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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第二部:ご先祖ソーニャさん登場
22/62

第22話キスの連鎖?な関係性

 まふちゃんとはとりあえず元通りになったように思うけど、まだ何か気になってる。


 あんなにしといて、よくあっちは平然と出来るなと思うけど、こっちも普通にするって言っちゃったしね。


 でもこれからもして欲しいなんて、ちょっとわたしに我が儘みたいなの言って来たの初めてだなぁ。それがちょっと嬉しくもあるかも。


 その事はまふちゃんの口から冴ちゃんにも伝わってたみたいで、冴ちゃんもしてみたいとか言っていたので、いずれ実行しちゃうんじゃないかと、少し気がかりだけども、冴ちゃんはあまり自分の恋の事を語ってくれないし、それは仕方がない。


 もしかしたらまふちゃんには色々言ってるのかなぁ。それならそれで、わたしとしては寂しい気がする。


 給食が済んだ後に教室で、禅の本質に迫る長いミステリー小説を読んでたら、出雲ちゃんが呼ぶ声がした。


 ちょいちょいと手招きをしている。何だろう。


 ようやくこの四シリーズ目まで来たので喜んで読んでいるのに、やっぱり学校だとそんなに落ち着いて読めないのかな。


 最近は決まった人しか声は掛けないようになっているんだけどなぁ。


 ついて行くとこの前の校舎裏に連れて行かれた。これってまた何かあるんじゃないだろうか。イベントフラグ、とか最近では言うんじゃないっけ。


「あの、お話聞きました。お姉さま」


 はい? お話って何。何か言ったっけ。それともまたわたしの知らない事かな。


「とぼけたって無駄ですよ。あのメイドさんや真冬先輩とキスしたって。あまり迷惑を掛けてもいけないから、言ってくれるまで黙ってましたけど、お姉さまったら全然わたくしに話してくれないじゃないですか。そりゃあ、わたくしは年下ですし、そんなに嫌がる事はしたくないですけど、わたくしだってこんなにお姉さまをお慕いしておりますのに・・・・・・」


 はあ。多分これはまふちゃんに聞いたな。それならもうしょうがないか。


 でもそれでこんな所まで呼んだのはどう言う理由があるんだろう。微妙に変な感じがする。


「その、わたくしから言うのは恥ずかしいです。察して下さい、お姉さま」


 手を組んでわたしを熱っぽく見る出雲ちゃん。


 あー、だからわたしはそんな風に察したり、相手の事を汲んで発言したりとか苦手なんだって。


 別にそう言う特性だとかじゃないと思うけど、でもコミュニケーションするのに気持ちを考えて行動するのに、出雲ちゃんみたいに変化のある人って、ますますわからなくなっちゃうんだよなぁ。


「いや、わたしってば結構人と交わった事があんまりないから、人付き合いって苦手だし、そんなに意見を察して何かするって出来ないんだよね。だから言いたい事があるなら、ちゃんと言って。恥ずかしいってどう言う事かな」


 うーん、更にモジモジし出した。これ、ちょっと危ないやつじゃないか。


 わたしはこの頃、自分から仕掛けても危ない事やってるけど、色々恋愛方面で危険な領域に足を踏み入れてしまっているのかも。


 だって出雲ちゃんはわたしの事が好きなんだし。


「あの、その、ですからわたくし、お姉さまにキスして頂きたいんですの・・・・・・。ああ、こんな事口に出しては恥ずかしくて仕方がないですわ。お姉さま、お願いします・・・・・・」


