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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第一部:小春と時雨の関係の始まり
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第4話吸血鬼としてどうなってるの?

 撮影をしなくなった。何がって朝寝てる時にね。でも、わたしが目覚まし鳴ってうとうとしてたら、お嬢さまと言って、確かにそこにはハートマークが踊っている様な口ぶりで、ジッと見守っているのだ。


 そして、わたしが目覚めるとカーテンをサッと開ける。この度にわたしは時雨が少し心配になってしまうのだけど、常時昼間は能力が発動するくらい慣れているのだろう。


 能力を使いこなすのってそんなもんなのかと思うけど、きっと色々苦労して支障がないようにまでなったんだと思うようにした。


 そこでわたしは昨日の事を引きずらない為に、昨日の脱衣所で気づいた事を聞いてみる事にした。


「ねえ、アンタどうして鏡に映ってるの?」


 何気にない問いに、ほほうそこに気づきましたかと、何だか面白い顔をする時雨。微妙にそれが誇りだったりするのかな。


「確か吸血鬼って鏡に映らないのよね。それとも昔の漫画であったみたいに、バレないように映ってるフリとか出来るの。それからニンニクとか十字架は大丈夫なんでしょうね。前読んでた漫画で、カレーのルーにニンニクが入ってるから駄目だってあったけど、あんな風にカレーが作れないなんて嫌だからね」


 怒濤のわたしの質問に、頬に手を当てて、聡明な方は色々気づかれるのですね、と何故かうっとりする。わたしにはこいつのどこが萌えポイントなのか、ホントにわかんない。


「どこから答えればいいでしょうか。まず十字架もニンニクも大丈夫ですから、カレーも辛いラーメンとかもいけますよ。ええ、それは美味しいカレーを作って差し上げましょう」


 ふんふん。カレーが食べられないなんて事はなくて、安心した。子供がカレー禁止なんて言われたら、皆ショックを受けるでしょ。


「それから、鏡に映る話なんですけど、あれってどこら辺まで迷信かどうか、わたしも知らないんですよ。もっと血が濃い吸血鬼ならそうなのかもしれませんが、わたしは大昔の先祖がそうだったって伝わってるくらいなんで、充分バッチリと映っちゃいますよ。だから、お嬢さまとツーショットだっていつでもオッケーです」


 いや、アンタと一緒に写真撮る機会なんて今はないと思うけどさ。そんな伝承っていい加減なものなんだろうか。


「恐らく、昔の吸血鬼は生き物ではなかった為にそう言う発想になったんでしょう。そして、事実そうだったのかもしれません。しかし、人間と血が混じって、生き物としても存在するようになってからは、光を反射させてる訳ですし、物体がその肉体を映さないなんて事はないと思うんですよね。後、血を吸ってもお嬢さまが吸血鬼になる心配もないですよ♪」


 ああそうなのか。なら安心だ。って今までその懸念をする余裕はなかったけど、だからあんなにラフに吸おうとしていたのか。


 でもね、♪、じゃないよ全く。それにそんなにわたしの血って美味しいのかな。


 食生活は乱れてないと思うし、脂っぽい物ばかりは取ってないし、まぁチョコとかは好きだし、煎餅とかチップスなんかも食べるけど、多分わたしは健康的だと思う。だから、そんなに時雨の口を引きつけてしまうのか。


「お嬢さま、吸血鬼の事そんなに知りたいんですか? ハッ! もしや、私にそれほどまで興味が出て来たんですか? それはとても嬉しゅうございます!」


 ああもう、どうしてそうポジティブな方にばっかり解釈するのかな。ううん、勿論アンタに興味はあると言えばあるけど、それは興味本位とか心配でとかなんだから。別に好きだから、その相手をもっと知りたいとかじゃないったら。


「もー、お嬢さまったら。照れちゃってー」


「照れてない! 吸血鬼なんて見た事なんてなかったんだから、どんなのかって気になるのは当然でしょ。ただ興味本位って言っても、動物園に見に行ったりする感覚じゃないから。これから一緒に暮らしていくんだし、お互いの事よく知らないといけないでしょ。それだけ!」


