第58話まふちゃんの家でのドキドキ小春デイ
まふちゃんと約束してから、しばらく経っているのだけど、少し身構えてしまっている自分がいる。
どうなるだろうか、と。
そろそろ自分はちゃんと関係をコントロール出来る様に、ちゃんと二人に向き合う覚悟を持って、しゃんとしないといけない時期に来ているかもしれない。
ああ、だからわたしは怠惰なんだ。それをまふちゃんの優しさにつけ込んで。
今なら理想の女の子だったまふちゃんだけが、まふちゃんの全部じゃないのもわかる。好意を向けられて、素のまふちゃんに気づいたって言うか。
わたしが如何に人の気持ちに疎いか、って言うのも。
だから返事をして、翌日に遊びに行く事になった。休日だ。
いつもならわたしは本三昧な所を出かけるのだから、褒めて欲しいものだ。
時雨にはちゃんと言ってあるけど、一応時雨は出不精のお嬢さまがお出かけなんて偉いです、とは言ってくれたのだけど。
そうして、その前日は理由を言って、時雨とは別に寝た。
家に遊びに来た恋人が、別の女の匂いをさせてたら、公認の仲とは言え、少し嫌な気がするだろうから。
「いらっしゃい、ハルちゃん。偉いね、今日はいつもなら読書してる時間でしょ。わたしの為に来てくれたんだ。えへへ、嬉しいな。ちょっと待ってて、飲み物取って来るから」
そそくさと早口に言ってから、すぐにまふちゃんは行ってしまった。
何だろうか、まふちゃんも緊張してる?
うん、まぁ女の子だもんね。家にお邪魔するのは初めてじゃないけど、関係性は変わっちゃったし。
そう言えば、今日は何気にちょっと違う気もする。服もお洒落さに更に磨きがかかってる様な。
まぁ、わたしのセンスじゃそれがいつもの服と、どこがどう違うのかってわかんないんだけど。もしかして、化粧とかしてたりするのかも?
部屋に入らせて貰って、座る。ベッドが傍らにあるのに、少しドキリとしてしまう。
こっちも段々に緊張して来ちゃうじゃない。
同年代の女の子、それも憧れの女の子と付き合うのって、こんなに精神使うんだなぁ、とちょっと変な感慨があったかもしれない。
「お待たせ。はい、ハルちゃんの分。あ、そうだ。今日、誰も家にいないし、すぐに帰って来ないから」
あー、やはりその日を狙ってたのかなぁ。
より親密になれるいいチャンスなんだけど、わたし達ってもう別に気の置けない仲だから、これ以上深めなくても充分仲良しではあるのでは。
「あのね、今日はハルちゃんと、ちゃんと真面目なお話しようと思って」
そう言われて、こちらも思わず居住まいを正してしまう。
な、なんかドキドキしそう。まふちゃん、やっぱりキリッとしてるとより綺麗だし。
「あのね、ハルちゃんにね、言っておきたい事があるんだ。えと、そうね、どう言ったらいいかな」
微妙に言い淀んでいるから、これは中々難しい問題なのかもしれない。わたしで受け止めきれるかな。
「そう、そうね、あのね、ハルちゃんにはもう少しわたし達、女同士で三人の恋愛してるって自覚を持って欲しいの」
へ? それはまた唐突な。わたし、何か失策でもしちゃったかしら。
「そうじゃなくて、あまりにも自然に時雨さんと付き合ってるから、わかってるのかなって思って。今は皆周りも大人と子供が一緒にいるだけだからって、何も考えずに見てくれるかもしれないけど、年取ったらホントにレズビアンとして生きなきゃいけないんだよ。その辛さがわかる? おばさん達だって苦労してるでしょ」
「え? うーん、そりゃあ時雨が辛い思いしてたのも知ってるし、自分でもそりゃあそのつもりだけど。だからまふちゃんもあのお風呂の時に安心したんじゃないの? それにお母さん?はあれで結構修羅場潜ってるし、胆力がわたしとは全然違うよ。充分、収入もあるし、パートナーとの関係も自分流で何とかしちゃってるし、漫画家とアシの真似事の関係なんて特殊すぎて参考になんないしねぇ」
わからないな。まふちゃんは自分でも何か戸惑ってるんだろうか。そんなに不安が強いって事かな?
