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小春の時雨日和  作者: 藤宮はな
第二部:ご先祖ソーニャさん登場
21/62

第21話先輩と後輩

 小春が最近楽しそうで嬉しいわ。これも時雨さんのお陰かしら。


 ソーニャさんとかも来て大分家が賑やかになったし、もっとわいわいする環境が小春には必要だったのかもしれない。


 だってお母さんはいつも原稿で、偶に相手してくれてる時でも、小春とは噛み合わない感じだったし、だから小春は私の真似して背伸びして本を沢山読むようになった。


 だったら、時雨さんが多少強引にでも小春の心を開いてくれたのは感謝するべき事よね。


 ああ、でも私にもっと力があれば。色々な所に連れて行ってあげたり、人見知りを改善してあげたり、出来たのに。


 でもそんなの全然出来てなかったもんなぁ。真冬ちゃんの方がどれだけ小春を鍛えてくれていたか。


 それはそれとして、とにかく私は小春があんな風に変わったのが嬉しくて、誰かと楽しく語り合いたい気持ちになっている。


 そしてそれを聞いてくれる相手は、唯一蜜柑ちゃんしかいないのである。だから、ちょっと飲みに行かない?と初めて飲み会の誘いをしてみた。


 今までは真面目な付き合いしかしてなかったから、ここらで仲のいい先輩後輩に一歩踏み出したい気持ちもあったし。


「いいですけど、あまり私飲めませんよ。先輩に迷惑掛けるかもしれませんし」


 そんな事言って、ちゃんと付いて来てくれるのが蜜柑ちゃんのいい所。


 別にこれってパワハラじゃないわよね。ちゃんと楽しく二人で飲むんだもの。それに私達は凄くいい関係のはず。




 だったはずなんだけど。


「せんぱーい。お酒美味しいですねー」


 蜜柑ちゃんって酔うとこんなんなるんだ。なんかイメージと違う。


 それでも面白い一面が見られて、ちょっと楽しいかも。私はあんまり乱れないように、飲む量をセーブしておこう。


「せんぱーい。私、先輩がいつも妹さんの事話してくれるの聞くの楽しかったですけど、ホントはもっと私と仲良くして欲しかったですー。私、先輩の事大好きですよ~。んー」


 そんな大胆な告白を突然されても困る。しかもくっついて来て、途端にキスされてしまう。


「?! 蜜柑ちゃん。何してるの?」


 戸惑う私。もしかして、小春にキスされて時雨さんも若干こんな気持ちだった?


 いや、でも私はもっと固い性格だと思ってた蜜柑ちゃんが、いきなりこんな風に酔ってキスしてくるとは思わなかった。


 それほど表に見せないだけで鬱憤が溜まってたって事かしら。


 そうだとしたら、蜜柑ちゃんの気持ちに気づいてあげられなかったのは、私が悪かったわね。それに何でだろう、あんまり嫌な気持ちは感じない。


 私ってば小春一筋で恋愛なんかして来なかったけど、小春の事情を眺めていて感化されたのか、もっと自分の事も見つめ直してみていい気になったのかも。


「せんぱ~い。好き好き。好きです。先輩って美人だし、賢いし、相談にも乗ってくれるし、凄く家族にも友達にも優しいし、私の理想像そのものなんですよ。先輩みたいにもっと柔らかく笑えたらなって、どんなに思い悩んだか。でもわたしには出来ないんですー。先輩、もっと頼りにしていいですか~?」


 ああ、何故こんなにしな垂れかかって来るのか。小春と違って成人女性だから、蜜柑ちゃんにくっつかれると理性がどうにかなりそうじゃない。


 私だって小春ラブだけど、根本的には妹萌えなだけで、ロリコンとかな訳じゃないんだから、こんないい匂いを発散させている蜜柑ちゃんみたいな可愛い子にもたれ掛かられたら、ドキドキしちゃうわよ。


「あ、あの。蜜柑ちゃん。飲み過ぎじゃない? ちょっとお水飲みましょうか。落ち着いて。わ、私も悪かったわ。小春の話ばかりしてて、あなたを見てなかったって言うか。これからは私達もっと仲良くするようにしましょう?」


 言い訳めいた言葉で蜜柑ちゃんをなだめる私。もうちょっと気の利いた事は言えないのか。ここら辺はどれだけそんなに尊敬されても、私も小春と一緒ね。


「それって先輩、真剣に交際してくれるって事ですか。じゃあ、先輩からキスして欲しいです~」


 相変わらず酔ってふにゃーっとなっている蜜柑ちゃんに、まずはお水を少し飲ませるのだけど、まだまだぐにゃりとしている。


 そこでキスを迫られて、どうすればいいのか。いってしまえばいいのかな。でも酔った相手にしていいの?


