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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第四部:八雲家、世界や魔族について
50/62

第50話対面。ソーニャさんとF・Fさん

 ああー。オルガン、オルガン、オルガン! カンタベリー・ロックっていいなぁ。随分、休みの間にリラックス出来た。


 あのバトルで疲れたし脅威を感じたのだけど、その後のセッティングもしてくれるって言うし、音楽聴いてたらかなり癒やされちゃった。


 最初カンタベリー・ロックを聴きまくっていたのだけど、段々オルガン・プログレとかキーボード・プログレなんかも聴いていく様になって、しまいには何だか訳がわからなくなっていたのか、それともオルガンなら何でも良くなっていたのか、ディープ・パープルとかまで聴いてしまっていて、収集つかなくなっていたけど、いいんだ。でもハード・ロックまで行っちゃうとは自分でも思わなかった。


 それで全然正確じゃない旋律を口ずさんでいたら、まふちゃんにご機嫌だねって微笑ましいよって顔をされちゃった。


 ちょっと恥ずかしかったけど、まふちゃんにならいっかなって思う。


 冴ちゃんも勿論聞いてた訳だけど、この二人はもう信頼があるので、何も問題がないのであるよ。


 そうは言ってもまだ聴きたい物はあったから、早く帰ってフュージョン系なんかも聴いていたりしたら、時雨がやって来て何やら変な顔をしている。


「あの、八雲媛子さんの申し入れとかで、カリスマさんから連絡があったんですけど・・・・・・。お嬢さま、この間何かしました? 何やら不穏な気配を感じたんですよね。ご先祖様もティナさんも一緒にって言われましたし、私も同席する事になったので、もう何が何やら」


 あー、そっか。日程が決まったのね。そこであの書斎の事は教えてくれるんだろうな。それなら、あの方とやらも判明するのかな。


 と言う訳で、わたしは時雨にこの前の一部始終を話して聞かせてあげた。そうすると、どうもあまりいい顔はしていない。う、ん。怒ってる、のかな?


「お嬢さま、危険な事はしないで下さいって言いましたよね。能力を得たからって、調子に乗ってはいけませんよ。私達はまだまだ力のない一族なんですからね。お嬢さまの安全も任されている以上、お嬢さまのやんちゃは看過出来ません。いいですか、あまり危険な誘惑にはついて行ってはいけませんよ。あまり遠くにも行かないこと。遠出をしたい時は、私に言って下さい。お供もしますから」


 あー、口うるさい説教モードだ。こんな時雨も珍しいけど、凄くめんどくさい。


 大人から叱られるのは子供の特権でもあるのかもしれないけど、こう言う判断能力もない幼稚な人間に見られるのはうんざりだ。


 まったく、時雨はわたしをそんなに駄目な女の子だと思ってるのかしら。


「聞いてるんですか。お嬢さまの為を思って言ってるんですよ。最近、小中学生でも夜出歩いたり、親が連れ回す事も多くなっていると聞きますが、ちゃんと子供の安全を守るなら、外食ばかりそうそうするものではなくて、暗くなったら家にいる様にしないといけません。お嬢さまはそんな事もなかったですけど、それ以上にスピリット能力で誰かと戦いに明け暮れるなんて、ああ! そんな物騒な事に首を突っ込むなんて、私心配で心配で仕方がありません。お嬢さま、どうしてもと言うなら、何かの時には私も一緒にいさせて下さい」


 段々、お説教が懇願になって来た。どれだけ私と離れるのが怖いのかって話だけど、それだけ子供が恋人だったら、変な人に誘拐されたり殺されないか、気が気じゃないんでしょうね。


 わたしとしては、変な人は当のわたしの恋人だけで間に合ってるから、そんな事に関わり合いになる気なんてないのだけど。


「でも出雲ちゃんの頼みなんだから、しょうがないじゃん。それに何だかソーニャさんとも関係があるみたいだから、ウチにもそんなに悪い話じゃないかもしれないよ。大体、友達の家に行って、殺されたりする訳ないよ。お婆ちゃんと戦って来たわたしが言う事じゃないかもしれないけどさ」


