第3話一緒にお風呂
何回考えてもおかしい。何かされたのってくらい、あいつの事考えると、そわそわして来る。
だって、あんな綺麗な女の人だから、幾ら変態でロリコンだって言っても、近づかれたらドキドキしちゃうじゃない。
それにあれ何よ。血を吸われたら、今まで味わった事もないくらいの凄くいい気持ちになっちゃうの、あれホント何なの。
何か蚊と似た様なやり方してるとか言ってたけど、別に痒くなったりしないし、あれはサービスのつもりかな。
そうやってムカつくのに変に意識しちゃうから、極力考えないように、今日は纏めてバトル漫画を読む事にした。昨日、宿題はやっと終わったしね。
ああ、お姉ちゃんがあんな風にメロメロにしてくれたらいいのに。恋愛漫画では、素敵なお姉さまが色々な事を導いてくれながら、お互いに惹かれていったりするのに、わたしを好きな人間ときたらあんなおかしな大人なんだもんな。
でもお姉ちゃんは優しいけど、どこか一歩引いてるみたいで、距離を感じるのよね。それって年が離れてるせい?
お母さんはわたし達を産むのに、精子バンクを利用したから、もしかして父親の遺伝子が違う事で何か思う所があるんだろうか。
うーん、それなら女同士で子供作れる制度になって欲しいよなぁ。技術的になんか最新の科学だと出来るらしいから、それなら氷雨さんとの間の子供なら、わたしも素直に喜べたのに。お父さんが誰かわからないのは、どうしても複雑なものがあるよ、やっぱり。
しかし凄く複雑な能力バトル漫画って、時々小学生にはよくわからないほど、設定が複雑だったりするから、時々困っちゃう。
お母さんの漫画もわたしにはハテナが浮かぶ場面とかあって、それは話の筋って言うより、バトルの展開なんだよね。
絵が凄く上手い人も多いから、それなりにどう言う構図なのかはわかるけど、その能力を理解するのに時間がかかったり、未だにわからないものがある。
そんなのもあの女に聞いたらわかるかな。氷雨さんとかお母さんは、説明してくれるけど、どこかわかってる側からの説明だから、懇切丁寧じゃなかったりするし。
描いてる人間がそんなんでどうするんだって思うけど、子供に説明するのってそんなに難しいんだろうか。だから子供向けの雑誌連載じゃないのかも。
「ふーむ、やはり私も戦ったりして、興味を惹いた方がいいんでしょうか。先程から、熱心にその漫画ずっと読んでらっしゃいますよね」
わっ。後ろからいきなり話しかけて来ないでよ。吃驚するなぁ、もう。
「別にそんなの望んでる訳じゃないってば。大体、そんな事になったら絶対わたしも巻き込まれるでしょうが。そんなので死ぬなんて絶対に嫌だからね。平穏に本を読んで暮らせたら、わたしはそれでいいんだから」
ニコニコしてる時雨。うーん、こう笑顔を見ているだけなら、そんなに悪い気もしないんだけどな。それは、元々悪意はないからなのかしら。
「お嬢さま、本が好きですねぇ。外で遊ばない子供なので、私少しだけ心配ですよ。あ、もしかしてお友達がいないのでは・・・・・・」
「いる! 友達は少ないけど、いるわよ。まふちゃんと冴ちゃんって子が」
何でわたしは言い訳みたいなのしてるのか。それにやっぱり友達が二人しかいないって寂しい女なのかな。
「蕪木真冬様と枯野冴子様ですね。存じ上げておりますよ、ちょっと釜かけてみただけですったら。ああ、そんな怖い顔で見つめないで下さい。興奮して来ちゃいます」
何よ、知ってたんかい。ってそれも最初に教えて貰った情報? 何でもこの女に開示しすぎじゃない、氷雨さん。って興奮するな。