 ニコニコニタニタ、もう嫌なくらい満面の笑みを浮かべているなぁ。そんなにわたしが自分の事に食いついてるのが嬉しいんだな。


 まぁ、尻尾を振ってる犬とでも思えば、ちょっとはマシなのかな。わたし、猫はそんなに好きじゃないけど、犬は言う事聞くように躾けたりも出来るし好きなんだよね。いや、でもこいつは言う事なんて聞くだろうか。


 何だかそれで気分がモヤモヤして来たので、それとは関係ないけど、眼鏡を外して拭いてからまた掛ける。どうも調子狂うなぁ。ほら、またなんかキラキラした顔だよ。


「お嬢さま、眼鏡の手入れしてるの、素敵です。こんなに手つき一つ取って見ても可愛いなんて。流石、少女の煌めきはどの瞬間を切り取っても輝いてますね! それにとてもお優しい性格がそれを後押ししています!」


 偉い人に会って話をする昔の人じゃないんだから、そんなに何でもかんでも興奮しないで欲しいんだけど。


 って言うか、子供と接する機会がなかったから、それで珍しくて悶えてるだけなんじゃないの。


「いえいえ、そんな事はありませんよ。お嬢さまだからこそ、めちゃんこ尊いのです! やはりメイドたる者、仕える相手には敬意を払いませんと」


「アンタのは、敬意じゃなくて変態的視線なの! 敬意があるんなら、もっとわたしを尊重しなさいよ」


 心外な、と距離を詰めて来る。いやだから、近いってば!


「私がお嬢さまを敬っていないとでも? お嬢さまのお世話なら、どんな困難な事でもして差し上げる用意が私にはありますよ。それこそ、吐瀉物でも糞尿の処理でも」


 ああもう、何だろうか。そこまでわたしって大人の女を狂わす魔性の子供なの? 絶対に違うと思う。


 そんなスーパーミラクルなカリスマギャルなら、スカウトとか来てもおかしくないし、もっとおじさんとかの視線だって感じるはずだ。


 と言うか、そんなに可愛いなら、同学年の男子は何であんなに眼鏡なのをからかったりするのか。可愛い子には、チヤホヤしてる癖にさ。


 あれは絶対に、好きな子に意地悪するとかそんなんじゃないって。ああ、だからまふちゃんとかと一緒にいると安心するんだ。そのままのわたしを受け入れてくれるから。


 してみると、こいつもありのままのわたしを、全部丸ごと愛してると、つまりそう言う訳なんだろうか。


 それならそれで、少し悪い気はしないってなりそうだけど。でも待って。こいつは変態的なロリコンなのよ。こんな奴に気を許したら、ズブズブの沼に沈んで行っちゃう。


「って言うか、メイドが主人の血を吸うってどうなの? 普通、吸血鬼が餌にするのって、どう考えても下に見てるって事だよね、うん?」


 ちょっとわたしもこれ以上近づいていったら危ないと思って、意地悪な事言っちゃった。でも、ホントに血を吸うのってそんなにカジュアルにしていい事なの?


「そんな、私にとってお嬢さまの血は、お裾分けして頂く立場なので、あくまでお願いをしている次第です。決して、そのようにお嬢さまをタダの餌に見るなどと言う様な事は。ああ! それほどまでに言われるのでしたら、これからは控えるように致します。失礼を許して下さいませ!」


 おいおい、これは何ですかね。まるでわたしがいじめてるみたいじゃん。


 そんな風にしおらしくして、へえこらしないでよ。もっと毅然とした大人の女性として、憧れる存在がメイドさんならいいのにって思ってたわたしの理想が。


「わ、わかった。いい、いいよ、吸っても。そうじゃなくて、ね。血を吸うのにメイド服って、なんか場違い感があるなぁって思ったって言うか。それに体調には気を遣ってくれてるし、なんか気持ちいいし、それ以外はキチンとしてるし、別に怒ってる訳じゃないのよ。敬意があるのはわかったから、そんなに落ち込まないで」


