第8話宇宙人拾っちゃった
お姉ちゃんは最近少しずつ、シベリアン・カートゥルーと言う能力を使いこなそうと、何やら色々実験している様子。
恐らく、時雨にもスピリットをあれこれ試行錯誤していた時期があるんだろうから、スピリット能力者になった人は、そうやって自分の可能性を試すのに一度は嵌まるんだな。わたしもやってみたいなぁ。
でも昼間に時雨と買い物出来るのは本当に嬉しいな。近頃、まだまだスキンシップも過剰だし、変態的な所を改める事もしないから、若干警戒は解けていないわたしの時雨への態度だけど、でも段々打ち解けるように努力はしているつもり。
そう言う意味で、いつも買い出しにはついて行って荷物持ちになったり、あれ買ってとかおねだりしたりと、どっちが主導権を握っているんだかわからない関係を続けている。
それで今日は夕方に買い出しに行って、お姉ちゃんが休みだったので留守番を頼んで来たのだけど、こいつしっかり片方の手は空けて置いて、ギュッと手を握って来るんだよなぁ。
全く、迷子じゃないのよ。恥ずかしいじゃない。子供扱いされてるんでなければ、半ば恋人が仲睦まじくお手手繋いで仲良しこよしみたいで、いつもちょっとドギマギしながら歩くのだ。
って言うか、意識してるのはわたしだけなんだろうか。時雨は全然緊張したりしてる素振りは見えないし、何だか自意識過剰だって言われてるみたいで心外だわ。
帰り際、住宅街にたどり着いた時に、前方に不審な物体が。何だと思われるだろうけど、本当に吃驚したんだから。何と、女の子が道ばたに倒れてるじゃない。しかも、多分だけどわたしよりも小さい子。
「し、時雨。行き倒れよ。何とかしてあげて」
「は、はい。お嬢さま。少女の危機には駆けつけねば。いえ、この様子だと幼女でしょうか」
そんな事言ってる場合か。とにかく、ぐったりしていて、綺麗な顔にも火傷の痕が。ってうわ。火傷? 虐待でもされてたんだろうか。全身がボロボロなのはどう言う訳なの。
とにかくわたしは時雨から買い物袋を全部受け取り、時雨に家まで運ぶように支持して、足早に家に帰宅した。
え?変だって? だって警察に連絡するのも何だか危うい気が、その時には予感みたいなのでしたんだもの。余計こじれそうって言うかさ。
家の中に入って、時雨はすぐさま冷やすものを用意して、ソファーに寝かせた。お姉ちゃんも何だか様子がおかしいこの子を見て、シベリアン・カートゥルーを具現化してから、女の子を上手く冷やすように言っている。
頭も氷の枕で冷やして、腕も木の葉お姉ちゃんが冷やしているから、春先には寒すぎるくらいかと思ったけど、よく見ているとみるみる傷でボロボロだった体が綺麗になっていく。?どう言う事? この子は一体・・・・・・。
「なるほど、ただ者じゃないですね、この幼女は」
まだ言うか。変な感情持ってるんじゃないでしょうね。アンタは油断ならないからなぁ。
「またスピリット能力者なんでしょうか」
心配そうにお姉ちゃんが言う。でも何でもかんでもそんなに能力者が現れるかなぁ。いや、でも能力者は引かれ合って遭遇するって漫画でやってたな、そう言えば。
「う、うう。うん?」
目を覚ます女の子。パチパチと見上げて、一言ポツリ。
「腹が減って力が出ん」
時雨が大急ぎで、今晩のメニューを作っている間に、わたし達は話を聞く事にした。
「どうしてあんな所で行き倒れてたの。おうちは?」
「そうだよ、小っちゃい子が一人で出歩くなんて危険なんだから、連絡先とかお姉ちゃんに教えて?」
ちなみに後の発言がわたしである。ちょっとお姉ちゃんぶりたかったのです。
「うーむ、何と言えばいいか。襲われた時に食ってしまったのが、何やら吸血鬼とか言うやつだったので、儂はどうも夜行性にならざるを得んかったのじゃが」
は? 吸血鬼ってどう言う事? もう少し詳しく聞く為に、続きを待つ。
「そもそも儂は連絡の為に、この星で中継をしようと思っておったんじゃよ。この分だとELPには直接来て貰うしかなさそうじゃ」
「えーっと、君は何者なのかな?」
もう直球で聞いちゃう。だって、要領を得ない言葉でずっと語られても困るよ。
「おお、そうか。お主達には世話になったからの。儂はPFMと言うもんじゃ。まぁ、この星の発音に照らし合わせたらと言うただしつきじゃが。うむ、そうじゃな。気軽にマルちゃんとか、そんな感じに呼んでくれ」
うん。全く、わからない。マルちゃんはどこの人ですか。発音が日本とは違いすぎる国出身とか?
