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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第二部:ご先祖ソーニャさん登場
28/62

第28話夏休み。異空間で銭湯だ

 夏休みになって、暑いのもあって、めっきり外に出なくなった。


 そして今日はまふちゃんが家に来て、一緒に宿題をやっている。


 いや、それだけじゃなくて、一度話し合いをしなくちゃと思ってたので、ちょうど都合が合って良かったって所かな。


 だからか、冴ちゃんは遠慮して来ていない。


 宿題が一段落してから、わたしは話をしようと言って、一旦休憩しながら話合う事にした。


「あのさ、まふちゃん。その、まふちゃんの事は好きだけど、わたし、時雨と付き合う事にしたから」


 ちょっと後ろめたい気持ちとか、まふちゃんにも想いはあるけど、一応こう報告する。


 そうすると、まふちゃんはうんと言ってから、またとんでもない言葉を投げて来る。


「そっか。良かったね。ハルちゃんを受け入れてくれる人がいて。でも、それはわたしもそう出来るよ。わたしもハルちゃんの話聞いてあげられるし、同じようにレズビアンだから愛し合う事も出来る。わたしとも付き合ったり出来ないかなぁ」


 ま、待って。それってわたしに二股掛けろって事。それってどうなんだろう。


 前も時雨とかにも色々言われたし、出雲ちゃんへの態度を曖昧にしてるわたしが言う事じゃないとは思うけどさ。


「で、でも。そんなの時雨に怒られちゃうよ。わたしだけの都合で、そんな二人同時に付き合うなんて。ねえ、時雨?」


「そうですねえ。前にも言いましたように、昔は色々と思う所もありましたが、今はお嬢さまの選択を尊重しますよ。私だって、昔の人への想いを持っていていいって言って頂きましたし」


 ジュースを注ぎ足してくれている時雨が、これまたにこやかにまふちゃんを援護するので、わたしは困ってしまう。


「た、確かにそう言ったけど・・・・・・。それとこれとは別って言うか。って言うか、まふちゃんもそれでいいの?!」


 眼鏡を直しながら、わたしはまふちゃんに聞くと、まふちゃんはその綺麗な顔を真剣な表情にしながら、こくりと頷くのである。


「わたし達がさ、皆ハルちゃんを愛したいって気持ちでいるんだから、いいの。それに出雲ちゃんだってまだ可愛がってるんでしょ。今すぐに結論を急がなくても、わたしともそう言う意味で仲良くして欲しいなぁ」


「脱規範意識と言うのは大事と、物の本にも書いてありましたしね」


 うっ、いらん知恵をつけてるな、時雨さん。


 しかし、まぁそうかもしれない。愛の形は様々だ。それが人と違うだけ。わたしってば、時雨と付き合ってるのに、まだまふちゃんも凄く好きだし。


「あのさ、わたしが男子から言い寄られたりする事、相談とか聞いて貰ってたよね。だからさ、これからはハルちゃんが守ってくれてもいいんだよ。わたしの彼女だから、って」


 ああ、そう攻められたら、わたしは弱い。


 まふちゃんは美人でスタイルもいいから、男子人気も高いし、そう言う関係を公にしていた方が、寄りつかない度合いは強いだろうからだ。


 尤も、それでも男の方がいいよとか言って、しつこい人も将来的には出て来るだろうけど、そこはわたし達で頑張っていく必要がある。


「わたしの事、嫌い? わたしはハルちゃんの事、ずっと好きだったけどな。だから、あんなに傍にいても、頼られても、嫌じゃなかったんだから」


「うぅぅ~。そりゃあ、わたしもまふちゃんの事好きだけど。でもいずれわたしに愛想尽かさないかなぁ。わたしって可愛くないし、地味だし、趣味も偏ってるのに・・・・・・」


 そう言うと、


「ハルちゃんは可愛いよ!」


「お嬢さまは可愛らしいです!」


 と二人がハモって、わたしに反論して来る。バッチリ息が合っている。それに加えて、時雨はこうも言う。


「まぁ、今の世の中、自分に魅力がないって女性が沢山いるって調査もあるんですよね。それは色々嫌な事を言われるからですけど、でもだからこそ、お嬢さまは魅力的だって私は声を大きくして言いますよ!」


 そう擁護してくれるのは嬉しいけど、実際体も貧相だし、身長だって低い。


 本ばっかり読んでるし、目も悪いから眼鏡だし。そんなわたしでもいいのかな。


「眼鏡姿も可愛いよ。それに実は色んな服着ても、凄く似合うポテンシャル秘めてるって知ってるもん。誰より近くで見て来たわたしが言うんだから、間違いない。それとも何、ハルちゃんはわたし達の愛が嘘だって言うの? 時雨さん、どう思います?」


