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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第五部:ソーニャの新生活、小春の今後
61/62

第61話家族会議(+未来の家族も含めて)と親友雑談

 今日はまふちゃんと近所の本屋に行って来た帰り。青森若葉の新作小説が出たので、即学校から帰ってから、買いに行ったと言う訳。


 そんな折、


「おヨ? 小春チャンに真冬チャン、奇遇だネ」


 ヴァイオレットさんと茨さんに出会ったのだった。


 これから、帰って何やら今後の事を話合うとか言っていたソーニャさんの事も気に掛かるし、本も早く読みたいんだけどなぁ。


 この前の会合の話も聞いて、色々困る事にもなりそうなんだし。


「どうも、ヴァイオレットさんに茨さん」


 ペコリと会釈してわたしは行こうとする。まふちゃんも同じ様にしてついて来る。


 が、しかしそこにヴァイオレットさんが立ちはだかる。


「うーん。ンンンン?」


 何やら目線を合わせてこちらを覗き込んで来る。ううう、こう言う人苦手なんだよなぁ。


「君、凄く頑固なんだってネ。ツンデレ?とか言うのだって聞いたんだケド。でも結構美人だナ~」


 な、何でそんな事をいきなり言われなくてはいけないのか。


 年上だからか、気圧されてわたしは黙ってしまう。それにそんな事を言われたら、恥ずかしいじゃないの。


「もー、ヴァイちゃん。失礼でしょ。ごめんね、小春ちゃん。ヴァイちゃんって、ちょっと好奇心が刺激されたら、何でも聞いたり見たりしないと気が済まなくって」


 それは・・・・・・結構面倒な特性ですこと。しかし、言われた方は堪ったもんではない。


「フンフン。ムムムム」


 まだジッと見てる。そうでなくても美人のお姉さんには弱いんだから、そう見つめられると困るんだけど。ほら、まふちゃんも変な目で見てるし。


 そうして睨み合う事数秒、今度は咄嗟に何をされたかわからなかった。少ししてから、眼鏡を奪われたのだと気づく。


「あ! 何するんですか! それがないとホントに何も見えないんですから」


「ふーん。君、そんなに眼鏡の度きついんダ。外してたら、もっと可愛くなるから、コンタクトでもいいと思うけどなー。あ、確かに見えない人の目つきダ!」


「それはわたしの美学にも実用性からも反するんで、嫌なんです! とにかく返して下さい!」


 むきになりそうになるわたしに、ほいと手に掴ませるヴァイオレットさん。


 全くもう、と思いながら、わたしは眼鏡をかけ直す。


「うーん、色々話に聞いてたら、やっぱり拘りとか頑固な所とか、結構面倒だって言われるでショ。そっちの子も苦労するんじゃナイ?」


「ヴァイちゃんが言っても説得力ない気がするけどなぁ」


 茨さんがつぶやいてるのを無視して、ヴァイオレットさんはビシッと指摘する。


「ホラ、だってその大事そうに抱えてる本。友達より大事だって感じのオーラがプンプンするヨ」


 う、と怯みそうになるけど、わたしってそこまでなの?


 いや、人付き合いは確かに苦手だけど、好きな人にはそれなりに接してると思うけど。


 勿論、本への愛情度合いを愛する人と天秤に掛けられたら困るくらい、本好きの度合いは強いかもしれないんだから、文句は言えないが。


「・・・・・・別にそう言うハルちゃんが好きだから、わたし達はそれでいいんです。そうやって無神経に言うの、出来るだけ控えた方がいいですよ。ハルちゃんの可愛さはわたしがずっと見てたから、一番知ってるんです。眼鏡だからの可愛さだって、絶対にあるんですから」


 うーん。わたしの色々な事については否定しないのね。でも、そう言ってくれると心強いかな。


 ヴァイオレットさんも微妙に天然っぽい感じだから、悪気はないんだろうけど、色々思って事が口に出ちゃうんだろうな。


 後、眼鏡が可愛いって言うのは、最近言われるようになったので、この頃はちょっとフレームとか色々お洒落なのにした方がいいのか、なんて考えちゃったりもしてるのだけど、うむ、どうするべきか。


