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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第二部:ご先祖ソーニャさん登場
30/62

第30話出雲ちゃん頑張るもばたんきゅー

 お姉ちゃんも学校が休みだからなのか、この頃頻繁に外泊するようになった。


 恐らく蜜柑さんの所に泊まっているのだろうと時雨は言うし、その上大人の関係ですよ、とか言うもんだから、少しお姉ちゃんが心配だ。


 これまでお姉ちゃんにそう言うのって全然なかったから、いきなりお姉ちゃんに恋人が出来たりとか、あんまり想像が出来なかった。


 だからちょっとずつ自分も変わっているのを受け入れて貰ってるから、お姉ちゃんの事も自由にさせてあげるといいと時雨には言われている。


 そう言う訳で、わたしはお姉ちゃんが友達の所に行って来ると言って出て行くのに、何も言わないでいる。


 多分、お姉ちゃんは最近のわたしの周りには沢山人がいるし、いつも時雨が傍にいてくれるから、安心して家を出られるのだろう。


 思えば、お姉ちゃんには負担を掛けてたと思う。


 お母さんがあんなに忙しい人だから、口にはあまり出さなかったけど、わたしは寂しかったのよ。


 それをお姉ちゃんは察して、いつも外出とかあまりせずに一緒にいてくれたのだから。


 それはそれとして、今朝はお姉ちゃんは家にいるみたいで、何やらソーニャさんに血を吸われている。


「あ・・・・・・凄いわ。ソーニャさ・・・・・・・あっ・・・・・・んん、ああんっ・・・・・・!」


 何やらわたしやまふちゃん以上に艶めかしい声を出しているので、こっちが変になりそうだ。それだけ大人は官能が深いと、気持ち良さに耐えきれないのだろう。


「ふふふ、どうだ。余のやり方は熟練の物だからな。時雨よりももっと気持ちいいぞ。余に吸われるのを光栄に思うがいい。しかしなるほど。姉妹だからか、お主の血は美味しいのお。まぁ、小春のは時雨のもんだから、吸わしては貰えんのだが」


「あ、じゃあいつでも私のをどうぞ。でもこんな所、蜜柑ちゃんに見られる訳にはいかないわね・・・・・・」


「なんだ、恋人かそやつは。まぁ何だ、バレたら献血をしておると言うておけ。実際、お主らの方も血流が良くなったりする成分を流しておるから、いい事もあるんだからな」


 知らなかった。そんな効能があるとは。時雨もそう言うの出来るのかな。


「ええ。そうみたいですね。それ、ご先祖様にこの前、あの気持ち良くさせる唾液に含まれてるって教えて貰いましたので」


「わっ。いつの間にそこに。って、そっか。じゃあ、わたしも健康にはいいのか。血を吸われて健康になるってなんか想像つかないけど、でもそれなら何だっけ、そう、ウィンウィンの関係だよね」