 涙を流してわたしを見つめる時雨。あれ、そんな子犬みたいな目で凝視されたら、こっちが溜まんなくなっちゃうじゃないの。


 子犬とかの動画とか弱いの知ってるのかしら。どうせ、ここで働けなかったら、吸血鬼だから結構生きていくの辛いだろうし、だから氷雨さんが斡旋してくれたんでしょ。


 なら、まともに働いてくれるんなら、一緒にいていいから。


「おお! お嬢さまは寛大なお方です! わたしの様な化け物をお傍に置いて下さるなんて。今まで、特殊な人を覗いて、煙たがられて来て、この体を呪った事もありましたが、お嬢さまが受け入れてくれると言うなら、喜んでこの身を使わせて貰います。お嬢さまは、死んでもお守り致しますよ! わたくし、決意致しました!」


 うん、そんなに思い入れたっぷりにならなくても。って言っても遅いなこりゃ。大体、なんか愛の告白みたいで恥ずかしいのよ。アンタは子供にどこまで尽くすつもりなのよ。そう思って、少し話を逸らしてみる。


「大体、吸血鬼がメイド服ってコスプレじゃないんだから、どうにかならないの。吸ってる時くらい気分出すとかさ」


 キランと光る瞳。あ、これヤバいスイッチ押しちゃったかも。段々、わかって来た、わたし。


「それなら、こんな格好でなら如何ですか。めちゃんこ素敵な暗黒っぷりですよ!」


 そう言って、一瞬で黒衣の衣装にチェンジするメイドもとい吸血鬼。黒ゴスって言うのかな。


 その割には、ヒラヒラしてるのに、見える所が見えていて、ちょっぴりセクシーな感じ。いや、足とか肩とか見えてるから。やだ、なんか変に意識しちゃうじゃない。って言うか、もしかして最初から仕込んでたんかい!


「さて、どうでしょう。いやでも、お嬢さまがそこまで吸血鬼に理解のあるお人だったとは。衝動から明かしてしまいましたけど、もうこれは運命と言えるのでは? ほら、私の鼓動を聞いて下さいよ」


 わたしの手を取って自分の胸に持って行くのを、わたしは黙ってされるがままになっている。あ、なんかちょっと速い? でも吸血鬼って脈あるんだ。それはこいつが吸血鬼の成分が薄いからかな。って、手が胸に! しかも、露わになってる部分だ、これ。どど、どうしよう。


 そんな風に慌ててたら、手の甲をペロリと舐められた。へ?


「ヒャッ!」


「すみません、お嬢さま。モードを解いて、その上お嬢さまにこんなに優しくされたら、もう我慢するなんてとても出来ません! 血を少し頂けませんか?」


 あくまでも今日は忠実に許可が出るのを待っている。それだけ、わたしに対して忠誠心が出て来たって事?


 そ、それならまぁ考えてあげない事もないけど。でもちょっとやっぱり大人のお姉さんの魅力を見せられたら、クラクラしちゃいそう。


「いい、いいから。さっさと終わらせちゃってよ」


「ありがたきお言葉。それでは、こちらも優しく扱わせて頂きます」


 そう言って、手のどこにしてるのかわたしは認識していないけど、ゾクッと吸われてる感触があったから、確かに吸血行為をしてるんだろう。


 あ、今更昨日胸触られた事思い出して来た。最近、ちょっと痛んで来る事があるから、胸の膨らみが気になってるけど、もしかして少し成長中なのを悟られたかな。


 そうだとしたら、胸の事どう思ってるかな。小さい方がいいんだろうか。やっぱりロリコンだから? でも大きすぎるのは、男の人に注目浴びるからやだな・・・・・・。


 でも、どんな胸でもこんなに愛してくれる誰かに愛でられるんなら、まだマシなのかも。いやいやいや、気を確かに持つのよ、小春。この気持ちいい感覚に騙されちゃ駄目よ。これは、この女の力でそんな想いに錯覚してるだけなんだから。


