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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第二部:ご先祖ソーニャさん登場
37/62

第37話風邪で寝込むのは辛いですよね

 最近、何故か日本の小説が面白くて、と言うか封印から解放されて、自由に行動出来る快楽から、随分と夜更かししてしまうのだ。


 しかし、朝はやはり起きてしまう所が年寄りじみていて、少し自分の事ながら嫌な気がするのう。まぁ、昼寝はするんだがな。


 ティナはいつも一緒に寝たがる割に、同じ時間には起きんで、ぐっすり朝は遅くまで寝ている。


 まったく、いいご身分な事だ。これじゃ、どちらがマスターかわかったもんではないわ。


 しかし、そうして朝はいつも時雨とご主人のやり取りを眺めながら、マルとやり合ったりもして、余は牛乳を温めてココアを飲んでおる。


 インスタントでもいい牛乳を使えば旨いし、自分で気軽に出来るから好きなんじゃ。


 そうやって牛乳を温め終えて、粉の入ったコップにそれを投入していた時の事だった。


「ああ! いけません、お嬢さま! そんなに熱があるんなら寝てないと。ほら、パジャマをちゃんと着直して下さい。ええ、着替えなくていいですから。ね。寝ましょう」


 何やらご主人の部屋が騒がしい。大方、時雨が起きる時に、ご主人の体の熱さを確認したのだろう。


 仕方ないから、余も様子を見に行く。ココアはまだ大丈夫だろう。うん、すぐ戻って来るよ、ココアちゃん。


「何だ。騒がしいな。ご主人が病気か? 大人しく寝てろと言っておけって、おいおい、ご主人はもうばたんきゅーなのに、学校行く準備なんかしとるんか」


「だ、だってぇ~。今日は始業式だもん・・・・・・・・・・・・。し、時雨。着替えさせてぇー」


「駄目ですってば! このまま、ここで寝て下さいよ。凄い熱ですよ? ご先祖様、氷の枕とタオルを持って来て貰えますか?」


 何故か雑用係にされる余。まぁ、仕方ない。ご主人の事は心配だからな。


 とにかく、余は早く温かいココアにありつきたいので、口答えはせずにさっさと目的の物を持って行く。


「ありがとうございます。さあ、冷やしながらゆっくりお休み下さいね。また、見に来ますから」


「う、うぅーん。時雨ぇ、傍にずっといてぇ」


 弱ってるご主人の甘え方は、なんか子供らしくて可愛いな。しかし、時雨は困っとる。


「そうは言いましても、私は仕事がありますし。時々見に来ますから、寝てればすぐですよ」


「それじゃあ、ここで・・・・・・うーんうーん・・・・・・」


 これは駄目そうだと、時雨は後で食事と薬を持って来るからと言い残して、行ってしまう。


 何とも微妙に薄情な気もするが、あれは内心では相当焦っておる顔だ。余にはわかるぞ。さ、ココアちゃんが余を待っている。


 余がココアを飲みながら、焼いたトーストを囓っていると、マルも起きて来て、コーヒーをさっと湯をわかして入れる。


 そして簡単なスティックパンを一つ食べるのだ。こやつはここの所、こんな簡単な食事ばかりしおる。


 コーヒーもインスタントをどこからか注文したのか、自分だけそれを飲みおる。ちゃんと食べるのは、皆が揃う晩だけだ。


 それほど仕事が忙しいんだろうし、宇宙人にはそれは苦ではないのかもしれんが、ちと根を詰めすぎじゃなかろうか。余は、少し心配だ。


 洗濯が終わって、衣類を干し終わった時雨が食卓にやって来る。


「はぁぁー。お嬢さま、大丈夫でしょうか。お嬢さまに死なれたら、私は・・・・・・。ううぅー」


 かなり参っておるではないか。パニック気味じゃぞ。こんなに依存してて、こやつ大丈夫か。


 とりあえず余が慰めてやらん事には始まらんな。


「まあそう言うな。キチンと栄養取らせて、薬もあるんだろう。それなら寝てれば治るだろう。現代の医学は、流行病でそうそう死ぬ事はないんだからな。勿論、適切な治療は必要だから、医者には診せた方がいいと思うが」