「そうだけど、そうじゃなくて、精神的にこれから出会うヘテロの女の子とは違う、レズビアン特有の意識の持ち方があるって覚悟が必要なの。誰になら言って、どの辺りの相手には隠しておくのか。全部が全部、オープンに理解されて幸せに暮らせるって訳じゃないの」
うーん。それはわかる。
そう言うマイノリティとしての自覚じゃなくても、わたしはここに角まである訳で、白いメッシュだってどうにかこれからしていかなくちゃいけないし、だからこそその内にソーニャさんの発足した互助組合にも顔を出さないとって思ってる。
だけど、まふちゃんが言ってるのはそうじゃない。
多分わたし達の持ってる恋愛観をどんなにセクシャリティの違う人達に語っても、根本的には理解されないし、意味がわからないだろう。
わたし達がヘテロセクシャルの人の気持ちの細かな揺れ動きがわからないのと同じだ。
それくらい性的指向が違うと言うのは、違うものなのだ。
男と女が違うように、それが違うだけで価値観とか見える景色も全然違うはずだ。
だから余計に不安なんだ。わたしもそれは共有出来る感覚だ。だからお互い支え合っていけないだろうか、とも。
「それに時雨さんって凄く繊細だから、ハルちゃんがもっと大きくなったら、温かく迎えてあげなくちゃいけないんだよ。ちゃんと優しく守ってあげられる?」
ええ? わたしが引っ張っていったり守ったりな側なの。
そりゃあ、これまで時雨には救われて来たし、恩返しもしたいし、愛してるからもっと仲良くなりたいけど、そんなのわたしに出来るかなぁ。
大体が、わたしはホントは受け体質なんだよぉ。
「わたしだって、もっとハルちゃんの頼りがいのある所見せて欲しいな。最近、色んな妹分が出来て嬉しそうだし」
「や、あれは一方的にあっちが慕ってるだけで」
「でも何か悪戯もしちゃったでしょう?」
う、それを言われると痛いな。
出雲ちゃんにはちゃんと距離を置かないといけないのに、何もアクションは起こせていないし。
まぁ、最近あっちも調ちゃんといつも一緒で、わたしより楽しい事があるみたいだから、何よりなんだけど。
「ほら、ハルちゃんはやっぱり人とは違う、自分の世界を持ってるでしょう。それをもっとわたし達に分けて欲しいの。ハルちゃんの感性をもっと教えて欲しい。そうじゃないと、わたしや時雨さんが、何でこんな優秀なハルちゃんと付き合ってるのかわかんなくなっちゃうでしょ」
いやー、あのー、そんなに持ち上げられても困るんですが。
ギュッと手も握られて、わたしはドキマギしっぱなし。
ほら、やっぱりわたしからは何も出来ないでしょ。
「ハルちゃんになら、わたしの気持ちがわかると思うけどな。女子同士でも相手を見つめる時の気持ち、相手から見つめられた時の気持ち、肌の触れ合い、そして相手にどう思われたいか。相手がどうして欲しいか」
「う、うん。そ、そうだね。そりゃあ、まふちゃんの事、そう言う意味で見てるし、時雨の事だってお姉ちゃんへの崇拝心とは違って、大人で年も離れてるのに、女としてドキドキするし」
そう、そうなのだ。それに、である。
「やっぱり他のクラスの子が話してる、クラスのどの男子がかっこいいとか、芸能人は誰が好きとか、そんな話には全然乗れないしね。いや、クラスの中だったら、誰々ちゃんの方が素敵だよ、なんて言えないからね」
「でしょう。それを上手く切り抜けながら、難しい学生生活をこれからも送らないといけないんだよ。付き合ってる相手がいる、じゃ通用しないんだから。変な偏見ある子はまだ多いし、着替えとかでこっち見ないでよ、とか言われないとも限らないし。正論として、同性愛者が誰にでも欲情する訳じゃないって説明しても、中々不信感は消えないんだよ」
そっか。