 うるうるしながらジッと凝視して来る。これは参ったなぁ。


 色々とそう言うのを周りが寛容だから麻痺して来たかな。でもこの前みたいに強引な感じじゃなくて、こうも弱々しく懇願する出雲ちゃんは、とてつもなく可愛いのだ。


 元から美少女だし、それに年下から慕われるなんて初めての原因だし、少しドキマギしてしまう。出雲ちゃんの黒髪が揺れるとドキドキして来そうだ。


 どうしよう、してしまっていいのかな。時雨に電話とかする? いやいや、自分で決めないと。自分の事なんだし。


 躊躇していると、出雲ちゃんがか細くなっていく声で呟きを漏らす。


「お姉さま、愛しております。どうかわたくしを受け入れて下さいませ・・・・・・」


 ああ、もう健気で可愛いなぁ。


 流されてしまうけど、これはわたしの罪じゃないよね。うん、もうこれは押しに弱いわたしの弱点だ。


 それなら、ソーニャさんの計画に近いものに乗っていく形にしてやろうじゃない。


「じゃ、じゃあ。するよ。目は・・・・・・閉じてるね。それじゃあ。ちゅっ」


 少しの間唇を重ねていて、この後輩の震えている唇を感じながら、わたしはまぁこうするのも悪くないかとも思い出していて、何で皆わたしにタチ側めいた事をさせるんだろうと疑問に感じていた。


 まふちゃんみたいにリードしてくれる方が、わたしはどれだけか楽に思うんだけどなぁ。


「あ、あ。ありがとうございます。わたくし、最優先でなくていいですから、お姉さまに愛されていたいです。そ、それでは満足致しましたので失礼致します。午後の授業頑張って下さいまし。ああ、恥ずかしいです。まだ顔が熱いですわ」


 ささっと駆け去る出雲ちゃん。これもう何度目か。もう慣れて来た。


 いつもわたしが悪いみたいな気持ちになるから、一方的に仕掛けておいて恥ずかしがってさっさと行かないで欲しいな。


 と、とりあえず後で時雨には謝っておかないと。


 多分、あの人なら寛容に受け入れてくれるだろうし、それだけじゃなくてロリ同士の百合とかも言いそうだけど。




 何だかちょっと前から、冴子ちゃんがいつもの勉強の時も授業中も、そわそわしていて落ち着きがない気がするわ。


 いつもは言動や格好は個性的でも、しっかりしていて落ち着いた子なのにどうしたんだろう。


 心なしか時々ジッと見つめられてるようで、ドキッとしてしまう。


 今も勉強中だと言うのに、問題集を眺めながらふうとか言ってるし。本当にどうしたのかしら、とても心配。


「ねえ、冴子ちゃん。悩み事があるなら、先生が聞くわよ。それとも大人には言えない様な事かな」


 ハッとして冴子ちゃんはこちらを見て来る。ふるふると顔を横に振る様は素直に可愛らしい。


「いや、我は心配事があるんじゃないのだ、静先生。ちょっと気になる事があって・・・・・・」


「気になる事?」


 何だろう。鸚鵡返しに聞いてしまう。何か私で解決してあげられる事ならいいけど。


「それがな、友達がその、接吻をしたらしいのだ。ああ、最近の小学生はけしからんとか怒らないでやってくれ。それを又聞きであれこれ聞いてる内に、我はどうしてもその事が頭から離れなくなってしまって」


 接吻って、キス、だよね。


 それって自分もしたくなっちゃって、でも相手がいないからどうしよう、みたいな話かなぁ。


 私だってそんな妄想したりするけど、大人だって相手なんていませんよ、何て言うのも酷だしなぁ。


「そ、そう。キスだなんて随分積極的な子もいるわね。誰かなぁ」


 待って。冴子ちゃんの友達って言ったら、雪空さんと蕪木さんしかいないじゃない。それともその他にもネットワークは繋がってるのだろうか。


 いや、それなら蕪木さんの方が大人びてるからそっちか。雪空さんは大人顔負けの本とかも読んでるみたいだから、知識としては知っていても、実践的なのは躊躇するタイプだと思う。