「そうですねー。お嬢さまの方が、冷ややかに見えそうですよねー。ここはもうちょっとどーんと構えて欲しいものです。我が主でもあるのですから」


 なんか追い込まれてる。こんな風な展開になるとは、わたし全然予想してなかったよ。でもでも、二人とも今日は強引だなぁ。


「わかった。勇気出してくれてるのはわかった。だから一応、付き合う事にしてもいい。その代わり、今まで通りのわたしをそのまま認めてね」


「勿論!」


 まふちゃんがそれで抱きついて来るので、わたしは少しその香りも香って来るので、ドギマギしてしまう。


 まふちゃんって凄く美人だから、時雨とは違う意味で、ドキドキしちゃう。子供ながらにスタイルも割といいし。ホント、同じ年でどうしてこうも違うのだろう。


 そうして、わたしがまふちゃんから、ラブラブ求愛に近いハグを受けている時に、突然庭の戸を開けて、大声を出す人が現れた。


「出来たぞー!」


 誰あろう、ソーニャさんだ。何の事?


「ふふふふ。蕪木とやらも集まっている所悪いが、余は凄い物をファンタスマゴリアの中に造ってしまった。話を聞いてくれるか。ティナよ!」


「はーい」


 何やらティナさんがチラシの様な物を掲げる。って話を聞くのは規定事項なんだ。


「えーと、スパリゾート、ねえ。これがどうしたんですか」


 ふふふふ、とまた不敵に笑うソーニャさん。何がそんなに面白いんだろう。


「余はこのスパとやらに、いや公衆浴場なる場所に、直に初めてティナと行ってみたのだ。そうしたら、サウナもあるし、ジャグジーもあるし、電気風呂もあるし、プールもあるわ、滅茶滅茶広いわで凄かったんだ。岩盤浴とか初めてやったぞ。炭酸風呂とかもええなぁ。そこでだ!」


 ふむ。温泉は確かにいいな。裸になるのが恥ずかしいから、他人とは行った事ないけど。


「ファンタスマゴリアの中に、余らの専用スパを造ったのだ。これには苦労したぞ。余の苦労を知っておるのは、ティナだけだ。夜通し、あれこれ魔力を練ってやっておったよなぁ」


「はいー。マスター、かなり張り切ってました。それも力が弱ってしまうくらいに。あたしはマスターを褒めてあげますよ。だって、あんなに気持ちいいのにまた入れるんですから」


 うーん、魔力が衰えるのは本末転倒な気もするけど、温泉で回復したりするなら、また話は違って来るかなぁ。


「それだから、家族皆で入らんか。そこなおなごも特別に家族と認めてやろう。何やら面白い関係性みたいだからのぉ」


 え? それってまふちゃんとも一緒に入るの。それは恥ずかしいよー。


「いいですね。ご先祖様、お手柄です。いつの間に二人だけでそんな所に行っていたのかとか、追及すべき事もあるでしょうが、一先ず休憩に皆で入りませんか。真冬様のお着替えも用意しますから」


「は、はい。喜んで。ハルちゃんとお風呂なんて初めてだし、嬉しいなぁ。ハルちゃん、インドア派だから、肌とか綺麗だろうなぁ」


 何故そんなにまふちゃんは乗り気なの? それにわたしの体に興味津々って感じだし。


 それを言うなら、わたしだってまふちゃんの体には魅力がありすぎるくらい、ドキドキだから困るって感じてるのに。


「おお! では我ら四名で入ろうではないか。マルは寝ておるし、木の葉はまだ帰っておらん。後でまた入れてやればええだろう。マルをわざわざ起こす事もないしな。ささ、余の背中を流すのだ、ティナよ」