「プルプルされてますけど、そんなに怖いですか。もう済みましたけど」


 え? あれ、もう終わり? こんな呆気ないとは。って別にもっとって期待してる訳じゃないし。第一、吸われすぎたら命に危険があるってば。


「って言うか、さっきのアレ何」


「アレとは? 綺麗に痕が残らないように致しましたが?」


「そうじゃなくて、自分の事、化け物だなんて言わないでよ。あれ、咄嗟に逸らしちゃったけど、あんな言葉聞いて見過ごせないよ」


 キラキラと眩しいものを見る目つきで、わたしを崇めるように見惚れているのですが、これまた変なスイッチ入っちゃった? どうしよう、これ。


「やはり私の仕える主人は、お嬢さましかありません! こんなにお優しい人なんて、私久しぶりにお目にかかりましたよ。お嬢さまは、流石に慈愛に溢れたお方ですね」


 ああ、そんなに持ち上げないでよ。自尊心は強い方だから、変に勘違いしちゃいそうだよ。


「ははは、何をおっしゃいます。お嬢さまは賢い方なので、自分を知っていらっしゃるでしょう。天狗になったりなど、なさらないと信じています」


 ふーん。写真見て萌え悶えてただけの人間が、どうしてわたしの事がそんなにわかるって言うのよ。そんなのも氷雨さんは資料を渡してる訳ですかね。


 って言うか、その格好、やっぱりエロすぎない? これくらいなら、何がエッチかってわかるつもりだけど。だって肌色率が高いじゃない。


「あら~? もしかしてお嬢さま、私に魅了されてしまいましたか? ふーむ、やはりお嬢さまには大人の魅力で迫るのが良かったですかね。意外とセクシーなのに弱いのも収穫です」


「いやいや、別にわたしがエッチな目線を向けてるんじゃないってば。そっちがその格好、大丈夫なのって言ってるんであって」


「またまた~。お嬢さまは木の葉様みたいな、落ち着いた大人の女性が好きすぎるくらい好きなのは把握済みですよ。そこに大人の色気がブレンドされると、ああ何と言う事でしょう。それはもう官能の目くるめくお子様禁止な世界が。お嬢さまは子供なのに、禁止されてしまうとは、何と矛盾した世界でしょう。私でしたら、いつでもお嬢さまの欲望の発露に応える用意はあります。私で萌え狂って下さいな」


 うるさいな、もう。わたしの萌えポイントなんてどうでもいいでしょうに。大体、アンタは落ち着いた女性じゃないでしょ。


 お姉ちゃんの涼やかなのに穏やかで優しいなんて、そんなにゴロゴロあちこちにいたら、どこの大人にも恋してるって。


 その証拠に、お母さんはそんなに理想像じゃないし。仕事は偉いと思うし、稼ぎに助けられて好きに出来てるけど、あそこまでワーカーホリックで疲れ果てるのなんて、わたしは絶対嫌だ。


 本を自由に読んで過ごせたら、どれだけ楽しいかって言うのが、わたしの理想なんだけど、そう言うのが出来る書評家とかの仕事も大変そうだしなぁ。


 そしてそうやって思いを馳せようとしていると、また寄って来るメイド。いや、今は吸血鬼。黒を基調にしたセクシーな衣装だから、余計にドキドキしちゃうから困るんだけど。


「ああ、お嬢さま。お慕いしております!」


 ちょ、ちょっと、何よ。ああ近い。


 顔が近づいて来て、時雨はわたしのほっぺたにキスをする。ううん、やだよ。変になっちゃいそう。


 そう、お姉ちゃんを思い浮かべるんだ。マインド・コントロールはされないぞ。こんな奴、何とも思ってないから。大体、出会って数日じゃん。どうして、こんなに気になるの。


 それは、色々ちょっかいかけて来て、変に印象に残る手段をこいつが執ってるからかな。そうだとしたら、まんまと戦略に嵌められてる!


 いけない、いけない。自分を保つのよ、小春。お姉ちゃん、ああお姉ちゃん。ほら、お姉ちゃんを思い浮かべたら、段々いい気持ちになっていく。


「っていつまでキスを浴びせるか! 犬じゃないんだから、もう」


「何をおっしゃいます。私はメイド。お嬢さまの忠実なしもべ。謂わば犬の様なものですよ。わんわんと尻尾を振りましょうか」


 どこまでもこの女のペースに乗せられてしまうのは何とかならないだろうか。それは、わたしが子供だから言いくるめられてるのはしょうがないの?


