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七話 『ある女冒険者はかく語りき 曰く 女は胸じゃない』



「はい、登録完了です! 無色級冒険者のイレーネさん、頑張ってくださいね!」


 テレサと名乗った受付嬢は、透明な板状のものを渡してくる。


「それは、冒険者としての格を表すものです。無色級、白色級、鉛色級、銅色級、銀色級、金色級、白金色級、黒色級の順に上がっていきます」

「そうなんですか。じゃあ私は一番下っ端の冒険者ですね」

「大丈夫、イレーネさんならすぐに銀色級くらいにはなれますよ!」


 お世辞ではなく、テレサはどうやら本当にそう思っているらしい。


 テレサの期待に応えなくてはならないなと思いつつ、イレーネは道具袋を背負った。


「あ、イレーネさんちょっと待って下さい!」

「え?」

「駆け出し冒険者なら、パーティを組んで安全に冒険するのが一番です! ということで、そこの無色級、ちょっと来てくださーい!」

「え、アタシたち?」

「ですです!」


 口早にそう言うが早いか、テレサは軽い身のこなしでカウンターを飛び越えると、依頼板を見ていた駆け出しらしき二人の女性を引っ張ってきた。


 

「紹介しますね! こちら、新米冒険者のコレットさんとネシスさんです!」

「フン、コレットだ。武器は大剣、アンタと同じ無色級だよ。あ、でもアンタより一週間も早く登録したんだかんな!」

「……ネシス。治癒魔法が得意」


「エルフのイレーネです。一応、基本四属性は一通り使えます」


 イレーネの自己紹介に、コレットとネシスが驚いたような顔になる。


「ふふふ! 期待の新人なんですよ! イレーネさん、ぜひこの二人とパーティを組んでもらえませんか?」

「え、私がですか?」

「ちょっと待て! 何勝手に物事進めようとしてんだこの乳デカお化けが!」

「……コレットが絶壁なだけ」

「アァ!?」


 女四人のかしましい会話に、酒場の男たちはこぞって耳を傾けていた。


 全員がコレットの薄すぎる胸板を見ては、ハァ、とため息をついている。


「ンダコラァ! やんのかオイ!?」


 コレットが酒場の男たちに牙をむいて威嚇していると、その肩をテレサが慰めるように叩いた。


「はいはい、話はまだ終わってませんよぜっぺ……コレットさん」

「テレサ! テメェ今アタシのこと絶壁って言おうとしたよな!?」


「話の腰を折るな絶壁……じゃなくて絶壁」

「ネシスはもっと隠す努力しろよ!」



「――ふふっ」


 久しぶりに騒がしい空間にいて楽しい気分になっていたのか、イレーネは思わず笑みを浮かべてしまった。


「「――――」」


 その笑顔を見た男たちは、無言で立ち上がりイレーネのもとに駆け寄ってきた。


 そして。近くで顔を凝視すると、唐突にその場に一斉にくずおれた。


 ぴくぴくと痙攣するその様は、なにやら危ない薬でもきめているようにしか見えなかった。


「可愛い……加えておっぱい大きい」

「俺、死んでもいいわ……あとおっぱい大きい」

「え、女神? もしかして前世女神? さらにおっぱい大きい」

「おっぱい大きいしな……そしておっぱい大きい」


 男たち、満足げに親指を立てながら本人がいる前でそう言ってのける。


「オイッ!」



 そんな男たちを見て、コレットはダンとギルドの床を踏みしめた。


 その顔は、本気の怒りの顔をしている。

 

「お、お前らなぁ……!」


 コレットは震えた声で、男たちを睨みつける。


「コレットさん……」


 イレーネは、コレットがイレーネに対する男たちの失礼な態度に怒っているのだと思い、感激して手で口を覆ってしまった。


 だがしかし。



「全員おっぱいおっぱいって、お前らガキか! いいか、女はなぁ、胸じゃねえんだよ!」


 ドン、と自身の胸を叩いてコレットは男たちに見当違いの説教をぶちかました。



 イレーネは「あ、私のために怒ってくれないんだ……」と人知れずへこみ、そして説教を受けた男たちの反応はというと。



「あー、また絶壁が何か言ってるぜ」

「女は胸じゃないって、巨乳に言われたら分かるけどよ……絶壁だしな」

「そういえば聞いたか? あの絶壁、七歳の妹と胸のでかさ比べて勝ち誇った顔してたらしいぜ。妹さんは将来性の塊。……絶壁は、肉の塊すらありゃしねえ」


 ひどい言われ様だった。いっそ清々しいほど、ひどい扱いだった。


 最後に恥ずかしい事実を暴露されたコレットは、顔を真っ赤にしながら男たちに叫んだ。


「く、クソがお前ら! 全員ここで叩き切ってやる!」

「ぜっぺーき! ぜっぺーき! うぇーい!」

「くそがああああああああああ!」


「は、ははは……」


 熱い絶壁コールの外側で、イレーネの乾いた、しかしどこか楽しげな笑い声が響いた。


 目の前には、新しい仲間と、ノリのいい冒険者たち。


 

 ――こうして、イレーネの冒険者デビューは騒がしく終わったのだった。



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