「イエッサー!」


 そこは返事の言葉が違うと返した方がいいのだろうか。


 それともやけにソーニャさんは、マルちゃんに冷ややかだな、ゲームでいつも負けるからかな、とか思っていたけど、まぁ、放って置いた。


 で、結局逃れられないのか。お風呂は好きだけど、大丈夫だろうか。


「そこでじゃあ、お話の続きもしたらいいでしょう。裸の付き合い、ですよ!」


 時雨もノリノリである。まぁ、そうした方がいいかもしれない。ここで話してるより捗るかもしれないし。




「それにしてもソーニャさんって凄いね。時雨さんのご先祖様なんでしょ。そっかー、吸血鬼だよね。わたしも血、吸って貰おうかなぁ」


「いやいや、やめた方がいいって。あの人、悪ノリするし、好き放題やるよ。まふちゃんはわたしに守って欲しいって言ったんだから、自分から危険に飛び込んじゃ駄目だって」


「えー? でもハルちゃんだって、時雨さんに吸って貰ってるんでしょ」


「そ、それはそうだけど・・・・・・」


 確かにわたしが言っても説得力がないかもしれない。わたしももっと時雨に吸って貰いたいって、少し吸血鬼の魔の魅力に魅入られてるから。


 それにしても、さっさとまふちゃんは服を脱いでしまうから、ドキドキしてしまう。


 下着も他の子のを見ると、どうして自分のより可愛く見えてしまうんだろう。胸も少しわたしよりある感じだし。そして何より、健康的な体だと思う。


「あれ、まだ脱がないの。早くお風呂行こうよ」


 全部脱いでしまったまふちゃんが眩しくて、わたしは見とれてしまうし、それに釘付けでジッと見ていた所をハッとさせられる。


 自分も脱ぐのだけど、やっぱり恥ずかしい。それに眼鏡を外さないといけないから、ちゃんとまふちゃんが見えなくて、そうすると残念だ。


 わたしもでも遅れないように脱いで、下着をロッカーにしまう。まふちゃんの分は、どうやらわたしの予備の物を貸してあげるようだ。


「あー、やっぱりハルちゃん、外にあんまり出ないから、わたしよりも肌白いねぇ。綺麗な肌だし、体の細さもちょうどいいし、もっと自身持っていいのに」


 うぅ。じっくり見られたら、羞恥心で死にそうだよぉ。


 だから、早く行こと言って、タオルで隠しながら先に行く。まふちゃんは待ってよーっと言って、わたしの肩に手を置いて来る。


「ほら、ハルちゃんは目が悪いんだから、ちゃんと一緒に行こ。段差とか気をつけないと危ないよ?」


 そう、こう言う優しさをすっと見せられるのに、わたしは弱いのかもしれない。


 時雨にだって、いつもしてくれるさり気ない優しさにやられたみたいなもんだし。でもだから、わたしも何か人に優しくしたいとも思うのだけど。


「あ、来ましたね。子供の方が着替えが遅いなんて、恥ずかしがり屋なお嬢さまらしいですね」


「おー、やっと来たか。余は先にのんびりやっておるぞ」


「あー、お二人ともマスターよりは、体が発育してますねー」


「な・・・・・・。ティナよ、お主は余の真の姿を知っておろうが。それでそんな事を言うんかい!」


 三者三様の言葉で迎えてくれる。何気にティナさんの言葉に、ソーニャさんはお怒りの様だけど、まぁ別にあの二人は仲良くじゃれてるみたいだから、好きにさせていよう。


「わー、ちょうどいい温度で気持ちいい。あっ、ジャグジーの方にも行ってみようよ、ハルちゃん」


 何だかまふちゃんがはしゃいでいる。でもそうか。


 まふちゃんって普段、しっかりしてるから、こんな風に子供っぽい所を見せられる状況は貴重なのかもしれない。


「それにしても、真冬様は本当にお綺麗ですねぇ。いや、お体も素晴らしい」


「し、時雨?!」


 ちょっとショックを受けてしまう。わたし以外の女の子の体にもやはり興味津々だったのか・・・・・・。


 うー、時雨とかがわたしの事を許してるのがわからなくなるくらい、わたしってばやっぱり他の子に目が行ってたら嫉妬しちゃう。


「ふふ、お嬢さまもお綺麗ですよ。素顔のお嬢さまが見られるのって、寝る時とお風呂の時くらいですからね」


「そ、そんな褒めても何も出ないわよ。それに確かにまふちゃんの方が綺麗なのはホントだし」


「それでお話するって言ってたのは、どうしますか?」


 まふちゃんのフリに我に返る。ああ、そっか。そんな事言ってたっけ。どうすればいいのかな。


「そう言えば、お二人は好きになった相手が、自分と同じようにレズビアンだろうか、とか悩んだ事ありますか。わたしも好きになった人が女の人と遊んでる人でしたけど、本当に女性が好きなのかはわからなかったから、告白出来ずに終わってしまいましたけど」


 うーん、わたしは最近まで恋なんて無縁で過ごして来たから、まだそんな苦しみを持った事はないなぁ。


 でも確かに、ヘテロの人を好きになる事だってあるよね。わたしも時雨がもしわたしと違う性質の人だったり、まふちゃんが素直に男の子と付き合う子だったらって考えると、それはきついだろうなって思う。


