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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第四部:八雲家、世界や魔族について
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第54話冬が嫌いだったけど、好きになってあげてもいいわよ(サプライズ感激編)

 ホントに冬は寒い。


 夏の辛さとは全然違うの誰かわかってくれないだろうか。寒いったら寒いのだ。


 温かいお茶を入れても、すぐに冷えちゃうし、布団に入っていても全然ぬくぬくとならない。


 トイレも近くなっちゃうし。だから靴下は穿くし、厚着して寝るのだ。


 と言うか寒さで寝られないと言う事実を理解しては貰えないだろうか。


 暑くて寝られない時はそりゃあ誰しもあるでしょうよ。それはわたしもそうだ。


 でも寒くても同じなんだ。年々寒さは増すようで、嫌になる。


 時雨が一緒に寝てくれるから、逆に今は少しマシかなとは思うので、わたしも救われてるんだろうか。


 と言う問題とは別に、わたしは冬場、しかもクリスマスが近くなると憂鬱になって来る。


 何故か。それはクリスマスイブがわたしの誕生日だからだ。こんな悲劇ったらない!


 それのせいで、一緒に祝われたり、忘れられたりするんだから。


 皆優しいから、ついでの様には扱う事はないんだけど、でも。


 わたしは、そう。


 クリスマスはクリスマスでちゃんとパーティを家族でしたい。そして、誕生日は別個に祝って欲しいのだ。


 だから、それはもう細心の注意を払って、わたしも友達や家族の誕生日はちゃんと祝って来た。描写がないだけでやってるの。


 って言うか、キリストと誕生日が一日違いって事が、もうなんか嫌。


 そんな聖人君子と比べられたくないし、そもそもキリスト教徒とは縁もゆかりもない。


 じゃあ何でクリスマスを祝うのかって。それはもう、季節の行事だからよ。


 特別の信仰心なんかなくても、昔から連れられて行ってるから、茅の輪くぐりとかだって六月末日に行くもん。今年は時雨を連れて行ったし。


 後、ハロウィンもやったでしょ。節分だってするし、正月だって祝う。


 それはもう現代人にはそんな大した意味がなくても、やっちゃいけないって事はないでしょう。


 そう言う行事を馬鹿にして、外国の習慣は日本人に関係ないって態度こそ格好悪いしダサいと思うのね。


 話を元に戻すと、もっと普通の日に生まれたかったのよ。


 そう、だからブッダと同じ日とかもダメよ。お正月生まれだとか、年によったら閏年の二十九日だとか。そんなのも却下。


 大体、祝って欲しくはあるけど、それほど特別な日にもしたくないんだから。


 ただ年を取るってだけでしょ。それを口実にケーキ食べたり、パーティがしたいだけ。プレゼントも貰えるし。


 わたしだけに割いてくれる日になって欲しいの。


 特に時雨には。我が儘なのはわかってるけど、どうしようもないのも事実で、でも言えない。


 でもそうは言ってもクリスマスイブは、そう言うイベントの日だし、その気分に街は一色で染まってるから、それをやめたくもない。じゃあどうしたらいいの?


