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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第三部:魔族的生活のスタート
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第42話出雲ちゃんと調ちゃん、勝負する

「お姉さま~! 助けて下さいましー!」


 またこのパターン? なんかデジャブなんだけど。今度は何だ、出雲くんよ。


「また調が突っかかって来て、今度は次のテストで勝負する事になったんですわ。でも、ですね。お姉さまはわたくしの頭が残念な事、ご存知ですわよね?」


 何でそんな事に。うん・・・・・・まぁ、ね。


 出雲ちゃんは勉強が得意ではないし、何なら知的な活動自体を嫌ってる節がある。最近は、少しずつ読書の楽しみも覚えていけそうかと思っていたけど、そうかその前に最大の難関は学校の勉強か。


 いや、とか言うわたしも別に得意な訳ではないのだけど。


「大体、授業中なんて上の空ですし、帰ったら宿題なんて放り出して自分の好きな事してますし、何の役に立つと言いますの。お婆様はやれ八雲家の将来の為に、知識はたっぷり身につけておけだなんて言いますが、そんな事しなくてもわたくしの特性を活かす何かがあるはずですわよね。そう思いません? お姉さま」


 ちょっと待って。随分と飛躍がある様だけど、ホントにそれで大丈夫なの。


「いやいや、そうは言っても、勉強しておく事で選択肢は増えるし、やりたい事が何かあるなら、最低限その為の試験相応の基礎学力は必要だよ。出雲ちゃんの家だって、出雲ちゃんの代で駄目になったら嫌でしょ。だから勉強は最低限のラインはやろうよ。って言うか君、授業さえもまともに聞いてなかったんかい。そこはクリアしなさいよ」


 どうも説教臭かったかな。


 出雲ちゃんは、お姉さまは老成し過ぎですわ、そんなに先の事ばかり考えたって、などとブーってな顔をしているが、ああとまた呻いて、確かにお姉さまの言う通りの危惧は持っていなくてはいけませんね、とぼそりと言う。


 どうしたのだろう、そんな気配じゃなかったけど。


「だって調が、出雲みたいなあんぽんたんじゃなくて、ボクが八雲家の仕事を引き継いで、下克上を果たして立派に天下を取ってやるんだ、なんて言うんですものー! ムキーですわ! わたくしにはまるで何も出来ないかの様な口ぶり。ええ、ええ。お姉さまにも言われて目が覚めました。この出雲、やってやりますわ! その為にお姉さま、わたくしにご指導下さいませ!」