「そっかそっか。なら、ウチらと一緒の以心伝心ラブラブカップルな訳だネ。変な事聞いて悪かったヨ。いやー、ウチも変人扱いされるから、色々と小春チャンは困る事もあるだろうと思ってサ。ホラホラ、イバラも羨ましがってないデ。思う存分、ウチが可愛がってあげるじゃないノ」


「な、なに言ってるの、ヴァイちゃん。人目がある所で変な事言わないで~」


 あっけらかんと笑うヴァイオレットさんと、あたふたと慌てる茨さん。


 うーん、振り回される側はやはり辛いものだと、傍観者として見てればかなり共感的に見ていられるかも。


「じゃあ、人目がなかったらいいノ~? もっとイバラらしいpersonalityとしての愛情表現を見せて欲しいナ~。まぁ、イバラにはvery hardなのわかるけどサ」


 うーん。この人達は中学生だっけ。こんなに仲いいと、学校でもべったりだろうな。


 そうなると、どちらがどちらにべったりなのか。


 案外、ヴァイオレットさんの方が茨さんにくっついてる感じでもあるけど。


「あ、君らももっとopenにeverybodyが愛し合う姿を見せるのがいいと思わないカナ? だって恥ずかしい事じゃないんだヨ。そうやって隠す方が、いかがわしいデショ?」


 うーん、とわたしとまふちゃんは顔を見合わせる。


 カルチャーギャップ・・・・・・なの、かなぁ。わたし達とは微妙に感性が違う様だ。


「そうは言いましても、やはり人の愛って言うのは、極めて個人的な事ですし、それで他人がどう思うかもわからないですし、あんまり大っぴらに何かするって言うのも違う気がしますけど。だってあちこちでカップルがイチャついてたら、嫌じゃないですか。少なくともわたしは見たくないです」


 とわたし。


「What’s? だって、そんなんじゃあ、狭い家の中でしかしたい事が出来ないじゃないノサ。ウチはいつでもどこでもイバラと仲良くラブラブな関係でいたいんだヨー」


 その気持ちはわかるけど、少しは自重して貰えないか。ほら、茨さんも随分真っ赤になって困っていらっしゃるし。


「ほ、ほらぁ。もうやめてよ、ヴァイちゃん。この子達も変な事聞かれて困ってるって。ね、邪魔しちゃ悪いから、もう行こ? 見てない所なら、何でも聞いてあげるから」


「オー! それはナイスアイデア。MeがQueenになっていいんだネ?! じゃあ、フフフフどんな事して貰おっかナ~。Touchもありかナ~?」


「あ、あんまりおかしな事は駄目だからねっ」


 うーん。中学生ともなると、こんな会話を交わすのか。


 ふんふんと頷いているまふちゃんが末恐ろしく思えて来てしまうから、この辺で突っ込むのもやめて、さっさとわたし達は退場しよう。


 まだ何やら言ってる中を、失礼しますねと言ってから、わたし達は帰途についたのだった。やれやれ、調子狂うなぁもう。




「うむ。揃っておるな。これから色々と話して置こうと思う」


 ソーニャさんが音頭を取って、魔族的家族会議が始まった。パートナーだからまふちゃんも参加で。


「あのー、具体的に何がどう危ないんでしょうか」


 まふちゃんがいの一番に質問すると、うむと満足そうにソーニャさんは語り始める。


「どうも魔族的因縁とスピリット使い達の争いが起こると、そうあの魔女の予見では出ているそうだ。ライク・ア・ローリン・ストーンなる研究がされていた節もあるそうだしな」


 ライク・ア・ローリン・ストーンって何だろう。そう聞いてみると、


「それがローリン・ストーンの性質とよく似た、拳銃型の能力開発装置らしい。弾丸は入っておらんが、そこから発射される奇妙な物体が肝なんだそうな。その拳銃に射抜かれて能力を発現させられなければ死に至る点が、能力者を選んで現れるローリン・ストーンと違う所だな。各地でその現象が確認されてるんだと」