「ええ?! 八雲家の当主と戦って来たんですか?! そんなあわや敵対関係になる様な真似はしないで下さいよ。あっちの組織力で私達が狙われたらどうするんですか。ちゃんと話し合いで解決しないで、暴力で問題を終わらせようとする女の子になってはいけませんよ。めっ!」


 だ、だからな、なんで何故わたしがそんな風に言われないといけないのか。


 計画したのは、当のあの家の娘達なんだって。わたしは嫌々乗せられただけ。


 わたしの能力を当てにして、引き込んだあの子らに説教するならしてよ。


「もう、まだ反省してませんね。とにかく、今度の会合ではちゃんと謝らないと駄目ですよ。私も一緒にごめんなさいしてあげますからね。さあ、焚火様を起こして来て下さい。お食事を頼まれてますのでね」


 はいはい、わかりましたよ。


 用事をやってれば、時雨の機嫌も直るでしょ。わたしは絶対に悪くない。襲って来たのもお婆ちゃんだし。


 大体、わたしが信用出来ないって言うの。失礼しちゃうわね。


 まぁ、もうその事はその時に何とかなるだろうから、もういいや。時雨もそんなにマジにキレてるとかじゃないんだし。


 さ、お母さん呼びに行ったら、今度はメロトロン特集でも組むかな。




 とりあえずソーニャさんに話を通してみた。そしたら、何とソーニャさんはわたしを褒めてくれたのだ。


「ほう、それじゃあお主の能力も成長したと言う事でいいのではないか。余が思うに、そのサイコ・キラーと言う婆さんの能力は、限定的な場所でだからこそ、より強い力で戦えるタイプじゃないかな。多分、自動追尾型で、恐らくあの書斎の前から動けないって制約があるはずだよ。それを感知する力もあるみたいだから、どうやらその書斎を守る能力に全振りって訳ではなさそうだがな」


 うんうん。わかってくれる人はいるんだ。今だけソーニャさんの事、時雨より好きになってもいいよ。


「こら。そんなに擦り寄って来るでない、ご主人。ほら、ティナの目線も痛いし」


「ジー・・・・・・・・・・・・」


 ホントだ。意外とティナさんって嫉妬深いのかな。


 でもソーニャさんもそれだけ愛されて嬉しいだろう。わたしは悪い気がして、ソーニャさんから離れる。


「そうは言いますけどね。あまりご近所でトラブルを起こされたら、保護者として困るんですよ。本当に危険な秘密があったらどうするんですか。今回は問題なく終わらせられた様ですけど、あわや危ない目に合わさられる直前だったんですよ」


 まだ分からず屋が一人いる。ふん、そんなに保護者気取りでいたいって訳?


「しかしなぁ、負け戦も偶にはしておかないといかんよ。勝ってばかりでは増長するし、そう言うギリギリの状況でこそ、能力は成長するんだ」


「いけません。そんな能力を成長させる為に、みすみす危ない所に飛び込んでいくなんて。お嬢さまはご先祖様と違ってドMではないんですよ」


「誰がドMか?! 失礼な事を言うんじゃない!」


 何かこの掛け合いからは平和な感じがするけど、だからと言って、はいそうですかと言う訳にはいかない。


 せっかく吸血鬼になって、スピリット能力なんて物も使える様になったんだから、もうちょっとくらい遊ばせてくれてもいいのに。


 大体、この現代日本でそんな本気の殺し合い能力バトルなんて、漫画や小説の中だけだって。


 それにもし痴漢に襲われても撃退出来るしさ。それって冴ちゃんの力がいい例でしょ。


「マスター、結構される方が好きですし、ドMと言っても過言ではない気もしますがねー。あたしはどんなマスターも可愛いと思いますよー」


 間延びしたティナさんの癒やしボイスにちょっと納得しそうになるも、ソーニャさんはまだ抵抗する。わたしはティナさんの意見にちょっと賛成気味だ。そんなに定義が大事かな。


