第57話フル・ハウス始動
ソーニャさん達が決めた会合が開かれ始めたので、ボク達もちょくちょく行く事にしている。
場所が媛子婆ちゃんの用意した、八雲家別邸だから、実は知り合いにも会えていいのだ。
それで出雲とはしょっちゅう行くんだけど、乙音が全然ついて来ないのが、ちと不審だ。
前だったら素直にボクの後を追いかけて来たのに。最近はどうもつれない気がする。
学校が終わると会合でもないのに、出雲と一緒にそこへ行く。
何人かはいるし、駄弁るのにちょうどいい上に、勉強も教えてくれる人がいたりするし、互助組合と言うのはいいものだ。
そうそう組合の名前は、ソーニャさんと媛子婆ちゃんで相談して決めたらしいけど、〈フル・ハウス〉と言う。
何だか縁起のいい名前なので、ボクは気に入っている。
その別邸に着くと、管理人の橘虹乃さんが迎えてくれる。
この人は、ずっと八雲家に仕えて来て、この別邸の管理を任されているらしい。
賑やかになって嬉しいと言ってくれるから、こんな会合の場所にしたのも良かったのだろう。
「ああ、出雲お嬢さまに調お嬢さま、よぉ来なさった。今日は新しい人も来てるし、若いもん同士挨拶して仲良ぉなったらええです」
「新入り? まだ魔族がこの町内にいたんだ」
出雲と二人で顔を見合わせる。どんな種族だろうか。
この辺の人は、割と日本系の妖怪とかもいて大変面白いのだが、種々雑多な魔族に会えるのは、こんな事でもない限りそうないと、貴重な体験をボクは楽しんでいる。
「あ、コンチハ。君らが言ってた名誉会長のお孫さんかナ。会長にも挨拶したし、君らとも仲良くしたいヨ。よろしくネ!」
微妙に語尾が変なイントネーションの人だけれど、よく見れば髪はボブカットくらいで普通なのに金髪だし、顔立ちは些か日本人離れしている様な。
「ああ、ウチ、ヴァイオレット・ムーンって言うんダ! 実は留学生なんだけど、あんまり知り合いに同族っていないから、こんなコミュニティが始まったってイバラに聞いて、一緒に来たってワケ」
「ああ、そちらの方がお友達ですの?」
出雲が聞いた先には、もう一人長髪の女子が一人。この子は黒髪だ。
「あ、えと、うん。わたしも魔族、でいいのかな。ヴァイちゃんに連れて来て貰ったけど、わたし人見知りで・・・・・・」
「ウチら、中学二年生。そっちは・・・・・・うーん、かなりちびっこいネ」
な、と二人でいきり立つボク達。喧嘩なら買うぞ。
「誰が小さいって?! ボクらはスピリット使いだぞ。出雲をけしかければ、ちょちょいのちょいだ」
「わたくし達を子供扱いするなんて、レディに対する配慮がなっていないのではないですか。大体、その見下ろすのが気に入りませんわ! お姉さまでもそんなに背は変わらないのに、屈辱ですわ・・・・・・」
わなわな震えるボクら。ビクビクしているイバラと呼ばれた子が、一言。
「ほらヴァイちゃん謝って。あんまり失礼な事したら駄目だって言ったよね。ちゃんとお互い自己紹介しよ?」
「ああ、ゴメンゴメン。で、何年生なノ。それにスピリット能力! 能力者に巡り会えたのは、アパートの人以来ダ! 嬉しいナ」
な、何この人。自分も能力者みたいに。
しかし、ちゃんと自己紹介は済ませませんとね、と出雲が言うので、しょうがなくボクもこほんと咳払い。