「はっはっは。何、儂はこの星のどこのネーションステートの者でもない。つまりアース出身の生物ではないと言う事じゃな。単純に言うと、別の銀河系とここでは言うのかの。そこからこんな辺境まで来ておるのは、色々とやるべき仕事があったからなんじゃが。困った事に、昼間に出歩いていたら、太陽の熱で焼かれてしもうてな、それで何度も灰になるんじゃよ。で、日が暮れたらようやく再生するんじゃが、そこからもどうしたらいいか難儀なもんでの。ここでようやく雨露と日差しを凌げるからありがたいわい」
おおう。やはり皆説明する時は、一気呵成に言うんですね。そうか、宇宙人さんですか。まさか、地球侵略の調査とかじゃないだろうな。
某SF小説の影響で、わたしは宇宙人を我々の尺度で測れない理解不能の存在と思ってしまう節があって、どうやってコミュニケーションしたらいいのか困惑していた。
だって、これちゃんと相互交流出来てるのかな? まぁ、侵略行為って言うのも短絡的で、それだと別のSF小説になりそうだけど。
「うーむ、お主は中々面白い事を考えるの。確かに知性の尺度が異なれば、文化や政治形態から生殖の形にコミュニケートのあり方も違うわな。大丈夫、安心せい。儂はちゃんとお主らの知性は学んで来たんで、お互いに意思疎通が出来ているように振る舞えると思うぞ。文化なんかは追々学習する必要があるがな」
「じゃあ、ご飯なんかもちゃんと食べられる、マルちゃん?だっけ」
恐る恐る聞くわたし。さっきからわたしだけしかこの子と話してなくない?
「とりあえず、適応する努力はしよう。まぁ、上手い飯を出してくれたら問題はそれだけで解決じゃがな」
ふふふ、それならば時雨がいるから安心だ。自慢のシェフみたいな役割も担ってるからね。
「じゃあ、お話は食べながらしますか? 用意出来ましたよ、お嬢さま」
「お? いい匂いじゃ!」
食事の用意が出来て、その香りに反応するマルちゃん。まぁ、ちゃんと話するには、キチンと腹ごなしをしないといけないか。マルちゃんは行き倒れてた訳だしね。
食事が始まると、マルちゃんはとにかく沢山食べること。それを見越して時雨は、いつもより多く作っていたのか、それにしては材料がよくあったなと。
今日買い出しに行った分、全部使っちゃったんじゃないかってくらい。
「はああ。いっぱい食べる幼女いいですねぇ。写真撮っていいですか? PFM様」
「ん? ああ記録媒体に残すのか。別に儂は構わんぞ。営利目的に使わんのであればな」
「ちょっと! こんな小さいマルちゃんにも欲情してる訳? 被害者はわたしだけで充分なんだから、他人に手出ししてヤバい事にならないでよね。って言うか、前から言ってるけど、子供だったら誰でもいいんかい!」
もー、失礼しちゃう。ロリコンなのにも関わらず、わたしが心を開いてあげてるのに、すぐ近くに子供がいたら、見境なくフラフラ興奮してるんだから。節操ってもんがないのかな。
「嫉妬するお嬢さま・・・・・・! ああ尊いワンシーンです。その膨れた顔も頂きです」
カシャっと撮影する時雨。もう何にでも養分にするから、ホントにげんなりして来ちゃう。怒るこっちが馬鹿なのって気分になるのよね。
「ちょっと時雨さんも小春もいいかしら? ご飯食べてる時は、お行儀の悪い事はしないようにって言い聞かせてたわよね。小春?」
ふと見ると、お姉ちゃんが静かに怒っている。待って。今のわたしも悪いの? 撮影してた時雨が悪いんじゃないの。
「す、すみません。それにしてもPFM様は元気になられるでしょうか」
あ、話題逸らした。わたしもごめんなさいと言って、マルちゃんに向き直る。ジッと見ていると、先程よりも更に肌のきめ細かさは増していってる気がする。
食事をして、再生能力が高まったのかな。宇宙人って凄いなぁ。
「うむ。陽の光に曝されないように対策が必要だが、当面は食事さえ与えてくれれば、通常の活動は出来ると思う。世話になってもいいのならだが」
うん、とお姉ちゃんが頷く。うちで面倒見る気のようだ。
「それはいいわよ。私からお母さんと氷雨さんには言っておくから。一人分くらいの食費くらいは、お母さんは二つも連載持ってるんだし大丈夫でしょ。私もバイトとかしたいんだけど、それより小春と一緒にいたいし・・・・・・」
少し熱い視線を感じる。このお姉ちゃんの眼差しは、ちょっと恥ずかしいんだよね。
それはわたしがお姉ちゃんを好きすぎる事が原因だと思うんだけど、でもお姉ちゃんもわたしと同じ気持ちなのは素直にとっても嬉しいんだ。