 だって、あの子低学年の頃はずっと蕪木さんの後ろに隠れてたものね。


「キス、とはどんなものなのだ、静先生。そんなにいいものなのか。我がもっと成長したら、気になる相手としてもいいのだろうか」


 気になる相手が冴子ちゃんもいるの? ちょっとショック。


 冴子ちゃんの事は凄く私自身気に入っていたから、そう言う感情かはさておき、この子も恋愛してるんだと言う驚きと、自分の手を離れてしまう悲しみがミックスされてる感じ。


「うーん、そりゃあ好き同士ならしてもいいんじゃないかな。あんまり羽目を外しすぎるのは駄目だけど。それに私、した事、ない」


「ふうむ。キスの感じは参考に出来ないか。では聞くが、静先生はクラスの子供は好きか?」


「へ? ええ、それは担任だもの。受け持つ子供にある程度愛情がなければ、疲れるだけだわ。ってこんな大人の気持ち言っちゃいけないか」


 ふむふむ、と冴子ちゃん。どうしたのだろうか。


「では我は特別に思える?」


 ふぇ?どうしてそんな球を投げて来るんだろう。私、少しこの子にドキッとしてしまう事多くて困ってるのに、そんな誘惑的な事言わないで欲しい。


「それはこんな風に放課後も面倒見てるんだから、当然です。贔屓してるって訳じゃないと思ってるけど、冴子ちゃんとはもっと仲良くなって色んな事相談とかされたいわ」


 そうかそうか、と呟く冴子ちゃん。合間合間に分数の計算を解いているけど、結構ここに来て器用な事してるかも。


「じゃあ、そうだ。我も好意を見せなくてはな。静先生の事は尊敬してるし、いつからかそんな目でも視線を送っていた」


 そう言って、身を乗り出して来る冴子ちゃん。


 ・・・・・・一瞬、何が起きたのかわからなかった。自分がこのおとぎ話にでも出て来そうな格好をした、凄く愛らしくて見守っていきたいと思っている女の子から、キスされたんだと自覚するのに、時間がえらく掛かってしまった。


「な、な・・・・・・。冴子ちゃん、何を?!」


 感触なんて全然わからなかった。


 味わう暇もなかったし、まさかそんなの教え子としてしまうなんて。これ教師として駄目ではなかろうか。


 いや、でも今のって生徒の方からしたし・・・・・・。グルグル回るだったかの、有名な小説のフレーズが頭に浮かんで来て、いやちょっと表現が違っていたかなとか、そうじゃないでしょ、ちゃんと大人の対応をしなくちゃ、とかまだ混乱している。


「本当はもっと成長して、我の固有能力を発揮した遠因として、静先生とは平等な視点で関係性を再構築したかった。でもそれじゃあ、静先生は刺激的なほど魅惑的だし、他人ってだけじゃなくて男性に言い寄られるなんて考えたら、どうしようもなくて。我慢してようと思惟黙考して、一人で納得していたが、小春の話を拝聴して、小春がやったなら我も、とか考えてて」


 え?え? そんな、恋人なんて一切出来た事のない、私にそんなの要らない心配なのに。ってそれってもしかして、愛の告白なの?! それも女の子から。ううん、嫌じゃないよ。


 私はどっちかって言うと、男性と付き合ったりするより、女性同士で何か遊んだりとかつるんだりするのが好きだし。


 だから時々、同僚の先生とスイーツ食べに行ったりするんだもん。


 でもでも冴子ちゃんが子供だから焦るって気持ちは、ちょっとわかる様な気もする。


 だからって私はどうそれを受け止めてあげればいいのか、今は凄く戸惑っている。


 ってその前に、その友達って言うのは、雪空さんなの?! ちょっと吃驚。とてもそんな光景、想像出来ない。ふとした隙に、子供は大人になるんだなぁ。


「静先生だけだった。我のこの格好を笑いもしなければ、いけない物だと怒らずに他の先生に弁明してくれたのは。同級生では友達が受け入れてくれてるけど、こんなに頼りになる大人に我のアイデンティティを承認されるなんて。勿論、親は結構好きにさせてくれるけど、でも静先生が斯様に優しいから」


 あああ、そうかそうか。


 冴子ちゃんは自分の主張をすれば、それだけで皆から批難に晒されて来たんだ。


 それをしっかり一人の人間として受け止めてくれた、親以外の大人が私だけだったって訳か。


 それでこんな風に接触を沢山していたから、情がこみ上げちゃったんだね。それなら私にも責任があるなぁ。


「で、静先生はときめいたり、鼓動を速めたりしたかな。我は凄く緊張したぞ。って、もしかして嫌悪感が先行したりしたか・・・・・・?」


「え? ううん。別に嫌じゃないよ。冴子ちゃんはこんなに可愛いんだもん。って女の子同士でって事? そりゃあ偏見で見る人はいるだろうけど、私は問題ないわよ。って私自身が男性が苦手なのもあって、女の子とのこんな事憧れてたりしたんだけど。・・・・・・変かな?」