「いやいや、お主まで何を言う。そ、そりゃあ余もティナに可愛がられるのは好きだが、それだからと言ってマゾヒストでは断じてないぞ。ティナ相手でも痛いのはちょっとやめて、って思うし」


「ふふふー。そんな事今までもこれからもしませんから、安心してくださーい。マスターって意外と泣き虫ですから、いじめられる適応力ないですもんねー」


「ああああー。な、何故お主らは余を家長としてもっと敬わんのだ。余が全ての始まりを作ってやったのだぞ。余が能力で子供を作っていく事をしなければ、ここまで血統は・・・・・・。うっうっ」


 ホントに今度は泣いちゃった。


 最近気丈に振る舞ってたと思ったけど、やっぱり打たれ弱くはあったんだなぁ。


 ソーニャさん、でもそれなら昔の辛い時期はどう乗り切ってたんだろう。もっときつい時代だったろうに。


「ああ、泣かないで下さいよー。マスターの事大事にしてるじゃないですかー。あたしマスターには生んで貰って感謝してるんですからー。ほら、時雨さんもー。もっとご主人様に歩み寄ってあげましょうよー」


 お。思わぬ所から援護が。いいぞいいぞ、もっと言ってちょうだい。


 それにしてもソーニャさんが産んだみたいになってるけど、それだとあなた達の関係いいんですかね。


「しかし・・・・・・。ふう、お嬢さまの最近のやんちゃには頭を抱えそうになりますよ。もっと無邪気で優しい、あのツンデレなのに素直になったら、とてつもなく愛らしく可愛らしいお嬢さまはどこに行ってしまわれたんでしょうか」


 酷い言われようだ。いつだってわたしは純粋だい。


 だから夢の中では、普段にはしない様なあんな甘え方をしてるって言うのに。それはなかった事になるのですかね。


「ああ、わかっていますってば。夢では本当に人が変わったかの様にベタベタですもんねぇ。あんなのが通常でも理性が持ちませんけど、あれくらい素直なのがデフォルトでも困らないと思うのですけど」


「だからわたしはいつだって素直ですよ。ちょっと反発心が強いだけなんだから。それはでも反抗期だったら当然でしょ」


 ハッとわたしの言葉が思いも寄らなかったのか、とてつもなく驚いている。


「反抗期? お嬢さまが? 冷静で賢いお嬢さまにまさか。で、ですが、それの向かう先が私だと言うのは名誉な事なのでは? そ、そうです。これもツンデレの一種! 私がもっとお嬢さまを優しく色々な道に導いてあげればいいのです! さあ、お嬢さま、手と手を取り合って共に向かいましょう!」


 何だろうか、この変な方向の立ち直り方は。


 で、でも、これは有耶無耶になったのかな。わたし、もう叱られないで済むって事?


