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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第二部:ご先祖ソーニャさん登場
36/62

第36話夢の中でも愛して

 もうホントに学校が始まるので、嫌だなぁと思いながら寝床につく。


 別に宿題が終わってないから焦ってるとかではなくて、それだけ自由時間がなくなるのが心底嫌なのだ。


 まぁ、別に勉強するのが嫌なんじゃなくて、あんなに大勢集まって膝つき合わせてって言うのが嫌なんだよね。


 そうやってちょっと愚痴っていると、上手い事時雨に慰められたので、今日もいつも通り時雨の体に抱きつきながら睡眠に落ちる。これが凄く落ち着くんだよ。


 むにゃむにゃと割と寝付きはいい方なので、逆に眠たくても中々纏めて寝られないお母さんなんかが気の毒になって来る。


 やっぱり作家業で忙しくなると、それこそブラック企業に勤めてるみたいに、相当しんどい事になるのだろうか。


 うつらうつらしながら、多分寝たと思う。


 そうすると、いつの間にか意識がはっきりしていた。また目が覚めちゃったのかと思ったら、どうもそうではないらしい。夢だ。


 ここの所、能力が覚醒してから、変にエッチな夢を見る事も増えて来て、わたしのリビドーが堪ってるのか、あまり夢見もいいとも思えないから、勘弁して欲しいとか思ってるんだけど、今日はどうだろうか。


「あ、お嬢さま。お話出来ました!」


 わっ。いきなり話しかけられて、声がする方を見ると、時雨だ。ヤバい。


 よりにもよって、あの下着かと思うくらいの露出度の高い、吸血鬼の黒の衣装を着ている。


 あ、また淫夢かな、と疑っていると、無邪気にもわたしの手を時雨は握って来る。


「ここの所、見ているだけでしたけど、お嬢さまの夢の中に入れてたので、もしかしたらと思っていたら、やっと接触出来ました。嬉しいです。夢の中でもお嬢さまと一緒だなんて」


 む。そう言われると、わたしも確かに眠りの内でも時雨と一緒だと言うのは嬉しい。


 しかし、これはホントにホントの時雨が接触しているのか。疑いの目で見てしまう。


 だって、こう言う恰好の時雨とここでは言えない様な行為の夢は既に見ているからだ。


「あ、そのジト目は疑ってますね。安心して下さい。私ですよ。何を心配してるんですか。あ、そうでした。この頃お嬢さまは、かなりエッチなご主人様になってしまわれたんでした」


 な?! それってまさか!


 そうか、時雨はここの所、わたしの夢を見ていたって言ってたな。


 じゃあ、あんな夢やこんな夢も、じっくり拝見されてしまったと言う事かしら。


「の、覗いたのね! エッチ! スケベ! 他人の夢を見るなんて、裸を覗くみたいなもんよ!」


「ああ、怒らないで下さいよ。悪意で見たんじゃないんですから。最近、どうもお嬢さまと繋がりが強くなったのか、よくお嬢さまと世界がリンクしている様なんです。だから、仕方なくなんですよ」


 そ、そう。


 それならまぁ納得だけど、そう言う時は目を逸らして耳を塞いで欲しいな。それでなくても、時雨との夢なんだったんだから、恥ずかしさで顔から火が出そう。


 うん? 待てよ。リンクしてるって、魔力を繋げてからってだけではなくて、一緒に寝るようになってからじゃないのかな。


 そうだとすると、原因はわたしにあるって訳? まさか、自分から墓穴を掘っていたとは。


「あのー、お嬢さまの気持ちは嬉しいんですけど、流石に欲望通りに私がしてあげる訳にはいかないんで、何とか解消する手立てを考えて下さいね。あ、夢の中なら合法では? 名案かも」


 そう言って、肌色率が高い時雨が抱きついて来る。や、やめて。変な気持ちになっちゃうから。


「だからそんなに欲望してるから夢に見てる訳じゃないんだって。そんな古くさい夢判断みたいなのやめてよ。夢ってのはある程度、ストレスだとか欲望だとか解釈は出来るんでしょうけど、全部はっきりどんな心理を抱えているかわからないほど、人間の意識と無意識はブラックボックスなんだから。あー、だからくっつかないでって」