 でもでも本音で私が好きだと告白してくれているのなら、私が応える分には構わないのかも。えーい、ここは小春を見習って勢いに乗ってしまおう。


「い、いいわよ。じゃあ、これでどう?」


 むぐっとなりながら、あまり綺麗ではない口づけを交わす私達。


 しかし、何だか柔らかい感触は妙に心地良くて、変な気持ちになってしまい、私は下半身がムズムズしてしまって、それを抑える為に蜜柑ちゃんから離れる。危ないわよこれ。


 それからしばらくほうとしていたら、いつの間にか蜜柑ちゃんは眠ってしまっていた。


 だから少し冷静になる事を心掛けて、私は烏龍茶を頼んでから、残っている料理を一人寂しく食べていた。


 まさか蜜柑ちゃんがここまでだとは。だから今まで晩ご飯の誘いなんかも乗らなかったのかな。じゃあ、今日はどうして乗って来たのだろうか。


 って言うか、私もいつも小春の顔が見たいから、すぐに飛んで帰ってたか。


 寝顔を見てたら、凄くこの後輩が可愛く思えて来た。


 それにしても、この子だけが私ってばここまで親密にしたんだったな。冷静に適確なコメントもしてくれるし、堅苦しい感じではあるものの、私としてはとても付き合いやすかったから。


 それで浮いている蜜柑ちゃんといつも一緒にいるから、あまりサークルとかにも顔を出す事もなくなったんだっけ。


 それで私達いつも色々な勉強したり、大学の情報を共有したりして、つるんでたんだ。


 そんな物思いに耽ってから、そうだ帰る時はどうしよう。タクシーで連れて帰るか。確か住所は前に教えて貰った気がする。


 そうそう、このスケジュール帳に書いておいたんだった。後で、住所録とかにも写しておこうとして、どうしたんだっけ。帰ってちゃんとチェックしなくちゃ。


 もう遅くなってるし、とりあえず蜜柑ちゃんを起こしてタクシー乗り場まで連れて行こうとする。


「ほら、蜜柑ちゃん起きて。もう精算は先に済ませておいたから」


「んむぅ~。雪空先輩? 一緒に帰ってくれるんですか。わーい。行きましょ行きましょ」


 何だか足取りが危ないし、どこかフワフワしているのはまだ変わらないけど、とりあえず私達はタクシーで蜜柑ちゃんの家まで行く事にした。




 ふらふらになっている蜜柑ちゃんを家まで送っていくと、彼女の祖母だと思われる人が出て来た。そしてこう言う。


「あらあら、蜜柑ちゃん。飲んで帰って来たんか。あんた、いつも話聞く先輩さんね。世話かけたねぇ。この子、酒癖悪いから普段は外で飲まないようにしてるのになぁ。今日は遅いから、あんたも泊まっていきなさい」


 ええ?そんないきなりいいのかな。


 そう言いつつも、一応案内されて蜜柑ちゃんを部屋まで運ぶ。それからお祖母さんにペコリとしておいてから、ベッドに寝かせようとすると、蜜柑ちゃんに引っ張り込まれて、私までベッドに入る事になってしまう。