「ふふ、そうですね。おや」


 そう言っていると、チャイムが鳴る。こんな朝早くから何だろう。


 誰がこんな時間帯にと思うけど、朝早い方がそれほど暑くないしいいのかな。まだ夏休みだから寝てる事は考慮してくれない訪問者のようだけど。


「はい、どなた。ああ、カリスマさんですか。わざわざどうも。え?能力で来たから楽だった、ですか。それは、いいですね。はい、今開けますね」


 時雨がパタパタと玄関に向かうので、わたしもちょこちょことついて行く。玄関を開けると、カリスマさんが一人。


 おや、とわたしは思う。出雲ちゃんはどうしたんだろう。


「少し相談があるのですが、その、実は出雲様の今後にかなり大問題がもたらされまして」


「心なしか、落ち着きがないようですけど、上がって一息ついて下さい。ゆっくりお話は聞きますので」


「すみません、時雨さん。では、お邪魔して」


 居間の方に向かうので、またわたしは無言でついて行く。なんか、わたし馬鹿みたいだな。


 コップにミネラルウォーターを入れて、差し出すとカリスマさんは、その金髪を優雅に掻き上げてゴクゴクと飲み干す。


 この人、黙ってると綺麗だなぁ。いつも出雲ちゃんに憎まれ口言ってるから、全然気づかないけど。


「それでどうしたんですか、出雲様がどうかされたとか」


「そうだよ、出雲ちゃんに何かあったんですか。それなら大変です」


 むぅーっと難しい顔を一頻りしてから、カリスマさんは溜め息を吐いてから話してくれる。


「それが、出雲様が読書中に、熱を出して倒れまして・・・・・・」


 えー? 無理してたのかな。休憩も適度に取らないとしんどいし、根詰めすぎも良くないのに。


「そうではなく、活字を追うのに夢中になるあまり、無理が祟ったのか、それが原因で熱を出してしまわれたのです。ああ、困りました」


 あちゃー、そうか。心配してた事がホントにそうなるとは。


 出雲ちゃんに読書は向かないのではと疑っていたけど、そうなんだ、やっぱりそれほどまでに苦行だったか。それなら、諦めるしかしょうがないのじゃあ。


「それが、そうしようとしないで、熱があるのにベッドの中でも読もうとするんです。これは小春様に何か言って貰わなくてはと思いまして、駆け付けた次第です」


 うーん、励ましの言葉って言うか、本は読まなくてもいいよとか言えって事。


 でもあんなにきつく言っちゃった後だしなぁ。でも、まぁ自由の侵害さえしないなら、別に相手が本読まなくてもいいけど、そうなると本屋デートとかの件はどうなるんだってなるしなぁ。


「あのー、ちなみに何を読んでらしたんですか」


「はい、あの谷崎潤一郎の何でしたか、あの短い本で有名な。古典からいくのは無策で強豪校にスポーツで挑むみたいな物ですと言ったのに、聞かなくて」


 ああ多分、それは「春琴抄」だろう。また変なチョイスをしたものだ。


 恐らく、家族の本棚にあったのを手に取ったとかかな。屈折した話を読むのはいいとしても、それにしてもああも文章が改行もそれほどなく、難しい語彙も沢山出て来るのから行くとは、ホントに無謀だよ。


 わたしでもあれしんどいもん。もっと軽いラノベとかから行けと、忠告しとくんだったかな。


「あのですね、読むんでしたら、本を好きにならないと意味ないですよ。いきなり嫌になるのを読んでも楽しくないですから。それでステップアップしていったら、段々そう言う本も面白く感じて来るって言うのがわかって貰えたらなぁ」


「なるほど、参考になります。是非、それをお嬢さまに言い聞かせて頂けると、大変ありがたいのですが、如何でしょう」


「ま、まぁ別にいいけど。家に行けばいいんですかね。熱で寝てるなら、お見舞いにもなるのかな」


「はい、それならば、もう少し時間が経ちましたら、私の能力で行きましょう。時雨さんも来ますか。定員は私の手で触れるだけの人数ですよ」


「そうですね、お嬢さま一人で行かせるのも帰りが心配ですし、私もお供しましょう。それに出雲様にお勧めの本とか、お嬢さまと選んでいったらいいのではと、私は愚考します」