「あの、わたしはよく男子からも告白とかされて、それで正直に自分の性質を言う訳にもいかなくて、そんな悩みもあったんですけど。でも、ホントはハルちゃんの事、ずっと好きだったんです。だけど、ハルちゃんが同じかもわからないし、ただ友達として慕ってくれてるだけだったかもしれないから、自分の気持ちは気づかれないように隠してました。それは成功してたのか、逆に変な事になってたのか。でも抑えられなくて・・・・・・」


 そっか。まふちゃんは魅力的な容姿を持ってるから、余計に悩みは深いか。


 これから先成長した時に、嫌な相手からナンパされないとも限らないもんね。


 それでわたしの事がそんなに好きだったなんて。わたしもまふちゃんの事、凄く好きだし、今そう言ってくれるのはもう嬉しいなんてものじゃないけど、でもまふちゃんにそんな悩ましい想いをさせていたんだと思うと、自分ももっと早くにそんな性質について考えるべきだったなって反省する。


 だって、それならもっと早くにまふちゃんとこう言う風な、仲睦まじい関係になれたかもしれないのに。


 あ、でもそれは時雨と出会ったから、考えるきっかけがあったと考えた方がいいのか。


 じゃあ、わたしを変えてくれたのは時雨だ。それはちゃんと意識していないと。


「それにわたしは周りの女の子に対して、子供ながらに、ヘテロの人とは違う意味でいいなとか思ったりもしてたので、周りの子の近さには少し困る事もあったんです。だからかな、大体の人とはほどほどの付き合いにして、わたしにあまり困る様な事しなかったり、自然でもいいって思わせてくれる、ハルちゃんと冴ちゃんとよく付き合うようになったのは」


「なるほど。わたしも吸血鬼なのもあって、孤独でしたから、何となくわかります。出雲様みたいに衝動で血を吸って、許される様な事って、あんまりありませんからね。わたしの場合は、実はある能力が生まれる前は、生活も夜に制限されてたので、そう言う付き合いとかも全然出来ませんでしたし、お話なんかも名作とされる話で、同性愛の物がまだまだ少なかったですから、結構吸血鬼の能力を活かした訓練なんかにも費やしていましたが、あまり開花しませんでした」


「そうだ。こやつ、余の子孫なのに、全然吸血鬼としての才能がないんだな。まだ今のティナの方が強いくらいでな。だから、そりゃあ気の毒だった。余の力がもっと戻ったら、少し繋がりを取り戻して、強化してやりたいとか封印空間の中で考えておったわい」


「マスター、優しーい」


「う、うるさいわい。余は家族想いなんじゃい。お主もちゃんと守ってやるから、安心せい」


 きゃっきゃとしてるティナさん。


 やっぱり彼女にとっては、ソーニャさんはかなりの善意の塊なんだろうな。


 でも確かに、ソーニャさんは皆の利益になる様な事を考えてくれてるし、わたしも全然関係ないのにご主人とか呼んでくれるしなぁ。


「そう言えば、でも前ほど陽射しが危なくないようになっているかもしれません。まだ怖くて、オン・リフレクションを解除したりは出来ませんけど。朝陽とか寝てる間に当たっても大丈夫になって来ましたし」


「ほほう。それはきっとご主人がコネクションを作ってくれたからだな! ご主人のポテンシャルで、結構余も回復して来とる。だから、こんなのもんも造れたんだしのぉ」


「って事は、私の体質改善も全てはお嬢さまのお陰ですか? 流石はお嬢さまです。やはり私が生涯ついて行きたいお方だけはあります!」


 うーん。大袈裟だなぁ。


「なになに、何の話ですか?」


 とりあえずまふちゃんには、スピリットの話もラインを繋げた事なんかも話して置く事にした。


 それを興味深そうに聞いていたまふちゃんは、やがてバシャッと立ち上がって、力説する。


 それよりもわたしはうっすら見える、その立ち上がった姿を前に、目のやり場に困ってしまう。


「それはやはりハルちゃんの能力の高さを証明していますね! ハルちゃんはこつこつやってばかりいる、努力タイプですが、ちゃんと直観的に凄い能力も秘めているんですよ。それが魔力も強いだなんて。ますます、わたしもハルちゃんの血を吸えたらって思っちゃうよ」


「ほう、真冬よ。お主、吸血鬼になりたいか。余のファミリーになるなら、吸血鬼にしてやっても構わんぞ。そうすれば、定期的に小春を好き放題にさせてやる」


 なんか暴言が飛び出した。そんなの絶対に駄目なんだから。


「な、何言ってるの。ソーニャさん。そんな変な誘惑なんてしないで。まふちゃんは人間として、わたしと一緒に生きていくんだから。時雨だって、好きで吸血鬼やってるんじゃないんだからね。って言うか、好き放題って何。わたしの事は、わたしが決めるんだから。ほら、まふちゃん。体洗おうよ。ソーニャさんのバカ!」