「せんぱ~い。一緒に寝ましょうー。先輩の体、いい香りがしますねー」


 ちょ、ちょっと今日はお風呂にも入ってないし、嗅がれると困るんだけど。それにこのベッドで二人寝るのは、ちょっと色々問題があるんじゃないかしら。


 しかし蜜柑ちゃんは寝てしまうし、そう言えば布団がどこにあるのかもわからないから、仕方がなく私はその場で身を固くしながら寝る事にした。


 ああ、でもウトウトとして来たから、こんな状況でも寝ようと思えば寝られるのね。



 朝になって起きたと思ったら、もう十時だった。休みの日の前に飲みに行ってて助かったな。


 傍らには既に蜜柑ちゃんはおらず、私も階下に降りて彼女の姿を探す。そうしたら、居間で頭を抱えて、ぐったりしていた。


「おはよう。元気なさそうね。頭でも痛い?」


「あ、先輩。昨日は本当にすみませんでした。あの、本当に本当にあんな非礼な事をしてしまって・・・・・・」


 ああ、昨日の事を覚えているんだな。そう言う酔い方するタイプか。


 とりあえず二日酔いでしんどそうでもあったので、私はシベリアン・カートゥルーを呼んで冷やしてあげる事にした。


「蜜柑ちゃんを少し冷やしてあげて、シベリアン・カートゥルー。ひんやりする程度でいいから」


「了解シマシタ、木の葉サン」


 そして何だか驚いている蜜柑ちゃんに、シベリアン・カートゥルーは手を当てる。それでしばらくそうしていたら、蜜柑ちゃんはポツリと言う。


「まさか、同じ様な体験している人がいるなんてな。でもその前に、やっぱり私の事なんて嫌いになりましたよね。友達のいない後輩だから、優しい雪空先輩は付き合ってくれていたのに、こんな醜態晒してどんな顔して付き合えって言うんですか。ああ、どうしてあんなにキモい事しちゃったんだろ、私。お酒には注意しなきゃいけなかったのに、雪空先輩と一緒で浮かれてあんな事・・・・・・」


 何だか最初の発言が気になるけど、今はそれどころじゃなさそうだ。


「昨日のキスの事? 蜜柑ちゃん、私の事そんなに好きだったのね。顔に出ないからわからなかったわ。私こそ全然気づかずにいてごめんなさい。それならもっと仲良くなりようもあったのに」


 またも放心したように目を見開いて、私を見つめている蜜柑ちゃん。何かそんなに変かな。


「どうして? 幻滅しないんですか雪空先輩は。私は昨日、あんなにやってはいけない行為をしてしまったんですよ。勝手にあんなに触ったりキスしたりするのは、親しい間柄でもするべきではない事です。そればかりか、ベッドを共にする真似まで。それを・・・・・・」


「うーん。でも私、不思議と嫌じゃなかったのよね。一緒に寝たのだって、別に何かされた訳じゃないし。それに小春以外の人に目を向けるきっかけにもなりそうだなって思ってたの。私ももっとあなたと仲良くなりたいから、飲みに行こうって誘ったんだしね。だったら、お互いの素の姿を知って、これから更に親密になりたいと思わない?」


 ふう、と溜め息を吐く蜜柑ちゃん。微妙に呆れられてる?私。


「あなたはどこまで優しい人なんだ。そんなに人格の出来た人だから、私はその、す、好きになってしまったんだ。でも、そうですね。受け入れられるのなら、私も先輩とこれまで以上に接近したいと思ってます。その、お酒は出来るだけ飲まないようにして」


 ぱあっと私は顔を輝かせる。わかってくれて嬉しいわ。そうやって気に病んでばかりじゃ、前に進まないものね。


「それじゃあ、その雪空先輩っての禁止ね。私だって西田さんじゃなくて蜜柑ちゃんって呼んでるんだから、蜜柑ちゃんも木の葉って呼んで欲しいわ。それの方が仲良しっぽいでしょ」