「時雨、それいいよ。そうしよう。読みやすいのとか選んで、持って行こう。わたしだとそんなにラノベの選書は出来ないけど、手軽な一般小説なんかもあるしね」


 それならと、わたしは本棚の方に向かって、あれこれと考え始める。


 これはどうだ、あっちはどうだと、一人でうんうん言ってると、時雨も傍で本棚を眺めている。うん、一緒に考えて持って行こう。




 初めて来ました、出雲ちゃんち。しかし広いなここ。やっぱり帰りが不安だから、時雨と一緒で良かった。


「ささ、こちらです」


 カリスマさんに案内されて、わたし達は家の中に入っていく。


 玄関で靴を脱ぐも、なんか凄いスリッパを履いて、それで広い廊下を渡って行くので、ちょっと緊張しちゃう。


 そうしてから、何やら部屋が幾つかある所を奥に行くと、一際広い部屋の前に来た。


「ここが出雲お嬢さまのお部屋です。お嬢さま、ご友人がお見舞いに来られました。入りますよ」


「へ? 誰ですの、カリスマ。ま、まさか?!」


 バタバタする音が聞こえるけど、無慈悲にわたし達は入って行く。


 そうすると、何だか恥ずかしそうな顔で、熱が出ているからだろう、ベッドにいる真っ赤な顔な出雲ちゃんが。


「お、お姉さま。こ、こんな所にようこそお出で下さいました。お構いもしませんで」


 いや、そんなのいいから寝てなよ、と言う間もなく、カリスマさんがちゃんと寝ていないといけませんと言って、寝かしつける。


「難しい本読んで、熱出したって聞いたからさ。駄目だよ、順番に読みやすい本から読まないと。文学じゃなくて、娯楽小説とかもっと選び様はあったでしょ」


「だ、だってぇ。お姉さまに褒めて貰えるかと思いましたので。・・・・・・でも確かに失敗でしたわね。こんな無様な姿を見せる事になってしまって、わたくしは情けないですわ・・・・・・」


 ははは、と笑ってベッドの近くに時雨と共に行く。そこでわたしは紙袋に入れた本を早速取り出す事にした。


「ほら、この辺を参考にして、いけそうなのから行ってみてよ。のめり込むくらい面白いと思える本に出会ったら、読書沼なんてすぐだからさ」


 とりあえず病人の手前だし、意識的に饒舌にあれこれ語ってしまわないようにして置いて、本を差し出す。


 御三家SFのショートショート書きまくった人のとか、ミステリで真相が飛び切りに驚いて、それで推理がしっかりしている新本格の物とか、ちょっと変わり種として紅茶とかコーヒーの事を丁寧に解説した本なんかも持って来た。


 こう言う歴史とか諸々の蘊蓄って、お金持ちなら美味しい物を飲んでるだろうし、そんな知識も増えれば楽しみも増えると思ったしね。


 後はわたしが読んだ範囲で面白かったラノベのシリーズを幾つか忍ばせて置いた。何にせよ、幅広く読まず嫌いにならないで濫読するのは楽しい事なのだ。


 ホントはもうちょっとわたし好みのチョイスにしようかとも思っていたのだけど、時雨がそれはちょっといきなりではしんどいです、とか言うから渋々に時雨の勧めも参考にしてみた次第。


 ・・・・・・やっぱりわたしの感性って変わってるのか、それとも初心者向きじゃない変なのばかり好むのか。


 でも初心者向きとか上級者向きとか、そんな言葉は本来わたしは好きじゃないんだよね。


 だって、面白い作品はどんな時に読んだって、驚いたりわくわくしたりして、とにかく面白いはずなんだから。


 勿論、読書歴が浅い人にはいまいち伝わらない作品って言い方も理解は出来るよ。わたしが勧めても、人がピンと来なかった事なんて幾らでもあるからね。


 まふちゃんとかの微妙な反応とかで、わたしは体験済みですよ。


 出雲ちゃんはその本を手に取って、結構な量があるのを眺めながら、うーと涙を流してわたしの手を握って来る。


「お、お姉さまがこんなに優しいなんて、この前の厳しいお姉さまが嘘の様です。わたくしの為に指導をして下さるのですね。喜んで師匠の教えに従って精進させて頂きますわ。そうです、お姉さまが帰ったらすぐにでも」


 わたしはそんな出雲ちゃんのおでこをツンとする。


「だーめ。ちゃんと休んでなきゃ。焦ったっていい事ないぞ。本は逃げないし、わたしも逃げないからさ。でもそんな何事も一生懸命にやる所、尊敬するよ。そんな出雲ちゃんは好きだな、わたし」


 えへ、と微笑みかけると、出雲ちゃんは布団で途端に顔を隠す。あら、どうしたのかな。


「きっと、お嬢さまに慣れない言葉をかけられて、戸惑っているんですよ。お嬢さまって、結構厳しい所ありますからね」


 え、そう? そんなにかなぁ。まぁ、自分でもツンデレ的な気質なのは理解してるけど、そこまできつかったかな普段から。


 それなら、もっと優しくしてあげたいけど、それにしても師匠ってなんだ。


「とにかく元気が出たら、ゆっくり読み始めなよ。最初から速読しようなんて思わないでよ。それこそまたしんどくなっちゃうから。それと宿題もちゃんとする事。じゃあ、わたし達はこの辺で帰るから、また色々わたしに相談してよ。本の事なら力になれると思うし」