「あだ名の事で何やら、氷雨さんは愚痴っておられましたが、あれはどう言う訳なんでしょうか。そこは何もご教示頂けなかったもので」
はっ。そうだ。氷雨さんは厳格だから、わたし達の間でのあだ名は少しおかしいとか、文句つけて来るんだった。放っといてっていつも言ってるんだけど、こいつにも言ってるのか。
「それはわたしがまふちゃんって呼んで、まふちゃんはわたしの事ハルちゃんって呼ぶから。切る所がおかしいって言うの。小春日和の小春だから、春ではなくて小春であって、とか何とか。それにまふちゃんの方も、切るならふゆちゃんじゃないかとかいちゃもんつけて来るんだよ。どうにかならないかなぁ」
見ると、うっとりしてわたしを見ている時雨。何? 今ので何かそんな顔になる要素あった。わたしは文句言ってるんだけど。
「お嬢さま、ハルちゃんと呼ばれてるんですか。お可愛らしいです! そのあだ名、私は大歓迎です。真冬様グッジョブです。お嬢さまの方も、何ですかそのまふちゃんってあだ名、凄くセンスいいじゃないですか。女の子の可愛い呼び方をわかっていらっしゃる。子供はそれくらいでないと」
何だかスイッチが入っちゃったみたい。でもわたし達が呼んでるあだ名を褒めて貰えるのは嬉しいな。
自分らでは気に入ってるんだし、人にもいいあだ名つけたねって言ってくれる大人がいて、とにかく嬉しい。今までお姉ちゃんだけだったもん、そんな事言ってくれるの。
「だから氷雨さんは冴ちゃんと結託してるのよ。冴ちゃんは、アンタらお子ちゃまねーってからかうんだもん。冴ちゃんだって、背が低いし子供っぽい所もあるのに、大人ぶるんだから。でも冴ちゃんも大好きなお友達だよ。あの子も、ちょっと変わってるから、皆に変に思われてるけど」
そうわたしが言うと、涙を流すのかと言う剣幕で、手を叩くメイド。何がおかしい? 馬鹿にしてんのか。
「ブラボー! 少女の友情ほど尊いものはありません。ハッ、まさか最近の小学生は進んでると聞き及んでいますので、もうキスとかしてしまう間柄とか? そして三人での愛などと進んでらっしゃる」
「どうしてそうなる! まふちゃんも冴ちゃんもお友達。何でもかんでも恋愛に結びつけて遊んでくれるわね。それにわたし達には、まだ恋なんて早いし・・・・・・」
肩を掴んで近づいて来る吸血鬼。ちょっと何よ、近いったら。
「そんな事ありませんよ。早熟な子だけに恋が訪れるのではありません。ときめいたら、その時が恋の目覚めなのです。私はもうお嬢さまにときめきまくりですよ!」
アンタと一緒にしないで欲しいけど、でもわたしのこの時雨に対する緊張感は、まさか、ねえ。そんな滅茶苦茶な恋があってたまりますか。
絶対に、わたしみたいなお子様に恋なんて早いって。まだまだ先にときめきが待ってるの。お姉ちゃんみたいな素敵な人に、手取り足取り・・・・・・。
「あのー、お嬢さま。にやけて涎が垂れてますよ。ほら、お拭きになりませんと。おーい」
あっ。またお姉ちゃんでトリップしてた! 口元を拭いてくれる時雨。こんな時は、メイドらしく優しいのね。汚いとか思わないんだ。それを察したように応答して来る。なんか、エスパーみたい。
「お嬢さまの涎なら、ご褒美みたいな物です。いつでも私の顔にでも体にでもお掛け下さって構いません! さあ、唾液を塗って頂けますか」
「馬鹿! そんなのする訳ないでしょ、変態!」
やっぱりちょっとでも見直したわたしが馬鹿だった。こいつは徹頭徹尾、変態的なエッチな女なんだ。わたしの事を変な目で絶対見てる。
こんな発育も悪いし、まだ女性らしいラインになってない子供の何がいいんだか。