 ほうほう、と頷いているエロ吸血鬼。ホントに理解してるのかな。


「でもお嬢さまは、エッチな目線で見るほど、私を好いてくれているって事ですよね? 私、凄くすごーく嬉しいです!」


 駄目だ、わかってない。


「で、何だって夢の中で活動出来るようになったの。力が強くなって来たのかな。ソーニャさんも回復して来て、接続してる時雨にもいい影響が出て来たとか」


「そうかもしれません。お嬢さまのお陰も、でも多分にあるんじゃないかと思います。ご先祖様が言ってました。こんなに強力な能力を持っているお嬢さまは、それはもう深層的に精神力が強いお方だと」


 そんなに言われたら困るなぁ。別にわたしって普通の小学生だと思うけど。ただ、人とちょっと違って、変わってるように見えるだけで。


「でもわたし、そんなに強く自分も持ってないし、誰かにもたれかかってるわよ。そう言う意味では、時雨の方が意志は強固じゃないかしら」


 違うんです、と時雨は一本指を立てて、説明する。


「魔力に直結する意志の強さは、また微妙に違う物なのですよ。ご先祖様を見てたらわかるでしょう。あの人が、そんな大魔族に見えますか。でも彼女はホントに強力な精神的感応パワーを持っていらっしゃるんですから」


 何だかそれって、わたしも褒められてないみたい。ソーニャさんと同レベルって事なの?


「ああ、もう、そうじゃありませんよ。お嬢さまってそうやって捻くれてるんですから」


「どうせ捻くれてるわよ」


「拗ねないで下さい~。お嬢さまは自分で自分の意見を持っていて、そうやって相手に丸々全てを委ねたりしない所が、そう言う意志力に繋がってるんだと思いますよ。で、そのお嬢さまと繋がっているから、私も恩恵があるって事です」


 そう。それなら良かった。でもそんなにわたしは言われる様な感じかな。


 時雨にいつも甘えてると思うけど。まぁ何にせよ、時雨が魔族として強くなっていくのはいい事だ。


 だって、お日様の下でも能力なしで歩けたら、それは凄く時雨にとっていい事だろうからだ。


「じゃあ、オン・リフレクションを使わないで、日中歩けたりするのかな」


「うーん、試した事ないので、何とも言えませんね。ちょっと怖いですし」


 こうやって他人の夢に入って来られるのなら、もう大丈夫だとは思うが、まだ力不足なのかもしれないと思う、時雨のコンプレックスはある程度わかるつもりだ。


「ふーん、まぁ気長にやればいいけど。え? って事は何。これからいつも時雨がわたしの夢にいるって事?」


 それは嬉しい様な、色々困る様な。どう反応していいか、戸惑ってしまう。


「だ、大丈夫です。どんな夢でもお嬢さまはお嬢さまですし、見てはいけない物なら、出来るだけ見ないようにしますから!」


「散々ジロジロ見といて、そんな言葉信用出来ないわよ! ふん、どうせませたエロガキだと思ってるんでしょう。ええ、子供だってエロい願望くらいありますよ。ただそれを遂げる能力とか状況がないだけで」


 むー、とわたしは時雨を睨むが、エロい恰好の彼女はニコニコして、何とも締まりがない。


 微妙にわたしは自分の体を抱き締めてしまう。何と言っても、わたしは今パジャマなのだ。


「あ、大丈夫ですって。夢は好きなようにしてくれていいですし、私も夢の中でだって狼藉は働きませんよ。大事なお嬢さまに嫌われたくないですし、お嬢さまと夢でしてしまったら、現実でもしたくなっちゃうじゃないですか」