 そう言って、時雨の方を向くと、時雨もうんと頷き返してくれる。が、しかし出雲ちゃんが服の裾を引っ張るのだ。


「? どうしたの、出雲ちゃん」


 何やら言い出しづらそうだ。髪の毛をくるくると弄っている。


「その、お姉さま。元気になれるお呪いに、ほっぺでいいですから、キスしてくれませんか」


 ・・・・・・ふむ。少し優しくしてあげるなら、そう言うのも呑んであげるべきだろう。それなら、ちょっとと思って、わたしは悪戯心が芽生える。


「いいよ。じゃあ、目瞑ってね」


「はい・・・・・・っていいんですか。こんな邪なお願いなのに、今日のお姉さまは、病気のわたくしより素直です」


 ちょっとそれはどう言う意味かな、と怒りそうにもなったけど、とにかく今日はお見舞いなんだから我慢してサービスサービス。


「はい。じゃあしますよー。楽にしてねー。ってガチガチだ。んっ」


「むぐっ?! お、おね、ん、んっ。んうっ、んんっ」


 そうです。茶目っ気を出して、口にしてしまいました。


 最近、麻痺してる気がするから、勢いで出来る気がしたけど、ホントにしちゃいましたよ。


 って前もしたんだけど、あれはお願いされてしたんだし、今回は自分の意志で完全にやっちゃった。


 出雲ちゃんはまた熱が出そうなぐらいにぐらぐらしてる様な感じで、気の毒なサプライズをしちゃったかと思ったけど、天にも昇る心地で嬉しい悲鳴だろうから、放っといて部屋を後にする事にする。


「やりますね。小春様」


 カリスマさんが呟いているけど、とにかくわたしは数秒経ってから、気恥ずかしさが来たので、今は早々にこの家から去りたい気分だ。


「お嬢さま、大胆ですね。でもそんな剛胆なお嬢さまも素敵です。気は大きく持ちませんとね」


 微妙に変な持ち上げ方している時雨にも上手く反応出来なくて、わたしはじゃあ寝てる事、と言ってから二人よりも先に部屋を出てしまった。




 家に帰る途中、どうもやってしまった感があって、先走ってしまった様な。しかし、時雨は別に怒る事もなくニコニコしてるし、いいんだろうか。


「やはりお優しいお嬢さまは素晴らしいです。お嬢さまは全てを受け入れて下さる女神ですね!」


 なんかランクが上がってるよ。でもそれって・・・・・・。


「それは優柔不断って事じゃないの? なんか自分もなく流されてる気がするけど」


「そうではありませんよ。お嬢さまはご意志でもって、私にも真冬様にも愛を注いで下さいます。それでまた出雲様にも寛大なお心を示されたのですよ。だって、要求する事はしますし、気持ちも見せてくれるでしょう?」


 う。それはわたしの時雨に見せた態度とかの事を言ってるんだよね。


 ちょっとそれを面と向かって言われると、顔が赤くなっちゃう。だからそれには返事をせずにどんどん先に行こうとすると、手を掴まれる。


「ああ、そんなに飛び出したら危ないですよ。はい、ちゃんと手、繋ぎましょうね」


 うぅー。やっぱり子供扱いされても、こんなに優しくされるの嬉しい~。


 でもそれを素直に態度に表せないし、どうしてもわたしは下を向いてぷしゅーっとなっている。すぐには顔が見られないのだ。


「でも、出雲様が本を好きになれるといいですね」


 そう言う時雨に、そうねとわたしは応答する。


「でもあんまりわたしに合わせようとして無茶しないで欲しいな。時雨は大人だし、賢い人だからそう言うのも苦にしなかったけど、出雲ちゃんってほら、あんまり勉強とか好きじゃないみたいでしょ。だから、読む本とか結構好き嫌いが出そうな気がするのよね」


「それはそうかもしれません。しかし偏食家もまた読書人ですからね。それは克服しなくちゃいけないものでもないですよね。勿論、どんな本でも面白がれたら、それはそれで理想なんでしょうけど」