「お言葉ですがお嬢さま。少女には少女の良さがあります。小悪魔的なニンフェットな子も魅力ですし、無邪気で無垢な少女もまた素敵なのです。体がどうとかではありません。少女と言うだけで尊いではありませんか。だからこそ、性的な手出しはしてはいけないのです。セックスに至ってはいけないのです!」
「お腹に手を当ててた人間が何を言う! エッチな気持ちがないとは言わせないわよ。変態女の言い訳ここに見たり!」
ふーと手を頬に置いて、困りましたねと呟くエロメイド。言い返せるなら、言ってみなさいよ。
「そりゃあ、エッチな気持ちにはなりますよ。でもそれで即、行為には至ってはいけないと言ってるんです。合意を得てから、愛し合って年齢相応になってから、お互いの気持ちの通い合う形でしませんと。それにお腹はセックスにはカウントされませんし、未遂みたいなものですよ。いやですねー、エッチって言った方がエッチなんですよー」
ああ、何でこうも流れるように、自分の言葉を正当化させるのが上手いんだろう。流されないわよ。
「そう言うのも含めてセクハラでしょうが、血はこれからも腕から吸う事。それと朝起こす時は、すぐに起こして。お母さんの頼みか何か知らないけど、レコーディングもしないで」
「そんな事言わずにー。日課になりそうになってるんですよ。それともお母様には秘匿して、私だけの楽しみとしていいんでしょうか。もう待ち受け画像にもしちゃってるんですよ、ほら」
何と言う事か。わたしの私的領域がどんどん侵されていく。この女といつもこれから一緒にいなくてはいけないのだろうか。
「消せ!」
「そんなのしたくありません。あわよくば、お嬢さまに添い寝してお休みからお早うの瞬間までご一緒したいと思ってますのに」
それ普通は逆に言うんじゃないの。じゃなくて、どうしてこんなにわたしに執着するのか。わたしなんて可愛くもないのに。
「ですから、お嬢さまは私にとって天使みたいなものなんですよ。氷雨さんに写真を見せて貰った瞬間から、恋に落ちてしまったのです。お嬢さまほど眼鏡が似合う、美少女はおりません!」
手を広げて大仰に身振りをするのは、この女の癖かしら。もういい。勝手にして。恥ずかしい事ばっかり言うんだから。
「じゃあ、言っとくけど。漫画読むの邪魔しないでね。あ、能力でわかんないとこ教えてよ」
「お安いご用です! 何なりとお申し付け下さいませ、小春お嬢さま!」
そう言うので色々これはどうなってるんだとか、これどう言う能力なのとか聞く内に、こいつの説明力が異様に高い事がわかって来た。
もしかして家庭教師が前職だったりしないよね。なるほど、小学生にもわかるように、それも根本的な設定以前の科学的な発想から、順番に懇切丁寧に説明してくれるし、それは学校の先生がする授業より明瞭だったんじゃないかと思うほど。
「ふーん。アンタ、かなり教えるの上手いのね。そんなんなら、わたしもっと勉強とかもこれから教わりたいくらい・・・・・・」
「何故遠慮されるのですか? お嬢さまはこうやって説明すれば理解出来る基礎がおありなんですから、幾らでもわからない事は私の出来る範囲でお手伝いさせて頂きますよ。私も出来る家庭教師には相当お世話になりましたから、困った所もある人でしたが、人から物を教わるのは恥ずかしい事じゃないですし、いい機会ではないかと」
わたしはでも尚もそわそわする。こんな美人に傍でレッスンされるのって、なんかちょっと背徳的な気がするけど、変な漫画とか色々お母さんのコレクションで読んだせいかな?