 うーん。ホントに大丈夫なのかな。


 このメイドは結構冷静に、自分の欲望を抑える事が出来るみたいだけど、時々見境なく何かする事があるからなぁ。


 さっきだって、夢だったら合法だっとか言ってなかったっけ。でも。


「じゃ、じゃあ。夢の中で吸血行為とかくらいなら、いいわよ。それなら、時雨も楽しめるし、わたしも大丈夫でしょ」


「え、いいんですか? ああ、でもそれだと精力を吸い取ってしまう事になりますよ。それでもいいんですか。お嬢さまの負担になっちゃうんじゃ」


 なるほど、精力。つまりは活力。


 まぁ、ちょっとくらいなら、それを奪われても、わたしのパワーが時雨の糧になるのなら、いいのでは、と軽くわたしは考える。


「別にいいわよ。じゃあ、吸いなさいよ。夢なら栄養補給とかしないでも、大丈夫でしょ。寝てるんだから」


「わかりました。じゃあ、いいですか」


 そうやってこっちに来る。あ、ちょっと待って。


 その恰好、少し扇情的で目のやり場に困るって。と言っても、聞いてくれなさそうだし、仕方なく座る。


 そうすると、首筋をペロッと舐められる。


「ひゃっ。な、なんか起きてる時より、敏感になってる気がするんだけど!」


「ぺろっ。多分、夢だから少しでもいい気持ちになるように心が制御してるんでしょう。私にもっと力があれば、極上の夢になるようにコントロールしてあげられるんですが。ぺろぺろっ」


「ああんっ。そ、そんなに舐めないでってばぁ」


 何だか夢なのにムズムズして来ちゃう。これじゃいつもの淫夢と変わらないじゃない。


 しかし、時雨は止まる事なく、程良く舐め回すので、わたしはされるがままにされているしか出来ない。


 そうしてどれだけ舐められただろう。首筋が大分濡れて来た所で、時雨はあむっと優しく噛む。


 まるで甘噛みみたいに、気持ち良く官能的で、凄くいかがわしい気分になっちゃいそうだ。


 それでちゅーっと吸われている間、わたしは多分かなり扇情的に喘ぎ続けたと思う。


 それくらい、ヤバいヤバいヤバい、って感じだったのだ。とにかく絶頂に達したんじゃないかってほど、わたしはしばらく放心していて、時雨が困惑していた。


「あー、お嬢さまにとって、吸血行為ってここまでのエロい願望に基づく物だったんですね。正直、甘く見てました。ちょっと自重する様に気をつけますね」


「ち、違うの。はぁはぁ、そ、その、わたし別にそんないやらしい気持ちとか、エッチな事して欲しいって望みじゃなくって、はぁ、時雨の役に立ちたくて・・・・・・」


「よしよし、少し休みましょうね、お嬢さま」


 そう言って、膝枕してくれる時雨。


 しかし、この恰好では生足の部分に頭があたって、落ち着くに落ち着けない。


 しかし、そこは夢なのか、次第に呼吸も整って来て、時雨にもっと甘えたくなってしまう。


 そこでわたしは些か邪な気持ちにもなっていたので、時雨の剥き出しの太股に口づけをする。ちゅーだ。


「あっ。お嬢さまっ」


 なんか黄色い声が時雨から出た気がするけど、気にしない。ちゅっちゅっとキスの雨を降らせた後、ペロリと舐めてしまう。


「ああっ。いけません、お嬢さまぁ。舐めるなんて。お嬢さまの夢だから、本当に感じちゃいます」


 ふふふ。と、いけないいけない。落ち着いて来てたのに、また興奮しちゃいそう。とりあえず、わたしは時雨の足に手を置き、えへへと笑みを浮かべる。


「えへへ。やっちゃった」


「やっちゃったじゃありませんよぉ。このままじゃ収まりがつきません。せめて・・・・・・せめてキスだけでもして欲しいです」


 まるで子供のおねだりである。時雨がわたしにこんな甘えた声を出すなんて珍しい。これも夢の効果なのか。


 でも、時雨は自由に夢で活動出来るだろうに。って言うか、わたしが時雨に甘えていいんじゃなかったのかしら。まぁ、それはいいか。


 とにかくわたしは出来るだけ優しく、丁寧に唇を重ねる。時雨はあっと言って吐息を漏らしながら、わたしに委ねている。


 ・・・・・・どうしてもわたしがリードする側に回らないといけないみたいだ。


 わたしがもっとしっかりしないといけないのかもなと思って来たのだけど、ホントはもっとわたしが優しく扱われたいんだけどなぁ。


「はい、これでいいでしょ。もうこれ以上はする事ないよ」


「あ、ありがとうございます、お嬢さま。うぅ、お嬢さま~!」


 がばっと抱きつかれて、わたしはまたも顔を赤くする。だからその恰好、ホントに困るんだってば。


「だってご先祖様がこれが我らの正式衣装だ、なんて言うんですもん。最初はノリノリでしたけど、良く考えたら、私だって凄く恥ずかしいですよ。でもお嬢さま相手だから、それを忍んで見せてるんですよ」