 うっと身構えて、真っ赤な顔を見せる蜜柑ちゃん。


 あら、恥ずかしいんだわ。可愛い。ちょっともう少し困らせたくなっちゃいそう。


「そ、そうですか。それなら、木の葉先輩、とお呼びさせて頂きます」


 うんうん、と私は仲良しの証にと手を握って、ニコリとする。


 まだ赤い顔で恥ずかしそうにしてるけど、そうだと言って蜜柑ちゃんは話題を転換する。


「木の葉先輩のその雪女みたいなのは、超能力の一種みたいな物ですよね?」


 ん? それがどうかしたのだろうか。


「え、ええ。スピリット能力って言うらしいけど」


「実は私の家に、そう言う不思議な空間があるんですよ。この家は祖父が買った古い屋敷なんですけど、ちょっと蔵の方に来て貰えますか」


 立ち上がる蜜柑ちゃんについて行く私。蔵が何だろう。そこに何かあるのかな。


 そう思って蔵に着くと、地下に降りる階段らしき所に来て、蜜柑ちゃんは語る。


「ここ、本来ならこんなの付いてないはずなんです。それが凄い所に繋がってて。降りるので来てくれますか」


 そう言う蜜柑ちゃんに素直に従って降りていく。


 そうしたら、何だか図書館の様なとてつもなく広い書庫みたいな場所に出た。何これ、凄い。


「ここの入り口に〈パーペチュアル・チェンジ〉と書いてあるので、私達はそう呼んでるんですけど、これってこの家に表れた能力、だと思うんですよね。世界中の本が置いてあるみたいで、ここからは家の敷地内しか持ち歩けないんですけど、とにかく無限にスペースがあって、それもここの検索機で色々な棚の配置を変えたりしたら、パッと光ってすぐに位置が変わるって寸法になってるみたいです」


 はあー、家がスピリット能力者って事かしら。それと付き合ってるから、蜜柑ちゃんは私のシベリアン・カートゥルーが見えたって事かしら。


 でもこんな図書館があるなんて、何て素敵なんでしょう。小春も泣いて喜びそう。


 ってまた私は小春中心に考えてる。反省反省。


「ね。バベルの図書館みたいでしょう。その、これは家族だけの秘密なんですけど、木の葉先輩には教えて置きたくて。だって私達は、結構深い仲になってもいいんでしょう。それなら先輩にも時々来て利用して貰ってもいいかなって」


 ああ、そうか。ここを解放してくれるって言うのね。なるほど、私は特別扱いか。いいかも。


「ありがとう、蜜柑ちゃん。嬉しいわ。秘密の共有って何だか凄くいい響きね。そうだわ。私の家の事も追々と色々な話をしてあげる。それより、私今日は家族が心配するから、もう帰らなくちゃ。無断外泊、なのよね」


 急に慌てた様な表情をする蜜柑ちゃん。スッと可愛い姿を見せてくれるけど、言う事は立派に対応してくれている。


「それなら車で送ります。私、こう見えて普段あまり乗りませんけど、荷物運んだりする時には運転任されるんですよ。案内してくれたら行きますよ。いえ、そんな遠慮なんてしないで下さい。少し罪悪感もありますし、罪滅ぼしだと思って、受け取って欲しいんです」


 そこまで先回りして言われちゃ、どうも言えないわね。それならお願いしようかしら。


「うん、じゃあ蜜柑ちゃんを皆に紹介しようかな。個性的な人が集まってるから、ちょっと驚くかもしれないけど」


 そうして、私は蜜柑ちゃんの車に乗って、帰路に着く事になったのでした。


 でもちょっと待って。時雨さんの事は話していたけど、ソーニャさんやマルちゃんの事はどう言うか全く考えてない。


 もう行き当たりばったりで、本当の事を言うとは決めてるんだし、勢いで聞いて貰うしかないわね。


 あんな蔵があるんだから、多少の事なら受け入れてくれるはずよ。ええ、気をしっかり持つのよ、木の葉。




 車だとあっという間に家に到着。普段全然使ってない駐車場スペースに駐めて貰って、私は鍵を開けて家に案内する。


「さあ、入って。人が色々いるけど、あんまり気にしないで」


「は、はあ」


 訝しんでいる蜜柑ちゃんを誘導しながら、私は居間の方に向かう。


 扉を開けたら、すぐさま小春がこちらを向いて、駆け寄って来る。こんな健気な所が本当に大好きだわ。小春ってばガチに可愛い。


「お姉ちゃん、どうしたの、昨日帰って来なかったでしょ。連絡もなかったし、皆心配してたんだよ」


「ごめん。色々あって、連絡出来なかったのよ。時雨さんもごめんなさい」


 二人を蜜柑ちゃんに紹介しながら、私は素直に謝っておく。


「いえ、もう大人なんですし、事情もあるでしょう。ただ、お嬢さまが大変気を揉んでらして。それがもう本当に大変でしたよ」


 まぁ、小春はそんなにまだ私から離れられないのね。でもそんなにお姉ちゃんの事想ってくれて、嬉しすぎるくらいよ。だからちゃんと反省もしなくちゃ。


「そ、その子が木の葉先輩の妹さんですか。あまり似ていませんが、どこか面影がある気もします。可愛いと言うのもわかります。でもちょっとマニア受けしそうな・・・・・・。ああ、でも木の葉先輩の子供の頃はこんな風に可愛かったんでしょうね」