「そうですね。お医者さんに連れて行った方がいいですよね。私が負ぶって連れて行きます。いえ、焚火様の車を借りて行った方が良さそうですね。ご先祖様、ありがとうございます。そう言う訳で、お昼頃午前の診察が終わりの時間辺りに行って来ますね。もうちょっと寝かせてあげましょう」


 うむ。それがいいだろうな。


 余は心配してもしょうがないので、自分の趣味の読書をまたするとしようか。


 うん、何だかマルも仕事してる中で、余だけが株主で食っているのは居たたまれない様な気になって来るなぁ。


 ネットの何かしらもせなならんと思いはしても、中々準備が進まんし。本で色々学びながらも、遅々として進まんのは、やっぱり余が悪いんじゃろうなぁ。




 どうも変な感じがしたのは、医者が来てインフルエンザだとかで薬も処方して貰ってから、数日経ってから。ご主人の熱が一向に下がらんのだ。


 時雨は狼狽えてしまって、頻りに話しかけているが、逆効果なのでやめた方がいいと、言うてやった。


 しかし、手を握ったり、私に移して下さいとか言ったり、もう平常心なんてどこに行ったっけってな具合。


 余はそれで少し状態をファンタスマゴリアの力で観察していたら、やはりどうもここ最近のご主人の魔への干渉からの病状ではないかと見て取れた。これは確かにほっとくと危ないぞ。


