第31話蜜柑の家で泊まる雪空姉妹
私、西田蜜柑は雪空木の葉先輩と、この度正式にお付き合いする事になった。
・・・・・・なってしまった。私の不面目な行いによって、私の好意が発覚してしまったのだけど、先輩は女神の様な優しさで私を受け入れてくれた。
こんな僥倖が本当にあっていいのだろうかと思うのだけど、でも私はその天国にずっと浸りきっている。
私の家にパーペチュアル・チェンジと言う図書館が出来ているので、週末になると先輩はしょっちゅう泊まりに来てくれる。
色々な本が読めて、未訳の物もどう言う原理なのか、はたまた機械翻訳の凄く精確な物みたいな感じなのか、訳されているのがあったりするので、重宝するんだそうだ。
それに高い本なんかも助かるとの事。図書館にもない物とかもあったりするし。
しかしこれ著作権とか割と無視してるよね、と私は突っ込みたい気分だったけど、この家に宿ったスピリット能力にはそんな事はお構いなどない様だった。
だから、もうあまり考えないようにして、私もずっと使い続けている。
外国語の教本とか、原書なんかも充実しているので、かなり勉強にも使えていいのである。
そう、そして泊まりに来ていた時は、逆にこっちが緊張して遠慮ばかりしていたのだけど、ある時恋人だからと、ついに私と先輩は一線を越えてしまった。
何だか夢みたいだったので、最初の記憶が曖昧だけれど、ぎこちなくしか出来ない私を、先輩はデートのエスコートをしてくれるみたいに上手く扱ってくれた。
それが嬉しくて、二回目はもっと頑張ろうとしたけど、やはり私は緊張してしまって、いつも優しく先輩に緊張を解きほぐして貰って、メロメロにされるのだから、この人は本当に優しいだけじゃなくて凄い人なのだと思い知る。
だから、最近は先輩の妹さん語りが聞けないのが逆に寂しくも思っている。
私との時間を大切にしてくれて、妹さんから離れてもっと他人と触れ合おうとしているのは尊重したいのだけど、やっぱり妹さんラブな先輩は輝いていると思うから。
だから、少しその事を言ってみると、木の葉先輩はふと遠い目をするようになって、
「そうね。小春の話をしっかり聞いてくれるのは蜜柑ちゃんだけだから、私も嬉しかったわ。だからあなたを好きにもなれたのかもしれないし。でも最近、お姉ちゃんお姉ちゃんって言わなくなって来て、色んな人と交流出来るようになっているから、それをあんまり邪魔したくないのよ。小春だって成長している。大人になろうとしている。だったら、温かく見守るのがお姉ちゃんってものじゃないかしら」
うーむ。ここの所、やけに私の所に泊まると思っていたら、そう言うのも含んでいたのか。
でも私には姉妹の関係など想像でしかわからないから、思うまま言ってしまおうとする。
「でも木の葉先輩は寂しいんですよね。だったらもっと妹さんとコミュニケーションしてもいいんじゃないですか。他の人と仲いいからって姉妹で仲良くしてたらいけない訳じゃないでしょうし」
どうも、私はいつも真面目に堅物の様に返してしまう癖がある。ユーモア感覚と言うのがあまりないのかもしれない。
人を笑わせる事なんて出来ないんじゃないかと言うくらいに、そのまままともに返事をしてしまう。
でも先輩は、それを真摯に受け止めてくれる。
「そっか、蜜柑ちゃんの言う通り、もっと私との時間も取ってって言ってもいいのか。幸い、本の話なら何でも出来そうだし。ね、今度小春をここに連れて来てもいい? このパーペチュアル・チェンジを見たら、飛んで喜ぶと思うのよ」
「え、ええ。いいですよ。泊まるのでしたら、ちゃんと寝る場所の用意もしますし」
「ありがとう。でも寝るのは私達二人で寝ましょ。小春も一人で寝られる年齢だしね」
急にドキッとする事を言われて、ドギマギしてしまう。まさか、妹さんがいる所で、そんな事をしてしまおうとするんじゃないだろうか。
そ、そうだとしても私はそのまま受け入れてしまいそうで、どこまで先輩の事どんなのでも好きなんだと、我ながら呆れてしまう。