 ふうむ。それが虚実機関と関係あるとか言ってなかったっけ。


「そう。組織の手の者が何も手出しせんように、我らも己の身を相互に守られねばならん。狩られてしまえば、何も文句も言えんからな」


 はい、とまたまふちゃんが手を挙げる。


「うん、何だ真冬」


「もしかして、そう言うのに行き当たったら、わたしもスピリット能力者になれるんでしょうか。わたしだけ守られるって言うのも、ちょっと嫌な気がして、一緒に戦いたいんですけど」


 そっか。まふちゃんみたいに能力がなくちゃ、襲われた時どうするんだって話だよね。


 それなら、でもわたしはまふちゃんには何もなくて、平穏に暮らしていて欲しいなぁ。火の粉は皆で払うって事でね。


「うーん。そうだなぁ。可能性はあるかもしれんが、余としては善意の第三者的立場でもいて欲しい所だが」


「わたし、第三者じゃないです。ハルちゃんの危機はわたしの危機です!」


「うむうむ、わかっとるよ。しかしな、誰しもが能力者だとな、敵に行き逢う確率も上がるんだよ。それにちょっと泳がせるにも便利だし。どうせ、いつも小春と一緒にいるんだろう?」


「そうですけど・・・・・・」


 まふちゃんはちょっと不満そうだ。そりゃあそうかもしれない。本人としてはいい気ではいられないよね。


 なんか蚊帳の外に置かれた感じだし、守られるばっかりじゃ嫌だしね。


「わたしは別に誰がスピリット使いでもいいんだけど、出来るだけ面倒は回避したいなぁ。ストレスも溜まるだろうし、戦闘なんか疲れるし、運動神経鈍いから、スピリット以外ではどうしようもないし」


「それだな、ご主人の難点は。余や時雨はそのままでも戦えるが、小春はそうはいかんものなぁ。だから出来るだけ、スピリットで完璧に勝てる時以外は、小春も戦わん方がいいかもしれん」


 うーん。SSCちゃんがやる気ならいいけど、別にわたしは好戦的でもないし、静かに本読んで暮らしたいだけだから、それでいいのかな。


「でもわたしもハルちゃんも、計画立てたりするのには参加したいです。仲間なんだから」


「そう。お主らもファミリーだからな。真冬、お主もちゃんと我らのファミリーなんだからな。安心せい。故に、余は一族皆を今度こそしっかり守り抜きたいのだ。今回は失敗せんから、あてにしていてくれよ!」


 うん。そりゃあソーニャさんは頼りにしてるけど、色々なスピリットがあるから、油断は禁物、だよね?


「私はお嬢さまに救って頂いたと思っていますので、お嬢さまの為なら、何でも役割があるならやらせて貰いますよ。ソーニャさんだって、大人のサポートがある方がいいでしょう。知恵くらいなら貸しますよ」


 お。時雨から頼もしい言葉が。


 戦闘的にはパワーアップしたと言っても不安ではあるが、大人の頭脳がある方がやりやすいと言うものだ。


 わたし達が計画に参加するなら、わたし達の意見も時雨を通せば、聞き入れて貰えそうだし。


「まー、お主らは基本的にラブラブな日常を三人で送ってくれればいい。力を借りる時は、しっかり仕事はして貰うがな。余もフル・ハウスの方でも色々と練っているのだ。牧村さんなんかは色々と情報をくれるし、それなりの手練れもおる事だしな。その内、機関の情報もその能力開発装置の情報も、幾らかは入って来るだろう」


 へー。そりゃあ凄い。


 このご町内ってそんなに凄い人で溢れてたんだ。いやまぁ、ヴァイオレットさんとかもいる事だしなぁ。


 それに出雲ちゃんとか調ちゃんもいるし、それだけ魔族の人がいるんだから。後は、冴ちゃんみたいなダークホースも存在してたりするし。


「そうだ。ハルちゃんのストーン・コールド・クレイジーを鍛える案を考えようよ。確かスピリットって実体化させられる物だから、某漫画と違ってわたしにも見える様に出来るんでしょ」