権利の問題だけじゃなくて、固定観念に囚われた人にちゃんと理解して貰うのは難しい。
で、その事を学ぼうとでも思わないと、その細かい機微はわからない。
ましてやそうやって学んでいる人だって、齟齬があるって話もあるし。
それを理解して下さいって言うだけではなく、お互いが共通了解として、それぞれのセクシャリティを尊重しながら踏み込まずにいるのは、今はまだ女子同士の関係性だって色々あるし、かなり難しいよ。
「だから、さ。ハルちゃんにはわかって欲しいの。これから先、都会に出てそう言う夜の場所でパートナーを探すとか、わたしもハルちゃんも出来っこないの知ってるでしょう。だから、わたし達もっと上手く親密に、末永く愛し合いたいの」
まふちゃんの手が太股を触る。今日はスカートだがロングなので、服の上からなんだけど。
でも大分、ドキドキ度は上がっていく。興奮しちゃうから勘弁して貰いたいが、まふちゃんもほんのり上気している様で、止まる様子はない。
「あの、やっぱり悩むよね。レズビアンである事を自分で引き受けるのも、自分の事なのに覚悟がいるし。変に自分の中に、本当にそうかな、子供だからまだ性的な事がわからないから、勘違いしてるだけじゃないの、とか思ったりするし。でも、でもだよ。ちゃんと性的欲望を時雨にも・・・・・・まふちゃん、にも抱いちゃう・・・・・・し。だから、わたしもこうやって初期状態での出会いがなかったら、一生一人でいると思う。そんなほいほいとどこにでもレズビアンがいる訳じゃないし、ノンケの子に恋したって辛いだけだしね」
ああ、ベラベラ何やら語ってしまった。まふちゃんの手はどこに伸びようとしているのか。
それすら麻痺しているのか、わからなくなっちゃってる。
「じゃあ、本当にハルちゃん、わたしと結ばれたい?」
お腹を撫でられながらだ。今は感触がわかる。だからまともに考えられない。段々上に手が迫って来るんですが、あの。
「う、うん。好きだから結ばれたいよ、まふちゃん」
「そ、じゃあいいんだね? それじゃあ・・・・・・」
――――――――暗転。
はしてくれないのは、これが現実だからで、全年齢向けの漫画とかじゃないからだ。
しっかりまふちゃんは体をより触って来るし、わたしも何だかその気になってしまっている。
それが段々、まふちゃんがキスして来て、服に手を掛けていって――――――――。
目が覚めると、部屋の中は明るいのに、外は茜色に変わりつつあった。もう夕方なのだろう。
ハッとして、先程の出来事を思い出す。
・・・・・・・・・・・・ああ、行くべき所に行ってしまったんだ。
まふちゃんも望んだ事だし、これは時雨には一応秘密にしていよう。でも、子供に出来る事は限られていて、そういい感じになったかは怪しいけど。
「・・・・・・・・・・・・うーん。・・・・・・ああ、ハルちゃん。起きたんだね。時間は大丈夫?」
「え? あ、う、うん。まだちょっとなら」
慌てて服を掻き集めてそそくさと着ていく。っていつの間に脱いでいたんだっけ。
・・・・・・それより。
「こんな事になったから聞いておきたいんだけど、いいかな」
「何かな? わたしに答えられる事なら何でもいいよ。あ、はい眼鏡」
ああ、最中は外さなかった記憶はあるけど、寝ちゃってからまふちゃんが外してくれたんだ。
「えっとね、こう普通同性愛だと子供は出来ないでしょ。iPS細胞とかは別として」
黙って聞いていてくれる。うーん、どう受け取られるかな。
「それで、ね。ソーニャさんの能力だったら、女性同士で子供を作れるんだって。そうやって子孫を作って来たんだとか。その、そう言うのについて、どう思う?」
ふうと溜め息を吐くまふちゃん。あ、あまりこの手の話題は嫌だったかな。子供だしまだこう言うのは早いと思われた?