そう言う訳で、来週の金曜日に連れて来て、金土と泊まる事になった。それにしても、本当に先輩がこんなに近くにいてくれて、私は幸せだ。
金曜日の夕方、木の葉先輩が妹さんを連れてウチに来た。
妹さんは背も小さく、眼鏡を掛けた澄ました感じの子なんだけど、どこか愛らしい感覚を刺激されて、先輩があれほど溺愛する気持ちが、先輩と長く話していただけにわかる気がする。
「あ、あの。蜜柑さん、今日はよろしくお願いします。雪空小春、小学四年生です」
「あ、はい。小春さん、こちらこそお願いします。私もお姉さんにはお世話になってまして、その取っちゃってごめんなさいね。えと西田蜜柑です」
そうちょっと遠慮した言葉を交わす私に対して、くすりと先輩は笑っているが、小春さんは真面目に返事をしてくれる。
「いえ、お姉ちゃんが他の人とどんどん仲良くなるのはいい事です。そ、それより、そのパーペチュアル・チェンジと言う図書館は・・・・・・?」
うーん、この前のめりの感じ。凄く本が好きなのがわかるな。
私や先輩よりも本ばっかり読んでるのが好きだって、先輩は言うけど、それの信憑性が高くなる様な目の輝かせ方だ。
「ええ。じゃあ早速そちらに案内しましょうか。そうそう、新しく見つけた機能って言うか装置、先輩にも教えときますね」
「あら、そんなのがあるのね。楽しみだわ」
そう言って、蔵の方に行って、階段を降りていく。ここには何度も来ているから、もう私や先輩は怖い気持ちもないけど、小春さんはどうだろうか。
もしかして、狭い所とか通るの怖くないかな。
パーペチュアル・チェンジの中はLEDの電灯が光っているみたいに明るいけど、この階段はちょっと薄暗くて狭いのよね。
開けた場所に出て、ボタンで灯りをつけてから、本棚の構成を操作するパソコンの前に行く。これはすぐに画面が立ち上がる仕組みになっていて、非常に便利だ。
「わー。これで色々な本を出現させられるんですね。ジャンル別とか国別とか、色々な指定の仕方で並べ方も変えられるんですよね」
「ええ。じゃあ、そうね。例えば、物理学の本とかそれこそ相対性理論の本とか、細かい指定でそれ関連の本とかも自動で検索してくれて、出してくれるから結構便利だけど、優先順位とか選ばないと、とにかく沢山出て来るわね」
ふんふんといたく楽しそうだ。
じゃあ、ヨーロッパの文学とか指定して欲しいなと言うので、そうしてみる。そうすると、とにかく広いスペースに大量の本棚が出現する。
「おー。凄い凄い。これ古典から最新のまで、何でもあるんですよね。買えなかった本とか絶版のとかもあるんですよね。いいなぁー。あ、ラテンアメリカの本とかも出したいなー」
・・・・・・どうも自分で慣れるように操作させてあげる方が良さそうなので、席を代わってあげる。
そうする事で、私は先輩に先程の新しく発見した事について話そうと思っていたら、先輩がその道具を見つけて。
「あら、このゴーグルみたいなのって何かしら?」
二つのゴーグルと時計型の装置を取り出して、先輩が私に聞いて来る。なので私は待ってましたと、その話をする。
「それなんですけど、どうもARとVRのゴーグルらしいんですよね。それもまだ普及してるタイプのじゃない新型みたいなので、ARの方は拡張現実だけあって、ここの部屋で電子書籍を本を広げるみたいに読めるみたいで、勿論辞書機能も付いてます。VRでは、家の中でも使えるんですけど、好きに書斎の設定をしたり、本の装丁なんかもオリジナルにして、色々ガワの面でも楽しめるみたいです」
「へー。ヘッドマウントディスプレイとかじゃないのね。それにVRだとホームシアターのアプリとかは出てるらしいけど、そんな感じのと同じ様な物なのかしら」
理解が早くて助かる。私は先輩に頷いてから、説明を続ける。
「ええ、読み上げ機能とかもあって、任意の機械音声でやってくれますし、それも今の技術のより大分進んだ感じですよ。試してみた私が言うんですから、保証出来ます。洋風の書斎にも畳の部屋にも、図書館の個室のスペースみたいなのにも、書庫の床みたいな変わり種でも、何でも設定出来るんですから、楽しみ方は無限大です」