 絶対的な魔力量が足りてないのに、精神エネルギーは使わなくてはいかん。スピリット能力が強力すぎる為に、それを維持する力がないんだな。


 それを時雨に説明して、どうせなら夢の中でコンタクトを取って、余らが働きかけて回復させてみんかと提案してみた。


 藁にも縋る思いなのか、時雨は余の手を痛いくらいに握りしめおった。


 ええい、痛いわい。と毒づいてやったが、その気持ちは良くわかるぞ。


「それでどうすればいいんですか。お嬢さまの夢に入ればいいんでしょうか」


「うむ。皆で入るのは余の力に任せてくれればいい。大体の手順は余が説明するから、やる事をお主はやってくれればええよ」


 とりあえずは落ち着いたかと思うたら、またおろおろし始める。どうしたんだか。


「ああ、でもお嬢さまの事が心配なのに、スッと寝られるでしょうか。私、昼間からすやすや出来る自信がありません」


 ああ、そう言う事か。


「何、なら余が暗示をかけてやるから安心せい。本来なら余らの種族は、眠らんでも夢に入れるんだが、それはまだ高度な術なので、追々習得して貰えればええからな」


「はいはーい。あたしも行きまーす」


 今度は何だ。ティナか。


「お主は何にも役に立たんだろうに。まぁ、それでも魔力の分け前に使えるか。仕方がないのう」


「だって、あたしも小さいご主人様が心配ですよー。あの人がいなくちゃ、マスターの復活もないんでしょう?」


 そう言う事だな。余も自分の為にもあやつには死なれては困る。


 それでは時雨も力を付けられんし、ティナも鍛えねばならんから、あの娘のスピリット能力はいずれいい作用をもたらしてくれるだろうし。


 それだけ魔力の量とは別に、精神エネルギーが肥大しているのは、自意識がどうも凄く過剰な為かもしれん。


 やれやれ、現代人と言うやつは、全く。


「そいじゃ、用意して夢に潜り込むぞ。それから、ご主人は夢の中でも朦朧としているだろうから、あんまり負担を掛けてはいかんぞ。ちゃんと丁寧に扱ってやる事」


「はい、わかりました。お願いします、ご先祖様。いえ、ソーニャさん」


「はーい。そうっと触れる要領ですねー」


 ティナの方はほんにわかっておるのかって感じだが、とりあえず急いで準備をして、ご主人の夢に入る事にした。


 余がここまで戻っておってマジに良かった。時雨だけの力ではどうしようもないからな。


 ティナもいる分、もう少し心強い気持ちは強まっているし。


 しかし、今は早くに木の葉は出た後、数日やる事があるとかで蜜柑の家に行っているのが幸いしたなぁ。あやつもおれば、もっとパニックになっておっただろう。


 あれほど妹を溺愛している奴もそうそう見かけんし、その木の葉が死にかけている妹を見たら、卒倒するどころじゃすまんほど騒がしくなりそうなのよな。




 準備を整えて、いざ小春の夢へダイヴ。待っておれ、今行くぞご主人。


 メンバーは余と時雨とティナ。もし木の葉もおれば、絶対に行くと言って聞かなかったのではないか。


 いや、案外心配しながらも、じっと耐えて待っているかもしれん。


 中に入ると、何故か一面ピンク色の夢。


 そう言えば、確か余の調べでは、ご主人は能力を得る付近から淫夢を見てしまうようになったと言っていたな。その影響か?


「何だか不安定になる感じですねー。こんな精神状態でホントにご主人様は大丈夫なんでしょうかー」


 うーむ、非常に適確に言い表しているが、それをあまり時雨の前で言わん方がええのにな、ティナよ。時雨は不安そうにしているので、余が励ます係。


「何を言うておるんだ。その為に我らが来たんだろうが。ご主人を元に戻すには、魔力の調整をしてやれるメンバーが必要なんだから」


「そ、そうですよね。私がお嬢さまに出来る事なら、何でもしますから、指示は幾らでも出して下さいね」


 まぁ、そう言う訳で奥へ進んでいくとベッドに腰掛けている少女が一人。うむ、ご主人だな。


「ああ、不謹慎ですけど、眼鏡を外しているお嬢さまもお綺麗です・・・・・・。しかし、やはり様子がおかしいですよ、大丈夫でしょうか」


「ふぇぇ~? あ、時雨だ。どうしたの、こんな所で。傍で見ててくれる気になったのかな。それなら嬉しいけど」


 フラフラと立ち上がろうとするご主人を時雨が抱き留める。心なしか抱き締める力を強めている気がする。


「うーむ、やはり魔力の力が精神エネルギーに対して足りてないから、こんな事になったんじゃなぁ。ご主人よ、これからはあまり夢では力を与えてはいかんぞ。血を飲ませるのは、起きてる間に適量を守る事。いいな」


「時雨ぇー。柔らかいねぇ。こんなにいい感触だったら、ずっと抱いていて欲しいくらい」


「ああ、お嬢さまの熱い体温が伝わって来ます。いけません、お休みになられなくては。私が間違ってました。お仕事の重要度など些細な事。お嬢さまのお世話が最重要項目なのですから、私のすべき仕事はお嬢さまの看病一択です!」


 ますます強まる絆と絆。しかし、余の言葉を全く聞いておらんのじゃないか、こいつら。


「こらー、マスターのありがたいお言葉を聞きなさーい。時雨さんもまだするべき事があるんですからー、朦朧としてるご主人様に同調してたら駄目ですよー」


 なんと珍しい。ティナがこの二人を諫めておる。


 うんうん、ティナも少しずつ成長しているのだな。パートナーとして創造者として、余はこれほど嬉しい事はないぞ。


「こほん、とにかく前に時雨にご主人がやった容量で、精気を吹き込む事。まぁ、キスだな。あの時はまだ安定していてかなり魔力も余っていた様だから、ご主人に頼んだが、あれから接続してそこから汲み出すのは、少し小学生には苦だったかもな。今回は反対の事をやるんだぞ、時雨」