 あー、またソーニャさんの仕業か。それはやはりわたしから何か言った方がいいんだろうか。


 でも言ったって聞かないだろうし、ソーニャさんがどんな服着ようがわたしには関係ないし。


「じゃあ、出来るだけ吸血鬼っぽい格好いい衣装で、そんなにエッチじゃない服とか考えたら。わたしも手伝ってあげるからさ。ソーニャさんの変態趣味に別に付き合う事ないよ」


「え、いいんでしょうか。でもお嬢さまの方が正論言ってる気がして来ました。じゃあ、一緒にデザインとか考えましょう。メイド服を少しアレンジするなんてどうでしょうか」


「あー、それはまた起きてからね。一応、衣装とかに詳しい時雨が、あれこれ自分で考えてみようよ。だって、時雨が着たいのを着るのが一番いいよ」


 そう言って、ね?と見つめると、時雨はうるうるとなって涙を流してしまう。


「お嬢さま~!」


「はいはい。で、これいつになったら、朝になるのかな。夢の時間ってそんなに長いもの?」


 ふと疑問に思ったんだけど、夢の体感時間と実時間はまた違うわよね。それに寝てる間に、ずっと夢を見てる訳じゃないだろうし。


「ああ、夢からブラックアウトする事もありますよ。レム睡眠とノンレム睡眠の周期とかありますしね」


「じゃあ、早く今日はそっちに移行したいなぁ。なんか夢なのに疲れちゃった」


「す、すみません。私が変な事言ったりしたせいで」


「別に時雨が悪いんじゃないよ。わたしも楽しかったし、いいんじゃない。じゃあ、ここで寝ようとしたりすればいいのかな」


 そうですと時雨が言うので、ゴロリと横になってみる。


 次第に意識が薄れていき、時雨の顔を最後にチラリと見ると、いつもの優しい顔に戻っていたから、わたしは安心して夢を終わらせる事が出来た。




 目が覚める。朝日が眩しいので、良かった朝だ。ちゃんと現実に帰って来られたみたい。


 で、しばらくの間もぞもぞして、ベッドに残った時雨の残り香を嗅いでいた。こんなわたしはやはり少し変質的なのだろうか。


 いや、でも好きな人の匂いは誰でもそうなるよね。


 洗顔してから、居間へ入ると声が聞こえて来る。


「そりゃあ、力がついとる証拠だ。くくく、これなら夢を操って、人々を支配する時も近いな・・・・・・」


「いや、あのぉ、私そんな悪巧みには荷担しませんので。お嬢さまの益になる事なら、何でもやりますが」


「ふー。お主はホンにご主人命だなぁ。そうだ、ご主人にももっと魔族の一員でトップである自覚を持って貰わんとな。ハッ。ご、ご主人。そこにおったんか」


 うん。話は聞かせて貰った。


「ま、待て。別に余らはお代官様越前屋をやっておる訳じゃないんじゃ。そう、ご主人の快適な生活に寄与出来る何かはないかと考えておったのだ。魔族の生活は普通に送るのも色々面倒があって辛い。それだから、ご主人もこちら側に来るのであれば、魔族の仲間の自覚をだな」


 って言うか、言い訳がましいけど、どんだけわたしを怖がってるの。それに何なの、その悪代官ごっこみたいな言説。


 わたしは別にSCCちゃんがいるだけで、その他は無害な女子小学生なのに。失礼しちゃうわね。


「わ、わかっとるよ、勿論。ご主人は愛らしい、ロリご主人様だ。時雨との関係もよーわかっとる。お主らを余は応援するぞ。それで、余にも贅沢な暮らしをさせて貰えれば」


 あー、なんかちょっとでも自分に得にならないかなぁ、とか思ってた訳ね。


 まぁ、随分苦労して来ているんだろうから、ちょっとくらいは優しくしてあげてもいいんだろうけど。


「それにしてもロリロリって大っぴらに、そんな言葉で名指さないでよ。子供だとかもうちょっと日本語で言える語彙はあるはずでしょ。少し危険な臭いがするわよ」


「そうです。それにご先祖様は、株だとかで儲けてるんですから、こちらに還元する物が増えても困らないくらいですよ。それにネットでやる事は決まったんですか」


「いや、まだ下準備やら勉強やら、気長にやろうかと思っておるんだ。それより、時雨の夢の能力はいいぞ。ぐんぐんパワーアップしとる。これは絶対、ご主人とパイプを繋いだ恩恵がバシバシ来とる証拠よ。ご主人も伸び代があるだろうし、これから余ももっと回復出来るように、お主らの頑張りには期待しとるぞ。余の面倒をしっかり見ておくれ」