 ぷんぷんとしながら、別に本気で怒っている訳ではない。


 ソーニャさんも半ば本気ではあるものの、人間が吸血鬼になる辛さはよくわかってると思うし、だからそんな軽々しくそう言う儀式をやる訳ではないだろう。


 それにそんなに簡単に眷属とかを作ったりするのなら、もっと早く子孫にそう言う事をやらせて復活していたはずだ。


 ああ見えて、ちゃんと優しい所があるんだよね。


 そうやって、洗い場の所に来るのだけど、まふちゃんはハルちゃんを好きに出来る権利かぁ、とか呟いている。・・・・・・冗談、だよね?


 さて、と体を洗う。わたしの隣でまふちゃんが洗ってるのを意識してしまい、泡だったタオルで洗っていくまふちゃんにときめいてしまう。


 それを見てると、時雨が横に座って、


「お嬢さま、エッチですねー。そんなに同級生の体が珍しいんですか。そりゃあ私もお二人のお体は、物凄く眩しくてピチピチしてるのが羨ましいですけど、こっちも見てくれませんかねー」


 くるりと振り返ると、やはりそこには大人の体が。


 うーむ。時雨の体はそれはそれで、艶めかしくて変な気持ちになって来る。


 まだ子供なまふちゃんも違う意味で変な気持ちになりそうだけど、時雨はもっとこうその体に吸い込まれそうな感じなんだよね。


 これが大人の包容力なのだろうか。それとも単にわたしがエッチなだけなのか。


「ふふ。心配しなくても、お嬢さまも徐々にちゃんと成長してますよ。今に立派なレディになられます」


 何を勘違いしているのか、時雨はわたしを励まして来る。それって、今のわたしでは悩殺したり出来ないと言う事なのかな。


「いえいえ、そうじゃありません。ってお嬢さまからそんな言葉が飛び出るとは。お嬢さまのお体は、充分にエロいですよ、ええ。それはもう我慢を強いられるくらい。でもそれがもっと育っていくのが見られるのが、この上ない喜びだと、そう言う訳です!」


 また何か力説している。しかも立ち上がるもんだから、見上げなくてはならない。


 って、やっぱりこの人、子供をそう言う目で見てたんだな。いやまぁ、手を出さないって言うなら、それはそれで恋人として見てくれてるって事だから、嬉しいんだけど。


 うーん、でもわたしが子供なばっかりに、時雨にはずっと我慢させてるなぁ。だから早く大人になりたい。そうしたら、キス以上の事もしてあげられるのに。


「ティナ。頭もやってくれい。あまり痛くせんでくれよ」


「アイアイサー」


 そうすると、合法的に体系だけ子供なソーニャさんが羨ましい。


 ティナさんとはどこまで何やらをやっているのかは知らないけど、きっと大人同士の楽しみもあるんだろう。


 いや、そう考えると、ティナさんは体は大人だけど、そんな体験をしてしまっていいのだろうか。マズいのではないか。いや、いいのかな。どっちだ。


「ふふふ。ご主人様。心配ないですよ。マスターはどっちかと言うとバリネコなタイプですから、只管攻められるのが好きなんです。ちょっとマゾっ気があると言いますか」


「ああ、だから幾らゲームで負けても懲りないのか。そっかー、それなら安心?なのかな。ソーニャさんがいつもしてるのは、空威張りなんだ」


「こらー! ティナよ、変な事を言うな。余は偉大な吸血鬼だぞ。それをこんな愚弄しおって。それに小春も小春だ。何、納得しておる。余が攻めに転じたら、どれだけお主らを快楽の底に突き落とすか、思い知らせてやろうか。よし、ティナ、今度は余がタチ側に回る。ああ、そうするとも」