「ボクは、此花調。調って呼んでくれたらいい。ちなみに三年生だ」
一応、簡潔に済ませて置く。
「わたくしは、高潔な八雲家の跡取り、八雲出雲ですわ。調と一緒に八雲家を大いに盛り上げる為に、この会合にも顔を出そうって事になりましたの。ああ、わたくしも調と同じで三年生ですわ」
出雲はやはり尊大にベラベラ喋る。
で、そっちは?と言う目線で見ると、その年でそんなに威張るって凄いネなどと失礼な前置きをしてから、
「確か君らも吸血鬼だよネ? ウチも吸血鬼なんダ。名前はヴァイオレット・ムーンってさっきも言ったネ。ヴァイでもスペルから読み方変えてヴィオでも好きに呼んでヨ。イギリスから来たノ。ヨロシク! ハイ、イバラ、ちゃんと自己紹介しテ」
少しヴァイの後ろに隠れていた少女を、ヴァイが押し出す。ちょっと乙音みたいだな、とボクは思った。
「あ、あの。わたしは大江茨と言います。えと、実はこの頭の部分に隠してる角があるんだけど、これを見てわかるように、鬼の末裔です、はい」
「ふむふむ。吸血鬼に鬼、ですか。共通点がある様なそうでない様な。それと先程スピリットに言及してましたけど、貴方達もそれを持っているのかしら?」
ピンとアホ毛の様な髪を逆立てて、ヴァイは嬉しそうにはしゃぐ。
「そうなノ。ウチら、こんなに仲間がいるとは思わなかったナぁ。ああ、ウチのは〈アナザー・グリーン・ワールド〉って言っテ、こいつが色々植物を操る力をくれるんダ。虹乃さんのにも似てるカモ」
そう言うとヴァイは、紅色の不気味な人型のスピリットを出した。それは全身が紅色で、そこから植物の蔦が伸びている。
そう言えば、虹乃さんと言うと、確か前に聞いた話だと〈フラワーズ・オブ・ロマンス〉って能力があるんだとか。
これには本人も手を焼いていて、地面のある所なら、一晩であちこちに自動で花を生やしちゃうとかで、範囲内にそう言う場所がない所に住んだり、元々世話するのが前提の家に住んだりしていたらしい。
自動で能力が発動して、本人が制御出来ないって言うのは難儀だなぁと思う。
「そうソウ。ソーニャ会長が後で血液の通販を教えてくれるんだッテ。ウチ、自分で出す花の蜜とかで我慢してたかラ、ちょっぴり感動だヨ。イギリスでは多分そう言うノ、なかったと思ウ」
そっか。ボクと違って、純粋な吸血鬼はそう言う面倒事もあるんだな。出雲だってあれこれ苦労してるんだったっけ。
「で、イバラの能力は〈ティン・ドラム〉。こうやって、ホラ、出しテ!」
「う、うん」
そう言うと、ふっと何もない所から、首に提げる太鼓が出て来た。
ああ、これを叩くのか。早速、首に提げてトコトコとヴァイがさせるから茨はそれをやる羽目になる。
「これで驚くナ! 色々これで叩き方を変えたら出来るんだかラ。人を操ったりネ。ヒヒヒヒ、これで皆イバラの虜だヨ・・・・・・」
「やめてよ。そんなに凄い能力でもないし、そこまで凄い使い方はまだ出来ないから。あ、えっと一応そう言う訳で、ドラムとかもやってます。小さいバンドでやってるんだけど」
「ソウ! 凄いんだヨ、イバラのテクニック! 痺れちゃうよネ!」
ドラムとはあのロックバンドとかの後ろにいるやつ?