「そうね。子供も欲しいとか、子育てして普通のヘテロカップルの夫婦と同じ様に暮らしたいって、そう言う同性愛者もいるよね。でも、わたしはレズビアンってアイデンティティの為に、妊娠はしたくないかな。もしかしてハルちゃんは子供欲しい? 子供が作れたら別れなくて済んだのに、って話も割と昔からあったらしいけど」
わ、わたしは、どうだろう。この前、話を聞いた時は素直に驚いたんだけど。
「うん、わたしはね、やっぱり妊娠は嫌だし、子供も欲しくないかな。気楽に出来る時間とか一人で読書する時間も欲しいし、やっぱり責任が重いのって嫌だな。だから、時雨にもこの事は言っておかなきゃって思ってるんだけど」
「おんなじ、だね。でもわたしはやっぱりパートナーとだけでやっていく、同性愛の基本的な昔からのスタイルがいいな。だって、ヘテロの夫婦と同じにはなりたくないし、子育てはそりゃあ違った感じになるだろうけど、どうもそう言う生活を選ばない所に、矜持があると思うんだ。その辺、ハルちゃんのお母さんはどうだったの」
あー、お母さんか。
あの人は自由だから、自分のやりたい事は全部何でも叶えちゃう超人みたいな、およそわたしの肉親とは思えない様な人だからなぁ。
「とにかく、子供をパートナーなしで二人は計画的に産むって決めてたみたい。だから、これは同性愛とか関係ないんじゃないかな。お姉ちゃんが産まれたのって、まだ氷雨さんとどうこうってなる前だし。と言うか、そう言う同性愛ならではのアイデンティティとか考えてないかも。氷雨さんと家族やその知り合い以外の人には、ああ見えて結構淡泊だし」
うーむ、そう考えたら、結構お母さんの性質って謎だな。
わたし達は明確に同性愛者としての自覚があるから、その自らのあり方に悩むんだけど、あの人はそう言う所を突き抜けている気がする。
「じゃあ、子供は作らない方に考えてようよ、ハルちゃん。まだまだ先の話ではあるけど、どうしてもレズビアンとして生きていくのに、全部オープンにしないとしても、生活の中にちゃんとそのマイノリティなりの自覚って必要だと思う。どうしてもヘテロの人とは違う性質を持ってるって事を。だから、子供はいない方が所謂、享楽的な性の生き方が出来るんじゃないかな。誤解されそうな言葉だけど」
享楽的、か。
確かに趣味人の話でも、その性格は大事ではある。
そして、そう言う規範意識から自由でいて、それで家庭生活を共同で送る。それもあまり既存の「家」の意識からは離れて。
逸脱しながら、真剣に周りと折れ合いながら溶け込むって、思えば難しい。
「わかってくれた? 性のあり方がやっぱり男女の物とは根本からして違うでしょ。だからか、わたし創作物で百合って言ってるのに、片方に言いたくない物を生やす、そう言う表現って嫌なの。馬鹿にされてる感じがして」
そっか。そうだよね。そりゃあそうだ。
まぁ、その物の願望がある女性も実際にはいるらしいけど、そこん所はどうなのかな。
「うん。アレがないから、その通常の行為は出来ないけど、そこに固有のアイデンティティの大事な形があるんだもんね。そう、セックスの形も違うから、同じ同性愛でもゲイとはまた全然違って来ちゃうって言うのも、あまり世間的には考えられないよね」
「そう、そうなの! 一概に同性愛者と言ってしまう弊害があると思う。レズビアンの中でも色々違う意見はあるだろうけど、多分ゲイの人のセックス観ってわたし達には全然想像出来ないと思う。そう言う意味で、異なる性質の人と根本でわかり合えないからこそ、話を聞いて大まかにしか理解出来なくても、それで相手を尊重して相互不干渉になるしかなくて」
ああ、ヘテロの人の表現とか別に見たいとも思わないし、見せられたら不快になるだろうけど、でもそれはそれとして勝手に好きな人はやってくれればいいしって言う話だ。
それだからこそ、時々当事者じゃない人の表現に違和感があったりもするんだけど。