「ちょっとー、ご先祖様。お嬢さまに手を出したら、許しませんよ。そんな事したら、もうこの家に置いてくれなくなりますよ」


 まぁ、そこまでするかは別にしても、ちょっとソーニャさんにエッチな事されるのは嫌だなぁ。やるなら、ティナさんとだけじゃれ合ってて欲しい。


 そう言うやり取りを見ていて、お湯で体を流しながら、まふちゃんがクスッと笑う。


「仲いいね、皆。ハルちゃんがこんなにわたしや木の葉さん以外と、自然に話せてるのって、なんか嬉しいな。でもハルちゃんって結構内弁慶な所あるよね」


「へ? そ、そうかなぁ」


 何気に痛い所を突かれてしまったかもしれない。


 だから、わたしは急いで、体を流してから、別の場所に行こうと、炭酸風呂の方に行く。


 そう言えば炭酸風呂って、確か血流が良くなって、代謝なんかも良くなるから、美肌とか肩こりなんかにもいいんだっけ。


 あれ? でも、ソーニャさんの空間の中でも、その効果はあるんだろうか。まぁ、いいや。


 そんな風に思って、一人で静かに入ろうと思っていると、まふちゃんもついて来る。ちゃっかりすぐ傍に座るし。


「えへへ、ハルちゃんもやっぱり美肌とか気になるんだ。健康にも気をつけないとね。ただでさえ、ハルちゃんは運動嫌いだもんなぁ」


 そう言って、まふちゃんは肩から腕にかけて触る。


 う、ちょっとそうされると変な感じ。恥ずかしいって言うより、何だろう、もっと触られたいのに、でも抵抗もある、そんな具合なのかも。


「ほらー、筋肉なんて全然ないじゃん。それじゃあ、重い物とか持てないよ」


 まぁ、確かに本の整理を時々すると、結構困るんだよね。


 ダンボールは重いし、本を纏めて運ぶのも辛い。だから、結構時間掛かったりするんだけど、それはこれから時雨に手伝って貰うからいいやとか思ってた。


 でも、ちょっとは力もつけるべきなの?


「程良い筋肉は、綺麗の一歩だよ。ほら、ハルちゃんよりはわたしはあるでしょ」


 腕を差し出して来るまふちゃん。触っていいのかな。


 炭酸風呂はぬるい方が効果があるのをソーニャさんは知っていたのか、ある程度ぬるい温度だ。だから、そんなに熱く感じる事はまだない。


 勇気を出して触ってみる。わ。まふちゃんの裸の腕に触っちゃった。でも気持ちいいな。


 わたしのへにゃへにゃの腕と違って、やっぱりちゃんとしてるまふちゃんは、少しだけ引き締まっている気がする。


 冴ちゃんもへにゃへにゃだと思うけど、多分わたしが一番ヤバいよね。体育もほとんど手を抜いてるし。よくそれで静先生に叱られないもんだ。


 って言うか、お腹もある程度鍛えてるように見える。でも触る?とか言われても困るし、わたしは黙っている。


「ふむふむ。お嬢さまはこれからの更なる発展に期待。真冬様は、これからに大いに希望が持てますね」


「な? ど、どこ見てんの、アンタ。って言うか、いつからこっちにいたの?」


 胸を隠すも時既に遅しか。時雨はもうバッチリ目に焼き付けただろうし、それ以前にわたしはもっと前から時雨とは結構お風呂で裸を見せ合っているのだから。


 でも、まふちゃんのまでチェックしてどうこう言うなんて、どう言うつもりなのか。もしかして、やっぱりまふちゃんも狙ってる?


 そうだとしたら、許せない。わたしに向かうのはいいけど、誰でもかんでも子供の裸ならいいなんて。


「ふふふ。お嬢さまだけがわたしの至福は変わらないですけど、比較検討しているんですよ。こんなのも本当は失礼に当たると思うのですが、これからのお嬢さまの成長の参考にしようかと思いまして」


「あー、やっぱり子供の時のちょっとの期間の成長って、それなりに気になりますか? 大人になると、体って体重くらいしか基本的にはほぼ変化ないですもんね」


「それはあまり思い出したくない情報でしたねー。でもそうなんです。わたしは自分の体がもうこのままで、お嬢さまの気に入って頂けるのを祈るのみですが、お嬢さま達はこれからの展望がありますから、もっと健康に気をつけて、健康的な肉体を手に入れて欲しい、と思っているので」


 ふーん、建前はそうな訳ね。


「で、本音は?」


「はい! お嬢さまの裸を拝めるのはあまりない機会なので、お風呂の時はハッキリその時々の違いを観察して、目に焼き付けて置こうかと」


 やっぱり変態的な理由だった。


 こう言う本性はまぁ、隠されてるより、そのまま示して貰った方が、ちゃんと対処は出来るんだけど、やっぱり子供にそんな目線を向けるのは、ねぇ?


