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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第一部:小春と時雨の関係の始まり
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第7話木の葉、覚醒

 あー、この間の小春の服装、可愛かったー。あの子は、私の癒やしで人生よ。


 私は姉妹だから結ばれる訳にはいかないのが悔しいけど、でもどこぞの男と付き合ってしまう悲劇が起こるくらいなら、時雨さんに懐いていた方が絶対いいわ。あの子にはもっと私からも離れないで欲しいのだけど。


「先輩。ずっとスマホ見て悶えてますね。この間から、ずっとですよ」


 そ、そうだ。今は後輩と一緒にいるんだった。でもでも小春の可愛さは譲れないのよ。


「だって見てよ、この私の妹を。可愛すぎない? この服、メイドさんが作ってくれたんだけど、凄く似合ってるし、非日常感出てて最高でしょ。ほらこの角度とこの角度。見てよ」


「うん、確かにいい素材だと思いますね。雪空先輩が妹さんにぞっこんなのは、ずっと耳にタコが出来るほど聞かされてますから」


 ああー、この子なんか聞き流そうとしてるな。そんなに私の妹の話を聞くのが嫌なの?


「だって、蜜柑みかんちゃん、この写真も見て頂戴よ。これも、これも。どれも思い出の記録だけど、物凄く輝いてると思わない。眼鏡をかけてるのがまた知的でいいのよ。読書が趣味って言うのもポイント高いわよ!」


 ジトっと見て来る蜜柑ちゃん。そうそう、紹介が遅れたけど、この子は一つ後輩の西田にしだ蜜柑ちゃん。


 一緒にいつもいて、あれこれ学部の勉強もそれ以外の事も一緒に研究してたりもする。だから、結構助け合う仲なので、最近は小春に妙な疑いをかけられて、ちょっとショックなんだけど。


「それ、そう思ってるの、先輩だけなんじゃないんですか。見た感じ、普通に地味な子供に見えますけど。ってこれこの間も言いましたけど。それより、私は先輩の方が妹さんより綺麗じゃないかなって思うんですけど・・・・・・」


 こんな事言われては堪らないわね。この子には小春の良さが全然わからないんだわ。いいもん、同士はいるから。


「あなたの目は曇ってるのね。そりゃあ小春の美しさがわからない訳ね。例えばこの運動会の写真なんて、もう堪らなく素晴らしいのよ。でもいいのよ。私にはちゃんと仲間が最近出来たんだから」


 ジト目が更にきつくなる。疑いの目をそう向けられても、そんな怪しい事情は何もないのよ、蜜柑ちゃん。


「それロリコンとか犯罪とか大丈夫なんですか。ちゃんと姉が守ってあげて下さいよ。先輩の方に何かあったらって私は心配ですけど、それより子供の安全にも気を配らないと」


「ふふーん。蜜柑ちゃん、その人は残念ながら女性なのよ。だから、あんな危ない物を突っ込まれたり、汚い物をかけられたりする事はないんだから」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 あれ? 今度は呆れた様な視線。何かおかしいかしら。


「最近、女のロリコンもいるらしいですし、性行為は女性同士でも性的搾取になりますから、目は光らせないといけませんよ。と言っても、どうも先輩自身が妹さんでそんな妄想してそうで、私は先輩の今後が心配でもあるんですが」


 そ、そうか。そう言う見方もあるのか。でも時雨さんは、決して性行為までに手を出す人ではないはず。


 そんなに付き合いが長い訳じゃないから知らない事は多いけど、あの人かなり小春に忠誠誓ってる所あるから、大丈夫だと思うな。


 小春が嫌がらない範囲でのキスとかくらいなら、私は戯れとして許されるんじゃないかと思うし。


「全く。先輩はそう言う事は結構だらしないんですから、私が目を光らせてないと、妙に危ない方向に行く危険があります。ちゃんと私の言う事も聞いて下さいよ。真人間に矯正しようとしてあげてるのを、もっと自覚して欲しいものですよ」


 そうなのだ。別にレズビアン的な傾向を批難されてるのではなく、年が幼い妹に異様に執着している私をもうちょっと妹離れしなさいと、この後輩は諭しているのだ。だから多分、女同士にはかなり理解があるんだと思う。


 しかし、である。私から小春を取ったら何が残るんだろう。


 お母さんはあんな風で自由主義・放任主義で来たし、私もずっと欲しかった妹が大分経ってから計画妊娠を精子バンク活用の上でした時は、随分喜んだものだ。


 そして、出産の怖さも知ったのだから。だから、生まれた時からずっと知っていて、私が過保護なほどに見守って来た小春に思い入れがこんなにあるのは、そこまで悪い事なの? もうちょっと私の気持ちも考えて欲しいものだわ。ぷりぷり。


