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十一話 『もう一度、あの森へ』



 女三人のベッドの上での語り合い、その翌日。


 今日こそはと早朝に起きられたので、イレーネは仕事の相談を二人にしていた。


「……で、今日はどうしましょうか」

「……んーと、じゃああそこでいいんじゃね。ほら、イレーネが行きたがってた場所」

「異論はない」

「あの、それはどういう……」


 二人ともが分かったような顔でうんうんと頷き始めるものだから、イレーネは思わず尋ねてしまう。


「そりゃあ、あんだけ気になる、って顔されたら、なあ?」

「行くしかない。――初心者殺しの森に」

「っ……!」


 初心者殺しの森。


 そう聞いた瞬間、彼女の仲の何か熱い部分が一瞬だけぽっと燃え上がったのを感じた。


 あの夜のように、ゴブリンに襲われて死にかけるかもしれない。


 しかし、その恐怖よりも彼に会って礼を言いたいという気持ちが大きかった。


「……」

 

 それでも。


 自分個人の感情で、二人に迷惑をかけてしまってもいいものか――?


 イレーネがそう悩んでいると、コレットは徐にイレーネの頭をわしゃわしゃと撫で始めた。


「きゃっ。な、何するんですかぁ……」

「細かいことはいいんだよ。それに、アタシたちも初心者殺しの森には入ってみたかったんだ。大丈夫、入念に準備していけば、比較的安全さ」


 この二人は、初心者にありがちな蛮勇というものを持ち合わせていなかった。


 コレットは一見猪突猛進ではあるが、それは確かな技量に裏打ちされた自信であるし、ネシスは後衛でありながら周囲の警戒を常に怠らない。


 初心者としては十分すぎるほどの人材だった。


 そして、それはイレーネもであることに彼女自身は気付いていない。


「そうですね。じゃあ……よろしくお願いします」

「ああ!」

「……ん、任された」


 彼女がそう言って頭を下げると、パーティメンバーの二人は快くそれを受理したのだった。




 * * *



 森の中は、真昼だというのに薄暗く、冷たく湿っていた。


「流石初心者殺しの森。昼でも薄暗い」

「夜になる前にさっさと撤退した方がよさそうだな」


 二人のそんな会話を聞きながら、イレーネは全力で周囲を警戒している。いつ魔物に襲われても対処できるようにだ。


 いかに優秀といえど、三人はまだ冒険者になりたての初心者。警戒しておいて損はないだろう。


「というか、さっきアタシたちより早くこの森に入って行った槍使いの人達、随分と物々しそうな装備だったよな」

「強そうだった」


 そんな他愛もない会話をしながら、彼女たちは森を歩く。


 そんな時だ。風を切る音、そしてそれに次いで轟音が聞こえた。


「っ!?」


 イレーネのすぐ横の木に、何かが激突した。


 そして、それが何かを確認すると。


「っひ……!」


 恐ろしくて、思わず小さく悲鳴を上げてしまった。


 尋常ではないイレーネのその様子に二人も駆け寄ってきた。


「どうした? 大丈夫か?」

「何がぶつかった? 攻撃か?」

「これは……人、です」

 

 正確には、人だったモノ、だろうか。


 猛スピードで叩きつけられたからなのか、纏っていたはずの鎧はひしゃげ、口からは臓物があふれ出している。


 夥しい量の出血に、苦悶の声すら上げられずに死んだであろうことは一目で分かった。


「うぇ……っ」

「こりゃ、ひでえな……」


 コレットがそんな呟きを洩らす横で、イレーネは思わず蹲って胃の中身を吐瀉してしまった。


「大丈夫か?」

「ええ、なん、とか……」 


 そう言いながら口をぬぐい、イレーネは人が飛んできた方向を見た。


「あ……」


 そこで、見覚えのある小川を見つけた。彼の家から、街までの道を示しているモノだ。


 まさか。まさか。


 確かに、彼ならこんな芸当もできそうだ。しかし、心優しい彼が本当にこんなことをするか――?


 分からない。


 分からないからこそ。


「確かめに行きましょう」


 気づけば、声が勝手に漏れ出ていた。


 やけに力強い声だと、自分でも思った。二人は驚いたような顔をしていたが、不敵な笑みで頷いてくれた。


「殺された奴が浮かばれねえもんな」

「イレーネにゲロ吐かせた罪は重い」

「ネシスさん、それはあんまり言わないでくれると……」


 イレーネは、自分の我ままについてきてくれる二人に感謝しつつ、彼の家への一歩を踏み出した。


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