『1000円』もする物体なのだ。キロ換算すると馬鹿みたいな高級食材様である。ふざけた値段設定だなぁ……本マグロより高いとかマジで信じられん。
だいたい四十匹入りの二重包装から一つ取り出して、観察してみよう。
見た目は『カイコのサナギ』そのもの。手に持っても軽く、そして素揚げした食材特有のカッサカサな手触りである。無論、動きはしない。いや動かれたら絶対に食えないが。
とりあえず、精神を集中して……心を空にする。
今、手にした存在は、宇宙とは全く関係無い……高蛋白低カロリーな食材である。決して小学生の時、教室の後ろでケースに入れられて桑の葉を無心に齧り続けていた、白いイモムシが変身した奴なんかじゃないんだぞ?
うわーん、もう限界だよぅ!! 食うぞ!!
さくっ、とした歯応えの後、口一杯に広がる……かなり強めの土臭さ。うむぅ、すげー土臭い。言い換えるならば、泥臭いかもしれん。違いは判らんが。
その後、揚げる際に使われたと思われる、綿油の独特な風味が抜けていくと、口の中には先程の土臭さ、そしてサナギの皮(殻か?)がピーナッツのように残り、パサパサの印象を更に強くしてくれるのである。
……と、此処まで読んだ諸兄はきっと「あー、カイコのサナギなんて食い物じゃねーなぁ」とか「虫なんて気持ち悪いモノは食うべきではない!」と思うだろう。
しかし、散々文句を書いたように受け取られているならば、それは若干違うのだ。
稲村某、今回のサナギを食して思ったのは、
【 虫 は 調 理 法 次 第 な ん だ な 】
で、ある。
まず、保存性と簡便さを重視し、素揚げに塩の組み合わせになったのだろう。だが、これがベストな組み合わせ、なのかと問われれば否、だと思う。食べてみた感想は『土臭ささえ無ければ食えない事はない』である。これは考えるに、サナギの成長過程に合わせて旨さと味は変わるのだろう。つまり、主目的の繭形成を最優先とした時、サナギの味は殆ど絹糸を吐き終えた段階で産卵を終えた魚のように劣化し、本来の旨さとは程遠いモノになっているかもしれないのだ。
だが、これは仕方が無い。繭→サナギの図式を変えてしまうと副産物としてのサナギの価値は失われてしまうし、絹糸が得られなくなる。まさか旨さを優先させた食用カイコなんて存在しないだろうから、やむを得ないだろう。
ならば、せめて土臭さを除去する調理法を考えると、やはり強めの香辛料を使ってもらいたい。カレー風味は絶対に悪くないと思うのだが、「サナギの個性的な味と香りが失われてしまう」とするならば、せめて生姜か何かを使って土臭さだけでも緩和して欲しいのだ。個人的には生姜醤油で甘辛く煮付けたら悪くないと思うのだが……これは嗜好であって、無理強いするつもりはない。
カイコのサナギを食べてみて思ったのは、繭から絹糸を得る為に残されたサナギを無駄無く蛋白源として摂取しようとした、先達の知恵が残した昆虫食がタイ経由ではあるが現代にも受け継がれている事であった。どんなものでも無駄にせず、生活の糧として活かすのは素晴らしい。
ただ、その味は決して万人受けするようなモノとは言い難い。これを克服さえすれば……きっと、様々な食料事情の改善に繋がる筈である。ただ、アレルギーの問題が有るので活用は食べる人の体質を選ぶのだが……
えっ? 「エビやカニと同じなら、そっちを食べればいいじゃん」だって?
……うん、まぁ、そうだね。稲村某もそう思う。しかし、これはハッキリと断言出来る。
「カイコのサナギ食えたらダイオウグソクムシも、イケるんじゃなかろーか?」
って、ね。
但し、入手は更に更に困難だろうな。
誰か、くれないかな?
タイトルは変わる可能性も有りますが、如何でしょうかね?
それではまた!!