うーん、そんなのをやっている様には見えない。それが出来るんなら、もっと堂々と出来そうなのに。
それからその後にボクらの能力も説明した。そうすると、話はまた別の方に飛んでいく。
「貴方達、アパートに住んでいると言いましたけど、二人ともですか? ええと、この書類によると・・・・・・」
パラっと紙を見る出雲。
個人情報だけど、会員になるにはこう言う情報提供も多少は必要なのだ。ソーニャさんがちゃんとデータで管理するらしい。
ホントにあのお年寄りに付け焼き刃のIT技術で出来るのか不安だけど、それを他にやる人もいないし、まぁしょうがないのか。
「ウン。〈パッセンジャー〉ってアパートだヨ。イディオット・水晶サンって言う人が管理人兼オーナー。この人もこのフル・ハウスに興味あるみたいだから、先に行って色々お話聞かせて欲しいんだってサ」
「あ、水晶さんはどうやら自称では魔女らしいです。他にも何人か変わった人はいますね」
ふーん。なんか怪しすぎるくらい変な名前なのはスルーしとくとこかな。
それにしてもそんなアパートなんてあったかなとか思っていると、出雲がああとわかった風な返しをする。む、なんか先越されたみたいで、ちょっとムカつく。
「パッセンジャーと言うと、わたくし達の小学校の校区外ですわ。でも今度行ってみようかしら」
それはいい考えだ。久々に冒険する雰囲気だ。
「いいけど、ボロいアパートだから何もないヨ? 君らの家みたいにご立派な物じゃないんだシ」
あっけらかんと言うなぁ、この子。別に卑屈な訳じゃないから、そのまま端的に事実を言ってるんだろう。
「いえ、そんなスピリット使いの巣窟なんて、興味が大変ありますわ! 小春お姉さまにも知らせませんと! ってもう調ったら紙を勝手に取らないで下さいな」
ふむふむ。最近に登録しようとした人は結構な割合に達する様だ。自分の属性も書いてある。
しかしある箇所で、ん?と二度目してから、またんん?となってしまった。
ボク達の担任教師の名前があったのだ。ボクは出雲の袖を引っ張る。
「何ですの。他のスピリット使いですわよ。もっとわくわくしたらどうですの」
「そうじゃなくて、これ見て。汽車ちゃんの名前がある。ご丁寧に狐の妖怪です。油揚げが大好物です。って書いてある。まさか、こんな近くにいたなんて。わかんないもんだなぁ」
「へ? 汽車ちゃんとは、青音汽車先生の事ですの? ははー、中々人は見かけによりませんわね」
そう、そうなのだ。
汽車ちゃんは気弱だが、勉強を教えるのは上手くて、それでいて生徒を良く見ているし、実は姐さんの担任の中道だか言う教師の相談を結構聞いているらしい。ああ見えてしっかりしているのだ。
でも、あの汽車ちゃんが妖怪とか魔族の類だったなんて。
ま、普通に暮らしてる魔族が今の時代は多いんだなと改めて実感する事実だ。
「そのヒト、しーチャン達の担任サンなんダ? そりゃあ、ご町内も狭いってモンだよネぇ」
しーチャンとは誰の事か、と一瞬考えたが、何だボクの事か。何てあだ名を拵えるんだ。じゃあ、出雲はいーチャンか。
「こほん。とにかく、今度アパートに遊びに行かせて頂きますわ。お姉さまの都合のつく日を聞かなくてはなりませんわね。ん? そうですわ、何か忘れている様な」
「連絡先交換だヨ。ささ、ちゃっちゃとスマホ出しテ。今時、小学生でも持ってるでショ」
そうやって、ボクらは連絡先を交換した。うん、今日はこれが収穫かな。
あっちの狼男の牧村さんには、また今度数学の教示を乞おう。
実はボクは、数学にも手を染めてるのだから、もっと勉強したい欲は高まっているのだ。
「それじゃあ、また。わたくし達は、ちょっとここでいますけど、貴方達は?」
「ああウン。ウチ達は顔見せしに来ただけだから、挨拶も終わったし、そろそろ帰るヨ。いいよネ、イバラ?」
「う、うん。早く帰ってゆっくりしたいかも」
じゃあ決まりダとか言いながら、二人は帰って行った。
ソーニャさんはと言うと、虹乃さんと世間話をしている様だったから、ボクらは少しの間手持ち無沙汰だった。
見切り発車で始まったコミュニティだが、何とか地域に根ざした活動が出来そうだ。
余としては、ファミリーとして落ち着ける場所を長年探していたので、こう言う活動が出来るのはほんにいい時代になったもんだと思う。