 ぶんぶんと先程よりも強く首を振る冴子ちゃん。この子は私の弱い部分を実際知ってるだろうに、それでも尊敬の眼差しで見つめてくれる。


「いや、静先生は変じゃないぞ。同性愛はそこら辺に溢れてる、とは言えないかもしれないが、我からしたら全く普通だ。って我が先にしたのに、どうして静先生が気に病んでるんだ。もしかして、昔からそれで悩んでたりしたのか?」


 うーん、確かに友達の好きとは違ったけど、私は別にそんなに昔から恋愛に積極的になりたい訳でもなかったし、恋してる子から見たら楽観的だったかも。


 でも冴子ちゃん達は、今成長途中で自分の気持ちに悩んだりもするんだろう。どうか、歪まないで育って欲しい。


「うん、でもね。私も最近はちょっとときめいたりしてたのよ、それもあなたに。でも冴子ちゃんは子供でしょう。私としては何も出来ないし、卒業したらそれでおしまいだと思ってたから、諦めてたの。こんな気持ちになったの初めてなのにね」


 私の言葉を受けて冴子ちゃんはまたも身を乗り出して来る。待って待って、近い近い。


「それなら、我らもっとずっと親密になろう。キスは我からする。休日に出かけたい。勉強ももっと教わりたい。静先生の事もっと知りたい。もっと色んな我を見て欲しい」


 う、うう。そんなにグイグイ来られたら、先生タジタジだよぉ。


 こう言う所、やっぱりしっかりしてる。まさか、私大人なのに引っ張られていく側?


「それにそんなに静先生がモテないのも意外だ。早く我が大人になって、付き合ってあげたいもんだ。立候補してもいいですか?」


 そんなに純粋な瞳で目を覗き込まれたら、こっちは大人の対応が出来ないよぉ。


 ああ、こんな凄く独特の魅力を放っている冴子ちゃんが、本当に私を好きなの? 冴えないもうすぐ三十にもなる教師よ、私は。それって色々マズくないの? それともこれは普通?


 あれ、でも私ってば、そんなに冴子ちゃんばかり目で追いかけてドキドキしたりして、これってもしかしなくても恋してたのかな。


 それって、まさかロリコンだったのか。わ、私は何て犯罪的な性向をしていたんだ。


 いや、冴子ちゃんならもっと色々な所が成長しても愛せる自信はあるよ。え?それってもう真剣に好きって意味じゃない。じゃあ、じゃあ・・・・・・。


「あれ? 静先生、顔を隠してどうしたんだ。こっちを見て返事してくれ」


「む、無理です・・・・・・。冴子ちゃんって、結構攻めて来るタイプだったんだね。先生もう大人なのにどうする事も出来ないなんて。でも私、冴子ちゃんともっとこんな時間過ごしたい。幾らでも待つわ。でも冴子ちゃんの方こそ、他に好きな子が出来たら、こんなおばさんの事は忘れてくれていいのよ?」


 ダンと机を叩く冴子ちゃん。わっ、何か怒らせちゃった?


「静先生は綺麗だし、おばさんじゃないぞ。年齢で劣化する部分はあっても、まだそんな年じゃない。それにどんなお婆さんになってても、我は静先生みたいな頼れる人が好きだ。だから心配はせずとも結構」


 一通り演説のように語ってから、冴子ちゃんは席について、また問題を解き始める。


 ええ? そんなに簡単にそっちに戻れるものなの。結局、私達の関係はどんな所に落ち着くの。


 いや、教師と生徒でそんなのありなの。それに待つって、成人するまでよね。それまでこんな恋した状態で生殺し?