 もっと言論の力があれば、このいかがわしい姿のメイドをやり込めて好きにこき使うだけこき使えるのかもしれない。


「もう! いい加減、そこに直れ! 正座して座る事!」


 試しに強く叱るように言葉を投げると、ピクッとしてから、やはり忠実に正座してキチンとしている。ふふふ、こうやって飼い慣らせばいいのね。覚えておきましょう。


「いい。必要以上にベタベタしたり、やらしい事をしたり、ってどう言うのがそうかあんまりわたしにはわかんないけど、とにかくエッチと判断する様なセクハラ行為もしない事。普段はちゃんとメイド服を着て、そんなセクシーな衣装は禁止。目の毒だから」


「ああん、お嬢さまに言われてしまったら仕方ないですね。では、採寸して、お嬢さまに可愛い服をあれこれ着ていただくと言うのはどうでしょうか。それなら、幾らでも作りますよ!」


 うーん、それならいいのかな。可愛い服が似合うかは別として、そんなのって普段着る機会もないし、わたしの柄じゃないから、そんなのも買わないし。ヒラヒラとか憧れではあるんだよね。


「それなら、早速採寸をしましょう。しましょう。成長期なので、頻繁に測らないといけないでしょうが、いつだってお嬢さまにピッタリの服を作ってあげたいです」


 あれ、これまた攻守が反転してない? でも体のサイズは測った方がいいし。そうして、またも言われるがままに、このメイド服をいつまでも着ない吸血女に好き放題させてしまうのだった。




 夕飯の席で、やっぱりご飯は美味しいし、ちょっとはこっちも歩み寄ろうかと思って、何とか仲良くしてみる事をしてみようとは考えてみるものの、中々自分の中では難しい。


 だって、ね。変な目で見るでしょ。それってほら、恥ずかしいじゃない。意識されてるって事なんだもん。


 それでもまぁ食事の時なので、出来るだけ楽しく話しながら食べていると、お姉ちゃんが目を丸くして、わたしと時雨を見ている。


「あら、もう仲良くなったのね。小春は引っ込み思案だから、打ち解けるのに時間がかかると思ったけど、これなら心配なさそうね。凄くいい雰囲気よ」


 な! お姉ちゃん、それは誤解よ。


「ち、違うの、お姉ちゃん。別にこいつとはそんなんじゃなくて。成り行きでなんか近づいてしまったって言うか・・・・・・」


 そう言ったわたしに、お姉ちゃんはコツンとしてこらとたしなめる。


「もう、小春。駄目でしょう。年上の人に、それもお世話してくれる方に、こいつだなんて言っちゃ。そんなに口の悪い子だったかしら?」


 うっ。それは、どうも調子が悪いのかも。でも、こんな奴に最早、時雨さんラブラブ、なんて死んでも言えないよ。どうしろってのよ。


「いえいえ、いいのですよ、木の葉様。お嬢さまはとてもお優しいお方。わたしの特性を蔑まずに受け入れてくれ、その上身の回りのお世話を担当させて頂けるなんて。木の葉様も遠慮せずに何でもおっしゃって下さいね」


 ポカンとしていたお姉ちゃんだが、あまり深入りしてはいけない事だと思ったのか、あまり追及せずにそのまま頷く。


「え、ええ。小春に良くしてくれると嬉しいです。この子、人見知りで中々心を開かないでしょう。だから、私には甘えて来るんですけど、他の人は苦労すると思うんです。だから、辛抱強く付き合ってあげて下さいね」


 ぐぬぬぬ・・・・・・。それはわたしのセリフなんだって、お姉ちゃん~。こっちがこのメイドに振り回されてるんだから。


 でもお姉ちゃんの前だから、何を言っても子供の言い訳じみてしまうのを恐れて、わたしは何も言えない。


 くぅー、これがお姉ちゃんと二人でお姉ちゃんが作ってくれた手料理なんて今までなら、もう天国だったのに。


 いや、そりゃあもっと美味しい物が食べられてるとは思うし、まぁこの生活に慣れていかないといけないとは思うよ? でもね。ってか、そのメイド服は何だ? 黒いじゃないの。