「ああ、そう拗ねないで下さいよ。ほら。こ、このパフェ、ちょ、ちょっとだけあげますから。機嫌直して軌道修正して欲しいです」


 何よ、こんなのでほだされると思ってるのかしら。あら、こっちのも案外美味しい。それに先程と違う目線を向ける蜜柑ちゃんを見ていたら、そうだった本題をちゃんと進めなくてはと思い至ったのだ。


 でも本当は、もうちょっとだけでも小春の話に付き合ってくれてもいいと思うけどな。ねえ、そうじゃない、蜜柑ちゃん。


 と目で合図を送るが、どうもこっちと目が合わないので全然駄目である。仕方がない。小春談義は諦めよう。元々の目的に戻っていくとしますか。




 家に帰ると、小春が待っていた。いや、玄関まで来てくれたのだ。どう言う事かと思っていると、こんな風に切り出された。


「ねえ。今日、お姉ちゃんとお風呂久しぶりに入りたいな。・・・・・・駄目?」


 何て事でしょう。あれだけ自分でする事に重きを置くようになってから、一人で入るのに拘っていた小春が! もしや時雨さん効果?


 時雨さんのお陰で、小春の子供らしい一面が復活したのかしら。それは大いに結構。甘えてくれて、お姉ちゃん嬉しい!


「え、ええ。いいわよ。どうしたの突然。いつもなら、お姉ちゃんと入るのは遠慮するよ、とか言ってたのに」


 ああ、何故こんな回避に繋がる言葉を投げてしまうの。素直に嬉しいと言っても、姉の威厳は毀損されないだろうに。


「だ、だって。時雨と入ったら、凄く楽しかったから、だったら木の葉お姉ちゃんとだったら、もっと凄い体験が出来るかと思ったの。あ、背中洗ったげるね!」


 無邪気にこんな提案をする小春。いや、提案じゃなくて、これご奉仕だ。


 いいのかしら、姉が妹に洗ってあげるのではなくて、洗って貰うなんて。小悪魔的ご奉仕じゃないかしら。


 それに一緒にお風呂に入るなんて、待って、考えただけでもヤバいんだけど。小春の裸なんてどれだけちゃんと見てないかしら。


 お母さんは一緒に入ってる時あったかな。いや、お母さんも見てないはず。なら、私は今役得に与れる唯一の家族って事よね。


 ああ、こんな機会に恵まれるなんて。時雨さんに感謝しなくちゃ。さて、その為のイメージトレーニングをしなくちゃ。


 そうしてご飯の間も悶々と私はイメージしながら、どう言う反応を返すのがいいのか考えながら、刻一刻とその時間が来るのを待っていたのだけど、気がつけばいつの間にかお風呂から出てパジャマに着替えてポーッとしていた。


 え? どう言う事。小春とのお風呂タイムは? そう思って小春を伺うと、ニコッと微笑んでくれる。


 うわー、可愛い。何気にまた新しいパジャマで、これは恐らく時雨さんにお願いした動物パジャマではないか。


「ね、背中気持ち良かったでしょ。わたしもお姉ちゃんと入るの楽しかったから、これからも時々入ろうね。でも何だかお姉ちゃん、ボンヤリしてたなぁ」


 ああああ、どうして記憶が飛ぶくらいボンヤリしてたのかしら。しかも極度の緊張であまりいい感じに反応出来てない様子。


 でも小春は満足してるし、これは結果オーライ? いや、でもされるがままでいただけでしょ。それってどうなの。


 私も小春に色々してあげたかった。されるがままって別のシチュエーションで、小春にあれこれして貰えるなら嬉しいのに、お風呂では私が洗ってあげたりする、所謂洗いっこってやつがないと意味がないわよね。


 それに入った記憶もないし、どうしよう。あ、でもまたの機会があるのか。よし、今度こそ小春の裸を心のレコーダーに保存するぞ。


 そのままボーッとする頭で、もう今日はしんどいし、寝ようと思って退散して、歯磨きをしてからお茶を啜って、部屋でぐだーっとする。


 電気を消していたので、ちょうど何も思考も働かないので良かったけど、ふいに視界に何か奇妙な物が映った。


 あれ何だろう。石で積み上げたみたいな体して、変な脳みその形みたいなマークがついている。それがこっちを向いて、口をパクパクしている。


 ん? 何を言ってるんだろうか。発声はされていないようだけれど、何故かわかる。それはこう言っている。


「君は選ばれた。これを有意義に使いたまえ」


 そんな意味がわからない言葉が読み取れて、それで私はいよいよ意識が朦朧となって、寝込んでしまった。




 朝起きてフラフラとしながら、着替えてから顔を洗いに行く。そこで小春とばったり遭遇するのだけど、今日は小春を見てときめくより、何だかダルくてそれどころじゃない感じ。