「あのね、わたしはいいの。でもまふちゃんにまで、性的な視線を向けないで、って言ってるの。わかった? わかったら、向こう行って」


「ええ? そうだったんですか。でもそれだけ成熟して来たって事かなぁ」


「何言ってるの。こいつは、ロリコンだから発情してるだけだって。騙されちゃ駄目だよ、まふちゃん。まふちゃんは、もっと大人になったら、今より魅力的になるのは当然だけど、今はそんな風に見られる事を喜ぶ事ないって!」


 わたしは必死で否定しようとするけど、なんかまふちゃんに子犬の様な眼差しで見つめられて、たじろいでしまう。こんな展開、わたし何回あっただろうか。


「じゃあ、ハルちゃんもわたしにドキドキしてくれないの。わたしって、まだ子供っぽいかなぁ」


 こ、これは困った。肯定も否定もしたら、何か変な態度を取っているのと同じように思われる。


「い、いや、そうじゃないけど。その、別にそう言う意味で見てるんじゃないって言うか。ううん、そりゃあドキドキして見てていいのかって疑問には囚われるよ? でも、時雨みたいな見方じゃないって言うか。いや、そもそも子供同士だから大丈夫って言うか。あれ、なんか同じ様な語尾になってるね、わたし。あはは・・・・・・」


「もー、お嬢さまったら、相変わらず素直じゃありませんねー。お嬢さまだって、私や真冬様にエロい視線向けてるって事ですよ。もう思春期なんですから当たり前です」


「そっか、そうだよね。わたしもハルちゃんの事、そうやって見てるし、ハルちゃんも時雨さんも別におかしくないよね。うん、だってわたし達は同性愛者だし・・・・・・」


 いやいや、ちょっと待って。百歩譲って、わたし達はいいとしても、時雨は色々マズいから。


 それでもわたしが許してるのはキスしたり、多少触るくらいまでだけど、下半身とかはまだ駄目だって言ってないけどその駄目なつもりだし。


 大体、今だって危険水域いっぱいいっぱいなはず。それか、駄目かも。


 大体、わたしだって下半身がムズムズする様な感覚になったり、それがどう言う事なのか性教育とか本で学んでるから、知ってるには知ってるけど、それは誰かとしていい年齢じゃないのも認識しているつもり。


 それをまふちゃんにまでエロい目を向けてるとなると、見境なく誰彼エロい目で見そうで、わたしは時雨が逮捕されないか心配になって来る。


 わたしとの未来の為にも、ちゃんと品行方正なメイドで今はいて貰わなくちゃ困るんだから。


 そうじゃないと、わたしが悲しむんだから。


 と言う様な主旨を、いつの間にかわたしは口走っていたらしい。


 それにより、どうやら時雨は感激でわたしの手を取って手の甲にキスまでして来てしまう。


「勿論です、お嬢さま。けれど、お嬢さまがそこまで私達の将来を案じて下さっているとは。それにそこまで深い愛に包まれて、時雨はそれはもう幸せの過剰摂取で、どうにかなってしまいそうです!! それにお嬢さまが我慢されているのなら、私もちゃんとお預けを我慢致しますとも!」


 ああ、それは良かった。でもそんなにくっついて、すりすりしないで欲しい。


 ほら、まふちゃんも微妙な眼差しで見てるじゃない。それにちょっと興奮してたら、お風呂なんだから危ないわよ。


「ほら、もう出るわよ。アンタ、フラフラじゃない。そんなに興奮するからよ。水風呂にでも入れられないと、頭が冷めないんじゃないかしら。よし、今から水風呂で顔を洗いなさい、時雨」