「スピリットを鍛えるなら、ご先祖様にもっと手伝って貰いましょう。ティナさんも一緒がいいですね。私も共に強くなります。だから変な場所で修行は厳禁です」


 あれ、どう言う事。


 それって無闇にあちこちでトラブル起こすなって、そう釘を刺されてる訳ですか。


 と言うとつまり、わたしがそんな問題児だと思われてる? そ、それは許せない気がするなぁ。


「ふん、勝手にすれば。わたしはまだ時雨を許してないし!」


「あれ? お嬢さまー、何怒ってるんですか。私はお嬢さまの為を思ってですね・・・・・・」


「まぁ、いつでも修行の手伝いはしてやるぞ。余もそろそろティナも鍛えたいと思っておったしな」


 もう知らない。しばらくわたしはこの態度を貫くんだから。


 ソーニャさんもそんな簡単に請け合って、時雨にいいようにされても知らないんだから。


 まぁ、そう言う訳であまり話も纏まる事もなく、一応用件は伝わったので、後は予定の日が来るのを待つだけだったりするので、その間はこうして置こうかな。




 予定の日が来た。こちらで赴くのは、わたし・時雨・ソーニャさん・ティナさん、とこの四人。


 向こうは、出雲ちゃん・調ちゃん・乙音ちゃん・お婆ちゃん・謎の人、と五人だとか。


 どんな話し合いになるのか、よくわかってないけど、これからの街の魔族での付き合いとか、そう言うのの為のものだって聞いてる。だからソーニャさんが必要なんでしょう。


 とりあえず今日は、お母さんの車を借りて、時雨に運転して貰い、出雲ちゃんの家まで行く。


 向こうが迎えに行くって申し出てくれたんだけど、流石にそれは断って自分達で行く事にした。


 時雨が運転するので、実はわたしが助手席に座っていた。なんかこれってパートナーって感じじゃないかな。


 ソーニャさん達も車に初めて乗るので、少しだけはしゃいでいた様な気もする。


 家に着いたら、駐車場に駐めさせて貰って、家の中に案内して頂く。それでどこで会談をやるのかと思ったら、いつぞやの書斎の前に来た。


 何とも身構えてしまう場所だ。ちょっとトラウマとまでは行かないけど、怖い気持ちなんだよね。少し暗いし。


「ほほほ。怖がる事はないよ。今日はこの奥に案内するからね」


 そう言って声の方を見ると、出雲ちゃんのお婆ちゃんを筆頭に皆揃っていた。


 ああ、承認されたら、中に入れてくれる仕組みなんだね。そうじゃないと、誰でもかんでも攻撃しちゃうもん。


「何やらわたくしにも美味しい話があるとかで、わたくし楽しみにしてるんですの。お姉さまも期待していて下さいませ」


 そんな都合のいい話がホイホイあるのかな。


 まぁ、お婆ちゃんを信用しておこうかな。ソーニャさんを連れて来いって言ってる時点で、そりゃあ何かはあるだろうし。


 書斎に入ると、ある場所に鍵を差し込んで、奥に続く扉が開ける。そこから先には地下室へと通じる階段があるんだとか。


 灯が結構明るい階段を降りていくと、そこには広い住居の様な部屋があった。


 それはそれは広いってほどでもないかもしれないけど、少なくともわたしの部屋よりは広い。流石、お金持ち。


「おう、来たか。待っておったぞ」


 何やら声がするので見ると、そこには少女。全体的に異様に白い。


 わたしのメッシュなんて比較にならないくらい、色素が抜けているかの様に白い。それを見たソーニャさんは、目を見開く。


「お、お前?! 何故、お主がここにおる? フィンガープリント・ファイル」


「おうおう、久しぶりじゃのに、何とも面白い反応をしよるなぁ、魔族の娘っ子よ。それと妾の事は、F・Fと呼べと言ってあったはずじゃがのう」


 ソーニャさんを娘さん呼ばわりである。暫し睨み合う二人を見据えて、媛子さんはパンパンと手を打ち合わせる。


「はいはい。積もる話は後でやっとくれ。いつでも会わせてやるからね。今日は、いい提案をF・Fがしてくれるそうだよ」


 いい提案? わたしと時雨は顔を見合わせる。何だろう。


「うむうむ。とりあえず座ってくれ。ソーニャにも希望が灯るものだと思うがの」


 ほう、とニヤリとするソーニャさん。


 あ、なんかちょっとこっちの味方として頼もしい気がして来た。そう言う威厳みたいなの出せたんだ。


「よし、座ったね。恐らく、そちらのアストラルさんとウチの一族は、同じ悩みを抱えている事と思う」


 同じ悩みとはなんぞや。わたしは首を傾げるが、皆は理解しているらしい。


「それは当然の理だしな。余は絶大な力を手に入れたが、血が薄れていけば力が弱まるのも無理はない。スピリットは個人的な能力だし。それに初めは余の力を眷属達に貸し与える事も出来ていたが、それもままならんようになって、普通の生殖も行わないといかんようになったしの。これから余の力が振るえるのが、本当に喜ばしく解放感に充ち満ちている所だよ」