「お、おはよう、小春」


「おはよう、お姉ちゃん。あれ? なんか顔赤いけど、大丈夫。何だかしんどそうだよ」


「う、うん。平気だから」


 そう言って、顔を拭いてから居間の方に行こうとすると、フラッとこけてしまう。


「お姉ちゃん! やっぱり、熱あったんじゃないの。昨日から変だと思ったら。待ってて、時雨呼んでくるから、出来るならまたパジャマに着替えてて」


 小春が血相変えて駆けていく。ああ、こんなに心配させるなんて、私はお姉ちゃん失格だわ。でも優しくされるのは悪くない。とにかく部屋まで行かないと。


 ひいひい言いながら、何とかかんとか部屋まで戻ってパジャマに着替えていたら、小春と時雨さんがやって来る。


「木の葉様。熱が出たんですって。冷やしながら、寝ていて下さい。ああ、やはり熱がありそですね。体温計も持って来ましたから」


 そっと額に手を当ててから、体温計を差し出してくれる。それを脇に挟んで、私は布団に潜り込む。


「お、お姉ちゃん。どうしよう。わたしも今日は学校休もうかな。ずっと看病する!」


 何て事。小春が看病してくれるなんて。でも駄目よ、うつしちゃったらいけないもの。そう言おうと思っていると、時雨さんが代わりに窘めてくれる。


「いけませんよ、お嬢さま。学校はちゃんと行って頂かなくては。木の葉様の看病はちゃんと私がしていますから、気になるのでしたら、寄り道せずに真っ直ぐお帰り下さい。ボーッとしないで、授業も聞くんですよ」