「ほえ? お嬢さまのお言いつけなら、従いますー。はい、そうですね。ご迷惑をお掛けしました」


 そうやって水風呂で顔を洗わせてから、わたし達は脱衣所に出る事にする。それを見て、あろう事かソーニャさんが呆れている。


「お前ら、そんなに風呂で発情するとは何事だ。余らのように、純粋に風呂を楽しまんか。ティナみたいに普通に風呂ではしゃいでる方が、なんぼか平和だぞ」


 そうは言ってもね、あなたみたいにわたし達は枯れてないんですよ。ティナさんほど無邪気でもないですしね。


「誰が枯れてるだと。余は、余はなぁ。まだ気持ちは若いつもりなんじゃい!」


「あー、言ってる傍から、興奮したらいけませんよー、マスター」


 ティナさんが宥めてるので、わたしは放置して、時雨の手を引いて出る。まふちゃんもついて来ている様だ。お風呂はここまでだ。




 とりあえず体を拭いて、服を着る。


 暑いから薄着だけど、ここの空間の中は割と涼しいみたい。扇風機があったので、それに時雨を当たらせて、わたし達もゆっくりする。


「このコーヒー牛乳ってどう言う物なんだろう。飲んでも大丈夫かな」


「一度、飲んでみようよ。ほら、ご自由にお飲み下さいって書いてあるよ」


 まふちゃんの指摘に気づき、そうか、じゃあ飲むかとなって、わたしはコーヒー牛乳、まふちゃんはフルーツ牛乳を飲む。


「ああ、ちょっと気持ち良くなって来ました。あら、あそこにマッサージの椅子もあるじゃないですか」


 時雨が目ざとくマッサージチェアを発見する。それは後でわたしも肩のマッサージしたいけど、でもまぁ一番疲れてるのは時雨だよね。


「それにしても凄かったね。まだまだ拡張とか出来るんでしょ。露天風呂とか造れないかなぁ」


「うーん、そりゃあ造ろうと思えば出来るだろうけど、ソーニャさんの消耗考えたらなぁ。まぁ、今回でも大丈夫みたいだし、順調な回復を経ているんだろうけど。時雨も段々、吸血鬼としての能力が上がって来たみたいだから、いいっちゃいいのか」


「そっかぁ。あ、じゃあわたし、時雨さんに血を吸って貰いたいなぁ」


 何ですと?! それは危険だ。


 時雨に他の女の子の味を覚えさせるなんて。まふちゃんもわたしみたいに中毒になる危険もあるし。


 で、時雨を見ると、マッサージされながら、何気に心配そうにわたしを見て来る。


「い、いやー、そうしても私はいいのですけど、お嬢さまの許可が必要ですので・・・・・・」


「ね、お願いハルちゃん。いいでしょ? ハルちゃんの時雨さんを取ったりしないから」


 うっ。そう言われると弱ったなぁ。


 時雨には誰にも他の人のを吸わないでって言ったけど、わたしも出雲ちゃんに吸わせたりしてるし、まふちゃんの頼みとあれば断りづらい。


 それにしても、まふちゃんも変化したなぁ。この前は怖かったりエッチだったりで尻込みしてたと思うんだけど、それだけ興味が出て来たのかな。


 仲間だと感じられたからって言うのもあるかもしれない。


「じゃ、じゃあちょっとだけだよ。時雨、あんまり強く吸ったり、強烈に気持ち良くしたら駄目だからね!」


「はい! 了解しました。では、早速」


 そう言って、立ち上がる時雨。


 なんか、がっつきすぎな気がして、いい気分ではなかったけど、ちょっと人が吸ってる所見るのは、興味あるから楽しみでもある。


「そこの長椅子に寝転んで下さいねー」


 ま、まさか首から吸う気なのか。それにしても、寝かせなくてもいい様なものを。


 でもまぁ、今日は時雨の好きなようにやらせてあげるか。まふちゃんも吸血鬼っぽい吸い方の方が、満足するのかもしれないし。


 まふちゃんが少し緊張の面持ちで、椅子に寝転ぶ。


 それを覆い被さるように時雨がして、カプッと一口。ちゅーっとそして吸う。あ、なんかまふちゃんの顔が凄くエッチだ。


 時雨も凄く恍惚な表情をしてる。イケない物を見たみたい。こんなのをわたしは家族の前で見せてたって言うの・・・・・・?


「あ、す、凄い・・・・・・。ハルちゃんはこんなのいつも。先に大人の階段上ってたんだね・・・・・・」


「そ、そう言う言い方しないで、まふちゃん。そんな風に言われたら、これから出来なくなっちゃう。時雨に献血すると思って、してるんだから」


「そうですね。お嬢さまも気持ち良さそうにして下さいますけど、わたしへのお恵みって感じですからね。はい。ちゃんと栄養補給しましょうか。帰って、パンケーキでも作りますかね」


 お。パンケーキなんて、いいじゃない。わたしも食べたいな。


「勿論、皆さんの分をお作りしますよ。焚火様にも差し入れしようかと思っていた所です。温泉の存在も教えて差し上げなくては」


 確かに、お母さんが一番温泉で癒やされる必要があるよね。来る日も来る日も原稿ばっかりやってるんだし。


 あれ、ホントに毎回ルーチンのように描き続けるのって大変そうだしね。


 そうして、戻って来たソーニャさんとティナさんも一緒に、皆でパンケーキ、って言うかこの分厚さならホットケーキと言うんだっけ、を食べた。


 しっかり蜂蜜はふんだんに塗ってからなのを忘れずに。


 宿題ももう少し進めてから、まふちゃんを見送って、わたしは某非常に佳作で文庫が一冊しか作品集が出ていないSF作家を読んでいたけど、時雨は今の時間何やらお母さんにマッサージをしているらしかった。


 氷雨さんが頼んだらしいけど、マッサージチェアや温泉にも案内して、束の間の休息を得ているのなら、お母さんにはいい事だ。


 時雨もいい仕事をするわね。でもわたしも肩揉んで貰いたいから、後でお願いしてみようかしら。


 ええ、そうしましょう。それでわたしも時雨を揉んであげるのよ。




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