「とにかく、一族で力が弱まっているんだね。それで、だ。儂らの家系は、このF・Fの様々なアドバイスと力で、結構な恩恵を受けて来たのだよ。それも力だけに止まらずね。だが、虚実機関もあまり根回しが出来んと見えて、ウチの使用人になっているカトレアみたいなフリーも出て来る訳じゃ」


 ふむ、襲われる危険もあるって事ね。魔族だから、聖職者はやっぱり敵でしょうよ。


「勿論、この国の仏教はそこまで儂らを敵対視しておる訳ではないが、海外からも目をつけて来る輩もおる訳でな。地域の連携をしようと提案なんじゃ」


「なるほど、確かに余は、この国の僧侶なんかとは共闘した事もあるわい。今は余も会員制のネットサイトで、魔族の連携コミュニティでも立ち上げようかと思っておった所じゃし、それの手始めにローカルでコミュニティ文化を強化しても良いな」


 ははあ。ちゃんと連絡網とか作って、危険の対処を皆でしようってのね。


「じゃが、儂らは力が弱い。アストラルさんも子孫はまだまだ頼りにならんのじゃないかな」


「そうじゃな。変に覚醒したご主人、ごほん、小春は置いておくにしても、時雨はパワーアップを施しても、魔力の点からして貧弱だしのう」


 そっか。時雨はスピリットも使いこなしにくい物だし、魔力もわたしよりも弱いもんね。何とかしてあげたいけど・・・・・・何とか出来るんだろうか。


「そこでじゃ。このF・Fのやり方で、もう一度力を与えられる、と言うんじゃ。そうすれば、力は爆発的に高まるし、それだけ自分らの身も守りやすくなる。で、お主にはそれのサポートをして貰いたいんじゃ」


「サポート?」


「そう。出雲もお宅の時雨さんも、暴走せんとも限らん。一気に黒い魔力が流れて来るんだからな。それを何とかコントロールする手助けをして欲しいんじゃ」


 へー。それって時雨が凄く頼もしくなるって事か。


 ちょっとわたしは、セクシーな夢の中の一時的に着てた時雨の吸血鬼スタイルを想像する。


「ふむ。余なら、それを可能にする、精神と魔力の波長を呑み込まれるんように調整する薬なんかも作れるが。うむ。それなら余の回復も早まる、か」


「いい事づくめだろう。それで、もう一つは、この街の巡回パトロールの様な役目を、お前さんの何って言ったか、能力でやってはくれんか。この前の運動会では目を瞠ったんでな」


 ああー、あの撮影に使ったパペッツの使い道って、そっち方面にも確かに使えるか。


「はあ。そりゃあ出来るが、面倒だなぁ。どれ、自動化して怪しい者を検知したら、こちらに知らせるシステムでもいいなら、そう言う任務は引き受けるが」


「ああ、それでいいよ。それなら、ウチもそちらへ、魔術書なんかの類の文献も貸してやれるんだが、どうかな」


 え、ええ。な、なにそれ。そんな本があるなら、読みたい!読みたい!読みたい!


「おいおい、そう興奮するな、ご主人。その辺の本は哲学書を読むみたいに根気もいるし、あまり面白いもんではないぞ。教科書なんだからな」


 でもでも、結構勉強以外の時に読む教科書って面白いよ。教本になる類の本も、幾つも楽しめる本はあるんだし。


「ほほう、そちらはそんなに書物に興味を持つ子なのかい。出雲とは大違いだねぇ。ああ、それでこの前から出雲が本を読むようになって、おかしいなと思っていたら、そちらさんの影響かい」