先輩に話していると、私のこの機械の説明には目もくれずに、小春さんは早速本棚を眺めてキラキラ目を輝かせている。えーと、何々。
「専門的な知識がしっかり出て来る小説」と検索バーには打たれている。
・・・・・・またそんな偏屈な調べ方で、実際そう言う本も沢山ある様なやり方をするとは。ちょっと好感度がぐんと上がったかもしれない。
先輩の話を聞いて置いて良かったな。こんな小学生らしくない、読書オタクな女子は、些か初対面では面食らう場合が多いと思うから。
それにしても、姉妹なのにお洒落への気の使い方が結構違うなと、小春さんの無頓着な服装を見ていて、そんな感想を心に浮かべていると、今度は先輩が早速ARゴーグルを付けていた。
「ああ、先輩。このウォッチ型のコントローラーも付けて下さい。これがないとちゃんと本を持てないし、ページも捲れませんよ」
「ああ、そうなのね。なるほどなるほど、こうしてこう。ふむふむ。あら、本のお気に入り登録とか、栞、マーカーとか色々出来るのね。本当に電子書籍みたいねぇ。それにページ数は、ちゃんとパーセンテージじゃなくてページ番号が表示されるし」
うーむ。ホントに自由な姉妹だ。
私はその光景を眺めているだけで、まぁ満足ではあるのだが、この姉妹は本当に本の事なら好奇心旺盛なんだから。
私は先輩が、今日のスカートにいつもと違ってヒラヒラのレースがある物を履いているのを、どの段階でいいですねそれと言えばいいかと、どつぼに嵌まりそうだったけど、この人に今何を言っても駄目なのはわかっていたし、後でその事はきちんと見てますよと伝えようと思っていた。
後、ティーシャツの図柄がロックバンドのアルバムジャケットなのは、最近の先輩の中での流行りなのだろうか。
ご飯を食べている間も、雪空姉妹は無邪気に会話を交わしていたのを見ていて、私はやっぱりこの姉妹は根本的に似ているのだなと思う。
妹さんもやはり普通に楽しい話をしている時は年相応だし、木の葉先輩も同じようにはしゃいでいると、本当に私より年上でいつも優しく冷静なあの人だろうかと言う気にもなって来る。
私はだから黙って二人の様子を見ていた。
今日くらいは、パーペチュアル・チェンジの事で盛り上がるのを二人に譲ってもいいじゃないか。
私はこれから幾らでも、先輩と仲良く会話もそれ以上の事も出来るのだから。
だからお風呂も姉妹で入って貰う事にした。
が泊まりに来た時は、割と私と二人で入ってたけど、どうも私は変な気分になって仕方がなかったし、今日は姉妹でゆっくりして頂きたい。
でも先輩がちょっと緊張した様に、恥ずかしそうな顔をしていたのは、少し笑えたかも。妹に何を気兼ねしているのか。
先に入って貰ってから、私もささっと入ってしまって、自分の部屋で本を読んでいたら、先輩がノックをしてやって来た。
あれ、一緒に妹さんと寝ないのだろうか。
「ふふ。いいの。蜜柑ちゃんも寂しそうだったから」
私、そんな風だっただろうか。至って普通に過ごしていたつもりだったのだが。
でも何でもお見通しの先輩にはわかるのだろうから、そう先輩が言うならそう見えていたので正解だ。
「小春って可愛いでしょ。あの子、私の天使みたいな子なのよね。ってそれはいつも言ってたわよね。でも、今は蜜柑ちゃんをもっと可愛がりたい気分」
ベッドに座って本を読んでいたのがマズかっただろうか。
先輩は横に座って、両手で私の顔を自分の側に向けると、ディープキスをして来て押し倒されるので、ちょっと一瞬息苦しかった。
「んむっ・・・・・・。あっ、先輩っ・・・・・・、そんな事されたら、妹さんがいるのに私、抑えられなくなっちゃいます・・・・・・!」
先輩のキスはいつも甘美だ。
先輩がしてくれるだけでも天国の心地なのに、それが私の舌を上手く絡めて離さないのだから、それがもつれ合うのがもう素晴らしすぎて、唾液が絡み合うのも意識から遠のくほど、お互いピチャピチャと求め合ってしまう。