フル・ハウスと言う名前に決まったこの会だが、媛子はあまり関われるほど暇ではないらしい。
実業家は忙しいそうだ。だからあの婆さんは名誉会長だ。で、余が実質活動する会長。
余はまぁ、あれこれ指図していた時代から、投資のお金もあるし暇を持て余しておるんだが、ここは茶飲み友達も出来ていい感じだ。
「ふうむ。自動で制御が効かんタイプの能力のう。自分でそれを使ってみるとかは出来んのか」
「ああ、それなら土のある所に手をかざしゃあ、花を生ける事は出来ますよ。でもまぁ、単に地面じゃ駄目みたいで、花壇みたいな所を作らんと、雑草が生えてしょうないだけなんですわ」
何やら調達が来たが、新入りの若い娘と顔合わせをしているので、余は管理人の虹乃と話をしとった。
「花壇がないと花は生えんのか。何もない地面に雑草、のう」
中々に奇妙なスピリットだなと思う。
そう言えば、余を封印した奴も、死んでから発動するタイプの厄介なスピリットだったと思い出して、胸糞悪くなった。
「ええ。ですから花壇は必須なんですよ。そうすれば季節ごとに色んな草花が咲きます。それだけに虫の発生は適わんですが」
駆除するのも限界があるわなぁ。近くに花があるんだから。
「そう言う意味で、皆さんがあれこれ世話も手伝ってくれて、助かっとります。会長が作って下さった機械なんか、御の字ですわい」
そう。
余はここの庭ももう少しキチッとすれば、見栄えも良くなるだろうと思い、この者の能力を聞いてから、ファンタスマゴリアの力で害虫の駆除と花壇の手入れをする、手とか網の自動機械を作ったのだ。
「おおい、ソーニャさん。紋章を刻むのはこの辺の区画でいいかなー」
「お。向こうで牧村さんが呼んどる。どれ、ちょっと行ってくるか」
「会長さんがキビキビ働いてくれて、本当にこの会は先が明るいですわなぁ」
笑う虹乃に、んと相槌を打って、牧村さんの方に行く。
「こことここと、この辺で大丈夫かなー。これだけやれば、あまり退治屋さんもやって来やせんだろうが」
この牧村さんと言う御仁。狸の妖怪らしいが、中々どうして凄味を持った目をしておる。
魔力もそこそこ蓄えておるし、色々事情にも通じている様だ。
だから余は何故か虹乃や媛子でも呼び捨てなのに、この中年の紳士に対しては、さん付けで呼んでしまう。
で、この牧村さんが話しているのは、結界の話だ。
前に時雨達がカトレアに襲われた事件。あれも口惜しいが、遠くから余は見ておった。
だからこそ、ああ言う事はあまり起こって欲しくない。
大体、今の時代に人間を食い物にしたり、危険な魔族なる者が稀少なんじゃないかと言うくらい、余には平和な実感しかない。
ただ、虚実機関はそう言う化け物と日夜改造人間とやらを戦わせておるそうだし、派閥も色々だ。
吸血鬼だとか悪魔の王国を作ろうとしている、好戦的な奴もおると聞く。
だから、あまり退治を目的とした存在に、余達の気配を感じて貰いたくはないと言うのが、このコミュニティの正直な所だ。
平和な裏では、時々退治されてしまう、市民として暮らしている無辜の魔族もいた訳だから。
そう言う訳だから、余が定期的に魔力を込めた、普通にしていたら視界には入らんようにした、特製の透明な護符を、重要ポイントに貼ろうって魂胆だ。
「ねえ、ソーニャさん、話は終わった。ボクらが活躍する機会ってあるかな」
横から声がすると思えば調だ。
こいつ余が小春と関係があるからと、頻りにあれこれ戦い方の指南をしてくれだとか言うて来るのがうっとうしい。
どうせ、自分は戦わず出雲をこき使う、軍師気取りなんだろう。
まぁ、こやつのスピリットではそれほど戦闘に向かんのも事実だが、何かもう一工夫を教えてくれと、こう来る。
余としては、相手の名前をどうやって密かに探り、それを活かして出雲と対策を考えて、他の能力を駆使して倒す、それくらいしかないのだが。
ホークウィンドは遠隔操作も出来るタイプなんだから、自分でもうちょっと頭を使えばいいものを。
ホークウィンドにマイクを付けて置いて、自分の話術を巧みに相手を騙すとかな。
「ああ、お主らの出番はまぁないのう。大体が戦いにならないようにするのが、今余が牧村さんと話しておる要点だからな」