 そんな出雲ちゃんはギュッとわたしの手を握って、かなり真剣な瞳で見つめて来る。何気にこう言ううるうるした視線にわたしって弱いのかも。


 どうにか力になってあげたい気持ちになってしまう。と言うかあんぽんたんって響きにわたしは惹かれてしまう。


 調ちゃんナイスと言ってはいけないのだろうか。某奇書の主人公くんを思い出してしまうじゃないか。


「手を貸してあげたら? わたしも手伝うし、今日からハルちゃんの家でちょっと皆で頑張ってみようよ。わたし達も勉強はしないといけないしさ」


 優秀なまふちゃんが一緒なら、まぁ力強いんだけど、でもわたしも最低限の勉強はちょこちょこでいいから、もう少しやっておかないといけないかもしれない。


 漢字の読みなんかは読書のおかげでかなり強いけど、書き取りなんかは現代ではますます皆もそうだけど苦手だもんね。


 って言うか、出雲ちゃんのを見て教える事で、逆にわたしの学びにもなるだろうし、ある意味でいい事ではあるのか。


「ね、決まり。良かったね、出雲ちゃん。わたしの彼女の気持ちが動いた事に、大いに感謝するがいい」


「くぅー。流石はお姉さま、肝の据わりが違いますわ。真冬先輩の言動には、少し引っ掛かりますが、今はそんな事より勉強しなくてはです。燃えますわよー!」


 いや、そこまで熱血ぶらなくていいから。


 ほどほどに平均点くらい取れる様に、まずは目指さないとしんどいよ。わたしらと違って、君は基礎も覚束ないんでしょうに。




 いつものようにわたしの家で集合になった。各自、勉強道具を持って来る事。


 とりあえず今日は自分達だけで教え合う事にして、時雨の手は患わせないで、時雨はメイドの仕事だけに集中すればいいように、と決めてある。


 さて、出雲ちゃんはどの教科も苦手らしく、社会科とかはどう言う所を覚えたらいいかとかを重点的に、国語はまずは読みをちゃんと出来るように、例文を参考にしながら、順番にやっていく方法を取った。


 漢字の書き取りは、もう一朝一夕で身につく訳でもないし、練習したりして頑張って下さい。


 そうして一生懸命書けば、割と短時間でも覚えられるかもよ。


 理科は結構難しいし、ちょっと後回し。


 算数も難しくなって来る頃なので、わたしもちょっと身を入れてやっているんだけど、中々順風満帆にはいかないし、わたしも復習にちょうどいいからと、結構気合い入れて教えていた。


 割とすすっと次々習う事が増えていって、前に習った事が理解出来てないと早々に躓く罠もあるので、こう言う基礎的な力の積み重ねが必要な学びって、結構修行とか鍛錬みたいで、力がついていけば楽しくなっていくけど、そこまでいくのに中々大変なのよね。


 出雲ちゃんは苦手意識はある様だけど、そこまで何もかも拒否する様なタイプでもないし、そつなくこなす力量はあるみたいで、意外と(失礼か)飲み込みは早かった。


 なので、二時間くらいやってから、休憩しながらわたしはまふちゃんと出雲ちゃんがまだやっているのを眺めていた。


 隣に時雨が座っていて、お疲れ様と言ってくれるので、わたしは少し魔が差して、時雨の膝をすりすりと撫で回してしまう。


 どうもストレスが溜まっているのかもしれない。慣れない教える行為が案外疲れたのかも。エロい子供もいるんですよ。


「お、お嬢さま?! くすぐったいですよぉ。一体、何ですか? 無言ですりすりされたら困ります」


 そうは言うものの、やっぱり柔らかい体に触るのは快感だもの。


 だから返事はする事にして、すりすり撫で撫ではやめないわたし。


「だって、子供って悲しいと思わない? そんな欲望が出て来ても、エッチな事するのは禁止されてるんだから、せめて大人のセーフラインな所くらい、ちょっとはストレス解消に撫で回してもいいでしょう」


 うーむ、我ながら何とも適当で勝手な言い分。


 しかし時雨は恥ずかしがりながらも、嫌がっているのではないのだ。わたしにはわかる、うん。


「そ、そうですか。それならそんな事しなくても、ぎゅーっとしてあげますのに。その方が膝をさするより、効果的ではないですか?」


 そ、そうか。時雨さん、天才。そうすれば、合法的に胸に顔を埋められるんだもんね。


「じゃあ、それ採用する。ほら、してよ。ね?」


 ちょっと上目遣いをしながら、手を広げて早く早くとお願いしてみる。


 そうすると、時雨は何とも幸せそうな表情で、わたしの事を熱っぽく見てから、わたしを包み込む。


 ちょっとあなたの表情の方がエロい気がするのだけど、大丈夫ですかわたしの理性。


 ふわっと香りもして、メイド服に包まれた体がわたしを色々な意味で包む。


 息苦しくなるくらい、わたしはギュッと抱きついて、時雨を離すまいと必死に愛を伝えようとする。


 時雨もわかってくれているみたいで、わたしを優しく抱き締めながら、頭をそれはもう国宝を触るくらいの大事さで撫でてくれるから、わたしは最高の気分。


 ああ、こんな風に甘やかされるのは、子供だからの特権なのか。


 いや、でも大人になっても、こんな感じの事して欲しい。時雨ならしてくれるかな?