「えーと、その人はお姉ちゃんの彼女? なんか違う意味で変な所ありそうだけど」


 そんな危険球が小春から投げられて、私が何か言う前に蜜柑ちゃんは真っ赤になって否定してしまう。


「ち、違います! そんな私が木の葉先輩の彼女だなんて、おこがましいですよ。そりゃあ、そうなれたらこの上もない事ですけど」


 ああー、いいかな。他の人も紹介しておきたいけど。


「あ、はい。皆さん勢揃いしたら、木の葉先輩の家庭って大家族なんですね」


「うーん、ちょっと違うのだけど、また後で説明するわね。こっちの金髪の子が、時雨さんの祖先のソーニャさん。実は時雨さんは、魔族の家系なんですって。それからこちらの黒髪で短髪の子が、偶然小春が助けた宇宙人のPFMさん。皆マルちゃんって呼んでるわ。何でも連絡を待っているのと、吸血鬼化してしまって困っているそうで。後、お母さんともう一人メイドさんでお母さんのパートナーの氷雨さんがいるけど、まだ部屋に籠もってるみたいね」


 え?え?と困惑している蜜柑ちゃん。


 おおよろしくと言っている二人に蜜柑ちゃんを紹介する間も、どうもとか言ってるけど、不思議がってる顔をしていた。


「そうだ。皆とはこれからちょっとずつ仲良くなったらいいわ。今日は私の部屋でアルバムでも見ない? 昔の写真とかあるけど」


 そう言うと、何だかちょっと緊張した面持ちで返事をされる。


「せ、先輩の部屋ですか・・・・・・。わかりました。ご相伴に与ります」


「ええ。それじゃあ小春、私達部屋にいるから。あ、時雨さん。お構いなく。お茶は自分でやります」


 そう断っておいて、蜜柑ちゃんを部屋に案内してから、私は紅茶を入れて部屋に向かう。


「レモンティーで良かったかしら。今、アルバム出すわね」


 お盆をテーブルに乗せて置いて、プリントアウトを細かく分けているアルバムを引き出しから取り出す。小さい頃の物がいいかしら。


 それから私はこの家の家庭状況とか、私のスピリット能力の経緯について、大まかに語っていく事にして、アルバムを捲りながら話をする。


「へー。先輩、やっぱりしっかりした感じありますね。聡明な子供ってイメージにピッタリな気がします。・・・・・・そうですか。この間休んてた時心配しましたけど、そんな事が起こってたんですね。ああ、凄く可愛い」


 話に返事しながら、写真の感想を漏らしていく蜜柑ちゃん。それで小春との遺伝的な関係も一応語っていく私。


「ああ、そうなんですね。精子バンクで・・・・・・結構変わってますよね。でも姉妹で似ている所もあると思いますよ」


 そうやって写真を眺めていて、幾つかのファイルを見てから、少し大きくなってからのも見ていく。


「あ、これ妹さんですか。こっちは木の葉先輩。うーん、姉妹でこんなに愛らしいなんて、お母様が美人なんでしょうか」


 うーん、どうだろう。そんなに意識した事ないからなぁ。


 それにお母さんはお洒落する暇があったら、仕事してるかインプットするか、みたいな所があって、普通の女子とも違うしなぁ。


 しかし、私は小春の写真が出て来たので、一段気合いが入るのである。


「まぁ、お母さんはそんなに化粧っ気もないし、美人かどうかはよくわかんないなぁ。それより! この小春もこっちも凄く天使みたいに可愛いでしょ。こんな時からもう目が悪かったんだけど、本当に私に懐いてて凄くいいでしょ!」


 ポカンと私を見つめる蜜柑ちゃん。あ、これ引かれるやつだ。やっちゃったー。


 妹ラブはそんなに外でやりすぎないように、お母さんとか氷雨さんに言われてるんだった。


 で、でも蜜柑ちゃんはいつも私の小春語りを聞いてくれてるから、別に大丈夫よね?