 うわー、今までその手の小説とか読んでピンと来なかったのが、ようやく合点がいったみたいにクリアになった。


 そりゃあ、生徒との恋愛って難しいよね。懲戒免職とかならないように、秘密にしながら手は出さないように気を付けなくっちゃ。


 目を用紙に落としながら、ふいっと冴子ちゃんは唐突な質問をして来る。


「ところで静先生は、白と黒のゴスどっちが好きだ?」


「ええ? 冴子ちゃんは闇のとか何とか言ってたりするから、黒の方が好きなんじゃないの」


「そうだが、静先生が好むなら、白も視野に入れてみていいかと愚考しているのだ。我も乙女だからな」


 ああ、そう言う事か。


 好きな人に褒められたいとか、気に入る格好もしてみたいのね。何て可愛いんでしょう。抱き締めたくなって、いけないいけない。欲望は抑えないと、とセーブする。


「そうね、白って言うのも清楚な感じがして、いいわね。冴子ちゃんに似合いそう。光の戦士になるのもいいんじゃないかしら」


「なるほど、光の戦士か。静先生、最良の発言だ。某アニメみたいでイカす。それで行こう」


 はあー、冴子ちゃんの白ゴスかぁ。見られるの楽しみだな。それを伝えてみると、ちょっとはにかむように、照れた顔で微笑みながら、


「うむ。我はそんなに魅力がある訳ではないが、静先生の期待に応えられるように頑張ってみよう。静先生のお洒落もその時は、見せて下さいね」


「え?! それは恥ずかしいなぁ。そんなに可愛い服も持ってないし」


「駄目! 静先生も素材はいいんだから、綺麗にしてみて!」


「は、はい・・・・・・。冴子ちゃん厳しいなぁ」


 しおしおである。


 しかし、それはデートとかするって事か。それにはちょっと勇気がいるよ。


 でもこの子は本当にキラキラしてて眩しいな。こんな子だから、私みたいな地味な女でも惹かれてしまうんだろうか。


 そうやって、これからのこの勉強の時間も、二人にとっては特別なものになりそうで、私はこのときめきが止まらないのを、早くも持て余しそうだった。




 冴ちゃんからメッセージが来てて、こんな文言が書いてあった。


「新規的な刺激体験。我、小春と真冬に比肩す。接吻とは意想外に興奮する行為なのだな。新世界に来訪した、転生した気分」


 どう言うこっちゃ、と一瞬思ったけど、これってもしかして冴ちゃんもキスを済ませたって事かな。それは凄い事だ。


 わたしが言うのもなんだけど、皆進んでる。誰が相手だろ、とまた考えたけど、そんなの冴ちゃんの相手なんて静先生しかありえない。


 静先生は、恐らく尻込みするタイプだと思うから、絶対に冴ちゃんが不意を突いてしたんだろうなと思う。


 そう考えると、わたしもまた時雨としたくなってしまう。


 やっぱり出雲ちゃんじゃ物足りなく感じるのは、二人がお互いまだ子供だからかな。


 しかし、わたしはまふちゃんとの事も、出雲ちゃんに頼まれてしてしまった事も、まだ時雨に言ってないのだ。これはやっぱり謝らないといけないのは必然。


 そう考えてジリジリしながら、怖い顔をしてご飯の間もむっつりしていたからか、少し時雨がおろおろしていた様な気がする。


 この人はどうも、わたしの機嫌に敏感で自分に責任があると思い込む節がある様だ。


 でもそれは、人に変に見られて来た人生だったらしいから、自虐的だったり自罰的だったりするのはしょうがないのかも。


 どうやら、最初の行動も反省しているんだと思うから、この頃は凄く優しくて心がけのいいメイドさんみたいに見えて来たし。


 まぁ、ちょっとした行動からは、愛が過剰な感じで接しているなとも受け取れるんだけど、それはまぁ嬉しいのでいいでしょう。


 言ってくれたらいつだって血も提供するしね。


 もう大分暑くなって来た感じなので、ソーニャさんとマルちゃんがアイスを食べている横で、わたしはいつ切り出そうかとまたもジリジリしながら、解決編まで遠い道のりを感じながら、あれこれ禅についての講釈の箇所を読んでいたのだけど、全然身が入らないので後で読み直そうと思い、何か縫い物をしている時雨の横にちょこんと座る。


「お嬢さま? どうしましたか。何かして欲しい事でも?」


 うぅ、そう言われると恥ずかしい。実はわたしってば、今度は時雨からして欲しいなんて願ってる。でもその為には、一連の事柄を謝罪しなければならないのだ。


「そ、それがして欲しい事はあるんだけど、それには謝らないと駄目な事があって・・・・・・」


「? 何でしょう。お嬢さまは、私を何も傷つけたりしない方だと思いますが。それどころか、こんなにも愛らしくて、時々作った服は着てくれるし、私にも他の方にもお優しくて、何とも素晴らし過ぎるほどの人格者だと思いますが」