 後期高齢者みたいな発言。


 まぁ、年齢的にはどの区分に入るのかわからないくらい、相当の年寄りなのだろうけど、まさか自分からそう言う事に言及するとは。


 吸血鬼って永遠に若いつもりなのかと思ってた。


「あー、マスターったらー。面倒はあたしが見てあげるって言ったじゃないですかー。ご主人様の手を煩わせてはいけませんよー。学生はそれでなくても忙しいんですからー」


「おう、そうだったな。ティナの事は頼りにしとるよ。うぅ、これだけ優しい若者に囲まれて、余は幸せじゃ。余の様な愛されてる年寄りは恵まれてるなぁ」


 しみじみとハンカチで目尻を拭いているソーニャさん。ここまでしおらしいと、逆に可哀想になって来ちゃう。


 よっぽど困難な人生だったんだろうな。だって、人生の大半を封印空間で暮らしてたんだもんね。そりゃあ辛いわ。


「あ、お嬢さま。牛乳ですね。今入れますね」


 そうだった。わたしは起きて来て、飲み物を入れるはずだったんだ。


 それが忘れ去られるくらい、この二人の会話が気になってたのかな。


 とりあえず一息吐いて、夢の中に入れたらどんな利点があるのか聞いてみた。曰く。


「何だ、それは色々特典があるぞい。例えば、ストレスが溜まってる時には、時雨がコントロールしていい夢にしてやれば、精神的重荷は大分解消されるだろうし、肉体が疲れている時も、夢の作用を操ってやれば、熟睡したのと同じ効果で脳もバッチリ回復だからな」


 何と。いい事ずくめだ。でも時雨はまだそこまでは出来ない様だったけど?


「そう、それだけが問題だな。時雨の状態からして、もう少し掛かりそうだな。定期的にご主人の血を吸って、夢でもいい思いをすりゃあ、メキメキ活力が湧くだろうから、案外すぐにご主人の為になる事が出来る様になるかもな」


 ほうほう。なら、やっぱりわたしも役に立てるって事だ。


 時雨さん、どうですか。と期待の眼差しを向けてみる。


「ええ、お嬢さまにはお世話になりっぱなしで。どれだけでもお返しはさせて頂きたいですよ。お嬢さまの勉強も見ますし、相談も幾らでも受けますよ!」


「うん、それはありがたいけど、別にそんなに甲斐甲斐しくしてくれなくてもいいんだけどなぁ。結構、自分の事は自分でやって来たから、最近はいつも時雨が何でもやってくれてて、自分が駄目になった気分になりそうなくらいなのに」


「そんな! 私は不要ですか? お嬢さまの為になる事なら、何なりと命じて下されば、即座に実行する気持ちですのに」


 いやー、愛されてると言うか、かなり忠実なメイドになってるなぁ。


 でもわたしとしては、もう少しそこにも変化が欲しい気もする。


「うーん、もうちょっと時雨は自分の事も考えてよ。ちょっとは楽して欲しいって、わたしは思ってるの。それにあんまりわたしを甘やかすのも良くないでしょ。教育的な配慮も必要じゃないかしら。って何でわたしがこんな話しなくちゃいけないんだろ」


「ははは、そうだな。ご主人が怠け癖なんてついたら堪らんが、常に本読んだりして、忙しくしてるご主人がゲーム廃人の様に、グダグダになる事はなかろう。時雨も安心して、尽くせると言うもんじゃ」


 そう? それは随分と買い被りと言うか、えらく褒められたなと思うけど。


「それなら、また今度でも料理とかも教えて欲しいな。わたしも時雨に作ってあげたいもん。ね、いいでしょ?」


 ジッとわたしが見つめると、時雨は顔を輝かせて頷いてくれる。


「勿論ですとも。お嬢さまの手料理が食べられるなんて、そんな天国の様な日が来たら、私はどうなってしまうんでしょうか」


 大袈裟すぎる。あまりにもわたしを崇拝しすぎじゃないだろうか。


「別にどうもならないわよ。美味しいって言って貰えたら、そりゃ嬉しいけど。まだ何にもしてないのに、出来た気になってたらいけないわよね」


「ご心配なく。お嬢さまは手際もいいですし、キチンと手順通りにやれる方なので、教え甲斐があると思いますよ。色々なレシピをその通りに作るだけでも、いい料理が出来ますしね」