 そうねー、でも確かに誰しも偏りはあるわよね。


 それなら、別に出雲ちゃんは普通に好きな本を探せるようになるといいよね。


「まぁ、ホントに面白くない本に出会う事もあるし、それが時間置いたら面白かったりする事もあるから、色々と読むのも無駄じゃないんだけどね。でも、無理してしんどい思いしなきゃならない事もないし、苦行の様な本も読むのはある程度の段階にいってからかな」


 はははと時雨は苦笑する。あれは、近頃に古典でしんどい経験をしたんだろう。


 それは誰しも通る道かもしれないけど、別に絶対的な必修科目ではないはずだ。


「大体、本が好きになるなら、どんな本でも歓迎よ。ゲームとかだって、難易度の高いのとか複雑なのからやったってつまらないんでしょう。最初は、出来るゲームから始めるだろうし」


 そう、そうなのだ。野球だと、キャッチボールが出来ないのに、中継プレーをいきなりやれと言われたって出来ないのだ。


 バットの振り方もしらないのに、詰まらせた当たりでポテンヒットを決めろとか、出来っこない。


 そうして家に帰って来る。もう汗だくだから、体をタオルで拭いて、冷たい飲み物を飲む。


 それでソーニャさんがニヤニヤしているので、訝しんでいたら、こんな事を言った。


「小春よ。吸血鬼の少女も、余らの世界に導き入れるとは中々やるではないか。うむうむ、臣下にはちゃんと褒美や慰めをやらんといかんからな。あの様な行為をしたのは、正解ではないか。余ももっと力があって、元の姿を保てたなら、あちこちのおなごを可愛がってやるのに」


「あー、マスター。あたしがいるんですから、あたしだけにしてなきゃいけませんよー。それでなくてもマスター、攻めに弱いんですから、複数相手にしたら、マスターが参っちゃいますよー」


 呑気な会話を交わしているけど、これはどう言う事。


 また話が筒抜けになっている。ま、まさか、まだあのパペッツを使ってるって言う事なの?


「ねえ、ソーニャさん。どうしてその事を知ってるのかな。わたし言ったよね、覗きはしないようにって。約束守らなかったら、どうなるかって言っておいたと思うけど?」


「わー、ティナ。そんな余の弱みを言うな。ってハッ、待て待て、小春。そうじゃないのだ、余は悪くない。お主らの為を思ってだな、助言をしておるんだ。わかってくれ。なっ? なっ?」


「あー、これは擁護出来ませんね。ご先祖様の悪戯にも困りましたよ。お嬢さまのお叱りにもめげずに幾らでもするんですから」


「時雨・・・・・・これから一週間、ソーニャさんのおやつは抜きで。これは決定」


「なっ! そ、そんな殺生な。甘い物がないと、余はやってられんのだ。お慈悲を、お慈悲を。ご主人~!」


 何と言おうと、わたしは怒っている。寛大な処置をして、これなのだ。時雨はわたしの話をよくわかってくれているようで、頷いて言葉を継いでくれる。


「わかりました。ご先祖様、身から出たさびですよ。あんまりご主人様を怒らせてはいけませんね。それにお嬢さまのお言いつけがあるので、わたしも何もしてあげられませんよ」


 うぅ~とソーニャさんは涙目になるが、もう遅い。子供の泣き顔で絆される様な女じゃないんだから。


「そ、そんなアホなー。仕方がない、ティナの指をしゃぶってやるわい。ティナ、ちゅぱちゅぱ一週間させるのだ」


「了解ですー。でもあんまり汚くしないで下さいよー」


「ティナ! 余を何だと思っておるんだ。余はお主のマスターだぞ。汚いとは何だ?!」


「だってー、唾液ですからね。その都度拭かないとー」


 やはりこの二人は、どんな状況でも漫才をするみたいだ。


 わたしも怒っているのが馬鹿らしくなって来るので、もう相手にせずに自分の時間を過ごす事にしようと思って、本を読む事にしたが、時雨はやはりニコニコしてるので、ああこれが平和かと思う気もするけど、気のせいではないよね。




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