「だってアンタ、そうしたらあれこれさせろって言うでしょ。それで譲歩しちゃったら、後戻り出来なくなりそうで・・・・・・」
三点リーダを連続させるわたしにお構いなしに、感動で打ち震えた、みたいに涙を流すのがこのロリコンだ。
「何と、ご褒美をくれるのですか。じゃあ、手を密接にして握ってみたり、マッサージをしてみたり、お風呂で洗ってあげたり、あんな事やこんな事まで私に許して下さると言う?」
「誰がそこまで許すって言った! 何かお手伝いとか、お茶入れてあげたりとか、反対にこっちが肩揉んであげたりとかくらいなら出来るかなって思っただけなのに」
まだまだこの人の涙腺は止まる事を知らない。って言うか、近い、近い!
「そんな事して頂く訳にはいきません。私はメイドですよ。お嬢さまのお世話をするもの。しかし、お嬢さまからのサービスだなんて、何と甘美な響き・・・・・・! この世の天国を見る思いです。それなら、やはり一緒にお風呂にですね」
どうしてこの女、お風呂にそれほど拘るのか。単に裸が見たいだけ? って言うか、お風呂なんてもうどれだけお母さんとも入ってないか。
それ以上に、お母さんはちゃんとお風呂に入ったり食事をしたりしてるのかな。まぁ、氷雨さんが付いてるから心配はないとは思うけど。
いやいや、で、何故一緒にお風呂? 体の成熟を見せつけられて、子供のわたしが羨むとしたら、どう責任を取ってくれるのか。
「それはもう、責任は如何様にも取らせて頂きます。パートナーシップ制度の利用でも、将来的に結婚でも何なりと、お嬢さまのお気に召すままに。さあ、今夜お風呂に、いざレッツバスタイム!」
「ああもう、わかったから。体は自分で洗うけど、じゃあ背中だけ洗いにくいからやってくれるかしら。それ以外は、変なお触りは禁止だからね」
ふふふニコリと笑って頷く時雨さん。君、ちゃんと本当に理解したんでしょうね。
「当たり前じゃないですか。本気で嫌がる事はしませんよ。痛くしないように注意しますね。あ、頭も洗ってあげましょうか」
「・・・・・・じゃあ、それもお願い」
本当に大丈夫かな。お風呂だって、そんなに広い訳じゃないのに。って結局、わたし流されてない? わたし自身が大丈夫なのか?
誰かと一緒にお風呂入るなんていつぶりだかわからなくて、銭湯なんて言うのも行かないし、昼間も夜ご飯の時も緊張しちゃってどうすればいいかって戸惑ってた。
お姉ちゃんに不審がられたけど、とりあえずお姉ちゃんに先に入って貰って、後から入るのにドキドキしっぱなしで。って言うか、どうせならお姉ちゃんと入りたい。
そりゃあ、時雨だってお姉ちゃんより大人でスタイルも良くて、胸が大きいって訳じゃなくても、美人で髪も長いから憧れるけど、お姉ちゃんの優しさからはほど遠いんだから。
お姉ちゃんになら、あんなとこもこんなとこも洗われても全然平気どころか、ご褒美ですけどってなもんなのに。
そうして、お姉ちゃんが出て来て、お姉ちゃんが飲み物を入れて部屋に引っ込むのを待って、わたし達はお風呂場に向かった。
「ささ、お嬢さま。脱いで下さい。はあはあ」
鼻息荒いのもどうも危ない気がするんだけど、やはり人に肌を晒すのはかなり恥ずかしい。
「先に脱いで入っててよ。恥ずかしいから、ここで見られるのヤダ・・・・・・」
「了解です! 何と奥ゆかしいんでしょう。ではお先に失礼して」
そう言って脱いでいく時雨の肌は、やはり太陽に当たらないから、日本人なのに相当白い。
だからちょっと羨ましくもあるけど、どこか病人めいてもいて、少し可哀想だなとも思ってしまう。
肌って太陽からビタミンなんかも吸収するらしいけど、吸血鬼の場合は必要じゃないんだろうか。
それも気になっている内に、さっさと脱いで入って行ってしまう。いやしかし、本当に綺麗だったな。
はあ、どんどん意識しちゃってるけど、どうしてこんな事になってるんだろうか。
そしてわたしも服を戸惑いながら脱いでいく。緊張して生唾を飲み込むのだけど、何だか現実感がない。
こんなのでお姉ちゃんの裸なんて見ちゃったらどうなってしまうのか。あんな女でもこんなにドキドキしてるのに。最後のクマさんパンツを脱いで、戸を開ける。
「・・・・・・お待たせ。あ、中入ってるんだ。わたしも入るね」
何故この女がいるのに中に入ろうとしているのか。それはこう言う訳だ。だって、お姉ちゃんが趣味で真っ白の温泉の元を入れているから、これなら浸かってしまえば体が見えないではないか。
「自分から近くに来てくれるなんて感激です。ささ、失礼して」
言った傍からお触りして来る! 禁止って言ったはずなのに。いや、うん? なんか確かめるようにねっとり触られてる感じで、変な感触だよこれ。
「細いですねー。もうちょっと肉付きを良くした方が健康的でいいですよ。うん、やはりここはまだ発育してないですねー」
わわわ! 胸! どこ触ってんだ!