 ・・・・・・またスイッチが入りそうだったので、慌てて本題を切り出す。こんなに崇拝されてちゃ、逆に怒られるのかもって言うのが怖くなっちゃう。


「あのぉ、それがまふちゃんとか出雲ちゃんと、成り行きでさ、成り行きでだよ? ・・・・・・キス、しちゃったんだよね。それで時雨と最初にわたしからしたのに、うぅぅ。ごめんなさい!」


 時雨はキョトンとしている。あれ、ここは責められてもおかしくない状況なのに。


「怒らないの?」


「それは仕様がないのではないですか。お嬢さまは愛される方ですし、私だけがお嬢さまを束縛する訳にもいきません。私だってお嬢さまを独占したくなりますが、それだけを思っていたら苦しくなるばかりです。私も昔から成長したのです。だからメイドとしてお嬢さまがしたい選択を尊重しますよ」


 あれー? どうしてこうも理解されてるみたいな流れになってるんだろう。それじゃあ、わたしがまるで愛多き女みたいじゃない。


 そりゃあまふちゃんは、前から好きだけどさ。出雲ちゃんはホントに仕方なくなんだってば。それに今一番キスしたいのは時雨なのに。


「そう言って貰えて、私はメイド冥利に尽きます。そんなにしたいのなら、お嬢さま。いつでもして下さっても、私は受け入れる覚悟は出来てますからね」


 ううぅー。だからそうじゃないの。乙女の気持ちを察して欲しい。


「そう言われましても・・・・・・」


 今度は時雨は困惑する。やっぱり、こんな風に滅茶苦茶な態度を取ると困らせるんだね。


 でもそれでも本音を言うのは、それもお願いをするのは二の足を踏むんだよ。複雑な心境なんだから。


 まぁ、そうは言っても、気持ちは言葉にしなくちゃ確かに伝わらない。現実に以心伝心ってそんなにないように思うし。


 だから勇気を出しておねだりしてみる。その前に眼鏡の位置を直すのだ。


「ね、ねぇ。それじゃあね、今回は時雨から、して? わたしされてみたい」


 ふぇ?とキョドり出す時雨。あんなにも愛を語るのは得意なのに、こっちからの好意には弱いんだから、もう。


「そそ、それってキスの事ですよね。それは私からって、ちょっとマズくないですか。色々、ほら法的な事とかあれこれ」


 むぅー。そんなの気にする質じゃなかったはずだけど。血を吸うのは良くて、キスするのは駄目だって言うの。


「別にわたしが自分の意志でしてって言ってるんだからいいの。そんなに言うんなら、ご主人の命令としてでもいいのよ。それともわたしにするのは嫌なのかしら?」


 ああ、何でもうこんな感じに反応してしまうの、わたし。


 あれほど悪態つかないようにしたいと、最近は思ってたのに、いつだってこうなっちゃう。


「しかし、私凄く緊張しちゃいます。血はそんな風に思わずにいられましたけど、やっぱり女の子にとってキスって特別でしょう。だから、もっと大事にされた方がいいのでは」


「あ、それとまふちゃんには、大人のキスって言うのされたから」


 ズザッっと引き下がりそうになってる。そこまで驚く事?


「そ、そう今仰るって事は、もしかしてわたしにそれをしろ、と。命令、ですか?」


「はい? そそ、そんな訳ないじゃない。あんなのはまだわたしには早いって。ちゅっとして欲しいの。エッチなのは駄目!」


 ホッと胸をなで下ろす時雨。ああじゃあ、とわたしの肩に時雨が手を置いた時に、


「アンタら、そこまで進んでたの。お母さんに内緒でよくもまぁ、子供は育つの早いもんだ」


 ほわっ?! と振り返ると、お母さんが冷蔵庫から栄養ドリンクを取り出して、突っ立ってた。


 何? いつからそこにいたの。


「いや、ペン入れする前に、ちょっと休憩と思ってさ。そしたら、アンタら、こっちに二人も子供がいるのに、情事をおっぱじめようとするからさ。もうちと、人目を考えたらどうなの」