 う、うん。まぁそうか。SCCちゃんを見える様にしたらいいのか。でも特訓とか嫌だなぁ。


 勉強はコツコツやるのは嫌いじゃないけど、スポーツマンみたいに鍛錬だ特訓だとか言うのは、ちょっとわたしは御免だ。そっちは毛嫌いしていると言ってもいい。


 嫌そうな顔してるのをわかっているのか、まふちゃんはうんうんわかってると言う頷きで返す。


 いや、ホントにわかってらっしゃるんでしょうか、真冬さん。


「だってハルちゃん。スピリットは精神力の強さで決まるみたいな所あるでしょ。だから、苦手な事を克服していけば、どんどん強くなれるよ。まずはピーマンから食べられるようになろう!」


「ああ、お嬢さまって結構苦手な食べ物ありますもんねぇ。それほど好き嫌いは言わないですけど、我慢されて給食の時などで召し上がっているのを、私は知っております。ああ、健気なお嬢さま!」


 ちょっと待って。君ら、そんな凄く連係プレイが効いてるけど、どうしたの。


 わたしの食事の好き嫌いはいいんだって。そんな事でスピリットが強くなる訳ないんだから。


「そうだなぁ。逆境を乗り越えていく訓練はあってもいいかもな。熱い空間を能力で冷やすとか」


 ああ、そう言う方向でいいの。わたしのSCCちゃんの才能を伸ばす方向で考えて頂戴。ソーニャさん、偉いっ。


 大体それの応用なら、多分寒い空間をどうにかするのも出来そうだし。


「って言うか、時雨はいいの? 能力は隠れたりするので精一杯でしょ。それでまたこの前みたいにならないかしら。対策はあるんでしょうね」


 キョトンとする時雨。・・・・・・自分の事は棚に上げてるんじゃないのよね。ホントに大丈夫? わたし、心配よ。


「そうですね。色々と吸血鬼的な飛び道具、血の刃とかなんかを隠したりして、相手に攻撃が当たるまでに見えなくさせたりとかですかね。色々と試しながら練習中ですけど。姿も消せますし、影にするだけじゃなくて、影の後をも見えなくとかも出来ますし」


 なにそれ。あんぐり口を開けてしまうわたし。


 オン・リフレクションの力、めっちゃ引き出してるじゃない。そんなに出来るなら言う事なしよ。


 そりゃあ、わたしの方が心配でしょうよ。この前だって出雲ちゃんのお婆ちゃんに負けちゃったしね。


「い、いえお嬢さまのこの前は、場所と相手の能力が悪かったのですよ。もっと年齢を重ねれば、お嬢さまだって物凄くお強くなりますから。最強のスピリットって言っても過言じゃないくらいですよ」


 むむむ。ヨイショするじゃない。


 わたしが思うには、わたしの能力もソーニャさんほど便利に使いこなせないとは思うし、冷気の能力だけで言えば、どっちかと言えばお姉ちゃんのシベリアン・カートゥルーの方が上じゃないかな。


 相手を拘束したり、捕まえるのなら、わたしは結構役に立つとは思うけど。固めたり出来る訳だし。


「そうそう。自分のスピリットの特性をもっと皆で理解し合って、共有していってから、どう言う応用が出来るかを、話合えばいいんじゃないかな。そうしたら、ハルちゃんだってもっと労力を節約出来るかもよ」


 おわっと。まふちゃんは流石にわたしの心がどうやったら動くか知ってるな。そうか。


 能力を最大限に活用すれば、無駄な労力を節約出来るのか。


 確かに、面倒がどちらにせよあるなら、出来るだけめんどくさくない方がいいしね。


 うん、SCCちゃんの事、もっと考えてみよう。


「とにかく、戦闘にならんように、静かにとりあえずは暮らす事を心掛けてくれよ。こちらから仕掛けるのもなしな。対策は万全に、そして可能な限り穏健に、だ」


「わかってますよ。大体、仲良くしたり、相手にせずに済むんなら、それに越した事はないのは、わたしも一番に望んでる事じゃないですか。家でのんびり本読んでたら、そう襲われるなんて事ないですしね」