「アンタ、どうしてそんな事してんのよ。お触りは禁止だって言ったでしょ」
ふふふと余裕の笑みを崩さないので、こちらがたじろいでしまう。って言うか、眼鏡外してるから、微妙に見えない。
「何、これは身体測定みたいなものですよ。もっとちゃんと採寸もしたいですけど、そうしたらお洋服とか作らせて頂けます? しかし健全なようで安心しました」
うう。膨らみのある胸が二つ、目の前に。そして、少しぼやけている美人の顔がすぐ傍に。
髪はまだ括っているから、後でほどいて洗うのだろう。わたしもそうしてる。そこまで長い訳ではなくて、それでもまだまだ伸ばしてる最中なんだけど。
「じゃあ、お湯から出るから、体、他の所洗ったら、お願いね。もう変な事したのは、水に流すから」
「お風呂のお湯だけにですか。上手いです!」
誰もシャレで言ったんじゃないんだけど。そう言う時雨を無視して、わたしはタオルに石鹸を擦っていって、それから念入りに体を洗う。
どこか几帳面な性格が表れてるのか、わたしはいつも凄く丁寧に洗うのだ。だから、上手く背中が力を込めて洗えないのがもどかしくて仕方ない。それが解消されるのなら、こんな風に変態とでも一緒に入るのもいいのかな。
わたしがお尻とかの裏側を洗う為に立ち上がって洗っていると、可愛すぎですブラボーと言う声が聞こえて来て、頭痛くなりそう。
どうして一挙手一投足何にでも萌えてるんだろうか、このお姉さんは。お姉さんとはもっと余裕を持っていると思っていたけど、これはお姉ちゃんだけの優れた美点だったんだろうか。
「ほら、してくれる。背中届かなくて、結構大雑把だから、結構垢溜まってるかもしれないけど」
「お任せ下さい。それも私の勤めですよ。何なら、素手で優しく綺麗に洗って差し上げましょうか」
「変なオプション付加しようとせんでいいの! 普通にしてよ、お願いだから」
そう言うが早いか、出て来た時雨は、わたしからタオルを受け取ると、背中をごしごしと擦ってくれる。
結構優しい手つきで、それでいて力強いから、安心する感じ。これで変態的な呼吸が後ろから聞こえなかったら完璧なんだけどなぁ。
「ああ、お嬢さまの背中、とっても綺麗ですよ。あ、お尻に蒙古斑があったのも見逃してませんよ。キュートです」
こいつ、どこ見てんだか。でも、スッと背中を素手で触られて、別にエッチな手つきじゃなかったから、悪い気はしなかった。何だか安心する。こんなに人とお風呂に入るのって気持ち良かったんだ。
「じゃあ、体流して、頭もしてしまいますねー」
されるがままのわたし。体にお湯を掛けてくれて、前に回ってそっちも掛けてくれる。おや? こんな風にされてたら、昔のお姫様にでもなった気分。
ふふ、そうだ。こいつはメイドなんだから、やって貰っても悪い事はないんだ。でも、まふちゃんが聞いたらどう思うか。冴ちゃんには馬鹿にされそう。
頭にお湯が掛けられて、それからシャンプーでごしごしされ始めたので、わたしは目を瞑った。いつも自分で洗う時も目は瞑ってるんだ。別におかしくないよね。
「お嬢さま、かなり髪がストレートにサラサラなの素敵ですね。固い性質もありますけど、こんな黒髪は将来に渉って、大事にして欲しいですよ」
