第18話またキスですか。気づいちゃった自分の気持ち
なんかソーニャさんが言うには、ソーニャさんと手を繋いで時雨を囲んで、そこで念を込めるんだとか。
その手はずは全てソーニャさんがやってくれるらしい。わたしはただ夢の中に入って、何か手助けをすればいいだけだと。でも本当に心配。
時雨ってば、こんな風に時々わたしを慌てさせるんだから。ソーニャさんもソーニャさんよ。もっと後先考えて行動して欲しいわ。だから封印される失敗をしたんじゃないの。
さて、それでわたしはソーニャさんと二人子供が手を繋いでいる状況から、うとうととして来て、ハッと気づいたら何やら変な広い所にボンヤリ座っていたのである。そこにソーニャさんが一声。
「おお、気がついたかご主人。あそこで時雨が悶々としておるから、まずは余らを気づかせねばならんぞ」
見るとベッドで抱き枕を抱きながら、妙にクネクネしている。
あんな感じでいつも部屋にいるんだろうか。イチゴ柄のパジャマで妙に可愛い。いやでもその姿は微妙に気持ち悪いか。
「ふむ。お嬢さま~とか言っておるから、どんなプライベート空間で満喫してるのかと思いきや、オナニーはしておらんようだな」
ちょっとあなた。子供が傍にいるんだから、不用意な発言は控えてくれませんかね。まだそんな猥談とかするのは気が引けるんですけど。
「ああ、すまんかった。しかし何じゃな、封印空間からずっと見ておったが、あやつ、昔に比べて大分ストレスを減らせたようで良かったのう」
え? それってどう言う事なの。昔の話なんて、家庭教師の人にひっそり恋してた話くらいしか聞いた事ないよ。
「ああ、うむ。そりゃあ暗い話はお主にはせんだろうな。何、あやつは一族の中でも特別力が弱いんだ。だから日中出歩けん体質も相当難儀してなぁ。あれほど吸血鬼の要素を余が身に受けたのを後悔した時もなかったわい。しかし、お主との日々が心を溶かしたんだな。最初は酷く不安そうにしておったっけ。それでか当初は、かなり頓珍漢な行動をしておったのは、お主も知っての通りだ」
はー。なるほど、時雨も時雨でやっぱり特異体質なのは不便でしんどかったんだ。
だからオン・リフレクションの力は、凄く熱心に研究して制御出来るようにしたんだろうなぁ。そう思うともっと優しくしてあげたくなっちゃう。
何気に今の妄念垂れ流しの状況を見せられてるのは、引き気味になってしまうけど。
ってよく見たら、ソーニャさん、大人の姿!
しかも黒い衣装なのは時雨と同じだけど、胸の所と下半身の大事な所だけ隠しているだけで、他は肩も腰もおへそも足も丸見え。
なんで君らはそんなにエロい格好するの。それから胸の大きさに注目してみると、時雨より少し小さいとでも言うのか。
や、わたしが細かく時雨の胸の大きさを把握している訳でも、今目視で確認した訳でもないんだけど、何となく感覚で言ってるかも。
「ふうむ。そんなに邪な願望が識域下でか表象でもか知らんが、かなり溜まっておるのかのう。もうちょっと血を吸わせてやるとか、色々とサービスしてやらんといかんぞご主人」
むー。子供に何のサービスをさせようってのよ。わたしはそうやって頭を撫でて来るソーニャさんのほっぺをつねって、むにむにする。
「むー。こら、むにむにするでない。余はお主らよりとんでもないくらいの年上なんだぞ。それをこんな仕打ちでいいと思っておるんかい。う? お主、夢の中でだからって、なんか変な力発揮しておるだろう。こらあ、やめんか!」
へ? そう言えば、なんか集中していると、どうも相手をどうにかしてしまうみたいだ。
無意識の内にソーニャさんを固定して動けなくしていたのか。これは失礼。