「そうだよー、調ちゃん。自分がスピリット能力なんて物を持ってるからって過信しちゃいけない。退治屋は僕らにとっては、すっごく危ない天敵なんだからね」
「何だよおっちゃん。ボクらがそんなに頼りないか」
未だに調は不遜なのだが、まだまだお主らは弱い上に敵は強大なのをもうちと自覚しろと、牧村さんは言っておるんだろうに。
「ああ、いやいやそうじゃないなー。君らはまだ小さいのに見上げた覚悟があるよ。でも、ね。本当の修羅場を通って来た手練れはそんなものじゃないんだ。カトレアさんがもっと優秀な構成員なら、虚実機関での活動とか色々聞けたかもねー」
「それですわ。その虚実機関って言うのは、そもそもなんなんですの?」
出雲が口を挟む。
それがわかれば苦労はせんが、まぁ昔と違って巨大な規模の組織だし、余も全く情報はない。
「そうだね。人間を管理する超巨大組織、って言うのが建前、かな。もっと怪しげな研究とかもしてるらしいよー。だから、改造人間って言うのがいるって噂もある」
「か、改造人間? 特撮みたいだな。ボクらより、運動能力が高い、とか?」
あはは、とあくまでも穏やかに笑う牧村さん。何だか他人事みたいだ。
「うん、そりゃあ凄いんじゃないかい。スピリットに近い能力の開発なんかもやってるとか。まぁ、情報を色々集めてる僕でもこれくらいしか知らないから、謎は多いねー。それにあくまで噂の域を出ない話だし」
つるっとしている頭を撫でて、牧村さんは細い目を更に細める。
余にはわかるぞ。こやつらにはここまでしか知らさん方がいいんだろう。この狸男、まだ知っておる。
「ふーん。そうまでしないと、極悪魔族を狩れないって事なのかなぁ。ソーニャさんもその手の連中から、酷い目に遭わされた?」
それには余ではなく、牧村さんがやんわり答えてくれる。
「はっはっは。そりゃあ、調ちゃん、このソーニャさんはその内部にまで昔は精通してた人だからねー。あの組織のゴタゴタにかなり嫌な記憶はあると思うよ。でもどうかなー。我々の知らない魔族の組織もあるかもしれないし、その辺の連中と彼らはバチバチやり合ってるのかも」
「何だか燃える話ですわね!」
こう言うバトル的な話が出雲は好きらしい。まさか、小春ご主人、変な本を読ませたんじゃなかろうな。
「そう言ってられる内が華だ。な、牧村さん。本当の恐怖の魔物や化け物は確かにいる。そいつらと殺し合っている機関のエージェントは、相当の手練れだろうて。この小娘達にそんなもんとは関わり合いにならんで済むように、我らのコミュニティはあるんだからな」
「や、全くもってその通りですね、ソーニャさん。そりゃあ、強い能力の所には色々集まるもんですわ。だから危惧しておられるんでしょう。最近、この町には色々集まりすぎている、と」
うむ、と余は無言で頷く。
「さ、子供達は勉強でもやって帰るんだね。おじさんがまた見てあげよう。調ちゃんは今日も宿題は早々に済ませて、中学の勉強かい?」
「そ、そう。ってこの話、終わり?」
「物騒な話はなしだよ。いい刺激にはなっただろうけどね、刺激ばかり求めてたら中毒になっちゃうよー?」
「わ、わかりましたわ。わたくしはもう帰ります。勉強なんて学校の分でも手一杯ですのに」
「ははは。そりゃあいい。調ちゃんが優等生過ぎるんだね。もっと出来ない子にも気を配らないとな。調ちゃんも偶には、頭の体操に出雲ちゃんに勉強を教えてあげたら?」
えー、とぶつくさ言う調。出雲も心なしか不満そうだ。
「ちゃんと指導はしてるんだよ、ボク。でもこいつ、基本的な所から教えないといけないから、めんどくて」
「調はすぐ、今の段階でこんなのもわからないのか、って嫌みばかり言うんですの。わたくしだって出来ない自覚はありますのよ」
ああ、うん。
とりあえずそれなら二人で牧村さんに教えて貰いなさいな、と余は思う。賑やかに場を和ませてくれるのは、子供達のいる利点だしな。
「うん、じゃあやっぱり出雲ちゃんもおじさんが優しく手ほどきしよう。安心してね。出雲ちゃんのレベルにちゃあんと合わせるから」
「それもなんか、嫌って言うか屈辱ですわー!」
出雲の泣き声に皆が笑い、余はほうじ茶を啜る。
うむ、上手い。時雨の入れるのもいいが、虹乃の入れる銘柄も中々に味わい深いぞ、これは。
時雨に教えてやる為に、何を使っているのか、後で聞いとかんと。