「お婆さま。そんな恥ずかしい話はいいですわ。お姉さまはわたくしの尊敬する、気高き賢者なんですのよ」


 幾らなんでも持ち上げすぎです、出雲さん。わたし本が好きなだけで、別に賢い訳じゃない。


 だから自分では文学少女とは名乗らないし、それを標榜するのも抵抗があるのに。そう、わたしは本が好きな読書オタなだけ。


 読む本に偏りはあるし、学びの本ばかりなんて、とても息が詰まる。でも学びになるけど、楽しめる本なら大歓迎。そんな女の子なんだから。


「えーっと、お婆さま。とりあえず話を聞いていれば、わたくしの吸血鬼としての才能を押し上げてくれる、そう言う事ですの? それならスピリット能力も少し強く出来やすいと思うのですが」


 ああ、と媛子さんは頷く。


 何気に出雲ちゃん相手でも鋭い眼光は崩さない。この人、かなり修羅場も潜って来ているようだ。


「そうだね。その暴走をしない為に、そちらのお年寄りに監督して貰う事になるがね。ちょうどそちらの時雨さんも見るんだから、同じ事だろう」


 うーん、と何か調ちゃんが面白くなさそうな顔をしている。


「ねえ、婆ちゃん。あ、いや、お婆さま。それって結局、出雲に跡目は継がせるって事? ボクじゃ駄目って言いたい訳。血の薄さはこっちの方が弱いだろうし」


 ふむ、とそうだなと媛子さん。


「ああ、そう言えばそっちも可能性は宿していたな。よし、じゃあ調や。お前さんも吸血鬼になってみるかい。乙音も一緒に」


 お、と乗り出す調ちゃん。う、と尻込みする乙音ちゃん。二人して反応が違いすぎる。


「お、いいね。ボク、乗った。強くしてよ。何にせよ、知力だけじゃなくて力もいるからね」


「わたしはいいですよぉ。そんなの怖いもん。調ちゃんだって、ホントに大丈夫かどうか」


「なに言ってるんだよ。じゃあ、ボクだけやればいいよ。乙音には、ちと負担が大きすぎるからね。でも安心するんだよ。ボクが乙音をもっとでっかい所に連れて行く」


 頼もしい発言をする調ちゃん。でも乙音ちゃんは少し引いてる感じだ。


 そんなに上目指したりしないでもいいのに、と思っているのだろう。


 わたしもそれは同感なのだけど、それは調ちゃんの問題だから、調ちゃんの思うがままするのがいいのかもしれない。


「じゃ、じゃあ。ご先祖様。私ももっとお嬢さまをお守りするのに、それが万全になるって事ですよね。お嬢さまの敵は全て排除する、と言う様な」


「まぁ、小春ご主人はそんなのなくても、充分強いが。ああ、でもお主の吸血鬼パワーが強まれば、ご主人も自ずと更に力が増すのは確かだろう」


 何と。わたしにもメリットがあるの?


 これ以上、変な衝動が強まったら困るけど、時雨と一緒になれるのは嬉しい。それだけ一心同体で魂が繋がってるんだし。


「とりあえず、出雲はおつむが弱いのもあるし、当初相談されてた様に、調もちゃんと当主の為の訓練を受けたり、勉学に励むのなら、道は閉ざさないよ。出雲も。しっかりその当主をサポート出来るくらいには、せめて成長して欲しいね」


 ふふん、と胸を反らす調ちゃん。対して、やはり不満気な出雲ちゃん。


「任せてよ。ボクの偉大さを世間に知らしめてやるよ」


「何故わたくしが駄目な子扱いですの?! わたくしはやれば出来る子なのですわ。そう、お姉さまがそれはもう手取り足取り色々な事を教えて下されば、メキメキあらゆる事が上達しますのに」


 まぁ、確かにこの前の試験では結果は出た、か。


 え? それじゃあ、わたしは出雲ちゃんのお守りをさせられるの? なんか、めんどくさい。


 それじゃあ、わたしの時間が減っちゃうじゃない。わたしもこれから勉強も頑張らないといけないのに。


 わたしの冷たい眼差しを見て、出雲ちゃんが泣き声をあげる。


「そ、そんな冷たい視線をくれなくてもいいではありませんか、お姉さま。わ、わたくし、迷惑になる事はいたしませんわ。ただ、ちょーっとご褒美を頂けたら、それだけで頑張れるのですわ。猪突猛進致しますわよ!」