 温かいココアを飲みながら、炬燵から出る事もなく、わたしはそんなどうしようもない葛藤を抱えながら、ダラダラ過ごしていた。


 なんか近頃はゲームで知名度が高まったとかの、ダンボールの中の男の話を読んでいたのだ。何て言うか、色々現代人にはチクリと突き刺された様なきつい本だ。


 一読しただけでは意味が掴めない箇所もあるし、錯綜した物語でもあるし、何て言うかこんな逆転劇みたいになる話を、この本の著者は他でも書いてた気がする。


 家の中もアドベント・カレンダーやら簡易のツリーとか、色々な飾り付けで賑やかになっているのだけど、時雨は尚も忙しそうにしている。


 だからこの頃はあまりちょっと前ほどは、何でもして貰う事は出来なくなっていた。


 ふん、いいもん。わたしはわたしで大いに楽しい読書をして、一人の時間を満喫するもんね。


 冬休みの宿題はそんなに多く出てないし、ちょっとずつやっていれば大丈夫だろうし。


 ソーニャさんからの視線が何気に気になるんだけど、まぁまた何か下らない事を考えているんだろうな。


 時雨はいつも通りな様だし、多分わたしの誕生日の事なんて考えてもいないよね・・・・・・。


 こればっかりは、そうして欲しいとか言わないわたしも悪いんだけど。


 でもクリスマスソングは好きだから、幾つか聴いたりしてイベント気分を味わっている。


 決行、探せば色々なクリスマス関連の物を出している人もいるもんだ。アニメ関連だって幾つかある。


 それも定番のちゃんとしたクリスマスソングとかが入っていたりする。


 ああ、こう言う時に魔族ならではのあったまる秘策みたいなのないのかなぁ。


 ソーニャさんも時雨も寒くないみたいだし、わたしだけこんな角が生えてても、ちゃんとした血族としての魔族じゃないから、人間らしく寒がりなのか。


 それともわたしが人並み以上に軟弱な体なのか。いや、それもあり得るかもしれない。


 だって運動は苦手だし、別に体が丈夫な方だって訳でもホントはないんだし。


 って言うか、ティナさんなんかこっちが寒くなって来るくらい、冬でも薄着だ。


 ホントにあれでいいの? いや、別に羨ましがっても仕方ないのだ。


 でもそうやって炬燵でぬくぬくしてたら、無限にミカンを食べてしまいそうで怖いなぁ。


 幾らでもある訳じゃないし、炬燵机になかったら補充しなきゃいけないから、自分で取りに行くのが面倒だから、なければ食べないと言う選択肢もあるんだけど。


 だけど時雨はわたしに気を利かせて、いつでも食べられる様な状態にして置いてくれる。


 と言っても、ご飯が入らないくらいバクバク食べてるんじゃないから。


 太りたくもないし、只でさえ運動しないんだから、カロリーにはこれでも気をつけてるのよ。


 これでもインドア派ならではの体型維持の方法論は考えてるんだから。


 ああ、そう言う訳だから、あのARとかで運動しながらゲームするとか、そんなのは全く興味ないの。スマホで出来るやつね。


 何で外出てまでゲームしないといけないのか。大体、ゲームしてきゃいきゃいやるなら、引きこもって楽しい本を一冊でも多く読んでいたい人間なのがわたしなのに。


 って言うか、外出たくない。ゲームは時間泥棒だとか聞くし、あまり怖い領域には近づかない方が良さそうでしょ。


 だって読みたい本のリストだけでも大量にあるのに、それでゲームにハマったら大変な事になっちゃう。


 だからかな。ゲームが好きな人は本なんて沢山読んでる暇ないだろうし、動画サイトで動画見るのが好きな人は、それに費やす時間が多いでしょう。


 と言う訳なんで、わたしにはそれが本であるんだと言うだけなの。


 欲を言えば、そんなにゲームが面白いって言うんなら、そのシナリオを本にして欲しいとか思っちゃう。


 ゲーム好きからしたら、ちゃんとシステムからサウンドからグラフィックから何まで楽しまなきゃ意味ないと仰るでしょう。


 しかし、ですよ。わたしは物語を読みたいのよ。物語が。


 いやそう考えると、消費する容量が少なくて便利な女なのかもしれないな、わたし。