 それを聞いて小春もしぶしぶ納得したのか、少ししょんぼりしながら、私の顔を見つめて来る。


 やだ、ドキドキして熱が上がりそう。しょぼんとした顔もとってもキュートだわ。


「うー、わかったよ。じゃあ、お姉ちゃん、わたし準備するから、ゆっくり寝ててね。帰って来た頃にはちょっとは良くなってるかなぁ」


「心配しないで。こんな事滅多になかったけど、偶には風邪引く事もあるわよ。小春はいつも元気そうで良かったわ」


 頭に氷の枕があるとひんやりして気持ちいい。ちゃんとタオルに巻かれてて、しっかりしてるなぁ、時雨さんは。


 そうして、二人が出て行ってから、私はいつの間にか寝てしまったみたいだ。




 随分寝たのかなと思ってボンヤリと目を覚ますと、額に手が当てられてる感触がした。しかしまだ寝ぼけていて、まだ眠いのでちゃんと覚醒はしない。


「起キラレマシタカ、木ノ葉サン。冷ヤシテイルノデ、ソノママでイテ下サイ。ワタシはアナタの為に動キマスカラ」


 誰だろう。何だか、変な喋り方な気もするけど、とにかく冷たくて気持ちいい。私の気持ちが通じたのか、相手は名乗ってくれる。


「ワタシの名前は〈シベリアン・カートゥルー〉デス。木ノ葉サンのスピリット能力の目覚メナノデス。ドウゾコレカラ存分にワタシの力を使ッテクレレバ嬉シイデス」


 何だかぎこちない丁寧語だなぁ。でも能力って何だろうか。漫画みたいな話ですぐについていけないけど、これはもしや夢なんだろうか。


 でも、そこにいるのは確かに感じる。私のお付きの人みたいなイメージでいいのかな。


「サア、マダユックリ眠ッテ下サイ。完全に覚醒スルマデ、シバラク耐性はツキマセンカラ」


 何だか優しい声色だったので、冷やっとした気分のまま、調子も良くなって来つつあるからか、ぐっすりまた眠りに落ちて行ったのでした。




「う、うーん。向こうで何か声がするなぁ。小春が帰って来たのか。あれ、大分軽くなったかな。さて、着替えないと」


「良クナッタノナラ、何ヨリデス」


 わっ。何だか、傍に白い着物の女の子が立ってる。雪女、みたいな。左目が髪で隠れてるのが、何だか微妙に似合っていて可愛い。あれ、さっきの夢じゃなかったの。


「言ッタではナイデスカ。ワタシは木ノ葉サンの能力ナノダト」


 ほえー、こんなの私に目覚めるとは。どこかで矢に刺されたりディスクを埋め込まれたりした覚えはないんだけどな。


 でももしかして、この子は何か特殊な能力が使えて、それを私は享受する事が出来るのでは。小春に言ったら喜んでくれるかな。


 そう思っていたら、彼女が自己紹介をしてくれる。


「改メマシテ、ワタシは〈シベリアン・カートゥルー〉デス。能力は色々ナ物を冷ヤスと言ウ所デスカネ。氷を作ッタリモ出来マスヨ。何デモ命令シテ下サイ」


 うーん。命令とは穏やかじゃない。とにかく、一応元気になったのを報告に行かなくちゃ。


 着替えが途中だったので、ささっと済ませて居間に向かう私。そしてついて来るシベリアン・カートゥルー。


 居間に来た時には既にシベリアン・カートゥルーは引っ込んでいて、何やら小春が水筒に氷を入れたりなんかして悩んでいる。


「冷たく飲める方法って何かないかなぁ。保冷の水筒とか高いだろうし」


「うーん、冷蔵庫を持って行く訳にも、学校にある冷蔵庫に入れておく訳にもいきませんしねぇ。すぐに飲まないのなら、凍らせておくとか、そんな方法もありますが、放課後の頃にはもう溶けてぬるくなってるでしょうしね」


 そんな問答を繰り広げている。どうやらぬるいお茶を冷たくしたいようなのだ。


 それなら、今は冷蔵庫で冷やしているのを飲んでおいて、それを今の内に冷やしておけばいいのではと思ったが、ふとこれは私の得た能力が小春の役に立つ時なのでは、なんて思ったりした。


「あ、お姉ちゃん。もういいの? 大分顔色もいいね。喉渇いたでしょ。お茶飲む?」


 水筒を掲げる小春。うーん、それはぬるいお茶なんじゃないのかしら。別に小春がくれる物なら、何だって喜んで頂くけど。


「とりあえず小春のお茶を貸してくれる? ちょっとやってみたい事があるから」


「へ? うん。これをどうするの? 凄くぬるくなってるから、お姉ちゃんには冷たいのあげた方が良かったかな」


「ううん。これがちょっと工夫すると、ね。シベリアン・カートゥルー」


 彼女を呼ぶとスッと出て来る。やはり私が念じたら動かせるようだ。それを見て、小春は驚いている。向こうで時雨さんも吃驚しているのではないだろうか。


「何、それ? すっごーい」


「シベリアン・カートゥルー、このお茶を冷やしてくれる。普通に飲めるくらいの温度で」


 左目の隠れてる方の表情は読めないけど、右の方では私にお願いされて嬉しい様な、そんな歓喜の意味を湛えた眼差しをしている。私の能力だけど、何だか可愛いわね、この子。


「畏マリマシタ。冷水にスレバイイノデスネ。凍ラセタイ時は、ソノ旨仰ッテ下サイ」


 シベリアン・カートゥルーはシャワーっと冷気を放出して、お茶を冷やしていく。能力でやっているからか、あっという間に冷えていく麦茶。これはピクニックの時とか便利なのではないかなと邪念が広がる。


「はい。飲んでいいわよ。どうかしら」


 小春に手渡すと、一口飲んでから、またこくこくと飲み干してしまう小春。よほど冷たい飲み物に飢えていたのかしら。


「凄すぎるよ、お姉ちゃん。いつからこんな事出来るようになったの?」


「うーん、さっきから、かな。何だか人型の石みたいなの見て、それでいつの間にかこの子が現れるようになったんだけど」


「そ、それって・・・・・・」


「ローリン・ストーンですね、お嬢さま」


 時雨さんが相槌を打つけど、今度はこっちが何それ?となる番だ。


「そ、そっか。だからお姉ちゃんは熱にうなされたんだ。じゃあ、そのご褒美に能力を与えられたって事かな」


「と言うより能力はその時既に与えられていたと見る方がいいかもしれません。発熱するのは、どうも能力を得る事で身体機能の側をアップデートしているみたいな感じではないでしょうか」


「なるほど! 流石時雨。よくわかってるわね」


 えーと、私は全然ついていけないんだけど、どう言う事かしら。と言うより時雨さんは、この能力について何か知ってる風だけど、それもどうしてかしら。全然わからない。


「あ、そっか。お姉ちゃんに説明しないとね。ああ。でもこれは時雨との秘密なんだから、どうしよう」


「お嬢さま、木の葉様は能力を獲得して見せてもくれたのですから、秘密を共有してもよろしいのではないかと。私は別に構いませんし、この現象については情報を密にした方がいいと思います」