「は、はい! お嬢さまに。で、でも精気を渡すってどうすればいいんですか?」


 ははあ、そりゃあそうか。そのコントロールがまだそう簡単に出来る魔族になっておらんかったな、お主は。


「それはだな、こう自分の気持ち的に、ご主人に自分の魂の一部を分け与えたい、自分の奥底の物をご主人に向くようにって、強く念じながらしっかりキスするんだ。これ、ご主人はそう言えば自然に出来ておったんだがな」


 ふむふむ、と聞く時雨。そして感動する。


「流石はお嬢さま。何でも素早く出来てしまう、私のお仕えする方だけあります。私もお嬢さまを見習って、一発で出来るように頑張りますね」


「えぇ~? なにー? 時雨がキスしてくれるのぉ~?」


 どうも余にじゃなくてご主人に言ってるらしい。別にいいが、ご主人はたぶんわかってない。


「いいか。早くせんと、精神エネルギーが肥大化しすぎるとマズいんだからな。わかっておるか、そこの隅に隠れておるお主も」


 え、と二人が見るとそこにはストーン・コールド・クレイジーが。確かご主人はSCCとか言っていたっけ。


「ウゥー。スミマセン、ワタシが小春サンの負担にナッテシマッテ。ワタシが発現スルノが早スギタンデスヨネ。小春サンの中に眠ッテイル潜在能力が強スギテ、ワタシニモこんとろーる出来ナイのデス。助ケテ下サイ!」


 おお、おお。そうわめかんでもわかっておる。


 余は実は夢の中では見栄を張るために、元の成人の姿でおったので、そのSCCの頭を撫でてやる。うん、微妙にひやっとするな、こやつ。


「じゃ、じゃあしますね。では、お嬢さま、ちょっと失礼しますね」


「うぇ? んん・・・・・・」


 うーむ、やはり余はいつ見ても、他人のキスは目のやり所が困ってしまう。


 濃厚に絡み合っている訳でもなく、ぐっと長い間唇を重ねておるだけなのに、この居たたまれなさはどこから去来するのだろうか。


 漫画とかでも赤面してしまうのよね、余。


「ふう。これでどうでしょうか。お嬢さま、少し楽になりましたか?」


「そんな即効性の薬じゃないんだから、もうちょっと効果が表れるまで時間はかかるよ。うん、後は仕上げに時雨よ、お主の血をご主人の額に塗っておこうか」


「それをすればいいんですね。あ、でも、どうやって血を出しましょう」


 そう言うので、時雨に指を出して貰って、スパッと余が爪で切ってやった。


 あまり痛くないように深く傷を出さずに、多少塗る為の血が出るくらいにしておいた。


 こう言う時、吸血鬼の能力があると便利だな。人間でも爪を伸ばせば出来るんだが。ってまぁ、夢なんだがな。


「じゃ、じゃあ今度は塗りますよ。ちょっとぬるっとしますけど、我慢して下さいね」


 そうして、時雨は血を額に丹念に塗り込んでいく。そこまで丁寧にやる事もないってほど、しっかりねっとり塗りおる。しかし、それはいい事だ。それだけ効果は覿面だろうからな。


「よし、じゃあ余らは退散しようか。後はぐっすり寝させてあげる事。それで駄目なら、余がもっと強力な方法を考えるから」


「は、はい! 本当に大丈夫ですよね。それじゃお嬢さま、ゆっくりお休み下さい。また起きたら傍で見守っていますからね」


「またー。ご主人様が元気になったら、家の中も明るくなるんですから、お願いしますよー」


 そうだ。ティナ、こやつは今回ほんになんもせんと、一緒に来ただけだったじゃないか。


 魔力がどうとか、そんな手助けもせんかった。こやつの血も塗らせてやれば良かったか。さっき感心して損した気分だ。


 まぁ、とりあえず事が済んだので、これで余も肩の荷が下りた。後は経過を見守ろう。何だか、治療をした後の医者の気分だわい。




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