 漫画とかでもそんなに容量はゲームとかほど食わないだろうし、活字の本は言わずもがな。ああ、十メガとかで足りるんじゃないかな。


 もっと言うと、凄く長い作品の電子書籍でも五メガほどだったし、更にチョロい女なのかも。


 そ、そうか。なんと手軽な人間なのか。


 それだけで満足してしまえるなんて。ビット数だけで言えば、エコな生き方してるんじゃない?わたし。


 だがちょっと待てよ。それは電子書籍の話だ。


 物理の本は、意外と容量って言うより場所を取るし重いよね。保管も考えてしなきゃいけないし。


 なんでそんなに本棚眺めてうっとりするんだって感じに思われてるかもしれないし。


 って何の話してたんだっけ。


 ああ、そうそう。運動不足でも栄養はちゃんと計算されているって話よ。


 それもわたしじゃなく時雨がやってるの。まぁ、元々わたしはそんなに食べる方じゃないし、寧ろもっと食べなさいって言われるくらいだから、体型維持は大丈夫なのだ。


 それにしても、なんか皆がこっち見て時々そわそわしてる感じなんだよね。


 なんか怪しい。


 でも何を企んでるのかはわからないし、どうせまたあいつあんなに本ばっかり読んでて、ホントに飽きないな、どれ偶には本をプレゼントしてやるか、くらいの事だろう。


 それとも、もしかしたら本ばっかり読んで暗いやつだし、あいつ放っといてどこかで皆で遊ぼうぜ、なんて画策してたりして・・・・・・。


 ええ、どうせわたしは、暗い地味で眼鏡でオタクで協調性はなくて素直じゃないし八つ当たりはするわ我が儘だわそのくせ甘えたがりだし、そう言うめんどくさい人間ですよ。


 でもね。それも乙女だからしょうがないじゃない。


 そりゃあ少年だって複雑かもしれないけどさ、乙女はもっと複雑怪奇で自分でもよくわからないくらい気の揺れ動きが大きいんだから。


 でもそうやって、何だかこの所、誕生日も近いのでブルーな気分のわたしなのだった。




 何かを忘れるように、何か別の事をしようとしても、実は結構そっちに集中出来なかったりして、誠に都合が悪いんだけど、皆もテスト期間中に掃除したくなったりするでしょ。あれみたいなもんかなぁ。


 わかりもしないのに宇宙論の本を読んだりして、小学生にはレベルが高すぎるんだけど、何だか科学者がそう言う事柄にロマンを大変感じているのだけは伝わって来る。


 しかし、ある意味でこんな自分には意味がまだあまりわからない本を読んでいた方が良かったのかもしれない。


 いつもだったら、図書館とかに行って、子供向けの科学雑誌とかを借りて来て、もうちょっと理解しようとしただろうけど、今回はその本の活字をぼんやり追うだけみたいな、本好きとしては腑抜けの様な生活をしていた。


 だからか、何気に音楽に没頭しようとしたのだけど、いつもBGMにしているので、音楽だけを正座してジッと聴いたりする事も、実はわたしは苦手なのだ。


 そう言う訳で、軽い本なんかを探して、ダラダラのんびり読みながら、クリスマスが過ぎるのを待っていた気がする。


 そうして、上皇の誕生日になった日。


 わたしは今日も今日とて、ぼんやり過ごしながら、そう言えば、宿題も停滞していたなぁ、とか思いながらせめてカンタベリー・ロックのスリリングな演奏の物を聴いて、気分を変えようとしていた所に、時雨が寄って来て、頼み事をして来た。


「あのー、お嬢さま。本当にすみませんが、醤油を切らしてしまったので、買って来て頂けませんか。後で埋め合わせはしますんで」


「えー、寒いじゃん。雪は降ってないけど、この頃凄く寒いの知ってるでしょ。しょうがないなぁ、じゃあ帰ったらあったかいほうじ茶入れてくれる。それならさっさと行って来てあげるから」


「ありがとうございます、お嬢さま。ほうじ茶ですね。わかりました。それなら用意して置きます」


 とりあえずスマホを持ち、ポイントカードを渡して貰って、スーパーまで行く事にする。


 寒いので、慎重に厚着をして、マフラーと手袋を装着する完全装備でゴーだ。


 外に出ると、前からわかっていた事だけど、すっかりクリスマスムードであり、冬の天候って感じの空模様であり、もう年末でもあるからか、皆浮かれた気分でいる様な感触を持ってしまう。