まぁ、こんな事言い出したら、当事者同士でもアイデンティティは違うし、その人にしか理解出来ない性質みたいなのは、どんな表現にもあるかもしれないし、その辺は自由に享受すればいいだけか。
「うん。やっぱり同じ、って思えるから、今までもずっと仲良しだったけど、これからももっとずっと仲良しでいられる気がする。よろしくね、ハルちゃん」
そう言って、まふちゃんは唇に軽くちゅと、挨拶の様に唇を重ねて来たのだった。
その高揚があまり続いても困るし、わたしはそろそろ家に帰る事にした。
今日は、ある意味で収穫、ある意味でまたも押し切られてしまった、って所かな。
ほら、やっぱりわたしは受けだってば。
帰宅後、怪しまれなかったかどうか。
わたしはいつも通り平然としていたと思うんだけど、外からはわたしって態度で丸わかりみたいらしいからなぁ。
でもわたしから見ても、家族の皆が普通にいつも通りだった気がするので、まぁいいとしよう。
ちょっと後ろめたい気持ちもあったし、何かを悟られても嫌なので、不審がられるのを承知で、今日だけと自分に言い聞かせて、時雨と別々にお風呂にも入ったし、寝るのも一人で寝る事にした。
それにしても、どうやって切り出したらいいんだろう。
レズビアンとして生きていきたいから、無闇に子供を作る事を主義としてしたくない、とか。
ソーニャさんとかショックかなぁ。
でもよく考えたら、この家長たるソーニャさんが、ずっとあれこれ指示して君臨してるのって、忌まわしい家父長制みたいだなぁ。
まぁ、ソーニャさんは父じゃないし、権力なんて全くない様なイメージだけど。
って言うか、そうか。
ティナさんみたいに造る事が出来るんなら、それで増やしていけばいいんじゃないか。別にわたし達から種を増やす必要はないんだ。
何だか、二人ともの戸籍をどうにかしたらしいし、それならその方法で何とかなりそうでしょ。
大体、わたしが成人する頃って、思いの羽を伸ばせばそう、時雨はもう出産とか難しい時期に来るはずだし。
そう言えば、教育が行き届いていて、女性の人権が保障される様な先進国だと、必然的に少子化になるとかって話も聞くなぁ。
負担が少なくてヘヴィじゃない環境なら、もっと出生率とかも高いんだろうか。勿論、産む産まないは女性が決める事だし、それが減るのは過酷な育児に嫌気が差すとかなのか。
シングルマザーが増えてるとか、DV被害だとか、問題は山積みな気がするし。
って言うか、わたしとしては男女の分断が進んで、その過程でマイノリティが巻き添え的に差別される構造が強化されそうなのが怖いなぁ。
もっと子育て支援が行き届けばいいのに。
いや待てよ。
子育て支援などの福祉政策を重視するのは、社会主義的って何かで読んだな。
勉強熱心な読書オタでも未熟故、それ以上の考察は出来ないんだけど。社会民主主義って言っても、限界があるんだろうし。
自由主義的な発想では、最早そんな風だったら子供なんていらないって言う人が多いでしょうなぁ。
保守化する女性とか、進歩的な価値観を拒否する新しいデータとか、まぁ色々と社会にまた一歩、変化が来てるのかもしれない。
とにかく子供はノーセンキューって話なの。
よし。そうだ。手紙を書こう。幸い、部屋にはわたしだけだし、明かりがついてても問題ないよね。
別に可愛い便箋を出すでもなく、わたしは普通のルーズリーフを取り出して、書き書きしていった。
丁寧に自分の気持ちとまふちゃんと相談した事、それからこれからの色んな事、愛を三人で育むのに、寧ろ子供はいない方がいいと思う事、早く大きくなって時雨の好きな様にさせてあげたい事、などなど。
書き上げると、折り畳んでから、その表面に「時雨へ。ソーニャさんと見て下さい」と書いて置いた。
うん。これで今夜はぐっすり眠れそう。
ルーズリーフにちゅっとキスをしてから、わたしは部屋に戻って電気を消す。
おやすみなさい。