 それじゃあ駄目ではないかな。


 でも、それだけわたしに気を遣ってくれるなら、時々は面倒を見てもいいけど、それにしても気は乗らないのである。


 ご褒美とかどうでもよくなっちゃいそうだし。・・・・・・まふちゃん達に丸投げしちゃいけないよねぇ。


「ご主人。なんだか本性が垣間見える感じだぞ。ダダ漏れだ。もうちょっと優しくしてもバチは当たらんぞ。色んなおなごを可愛がるのも女王の務めなのだからな」


 まるでして来た様に言う。ソーニャさんみたいなヘタレに、そんな事が出来ると思わないけど。


「あー、大丈夫です。マスターはきっと、沢山の女の人に可愛がられてたんですね。マスター、こう言うのって総受けって言うんでしたよねー」


「ば、馬鹿っ! 何故、お前はそんな威厳を損なう様な事を言う。よ、余はなぁ。ホントはもっと厳めしい君主になりたかったわい。でも、でもなぁ。余は本来、気弱なんじゃい。それを強がって何が悪い。暴露をするでない」


 あーよしよしー、ってな具合にティナさんに宥められながら、涙目になっているソーニャさん。


 まぁ、あの二人はほっといてもラブラブだし問題ないでしょう。出雲ちゃんの方を見ると、おねがい!と言うポーズをしている。手を縦にするアレだ。


「おほん。まぁ、そう言う訳で、順を追ってF・Fにあれこれやって貰うとしようじゃないか。なあ、F・Fよ」


「そうじゃな。妾はいつでも構わんぞ。そちらにも準備があるだろうしな。所で媛子は強化せんでええのか?」


 ハッと笑う媛子さん。微妙に嘲笑が混じっている気がする。


「何故儂が今更そんな事して貰わにゃならんのさ。儂は今のままで、ずっと戦って来たよ。それでやり方を心得ている。充分満足さ。孫達にはそう言う事を押しつけたくないだけさね。儂は後は、ゆっくり出来るように、後見を育成したいってだけよ」


 なるほど。もう今パワーアップして貰っても、別に何がしたい訳でもないから、か。


 そう考えたら、結構しんどかったんだろうなと思うけど、それはそれで八雲家の歴史は重い。


「余もアイテムなんかを準備するわい。ティナにも手伝わせてな。時雨、お主はもうちょっと小春に色々肩代わりして貰った方がいいかもしれんから、繋がりを弄らせて貰うぞ」


 ふんふん。わたしってば、かなり必要とされてるじゃない。でも時雨はどこか変な態度だ。


「でもあまりお嬢さまに迷惑掛けたくないですし。それに本来なら、私がお嬢さまを楽にして差し上げる番なのに」


「ええい。うじうじしてるでない。小春の方が力がある。だから小春の力を分ける。これで何が問題があるか。そうだろう、小春」


「え? そうだね、まぁそうだ。わたしが役に立てる事があるなら、そうさせてよ。困った事になったら、また時雨の力も借りるしさ」


 うぅぅーと涙を流す時雨お姉さん。この涙もろさは先祖由来だったりするかもしれない。


「お嬢さま~! 私はお嬢さまを主人に持てて、パートナーにして頂いて、本当にありがたいし喜ばしいですー。一生、お嬢さまの事考えて生きていきます! お世話も一生します!」


 うん、いきなり重たい発言頂きました。


 でも、それは心地良い重さで、嫌な気にはならない。わたしも大概、めんどくさい人間だしね。


 そう言う訳で、その後媛子さんとソーニャさんは、地域の連携の話なんかをしていて、それからお開きになった。


 パワーアップも後日ちゃんとしましたとさ。


 色々、わたしも時雨に力を貸しましたよ、ええ。


 何をしたのか、良くわかってない内に、ソーニャさんがパパッとやっちゃったのだけどね。




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