「ふう。ん、蜜柑ちゃんはでもしたいんでしょう。それなら、いつものようにしてあげるわよ。私の方も我慢出来なくなって来たから、して貰えるとありがたいな。こればっかりは、小春に求められないし、大人同士だからこそ出来る事よね」
まるで妹さんが大人ならいつでもやってみたい、とでも言うかの様な口ぶりだ。
しかし何か反論する気力もなく、私は服を脱がされて体にキスをされる
凄く感じてしまうので、どうやら私は肌が敏感なのだろうけど、先輩の触り方とかキスの仕方とかもかなりエロいのではないかと邪推している。頻繁に乳首を攻めて来るのも、先輩らしい。
それから私達は共に、結構な時間を掛けてだけど、声を極力出さないでいるようにしながら、セックスを楽しんだ。
思うに、声を出さないでするのって、結構難しい。でも今日はイレギュラーな事態だったからか、私もそこまでガチガチにならずに先輩にも楽しんで貰えたと思う。
明日もこの調子で、日中は姉妹の様子を見て楽しんで、また夜には私が可愛がられるのかもしれない。
それが不思議と心地良い気分に誘われて、先輩の蠱惑的な瞳に吸い込まれていくみたいで、私はこれから木の葉先輩がもっと妹さん以上に私の事を大事に思って愛してくれる様に、私からも愛情表現を拙くてもしていって、そうやってコミュニケーションを取って距離を詰めていきたいと思いながら、眠りについたのだった。
一晩寝て起きたら、傍らに薄着の木の葉先輩がいたので、少し狼狽した。
って言うか、下着だけで寝てる。確かにこう言う事はよくあるのだけど、未だに慣れないでドキッとしてしまう。
よく考えたら、私ってあんな事したのに、よくも先輩に受け入れられたなと思い出して、またげんなりしてしまいそうになる。
自分が基本的に嫌いなので、先輩に嫌な気持ちをさせてないかと、不安ばかりが募る。
先輩はそのままにして置いて、私は顔を洗って朝食の支度をする。
しばらくすると、小春さんもやって来たので、一緒に朝食を取った。
その席で、私達は微妙にどう会話を交わしていいかわからないので、お互い沈黙している。
それでは駄目だと思ったのか、小春さんが私に話を振ってくれる。
「あの・・・・・・お姉ちゃん、楽しそうにしてますか?」
「え? ええ、そうね。いつも笑顔でいますし、私には楽しく会話してくれてる様に見えますけど」
「そっか、良かった。以前はお姉ちゃんって、私の事ばっかりだったから、友達もいなかったんです。だから大学に行って、少し変わったなら良かった」
先輩が友達のいない人だったなんて、嘘みたいだ。社交的で誰にも好かれる様な人なのに。
それだけ外交的態度は上手にこなしていたけど、親しい友達を作る努力をして来なかったって所だろうか。それよりも・・・・・・。
「それより私は先輩に迷惑掛けてないかが心配です。小春さんは聞いたりしてませんか、私の愚痴とか。あ、その言いにくかったらいいですけど」
ポカンと私を見つめて、小春さんは苦笑する。私、何かおかしい事言ったかな。
「少し蜜柑さんはわたしに似てるかもしれません。友達が自分をどう思ってるか不安なんですよね。大丈夫、お姉ちゃん家では蜜柑さんとの楽しかった事、よく聞かせてくれますよ。第一、恋人にまでなったんでしょう。なら、随分仲いいって事じゃないですか。それだけ蜜柑さんの事がお姉ちゃんも好きなんだと思います。それでちょっとわたしが寂しいくらい」
やはり木の葉先輩の妹さんはしっかりしている。観察力もあるし、自分の意見も持っている。
私みたいな優柔不断で何が先輩の喜ぶ事なのかわからない人間とは違う。
「よいしょ。それじゃあ、ごちそうさまでした。今日もあの図書館、使っていいですか?」
「ええ、いつでもどうぞ」
「ありがとうございます。やっぱり本ばっかりに囲まれてたら幸せだなぁ。時雨も連れて来てあげたかったけど・・・・・・」