 そんな風にちょっと慌てた顔をしている私を見て、不意に蜜柑ちゃんはふふっと笑う。な、何か笑う箇所あったかしら。


「いえ、本当に妹さんが好きなんだなぁって。家族仲がそんなにいい事は、凄く美しい事ですよ。反発し合う姉妹とかも世の中にはいるそうですからね。・・・・・・でも、私は木の葉先輩の方が妹さんよりも飛び切り可愛いと思いますよ・・・・・・」


 言ってから蜜柑ちゃんは、ふいと目を下げて逸らす。自分で言っておいて恥ずかしがってるんだ。


 でも、そうか。彼女にとっては、私は恋する相手だから、私の方が小春よりも良く見えてるわよね。それをちゃんと考えてあげるべきだった。


 でもこんなに冷静だった蜜柑ちゃんが、ころころ変わる顔を見せてくれていると、何かしてみたくなっちゃう。


「ふーん。そんなに私の事、好き?」


 意地悪なのか、挑発的に仕掛けていく。これも悪女への道なんだろうか。


「そ、そりゃあそうですよ。唯一良くしてくれた人だったんですから。美人で聡明で、それで私にこんなに優しいなんて反則です」


 ふふーん。そうかそうか。


 照れながら、それでもしっかり言葉を重ねていく蜜柑ちゃんはやっぱり立派だ。根が真面目だから、嘘がつけないのかな。


「じゃあさ、今度は素面でキスとかしてみる?」


 あらら、私ってば何言ってるんだろう、引っ込みつかない変な事言ってしまった。


 でも言ってしまったものは仕方がないと思って、蜜柑ちゃんのズボン越しに足に触れてから、近づいていく私。


 ビクッと反応した蜜柑ちゃんはちょっぴり強ばっている。やっぱりそう言うもんよね。私も何だか緊張して来ちゃう。


「あの、先輩・・・・・・? い、いけません。私達、まだそんな」


「ちょっと静かに。昨日のお詫びって言ってたんだから、私の言う事を今日は聞いて貰うわ」


 むぐっと言う蜜柑ちゃんに自分の唇を重ねる。


 足に手を置いたままなので、蜜柑ちゃんは大分顔が赤い。私達は充分に唇の感覚を確かめ合う。


 って言うか、柔らかい感触で凄く気持ちいい。ちゃんとキスを女の子とすると、こんなに素晴らしいものだったとは。


 小春もこんな気持ちだったのかしら。でもこれくらいにしておかないと、蜜柑ちゃんが持たないわね。


 そう思ったので、そっと離れる二人。ポーッとしている蜜柑ちゃんの頭を撫でて、


「ふふ、良かったわね。私達、案外相性がいいんじゃないかしら」


 と言ってみた。


 私って結構、ズバズバやってしまえる性格だったのかしら。そう言えば、普段から小春を助けたりもして来たから、矢面に立ったりするのも苦手じゃないし。


 この頃は、真冬ちゃんが小春を先導してくれてるのが、ちょっと悔しいくらい。


「あ、あの。そのですね。後でスマホに木の葉先輩のいい写真送ってくれませんか。そ、それじゃあ今日はこれで帰るので」


 おや。お願いをしてから、挙動不審に部屋を出て行ってしまう。


 やっぱりやり過ぎたかな。根が固い蜜柑ちゃんをとろとろにし過ぎちゃって、許容範囲を超えて恥ずかしさの極地に至ってしまったのかも。


 仕方がないから、何がいいかなとしばらく写真を選んでいると、車の発進する音が聞こえて来た。


 運転、大丈夫かな。冷静じゃないはずだけど。ちょっとそれが心配。


 しばらく悩んでから、出来るだけ笑顔のを選んでから、数枚の写真を送る事にした。


 それからなんやかんや、特にソーニャさんとマルちゃんから追及されたり、あいつともっと話してみたかったのにと恨み言を言われたり大変だった。


 小春からは、お姉ちゃんが他の人ともっと仲良くなってるのなら、あんまり心配しないで良さそうだね、なんて言われてしまった。


 え、そんなに私妹ばっかり見てて、妹に心配されるレベルだったんだ。


 まぁ、でも私も新たな局面に差し掛かったって事で、これから蜜柑ちゃんと会うのがもっと楽しみになったかな。


 私にもようやく恋が訪れる気配がして来たんだ。うん、いい傾向だと思うようにしよう。


 ちなみに蜜柑ちゃんがすぐに帰ってしまったので、飲みかけの紅茶を私はちょっと試しにと、全部飲んでしまった。


 これって変態的と言われたりする、わよね?




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