 いや、きっとするねこの人は。わたしがお願いさえ出来ればだけど。


 そうしてまた悪い気持ちがむくむくと起こって来たので、すっと胸に手をやってしまう。そうしたら、時雨が可愛い悲鳴をあげた。


「ひゃっ?! お、お嬢さまぁ、また不意打ちなんて酷いですよぉ。もう、エッチなんですからぁ」


 不意打ちじゃなければいいのだろうか。


 結構、許されそうな気がして来たので、これからはお願いしてから触ってみようか。まぁ、その時の気分だと思うけど。


 そうしていたら、出雲ちゃんが不満の声を上げるので、そうだったと我に返った。


「あー、お姉さま。わたくし達が頑張っている時に、休憩どころか、よりによってイチャつくなんて。駄目ですわよ。わたくしだってお姉さまにご褒美を色々貰いたいのを我慢してますのに。そりゃあお姉さまみたいな優秀な人は、そんなに頑張る必要はないかもしれませんけれど」


「そんな事言って、ハルちゃんもそんなに成績がいい訳じゃないんだよ、出雲ちゃん。ほら、わたしが慰めてあげるから、それで許してあげて。ハルちゃんにも癒やしが必要なんだよ。人目を気にする事を覚えて欲しいけどね」


 よしよしと出雲ちゃんに優しくするまふちゃん。あー、いいなぁ。


「真冬先輩、優しいんですのね。グスン。わたくし、勉強頑張りますわ」


「うんうん。わたしは結構気配りは出来る方だと思うから、いつでも頼ってね。ハルちゃんはその点、融通も利かないし、頑固だから大変だよ」


 なんかえらい言われようだ。


 しかし、確かに目に毒みたいな光景をお見せしてしまったかもしれない。


 こりゃあ、出雲ちゃんがそれなりの成績取った暁には、何かご褒美を考えてあげなくちゃいけないけど、そう簡単に毎回キスする訳にもいかないし、わたしご褒美なんてそんなにあれこれ思いつかないよ、ホントに。


「さあ、もう少ししたらゆっくりなさっては如何ですか。今日は泊まりと言う話でしたので、ご夕食の準備をしますね。それまで頑張って下さい。お嬢さまも、ですよ」


 ウインクしてわたしに釘を刺す時雨。


 そ、そんなにわたしがサボり魔みたいな性格と思ってるのだろうか。


 そりゃあ、隙を見れば本を読む事しか考えてない節もないとは言えないし、好きな分野以外の勉強はそんなに意欲的にやりたいとは思ってないけどさ。


 とりあえずわたしもノートを広げて勉強して、出雲ちゃんへの指導にもまふちゃん任せにせず加わる事にする。


 うん、わかってますよ。メリハリをつけて、やる時はやる。そのオンオフのスイッチが大事なんだよね。


 さ、やるぞー。出雲ちゃんも覚悟するんだね。




 数日間三人で、時には冴ちゃんも交えて勉強会をやった甲斐があって、わたし達も割と成果は上がった気がする。


 まふちゃんには、これを機にハルちゃんももっと勉強の方にも身を入れなくちゃね、なんて言われたから、本気でこれからどうするか考えなくちゃいけないのかも。


 今まで通りの読書生活を捨てる気なんて、勿論更々ないのだけど。


 そして、テストが返却されてから、出雲ちゃんがやって来た。悔しそうなので、駄目だったのかな。


「むきー。わたくし頑張りましたのに! お姉さま、聞いて下さいな。わたくし、ちゃんと八十点も取れたのですわよ。それも全教科。これでお婆様にもお爺様にも、わたくしが無力ではないのが証明出来ると言う話ですのに」