「そう。わかっておればいいのだ。余もあれこれ探ってはおるんだが、機関の動向もよーわからんし、今の組織がどこに向かっておるのかも知らん状況だしな。とりあえず、買い物なんかは複数人で行く事を考えよう。時雨、お主に言うておるんだぞ、わかっておるか」


「は、はい。じゃあ、昼間はいいとしても夜はあまり出歩かないで、複数で行動ですね。真冬様を送り届けるのも、何か工夫が必要でしょうか」


 そうだ。まふちゃんが家に来るのも問題なら、どうすればいいんだろうか。まふちゃんが襲われても、わたしは凄く嫌だし。


「ああ、それなら余のファンタスマゴリアをトンネル代わりに使うといい。そうやってワープみたいに回路を別の空間にも繋げられるからな」


 えー、そんな何でも出来るソーニャさんって、ホントは凄いんじゃあ?


 いや、封印された過去があるから、ちょっとだけ間抜けなイメージ持っててすみません。


「何じゃ?! 小春、余の事そんな風に見ておったんか! 余だってなぁ、幾度も一族の役に立って来たんだぞぉ。おーい、ティナ。言うてやってくれい。こんな風に余の威厳を台無しにしおるんだが?!」


「あー、はいはいー。マスターはちょっとドジっ子属性で見られちゃうくらいが、相手を油断させられていいんですよー。そんなにいじけないで下さいよー」


「いじけてはおらん! 誰がドジっ子だ?! 大体、身内に侮られても、ええ事なぞないわ! ああ、ティナよ。余の偉大さを皆が正確に理解してくれればのう・・・・・・」


 あらら。まぁ、しょうがないか。


 この泣き虫なソーニャさんじゃ。でもとにかく、スピリットは鍛えたり出来るって事なのかな。


 便利にって言うのもおかしいけど、自分なりにスピリットを成長させられればいいな、と思う。


 だから、日々精神力は高める様に頑張ろう。


 今までは弱い自分でいてもお姉ちゃんが守ってくれていたけど、これからはわたしが誰かを守れる人間になりたいから。


 まふちゃんもわたし達に力を貸してくれるんだし、まふちゃんとも協力して、自分達の出来る事で生活を守っていきたいな。




 部屋に二人の少女が座っている。二人とも炬燵の中だ。ヴァイオレットと茨である。


 彼女達はお互い本を読みながら、何やら話していたのだが、ヴァイオレットは読んでいた漫画から目を離しメモを取る。


「何してるの、ヴァイちゃん。そんなバトル漫画でメモ取る様な事ってあったっけ」


「ウン、時々勉強になる日本語はメモ取って調べたりしてるんダ。この漫画は罵倒語のスラングが多くて、ちょっと刺激的だからサ。他にも勉強になる語彙の漫画と言えば、雪空焚火センセイとかカナ」


 呆れた、と言う目でヴァイオレットを見つめる茨。


「そんなの覚えてどうするつもりなの・・・・・・。ちゃんとした言葉は勉強してるんでしょうね」


「モチロン。英語だってちゃんと別に教材読んで、自分の語彙とか文章読解力は高めてるモン。それなりの英語の本はちゃんと読めるんだヨ。ウチだってBritishだからネ。それに日本語だって上手デショ?」


「まぁ、そうね。充分ペラペラだから凄いかも。わたしだったら、そんなに英語とか喋れないし。でもネイティブでもちゃんと英語の勉強はするんだね」


「そりゃあそうだヨ。国語の勉強だモン。キチンと語彙力や文法的な正確な記述が出来ないと、後から絶対に後悔するんだカラ。ホラ、日記は英語で書いてるって前に言ってたデショ。まぁ、日本では見られる心配がないって利点もあるんだケド」