なんか言ってる。素直に聞いてやろうじゃない。褒めてくれてるんだしね。かなり気持ち良くこっちもしてくれるけど、美容師でもないのにこんなに人の髪洗うの上手いなんて、経験でもあるのかしら。
昔に誰かと付き合ってたとか? 別にわたしには関係ないけど。
「さ、流しますから、気をつけて下さいね」
ザザーと熱いお湯が掛けられる。それで綺麗に洗い流してくれて、わたしは最高の状態と言えたかもしれない。
全部終わってから、ああ先にしておくんだったと、ちょっと難儀しながら顔を洗う。
その間に、時雨も素早く洗うのだけど、これが大分手際がいいのに手抜かりはなさそうで、流石出来る女は違うな。
浸かってる時間を長くしようと思うにも、体を洗う時間を効率良くすれば、長湯もし放題だしね。
わたしはぼんやりして、その姿を見ていると、頭を洗って濡れた髪がまた凄く綺麗だった。こう言うのって色っぽいって感じなのかな。
そうして見惚れていると、流し終わってこちらを向いた時雨はニコッと微笑む。
あれ、何これ。凄くいい顔に見えた。さっきまでの変態的な笑顔とは違う、凄く切なさも悲しさも何もかも通過して来たのを垣間見せる大人の微笑。
ドキッとして、わたしは無言でそれに何も言えずぽけっとしていた。
「じゃあ、最後に浸かって出ますか。ああ、もう変な事はしませんよ。向かい合って入りましょう、お嬢さま」
え、え? 何だろう、今までと声のトーンが違わない? これはわたしがどうにかなっちゃったんだろうか。
言われるままに入るも、禄に顔を見る事が出来ない。胸の辺りが見えるので、下の方は温泉の元で見えないけど、何だか体を見るのが恥ずかしい。見られてるのなんて忘れてしまっていた。
緊張感から、わたしはバッと立ち上がって、
「も、も、出よう!」
と言うと、そうですねと返事をしてくれたのでホッとしたけど、それから体を拭いてる間も、出来るだけ時雨の方を見ないようにしてた。だって、直に裸を見たらいけない気がしてさ。
それでシャツを着て、イチゴのパンツを穿いてから、素直さも見せておかないと、と勇気を出す事にした。
「あのさ、わたし長い間、氷雨さんのクールな対応で、家ではそれでも一人でいる事が多かったし寂しかったのかも。だから今日は一緒にお風呂に入ってくれて、その、凄く嬉しかった。大人に体洗って貰うのも久しぶりすぎて記憶にないくらいだしさ。あの、これからも良くしてくれたら、ありがたいんだけど・・・・・・」
ちょっと恥ずかしいどころじゃない! 顔を真っ赤にして、わたしは俯いてパジャマを穿こうとするも、中々上手くいかない。そこへ声が降って来る。
「大丈夫ですよ。これからはずっと一緒です。いつまでもお嬢さまを見守らせて頂きます。お嬢さまが寂しい時は、いつでもお傍にいますよ。それで、あわよくばそれ以上に仲良くなれたら、うふふふふ、いいんですけどね・・・・・・」
「そうね、よろしく・・・・・・」
「あれ? ツッコミなしですか!」
何も言えなくなってる。これはこれから、どう言う風に付き合っていったらいいかわからないけど、賑やかになりそうで、少なくとも退屈はしなさそうかな。