 それなら何がそんなに気に入らないんだろう。目標はクリアしたって事でいいんだよね。


「そうじゃありませんわ、お姉さま。発端をお忘れですの? 調ですわよ、調。あの女、言うに事かいて、へえ出雲がそんな点取れるなんて珍しいじゃないか。やっぱり姐さんの力が大きかったんだろうな。ふふん、見るがいい。ボクはこれだ全部九十五点以上。満点三つ。ですって! うー! あの女がとてつもなく優秀なのはわかってましたけど、これほどとは今まで知りませんでしたのよ」


 ああ、そう言う話だったんだっけ。


 しかし、そうか。調ちゃんはそんなに出来る子なのか。そんな子がどうしてわたしを慕うのか、まずますわからない。


 でも残念だったね、出雲ちゃんは。


「そんなのお姉さまが素晴らしすぎるからに決まってますわ。それはそうと、こんな風に挑発するんですのよ。ボクが勝ったんだから、ボクの方が八雲家の後継者に相応しいよね。出雲、お前はこれから先、どんどん苦しくなるだろうから、早めに跡取りの道を諦めるんだな。とか言うんですの。確かにわたくしは、後継ぎになる気は実は元々ないんですが、それにしてもあの自分の方がって言う自己顕示欲! きー! わたくし、あれがムカついて仕方がないんですわ。わたくしも何か将来を考えなければいけませんが、調に負けるのだけは許せませんの」


 うーん、別に出雲ちゃんが後継者にならないんだったら、調ちゃんが継いでも問題はなさそうだけど。それとも本家と分家で何やらあるんだろうか。


 と言うか、それ以上に出雲ちゃんは調ちゃんに対するライバル意識が強すぎるようだった。


 それじゃ、それほどまでにバチバチやるのもしょうがないのかな?


 でもこの間、もう少し仲良くするって約束したばかりなのに、この二人はもうこう言う間柄だと思って置いて、扱いを上手くやるしかないのかもしれないな。


 それにしても皆、何かわたしを買い被りすぎじゃないだろうか。


 大体、出雲ちゃんはわたしの事をお姉さまと呼ぶけど、姉妹関係らしい事は実際何もしてない。


 スールってもっとなんかこう、色々あるでしょ。有名な話にもなってるくらいなんだし。


 でもそんなお姉さまにはなれそうにもないし、そう言う意味合いで出雲ちゃんを妹とも思ってないんだよね。


 大体、調ちゃんはもっと何か身の振り方があるだろうに、わざわざ取るに足らないわたしに寄って来て、どう言うつもりなんだか。


 でもそうすると、出雲ちゃんとはまぁなんか特殊な先輩後輩って考えてりゃいいかもね。


 呼び方が別の関係性に近いってだけで、わたし達は仲良しだろうけど、それ以上かどうかは自信ないし。


 大体、わたしには既に思い人が二人もいるんだから、これ以上増えるのは誠実じゃない気もするし。


 でも出雲ちゃんを蔑ろにもしたくないわたしがいる。


 だから姉妹関係ではあっても、それ以上は上手く避けるだけじゃなくて、この先何かケジメはつけなくちゃいけないかもしれない。


 何にせよ、もうちょっと真面目に勉強もしないといけないみたいだ。わたしも出雲ちゃんもお互いに。


 わたしは、そうだ。時雨をもっと頼ろうと思ってるので、そこは大人のお姉さんとして頼りにしたい。


 何だか一気にあれこれ考えなきゃいけなくて、どっと疲れてしまった。


 だからちょっと変わった本を読もうと、双子のぼくらが作文の練習にあれこれ嘘だろう事も交えながら綴っていく、そんな外国文学を読むのだった。


 よし、今日からはこの三部作を読もうかな、と思っていそいそと最初の作品に取りかかるのだった。


 ああ、勉強はまた今度になりそうだな。


 あ、また今思い出したけど、ご褒美は有耶無耶になっちゃったな。


 何か、いい本でも見繕ってプレゼントしてあげるか。漫画もセットにするのを忘れずに。




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