 そっか。それなら、ちょっと自分にも期待して置こう。時雨に教わるんなら百人力だ。


 そう言えば、この前から不定期なのか定期的なのか知らないけど、ちょくちょくカトレアさんが料理を教わりに来てたから、今度はわたしも参加してもいいかもな。


 しかし何だか話が逸れたけど、とにかく夢が快適になって、わたしの体調もより良くなるのなら、わたしが協力してる意味はあるよね。


 それによって、ソーニャさんもまた全快に近づくと嬉しいしさ。




 寝る前に実はソーニャさんにこんな話をされたので、紹介しておく。


「ああ、お主ら。血は一番力になるが、何なら唾液でもコネクションが繋がってる同士なら、ちゃんと効果はあるぞ。やってみるんだな」


 体液ならいいと言う事なのだろうか。何かその他の体液、つまりはエロい物でも可とソーニャさんは言ってた気がするけど、まだわたしには今関係のない話だ。


 で、その話が頭から離れなかったから、夜布団に入る時に、時雨に少しお願いする感じで聞いてみた。


「ね。わたしの唾液って欲しくない。交換してもいいんだよ?」


 どうも変態的な感じになってしまったし、些か不自然な気もする。


 これでホントに伝わったのか不思議だけど、ちゃんと時雨は理解した様で、慌てている。


「いえいえいえ、お嬢さま。ご先祖様の言葉を気にしていらっしゃるんでしょうけど、何も無理にそう言う事をやる必要はないんですよ? そ、その、色々とそれにはやらないといけない段階もあるでしょうし」


「舌入れて、ちゅーすればいいじゃん。駄目?」


 そう無邪気を装って聞くと、真っ赤な時雨は茹で蛸みたいで、否定する訳ではないけど、やはり基本的にシャイな部分は変わらない。


 これじゃ、向こうから押して貰うのは、中々期待出来そうにもないな。


 わたしはホントは受け身でいたいって再三言ってるけど、それを成就させてくれるのは、まふちゃんだけなのかもしれない。


「そ、それは、別に嫌って訳じゃないですけど、お嬢さまはいいんですか。そ、そんな。ディープキスとか大丈夫ですか」


「やってみようよ。寝る前に危険かもしれないけど、ちゃんと送り込んであげるから」


 そう言って、パジャマの状態の半人前から三分の二くらいにパワーアップしたかもしれない吸血鬼に馬乗りになる。


 顔を逸らそうとするけど、わたしがこっちを向かせて、逃がさない。


「あ、あの、優しくして下さい。お嬢さまの好きにしていいんですけど、その・・・・・・」


 これいつも言われてる気がする。そんなにわたしって、優しくないのか。


 何だか無性に気後れしているこの人がアレだったので、わたしは有無を言わせず唇を重ねてしまった。


 そして、そこから強引に舌を差し入れる。


 むぐむぐとしていたけれど、段々向こうも舌を絡ませてくれて、ぺちゃぺちゃくちゃくちゃと卑猥な音を立てながら、わたし達の大人のキスは続いていた。


 息が苦しくなりそうだったのもあったので、すぐに離れようとも思ったら、向こうがもう夢中になって離してくれなかった。


 大分絡んで、口から糸を引いた様になりながら、わたし達は顔を見合わせる。


 恍惚とした表情をお互いしているだろうから、どこか淫らでエッチな印象になる。


 でもそれで収めないといけないので、わたしは今日は時雨から背を向けて、寝る事にした。


 向こうがより恥ずかしいだろうし、大人な時雨の方が興奮を抑えるのに苦労するはずだから、わたしから余計な接触をしない方がいいと思ったのだ。


 くっつけないのは残念だけど、今日は何だかちょっと疲れたので、すぐ寝られるだろう。


 その日は時雨が夢に侵入するどころか、安眠かどうかは別にして、夢も意識しないでぐっすり寝ていたのだった。


 もしかして見ているかもしれないけど、全くその日の眠りの間の事は覚えがないのだから、なかったのと同じだろう。




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