時雨さんと言うと、メイドさんだろうか。随分仲いいとは聞いてたけど、そんなに懐いているのか。
それなら、木の葉先輩が少し離れようとしながら寂しがる理由もわかるかも。
「別にそんなに大挙して押し寄せなかったら、誰でも連れて来ていいですよ。本が好きな人なら、知り合いに限定ですけど、大歓迎です」
「わ。ありがとうございます。じゃあ、今度一緒に来ますね。それならお姉ちゃんを取っちゃわないでも済みますね。あ、でもお姉ちゃん大好き度では、わたし、負けないつもりですから」
うーむ、お見通しの様だ。
わたしは何も嫉妬していたわけではないけど、ちょっと姉妹の仲睦まじい様子が羨ましかったのは事実だから。
それだけ私も愛に飢えているのかもしれない。昔からは考えられない事だ。でも妹と恋人の親密度を競うって、どんな関係だか。
そうして後片付けをして、まだ先輩が起きて来ないので、私も読みかけの分厚い日系イギリス人作家の本を読む事にした。
小春さんはどんな本があるかも、まだ探索したいみたいだったので、本をじっくり読んだりするのは、今日まででは出来ないかもしれないな。
しばらくすると先輩は起きて来た。そう、先輩は結構ゆっくり寝ている事が多いのだ。
休日はいつもそんな過ごし方をしていたんだとかで、私の家にいてもそうなってしまうそうだ。
私は先輩が朝ご飯を食べている間も、まだ自分で先輩との事を考えていて沈んでいた。
やはりそこが小春さんとは違う、自己嫌悪の塊で潰れてしまいそうな私なのだろう。
先輩が私の部屋に来て、傍らに座る。私の気分を察しているらしい。流石は先輩、私をわかっている。
「どうしたの、蜜柑ちゃん。また何か気分が優れない?」
度々、暗い気分になる私の話を聞いてくれていた先輩だからこそ、私の微妙な変化に気づくのかもしれない。
「その、やっぱり私、あんな風に酔って醜態を晒したのに、先輩に愛されていいのかって思っちゃって。愛される資格、私にあるんでしょうか・・・・・・」
ふむふむ、今度はそんな悩みなのね、と頷いてくれる先輩。この人は、一概に否定から入らないのが凄い所だ。
「蜜柑ちゃんは私に愛されるのが負担って訳じゃないでしょう。それなら、私に好かれて何が困るのかな」
「それは・・・・・・困らないですけど、どうしても私自身を許せないんです。私あんなに軽率な事したのに、のうのうとしてていいのかなって。あれって歴としたセクハラですよ。それなのに、先輩は怒りもしないから」
そう言う私を先輩は何を思ったか、優しく撫でる。
「しょうがないなぁ、蜜柑ちゃんは。あのね、そりゃあ蜜柑ちゃんはそんな風な事をしたよ。だから自分でそれに責任を感じている分にはいい。でも私だってお返しにとばかりに、家に来てくれた時にキスしたじゃない。それでおあいこって事には出来ない?」
う。そう言われると弱い。でも先輩は私が先輩を好きなのをわかった上でしたんだし。
「それにね、私はどう蜜柑ちゃんに思われても、勝手に蜜柑ちゃんを好きでいて愛してる分には、私の勝手だと思うの。蜜柑ちゃんが自分を嫌いでいてもいい様に、私もそんな蜜柑ちゃんを支えていきたいって思っても、悪くないでしょう」
これだ。先輩はこんなにも海の様に優しく深い。
こればかりは持って生まれた気質の違いだろう。ネガティブばかりにいく私とは全然違う。
「わ、私は先輩にいずれ迷惑掛けるかもしれないのが嫌なんです。先輩に辛い思いはして欲しくない。私はそんなに好かれるほど、まともな人間じゃないし、ずっと拗くれてて友達もいなかったし、自分で自分がいい子じゃないってわかってるんです」
「それでも、よ。私はだから蜜柑ちゃんと一緒にいたいって思うし、迷惑だって言うなら幾らでも掛けてくれればいい。今まで暗い生活をして来たんなら、これから明るくして行きましょうよ。その手伝いを私にさせて欲しい。いい子じゃないって言うんなら、私だって強引に蜜柑ちゃんに迫るし、悪い子よ」
そう言って、少し間を置いてから、またこう優しく先輩は言ってくれる。