 そ、そうか。麻痺してたのかも。


 あの二人は、変に冷やかして来ても、別にそれでどうこう煽らないし、気にしないでいたわたしって一体。


 しかし、それなら時雨も全然気にせずにいたんだから、同罪だ。


「余は子供じゃないぞ!」


「儂もとうに成人はしとる。容姿だけで年齢を決められるのは心外じゃ」


 全然その話は気にせずに、二人は抗議している。


 しかしお母さんは、ああはいはい、子供は早く寝ましょうねとか何とか言っている。


「すみません、焚火様。私がもう少しちゃんとしてれば。お嬢さまは悪くないんです。叱るなら、私を」


「そんな、わたしがお願いしてたんだから、わたしが悪いのよ。お母さん、時雨を通報とかしないで。別に拐かされてるとかじゃないから」


 ぱちくりして、こりゃ驚いたってな顔をしているお母さん。それから、あははと笑う。


「あははは、何アンタら。もう凄く相思相愛じゃん。いいわよ、別に。勿論、性的な何かはまだしちゃ駄目よ。でもやる事ちゃんとやってくれてたら、何も私は言わないわ。時雨には小春を任せるって決めてるしね。私は母親失格みたいなもんだから、せめて娘が喜んだり、一番娘にとっていい様な方法は考えてあげたいからさ」


 えー、そうか。お母さんも自分が仕事人間なの、悪いと思ってたのか。


 それでもセーブしたりしないのは、しっかり稼ぐのに後があるとも思えなくて、この業界で必死に生き残ろうとしているからだろうな。


 それで養って貰ってるんだし、文句はない。一応、家にはいるから顔を見ようと思えば、いつでもそう出来るんだし。


 それにしても、ちょっと娘を放任し過ぎじゃない。もうちょっと何か、アドバイスとか教訓的なのを垂れるとかないの。


 そこで子供は、子供らしくそれから反抗しちゃったりしてさ。


「うん、やっぱアンタ面倒くさいわ。小春ほど困ったちゃんを相手出来るのは、時雨くらいかもね。真冬ちゃんだって負担は大きかったんだと思うしさ。ほんじゃ、氷雨にも時折見ておくようには言っておくけど、私はこれまで通り黙認って事でね。それよりアンタも子供なんだから、もう早く寝ちゃいなよ。いつまでもイチャついてないでさ」


 そう言って、お茶を入れてから、フラフラと部屋に行ってしまう。


 どうでもいいけど、いつ休んでるのか、何気にお母さんって謎なんだよね。


 って別にイチャついてる訳じゃないから。いや、正確には今からしようとしてたのに、って所なんだけど。


「それじゃあ、お嬢さま。今日はもうお休みになられた方がいいですよ。焚火様もああ言ってましたし。夜更かしは体にも肌にも毒ですよ」


 えー? それじゃあ今日はキスはなし? そんなの気持ちが収まらない。


 えーとえーと。それなら何かないかと思考を巡らして、これだとばかりにおねだりする。


「じゃあじゃあ。寝るまで傍にいてくれる? じっと時雨に見守られて、寝入りたいの」


 ふふ、と時雨は微笑んで首肯してくれる。


「ええ、構いませんよ。お嬢さま、そんな風に可愛いお願いもするんですね」


「こ、これは別に、そんな狙った訳じゃないんだよ。いいでしょ、早く行きましょ」


 わたしはそう言うと、バンド名と同じアルバム名で同じタイトルのメタルの元祖のバンド曲を、マルちゃんがご機嫌になって聴きながら、こう言うのお主も好きになるじゃろ、とソーニャさんに言ってるのを尻目に、寝室にさっさと向かうのだった。


 それで布団に入る。傍には時雨がいるので、変な感じ。でも安心する。


「それじゃあ、電気も消しましたし。寝て下さいね。ここで見てますから」


「うん、ありがとう。その、わたしがどんな風になっても、見捨てないでね」


「何言ってるんですか。私はずっとお嬢さまの傍にいますよ。夜はネガティブになっちゃうタイプですか」


「そう言うんじゃないけど。でもそっか。うん、ありがと。それじゃあ、お休み」


「お休みなさい」


 時雨のメイド服が眩しい。暗いのに眩しいとはこれ如何に。


 でも凄く吸血鬼なのに光の波動を感じるんだから、しょうがない。わたしはいつも以上に、すんなりと寝てしまい、翌日起きるまで凄くぐっすりと深い眠りについていた。




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