「焚火様は、洗濯物は出してますけど、あまり姿見せませんからねぇ。部屋の掃除も氷雨さんがやっていますし、不規則な生活だから中々お嬢さま達と合わないんですねぇ。漫画家でもキッチリ時間通りに働く人もいれば、それぞれ違いますね」
そうなんだよ。お母さんは時折ぬっと姿を現して、お姉ちゃんにご飯作ってだの、わたしにパン焼いてだの言って、だらしないのをいつも氷雨さんに叱られてる。
そんなお母さんの世話が氷雨さんは好きで堪らないんだろうけど、叱るべき時はキチンと叱るんだよね。
で、一応子供の相手をしてくれる場合もあるけど、基本的にズボラなお母さんだから、わたしも木の葉お姉ちゃんも自分自分で行動する事が増えたって感じかなぁ。
それだから、時雨がいつもベタベタしてくるのは新鮮で、ちょっとまだ完全には慣れないけど悪い気分じゃないのは確かなんだ。
そこでふとまたマルちゃんの事に思い至ったので、質問してみる。
「ね、マルちゃんはさ、何か名前付きの能力とかってないの? 固有能力とかさ。宇宙人なら特殊な才能とかありそうだなって思うから」
「本当にお嬢さまはそう言うの好きですよねぇ。でも私もPFM様の事情は気になりますね」
わたしはキッと時雨を睨んでから、マルちゃんを注視する。時雨はまだ反省してないようだ。
「何じゃ。変な事に興味があるんじゃな。うーむ、そうじゃな。儂自身は、制限をつけてあまりそんな力は使わんようにしとるんじゃが、〈エ・フェスタ〉と呼んどるのがあるぞ。まぁ、どんな能力なのかは無闇に明かす訳にはいかんのじゃが」
「えー、そっかぁ。でも何かしらやっぱり持ってるんだ。いいなぁ。ってそうだ。やっぱり能力者は引かれ合うってホントだね。今後まだまだスピリット能力者が集まって来たりするのかな」
そう言ってわたしは興奮しながら、スープをゴクリと飲み込む。そうすると、ああ漫画脳だみたいな目線で時雨がニヤニヤしてるのを見つけた。
何よ、そんな風に馬鹿にしたら許さないわよ。漫画を馬鹿にするのもわたしを馬鹿にするのも。
「いえいえ、そうじゃなくて、お嬢さまが随分可愛らしいなぁと思いまして。ねぇ、木の葉様もそう思いません?」
お姉ちゃんは口元を拭きながら、こくりとする。やっぱりこの二人通じ合ってる・・・・・・!
「ええ、そうですね。小春はいついかなる時でも可愛いですけど、夢見がちな所は何とも言えず超絶にキュートです。この子ぐらいの年の子って、普通はマセて来て、反抗期だったり隠れてエッチな事に勤しんだりするようになるじゃないですか。でも小春は本当に綺麗な心を持ってるんですよ。あんなに背伸びして本は読むのに!」
食事が終わったからか、若干お姉ちゃんも鼻息が荒い。それだけもうこれからはハッスルする時間って事?
って言うか、その認識おかしくない。皆がエロい訳じゃないでしょう。そりゃあ男子はそんなのかもしれないし、結構背伸びしてる女子も多いと思うけどさぁ。
「あんまり変な事言うのやめてよ。わたしがおかしいみたいじゃん。そんなに純粋でもないし、それなりに恋愛とかにも興味はあるんだから。お姉ちゃんこそ交際の噂とか聞かないし、時雨みたいなのは付き合える相手なんていないだろうけど」
うっと両人沈黙。うん、あなた達はそうやって突っ込まれても、わたしを神聖視するんだから、もう何も言わない。
別に勝手に偶像視するのは止められないし、嫌だって言ってもするんだろうし、それにこっちだって現実知っていながら、お姉ちゃんには理想的な期待をしてるんだし。
あ、時雨には何の理想化も働いてないから。これは一言付け加えて置きたい。
「そうだ、じゃあマルちゃんさ。わたしとお風呂入ろ。綺麗に洗わなきゃ」
「はいはい! わたしもご一緒させて貰っても構いませんか!」
「却下!」
すかさず輪に混ざろうとする時雨を一喝してから、マルちゃんに同意を求めるわたし。
「そうじゃな。衛生的にも悪かろうし、地球の風呂の環境も知らんといかんか。良し、案内を頼めるか、小春とやら」
「うん。子供同士仲良くやろうね」
「いや、儂は子供ではないんじゃが・・・・・・」
そんな事言って、幼い声では説得力ありませんよマルちゃんさん。わたしの方がお姉さんだと言う意識を、束の間でも味わわせてくれてもいいじゃない。
そうして休憩してから、時雨をお姉ちゃんに見張っておいて貰って、わたし達はお風呂に入ったのであった。
寝る時は、わたしの部屋にとりあえずは布団を敷いて、時雨の目には入らないようにして寝たから安心だった。
と言っても、朝起こしに来た時には要注意なんだけども。