 そう考えると自分はどれだけ日本語に熟達しているだろうか、と自問する茨。


 中学での成績もそう悪くはないし、それなりに語彙力もあるだろうけど、何万語が到達レベルとか言われても、あまりピンと来ないのであった。


 そう言う意味では、漢字テストとかにも意味はあるのかもしれない。


 って言うか、わたしは日記なんてつけてない、と思う茨である。


「それにしても罵倒語なんて、確かに漫画で学ぶのが手っ取り早いかもね。スラングって言うか、流行語とかも頻繁に出て来るのが、流行り漫画だもんね」


「ソウソウ。一人称が沢山あるのもウチ、好きだなぁ。逆向きに読むって言うのが、最初は慣れなかったけどネ」


 ああ、そうか。アメコミとかは日本とは逆なんだっけと、茨は理解する。最近では日本の翻訳なんかで慣れているかもしれないが。


「それにしてもイバラは難しい本読むネ。青森若葉って人の文庫本ばっかり、最近読んでるヨ。アハハ。それにしてもこのクアドロフェニア出版とか四重文庫とか、ネーミングがケッサクだヨ。確か色々翻訳ものもあったと思うケド、結構近年の隠れ名作が文庫になってて便利だと思うナ。英語圏のマニアックな書評なんか読んでたら、幾つも載ってたのがすぐに翻訳されるし」


「へー、そっか。そんなに素早い動きだったなんて知らなかったな。うん、でも言う通りマニアックなレーベルだよね。青森さんだって、沢山出てるけど、全部ここからの出版だもん。あ、そうだ。こんな物もあるよ」


 本棚からゴソゴソやって出して来た、一冊の文庫を茨はヴァイオレットに渡す。書名は『雪空焚火インタビュー集』。


「わぁ。これ凄いネ。色々な作品の事とか制作過程だとか、どう言う読書傾向なのかとか、イッパイ載ってるヨ。スゴイスゴイ」


「喜んで貰えたようで良かった。こんな変な本とか沢山出してるから、好きだけどあんまり見かけない本屋さんもあるんだよねぇ。暁紀美枝さんの『ある双子のエチュード』とか、凄く好きなのになぁ」


 フンフンと読んでいたヴァイオレットは急に思いついたように、茨の方に寄って来て、チュッと頬にキスをする。


「え? な、なに? ヴァイちゃん」


「フフー。イバラは日本の事色々教えてくれるから大好きダヨ。妖怪の事だってイバラが教えてくれたから、こんな風に同じだってわかったんだシ。だから、昼間に言ったように、MeがイバラのQueenになって、wonderfulな事してあげようカ。イバラって植物の事ダヨネ。だったら、ウチがMasterじゃないノ!」


 のし掛かるヴァイオレット。真っ赤になって逃れようとする茨。しかし、体格はどう見てもヴァイオレットの方が大きい。


「Oh!  そんなにガチガチにならなくてもいいノニ~。って言うか、イバラって接触に弱いよネ。それも他の人よりウチの時の方が、反発も大きい気がするヨ。落ち込むナ~」


 全然落ち込んでいなさそうな口調で、ヴァイオレットは言う。


「だって、そりゃあヴァイちゃんの方が、他の人より好きだから・・・・・・」


 ?と言う仕草で本気でわからないと言う顔をヴァイオレットはする。恋する乙女の事情なんてこの少女は考慮してくれないのだ。


「What’s?!  好きだったら触れ合いたいと思うものじゃないノ? 何でそんなに嫌がるかナァ」


「だ、だから嫌なんじゃなくて恥ずかしいの。こう言うのって、外国では屈服してるみたいで駄目なんでしょ。でもわたしは内気だし、あんまりオープンにヴァイちゃんみたいには出来ないの!」


 うーん、と考え込むヴァイオレット。


 やはりぶつけないとわからない気持ちもあるのだが、正確に茨の心情は伝わるのだろうか。


「そっかそっか。でも好きな相手に恥ずかしいって、よくわかんないヨ。だって、そうしてたって何考えてるかわかんないモン。日本人ってまだまだわかんないナ~。言葉を逆に言ったりもするし。いいのか悪いのか、どっちか混乱するヨ」