 普通、清潔感とか考えて白を基調にするんじゃないの? 汚れた時に目立たないとでも思ってんのか。余計に怪しいよ。黒衣の衣装の次は、黒メイドか。暗黒面なのか。


 いや、それよりもお姉ちゃんも何か突っ込んで! この女、必要以上につやつやしてると思わないの。それは、わたしが言いように弄ばれてるからなのよ。


「お任せ下さい。お姉様とのお約束は固くお守り致します。お嬢さまの心の安寧は、キチンとケアする所存です」


「ありがとう。ああ、私ももっと小春に構ってあげられたらな。小春も寂しいでしょうけど、私も寂しいわ。高校生の時までは、もっと遊んでたわよね」


「う、うん。お姉ちゃん、大学ってそんなに忙しいの? 皆、遊び回ってる話とかばっかりしてると思うけど」


 ああ、お姉ちゃんと同じ気持ちなんだ! すっごく嬉しい! わたし達は、時雨には入っていけないほど固く結ばれた姉妹なんだから。でもやっぱり寂しい気持ちに嘘はつけない。


「うーん、自主的に忙しくしてるって感じかしら。お姉ちゃんも小春に負けないように勉強頑張ってるから、そう言うサークルに入って、友達と色々お話もあるのよ」


 ふーん、その友達がなんだか憎らしいな。今まではわたしがお姉ちゃんを独占出来てたのに。


 高校の時も仲いい友達はいただろうし、今でも連絡取る人もいるでしょうけど、お姉ちゃんはそんなに深く付き合いのある相手はいなかったのに。


 いつも、ちゃんと帰って来て、わたしとお話してくれたっけ。低学年の時は、随分勉強も見て貰ったから、結構その学年でつける基礎力はついたし、それは本当にお姉ちゃんのお陰だし。


「そうです! なら私用にと作ろうと思ってた、お嬢さまのぬいぐるみを、木の葉様用にもお作りしましょうか。それなら、お休みの時もいつも一緒ですよ。まぁ、姉妹なら本当に一緒のお布団で寝られても、問題はないと思いますが。ああ、お羨ましい!」


 何こいつ。そんなの作る気だったの。普通に引くんですけど。お姉ちゃんは流石にそんな事に乗らないだろうと思っていると、意外な答えを返していた。


「いいんですか。是非お願いします! 小春のぬいぐるみなんて絶対に可愛いわ。私なんて写真立てに飾ったり、小春の絵を描いてたりするくらいだもの」


 いやいや、ちょっと待って。何その新情報。凄く恥ずかしいんだけど。絵って、お姉ちゃんにはわたしはどう映ってるんだろう。


 写真飾るのは別にいいけど、絵のモデルに知らない内になってたとか、顔から火が出そう。


「おお、絵もよろしいですね。さぞや、美しい絵画になるでしょう。モデルが最高ですからね」


「そう、そうなのよ。わかって下さる人が身近に出来て嬉しいわ。小春ってば、学校ではからかわれる事もあって、コンプレックスの塊なんですよ。だから、私がこんなに可愛いわよって言ってあげても、僻んでるんですもの。だから、誰か余所の人に褒めて貰えるのは、いい傾向です。本当に三つ星さんに来て頂いて、良かった」


「気軽に時雨とお呼び頂ければ。いやしかし、有象無象にはお嬢さまの素敵さはわからないんでしょう。眼鏡だってチャームポイントですのにね」


 おーい。何か盛り上がってわかり合ってるよ。これはマズい。


 お姉ちゃんは時々、わたしの事になるとスイッチが入るけど、大分この女はお姉ちゃんの信頼を得てしまったのでは。


 大体、そんなに二人して持ち上げないでよ。わたしはちょっと変でも美少女の冴ちゃんとかとは違うし、まふちゃんみたいに素直な性格で優しい子とも違うんだから。


 もう二人には構わないでご飯食べよう。二人の会話を聞きながら、幾分か恥ずかしい思いをして、何だか途中から味がわからなくなりながら、団欒の内に食事は終わった。


 お姉ちゃんに愛されるのは凄く嬉しいんだけど、それが時雨と意気投合するなんて、最悪な展開だよ。わたしの苦悩はまだまだ晴れずに続きそう。ああ、もうどうせなら、はよ学校始まらないかな。




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