 はぁ。早く帰って、今度はSFか科学の本でも読もうかなと思いながら、スーパーに入って目当ての品物を取る。


 最近は、空気に触れにくい構造で、新鮮なままで使える醤油の容器があって、凄くそんな所からも科学の面白さと凄さを感じてしまう。


 お店の中は暖房が効いてて暑いくらいなので、さっさと買い物を済ませる。


 手袋は外しているのだけど、マフラーはしたままだからだ。だって面倒なのだもの。


 そう言えば、科学者のエッセイみたいな本もあったな、なんて思い出しながら、ああ早く帰ろうと足早になって、でも周囲には気をつけながら、凍えながら帰った。


 そうして、玄関の鍵を開けて、扉を開いた時、


「ハッピーバースデー! 小春お嬢さまー!」


 と皆でお迎えしてくれていたのである。


 ?となるわたしだが、玄関には時雨と木の葉お姉ちゃん、お母さんと氷雨さんがいる。


 それから、混乱しているわたしは居間の方に押して行かれて、そこにはソーニャさんとティナさんもいる。


 マルちゃんも座って手を挙げている。飾り付けがいつの間にかしてあって、「小春ちゃん十歳の誕生日おめでとう!」などと書かれている。


「え? え? どう言う事?」


「何って、一日早いですけど、お嬢さまのお誕生日のお祝いですよ。その事考えてたんでしょう」


「まったく。ご主人が全然外に出ないから、準備が中々進まんかったぞ。上手く時雨が不在の時間を作ってくれたのを幸いに、大急ぎで我らも大わらわだったんだからな」


「え、あ。あの、ありがとう皆。わたし、クリスマスとは別に祝って貰えると思ってなくて、それで・・・・・・」


 う、と涙ぐんでしまう。


 何だか、ホントに嬉しいみたい。


「まぁ、わたしもずっと忙しくて、中々構ってやれなかったからね。ちゃんとスケジュールも合わせて、時雨さん達と相談して、今年こそはってリベンジ狙ってたのよ」


 これはお母さん。


 時雨は感激しているわたしをギュッと包み込んでくれる。


「はい。このセーター着て下さいね。わたしが一生懸命編みましたから」


 そう言って、うん似合いますと笑顔で、その青色のセーターをわたしに合わせてくれる時雨お姉さん。


 そして、まだプレゼントはありますよ、とごそごそやる。


「はい。これです。色々考えて、一番これがお嬢さまの喜ぶ物じゃないかなって、皆で相談して連名のプレゼントなんですけど」


 見ると、一万円と五千円の図書カードだ。


 な、何ともわかってらっしゃる。プロファイラーなら完璧に合格点ですよ。


 そう、辺に見繕った本をくれるよりは、こっちの方が嬉しいのよ。貰った図書カードで好きに贅沢に買い物とか一辺してみたかったし。


「どうしましたか、お嬢さま? ふるふるして」


 わたしはまた時雨に抱きついて、ありがとうぉと言って泣きじゃくる。


「さあ、クリスマスとは別に豪華な料理も私と時雨さんでご用意しましたよ、小春様。焚火様だってあまり暇な日は作れないんですし、今夜はたっぷり楽しみましょう」


 と氷雨さん。


「余からすると、ほんに可愛い幼い生き物だ。孫みたいなもんじゃし、余も今日はお酌をしてやろう。や、酒ではなくジュースでな」


 そう言い、宴の準備を進める人達。


 上着やらを脱いで席にわたしは通される。


 ぶどうジュースで皆乾杯だと言うのは、なんか最後の晩餐のパロディみたいで笑っちゃう。変な事とか起こらないでしょうね。


 そうして、わたしは世界で一番幸福な、と言うと陳腐さも臭って来るし、そう言う常套句もそんなに好きじゃないんだけども、と言ってもとにかく愛されている事を実感出来る、素晴らしく素晴らしい誕生パーティの主賓となったのでありました。


 ああ、明日はクリスマスイブだから、そのパーティもあって楽しみだ。


 そして、今年はまたいつもとは違った気分で、清々しくクリスマスを迎えられるいい年なんだなとしみじみとする。


 クリスマスプレゼントは貰えるんでしょうね、と聞いてみたら、そちらも用意されているらしいから、実に用意周到と言うか、子供心をわかってらっしゃると言った所だろうか。


 年賀状も書いたし、クリスマスもいい雰囲気で終えさせてくれそうだ。


 新しい一年は、また時雨と一緒にいられる日々で、とても期待が持てるのではないかと、密かに思って寝床に就いた日なのでした。


 ああ、ちなみにほうじ茶は食後にちゃんと出されて、一息つく事も出来たし、いい味の出方で普段とそんなに変わる訳ないのに、温かさと相まって妙に美味しく感じられたように思う。




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