 ああ、それは確かにそう考える人がいてもおかしくはないんだろうな、と思う茨である。


 明確に意思を示せないのは、ある意味で日本人の弱点かもしれない。


 それを奥ゆかしさだとか言うのも違う気もするし、などと考えるが、でもそれにしたって、明確に言葉にするのを憚られる時だってあるではないか。


 TPOを使い分けて、意思表示が曖昧でも汲み取って欲しい時はあるのだ、と茨は内心抗議する。


 尤も、彼女の中には空気を読む苦痛も存在するので、だからこそ使い分けてと言うのであるが。


 つまりはそれが通じにくい相手がいる事も承知はしているのだ。


「まぁ、いいや。じゃあハグだけさせてくれるカナ? ネ、いいデショ?」


「う、うん。それくらいなら、別にいい、かな」


 そうしてくっついて来るヴァイオレット。


 ヴァイオレットの方が外国人らしく、中学生でも発育がいいので、自然と胸の感触が伝わって来て、やはりこれでも恥ずかしい。


「うーん。ちょっとずつイバラも成長してるカナ? うん、この感じはそうだネ」


 何と、このヴァイオレットと言う少女、胸を合わせながらサイズを確かめていたのだ。そうして抗議の声を上げようとすると、ギュッと頭から包み込まれてしまう。


「もう! そんなのだってセクハラだよ。ああヴァイちゃんっていつも強引なんだから。あ、でもいい匂い・・・・・・」


「ダッテ、ウチはそうやってしか自分を表現出来ないモン。イバラだってもっとloveを伝えて欲しいんだけどナ」


「うー。恥ずかしいから、ヤダも~」


 そんな風にやはりこの二人、両想いであるはずなのに、茨が奥手なのもあって、いつまでも進展しないのであった。


 勿論、未成年であるから健全なのに越した事はないが、彼女らはキスをした事もないのだ。


 いや、この二人はそれどころかまだ付き合ってすらいない。


 ヴァイオレットはお互いをbest partnerであり、loversだと疑ってはいない節があるので、すれ違っている観は否めないと言う話でもあるのだが。




「ふー。色々とやる事があって、現世は充実していていいが、疲れるわい。しかしまぁ、この風呂と言うのに入れるようになったのは、実に嬉しい。子孫達が気持ち良さそうにしているのを指をくわえて見ているだけしか出来ん生活が長く続いていたからな」


 お風呂から出たソーニャは、冬なので本人は大丈夫なのだが、キチンと長袖のパジャマを着て、ゆっくり休憩がてらアイスを食べていたのである。


「マスター。お風呂ってとっても気持ちいいですね! こんなに最高なのに、海外の人達は湯船に浸からないってホントですかぁ」


 ああ、ホントじゃよ、余もそうだった、どころかまともに風呂に入れる時間などほぼなかったが、と軽く返すソーニャであるが、何気にこの老人、凄く過酷な生涯を送って来ているのだから、結構サラリと重い話が飛び出る。


「はぁ、しかし余には荷が重い気がするんだよなぁ。余で皆を守れるだろうか」


 そうティナにだけこぼす弱音をソーニャが吐くと、ティナが後ろからギュッとして離さない。彼女はやはり薄着で割と大胆にセクシーだ。


「だいじょーぶですよ、マスター。あたしも生まれてからちょっぴり不安な事もありますけど、マスターと一緒だから乗りきれるって、ずっと信じてます。それにグランドマスター達もいますし、ファミリーなんですから一人じゃないんですよ。皆で皆を守り合うんです」


「そうか。そうだな。うむ、ありがとう、ティナ。お主には勇気づけられるよ。その邪気のない無垢な心が余の心を洗い流してくれる。それに最近はお主も結構学習してるから、やれる事も増えて来ただろう。それが嬉しいんじゃ」


 えへー、と頬を寄せるティナ。それに些か気恥ずかしさを覚えながらも、ソーニャは語る。


「お主の様な年下に慰められるのも悪くないな。余が気を張らんでいいのは、お主だけかもしれん。昔の人間はもう既におらんのだからな」


「そうですね。マスターの過去はマスターの思い出です。だからこれからは、あたし達といい思い出作っていきましょーよ」


 うむ、そうだなと思いながら、ソーニャは振り返り、ティナにキスをする。


「これからは誰も失わん。一緒に行こう、クリスティーナ!」


「はい! 我がマスター、ソーニャ!」




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