「ふー。やはりお主の能力は底が知れんな。これくらい強力な精神力の精気を食べれば、時雨も大分力が強くなるんじゃないか。ハッ。そうか、これからもご主人の血を吸えば、どんどんパワーアップするはずだ。これはご主人が覚醒する時が楽しみだなぁ。余もご主人の仲間に入れて貰おうか」
こらこら。あなたは時雨のご先祖様なんだから、自分の力は自分で取り戻して下さいよ。
「それはそうと、何でソーニャさんもわたしをご主人って呼ぶんですか? 小春とか好きに呼べばいいのに」
うむ。と少しばかり遠慮がちな胸を叩いて、胸を張りながら大仰に構えるソーニャさん。
何だか、この人大きくなっていても可愛いな。
きっと、皆にマスコットみたいな可愛がられ方してたんじゃないかと邪推する。妻となった人との関係だって、本当はソーニャさんがネコ側だったとかが真相だったりして。
「それはだな。時雨と余は勿論血族であって、余はその一族のグランドマスターみたいなもんだ。繋がってもいる。だから時雨がお主に仕えておるんだから、余もその臣下に下ると言う訳だな」
それでいいのか大魔族のトップさん。
大体、わたしの家に時雨は雇われているだけであって、解雇されたりわたしの家が傾いたりして雇い続けられなくなったら、もうそう言う関係は終わるんだよ。
それなら、あなたみたいな偉い人までそれに付き合う法もないでしょうに。
「ははは。何を言っておる。時雨はいざとなったら、自主的にお主の傍に付き従うくらいの気でおるぞ。そして余が現実空間に体を取り戻したとなったら、活動の幅も広がるから、その気になればお主らの家が貧乏に喘ぐ事になっても、余らはそのままお主らを支えていけるのだからな。何なら生活面のサポートも出来るくらいであって」
いやいや、ソーニャさんは一体どう言う方法論でそんなにお金を稼ぐつもりなんだ。魔族とかの苦労するのって現代生活での実生活の面じゃないの。漫画とかではそう言うのが定番だよ?
って言うか、そんなわたし達が面倒見て貰うようなら、それはもう主従関係が転覆してますが。いいんですかそれで。
それ以前に、まだまだお母さんの漫画の人気だってあるし、貯金だってあるし、お姉ちゃんももう少ししたら働くんだろうし、そんなに心配しなくてもいいんだけど。
まぁ、一寸先は闇と言ってしまえばそれまでではあるとは言え。
「それでだ。時雨のご主人であり、人格者と認められる上に、かなりスピリットの可能性も強い精神性を持っておるのもあって、余はお主に賭けてみたいのだ。一族の運命を託したいのよ。余がオプションで付いて来るだけで、時雨ももっと力が強まって、色々な特典もまだまだ将来的にも付いて来るんだから、悪い事ではないだろうが」
うん。いやまぁそうだけどね。
でもなぁ。そんな魔族に関わり合いになっちゃって本当に大丈夫なのかな。
そうなって来ると、次第にまふちゃん達にはあんまり隠し事も出来なくなるし、あんまり秘密にするのも後ろ暗いんだよね。
どうしようか、ホント。
ってそうじゃなくて、今は時雨をどうにかするんじゃなかったの。
「あ、そうだったな。よし、ちゃんと同期を強めて、時雨の精神にアクセスしよう」
「それってどうすればいいの?」
「簡単だ。時雨にここで呼びかければいい。ちゃんと時雨の事を想像してな」
うーん、なんかわたしのポスターみたいなの貼ってある部屋で、わたしは時雨のだらしない姿見てて、それであいつを考えて呼びかけるのって変だなぁ。
でもやってみますか。と早速やってみる。
う~ん。おーい、時雨。小春だよー。メイドなんだから、わたしが呼んだら返事しなさいよね。アンタってホントに世話が焼けるわね。もっとしっかりして頂戴よ。ってこんな事言ったら傷ついちゃうわよね。ごめん。もっと素のままの時雨を見せてくれていいから、わたしの所に戻って来てよ。そんな妄想のわたしばっかり相手にしてないでさ。