「うーん、わかった。じゃあ、時雨からお姉ちゃんに教えてあげて」


「畏まりました。お嬢さまの仰せ通りに」


 そうしてポカンとしている私に、ことの経緯やこの能力についてわかっている事柄などを、あまり情報は多くなかったけど教示して貰った。


 なるほど、そのローリン・ストーンって言うのが能力を告げに来るのが兆候な訳か。で、人それぞれに特殊な才能が芽生える、ねえ。


 時雨さんはオン・リフレクションって能力らしくて、それから派生してわかったのだけど、何と彼女は吸血鬼なのだそうだ。


 それでその能力のお陰で昼間にも外を歩けるようになったらしい。何と泣かせる話なんだろう。


 それまでずっと夜にしか生きられなかったなんて。夜勤とかを上手く調整して生活していたなんて下りは、涙なくして聞けないわ。


「あれ? じゃあ見える小春も何か持ってるんじゃないの?」


 あーと苦笑する小春。何か聞いちゃいけない事だったかしら。


「それがね。才能はあるのかもしれないから見えるんだろうけど、わたし自身はまだ何の能力も持ってないんだ。お姉ちゃんみたいに役に立つ能力なら良かったのになぁ」


 そう言って、今度はぱあっとなって身を乗り出してこっちに来る。ああ、近くに寄ってくれて嬉しい。


「でも木の葉お姉ちゃんの能力って時雨のより、ずっと使い勝手もいいし、とっても凄いよ。ははは、時雨なんて霞んじゃうね。流石、わたしのお姉ちゃん。やっぱり格好いい!」


 自慢の姉だと言わんばかりに誇らしげに、時雨さんにドヤ顔する小春。うーん、それはあまり褒められる態度ではないなぁ、お姉ちゃんとしては。


「ああ、お嬢さま。そりゃあ私のオン・リフレクションは確かにしょうもない力ですけど、これがあるからいつでもお嬢さまのお傍にいられるのですよ。他でも色々と貢献していると思うのですが、それでも駄目なのですか」


 うっと引く小春。ここは私も時雨さんに加勢しなくちゃ。


「そうよ、小春。人の能力を優劣つけてどうこうしたらいけません。スピリットって言うんだったかしら。それは固有能力なんだから、どれが一番凄いとか強いとか、そんな風に測るもんじゃないでしょう。いつからそんな最強ランキングみたいな思考になったのかしら?」


「うう。だって、お姉ちゃんが好きだから、お姉ちゃんの方が凄いって思いたかったんだもん。・・・・・・ごめん、時雨。確かにそのスピリットがあるから、一緒にいられるんだもんね。いつも助かってるから、それはありがたいと思ってるよ。いつも出かける時、暑くないように影作ってくれてるのも感謝してる」


 まあ! 小春ったら、時雨さんにそんな事までして貰ってたなんて。時雨さんは、本当に小春に尽くしてくれてるのねぇ。


 私が出来ない事までしてくれるのは、悔しいけどありがたいのは本当だわ。


「時雨さん。いつも小春を見てくれてありがとうございます。これからは、私のスピリットが訳に立てるなら、いつでも頼ってくれていいですからね。何かお手伝い出来る事があれば、言って下さい」


 ドバーッと涙を流す時雨さん。感激してるって事、なのかな。


「ありがとうございますー。お嬢さまも木の葉様もお優しい方です。私はこんな家の人達に仕えられて幸せですー!」


「ああもう、泣かないでよ。ほら、後で血も吸わせてあげるからさ」


「お嬢さまー! 大好きですー! 愛してます!」


「ああ、くっつくな。うっとうしい。鼻拭いてからにして」


 何だか仲睦まじい二人ね。それにそうか、時雨さんは小春の血を吸うのか。


 どうも、そこからエッチな連想が浮かんで来て、わたしも相当おかしくなってるかもしれない。


 でも、あの二人がどんどん接近するのはいい事だわ。時雨さんから、小春のいい写真を貰える頻度も増えるのが期待出来るので、私も恩恵を受けている訳だし。


 それに小春が明るくなっていくのは、いい傾向でもあるのよね。


 シベリアン・カートゥルーに目を転じると、傍で柔らかく微笑んでから、


「デハ、木ノ葉サン、イツデモドウゾ」


 なんて言ってから、シュワーと消えてしまったのであった。




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