「そうね。じゃあ、これならどう? 自分を好きになれないんなら、蜜柑ちゃんを好きな私をまずは好きになってくれるって言うの。これならちょっとハードル下がるでしょ」
そんな事果たして出来るだろうか。先輩は好きだ。
でもそれは先輩が好きなのであって、私の事を好意的に見てくれる事に、全面的に受け入れていける訳ではない。
でもそうまで言ってくれるのだから、私ももうちょっと歩み寄ろうとも思う。
「すぐにそう出来るかはわかりません。勿論、先輩の事は愛してます。でもそれとは微妙に違うんですよ。いつ、私は先輩に嫌になられるかわからない性格ですし、そんな風に自己嫌悪ばっかりしてる人間って、人に好かれないのはわかってますから」
「うん、いいわよ。徐々に行きましょう。私だって、小春にばかりべったりするのを止めるのしんどいんだから。もっと蜜柑ちゃんにべったりになっても、嫌にならないでよ。だから求め過ぎちゃうの、ホントは少し悪いなとも思ってるんだから」
私が先輩を嫌になるなんて、恐らくないと思う。
先輩はそれだけ、何も否定しないで、私を肯定的に受け止めてくれているのだから。
じゃあ、そうやって接してくれる先輩を、私も受け止めていかなくては。いえ、そうしたい。私も変わらなきゃ。
「わかりました。少しずつでいいなら。でも私、ユーモアの感覚なんて大分欠如してますし、笑える様には持って行けないんで、そのつもりでいて下さいね」
「わかってる。そんな蜜柑ちゃんだから、面白いんだから」
そうやって、私をギュッと頭から抱える様に、木の葉先輩は抱き締めてくれた。
こんなに温かい関係を、誰かと作れるなんて、昔だったらまるで考えられないほど、誰とも壁を作っていたから、私は確かに変わりつつあるのかもしれない。
その日の夜、先輩は何かする事もなく、ただ傍で眠ってくれた
それだけで私は安心して眠れる様だったけれど、でもどこかでいつ先輩が私を嫌いになるかを不安に思う気持ちは消えないで、それだからこそ先輩に頭を撫でられると落ち着いたのだと思う。
翌朝、先輩は珍しく早く起きて、小春さんと帰る支度をしていた。
朝起きた時に先輩がいないのが、少し怖かったけど、私は口には出さなかった。だってそれは平日はいつもそうなのだから。
小春さんが目をまだ輝かせて、先輩に語りかけている。
「ねえ、今度は時雨も連れて、また来させてね。いつもここに来てるんなら、一緒に行ってもいいでしょ、お姉ちゃん」
「そうね。まぁ、蜜柑ちゃんの為にも小春を連れて来るのは良さそうだし、いつでも一緒に行っていいわよ。ね、蜜柑ちゃん。この子のメイドさんもいいわよね」
「え、ええ。昨日も小春さんに言いましたけど、別に構いませんよ。メイドさんなら、いつも傍にいた方がいいんでしょうし」
「それがね・・・・・・ふふ」
? 何か含む所があるのか、耳元に寄って来る先輩。何だろうか。横で若干小春さんがそわそわしてる気がするけど。
「実はね・・・・・・」
ごにょごにょと私は小春さんの事を打ち明けられる。
ええ? そんなのありなんですかって気分だったけど、まぁ先輩の妹ならそれもあり得そうな気もした。
「そ、それって凄い進んでますねぇ。流石、先輩の妹さんだ。そ、それなら尚の事来て頂いて貰わないと。小春さんも寂しかったでしょう」
「ありがとう。じゃあ今度は時雨さんも連れて来るわね。寝る場所は、小春と同じ所でいいでしょう。ここに置いて貰う代わりに、材料持って来て時雨さんに作って貰おうかしら」
何だかそれも悪い様な。でもメイドさんなら、きっと料理も上手だろうし、ちょっと気になるな。
そうして、日曜日の朝に二人は帰って行った。
先輩だけなら、もうちょっといてくれたのにな、とか変な事を考えてしまって、もう本当に相当先輩なしの生活が考えられなくなっているみたいだ。
また、来週が楽しみだけど、先輩とはまた大学でも会えるので、それを心待ちにして、レポートの残りでもやっていようかな、と思案してから部屋に戻ったのだった。