そうやってうんうんやっていたら、おや?お嬢さまとご先祖様?ですか。と声が聞こえる。あ、届いたんだ。同期されたって事ね。
「時雨! 大丈夫なの。そんなだらしない姿で何やってるのよ。さっさと現実に戻るわよ」
強く言うわたしに、時雨はいやあと頬をかきかき。
「そうしたくても、ここから出られないんですよね。力が足りないみたいで。それよりお嬢さまはここまで追っかけて来てくれたんですか? わー、感激です」
そんな軽口が言えるなら大丈夫と見ていい様ね。むー。何だか凄く心配して損したじゃない。
「こっちはちゃんとわたしだけを見てくれるって約束があるんだから、そうしてくれないと気が済まないの! 変な所で躓かれたら堪らないわ。ほら、わたしの力がいいらしいから、それを吸って早く帰るわよ」
「それなんだが、もう一回キスしてくれるか」
はいいい?! 何で。儀式とかそんなのばっかりでするのは、もう勘弁して頂きたいんですが。
「うん。まぁ、しかし夢の中だからノーカンって事でいいではないか。唇から吸う方が精気って吸収しやすいんだ。血から吸うより効率的だしな」
わかった。わかったわよ。何でもすればいいわ。でもそんなに何回もして、ノーカンって言い訳は通るのかな。
「本当に重ね重ね、よろしいのですか、お嬢さま。私、大分迷惑掛けてるんじゃあ。嫌ならそう言ってくれれば・・・・・・」
「嫌なんて言ってないでしょ! 別に興味がないと言えば嘘になるし、それでもアンタの為だから仕方なくしてあげるだけだけど。もっと触れ合う方がいいし、それならわたしももっと素直になって接してあげた方がいいだろうし? だから、それだけなんだから!」
「ふうむ。何とも素直じゃないのう。これが噂のツンデレか。キチンとデレておるから、ツンデレとしても語義を外れんしなぁ」
なんかご先祖さんがたわ言を言ってる。もういい。それは無視する。
「えーっと、キスして、そこから精気をずずっと吸う訳ですか。危険はないのですか、ご先祖様?」
「おうともさ。吸い過ぎたらそりゃあいかんが、ちゃんと用法用量を守ればどうって事ない。小春お嬢さんがちいっとばかし疲れを感じるだけだからな」
ああ、やっぱり疲労は蓄積するのね。こりゃあ、ゆっくり寝させて貰わないと割に合わないな。
後、時雨にはたっぷりと美味しい物を作って貰わなくちゃ。
「で、では。お嬢さま。いきますよ。あ、ああ。また緊張して来た・・・・・・」
時雨ってひょっとして、いざとなるとヘタれるのかしら。
なんかさっきも震えてた気がするし、わたしみたいな気弱な子供の方がよっぽど度胸座ってるかも。
まぁ、それも時雨の生い立ちを考えれば仕方ないのかな。もっとこのお姉さんに寛容に接するようにしよう。
わたしが何とか幸せにしてあげなくちゃ。わ。それって微妙に恥ずかしいセリフだ。口に出して言ってないけど。
時雨がプルプルしながら、近づいて来て、わたしもドキドキする。
妙に向こうが強ばってるから、こっちにも緊張が伝わってしまうんだな。でも覚悟を決めて、時雨を見据える。
そうすると向こうも意を決して、唇を重ねて来ます。
この感触、まだ慣れない。慣れてたらおかしいんだけど、でもどうにもこのくすぐったい感じ。
幸福感とドキドキと緊張とでグチャグチャになったみたいな気持ち。そこから何か吸われていく感触がぬちゃりとする。
わっ、これが精気を直に吸われるって事か。
でも今はぐったりする事もなく、ってそれは夢の世界にいるからかもしれないけど、とにかく時雨とのこの時間をわたしは噛み締めている。
うん、やっぱりわたし時雨が好きだ。
えっ? 何、この気持ち。
こんなの恥ずかしいけど、何だかポカポカする気持ちで、でもそれを面と向かって言うまでには至らなくて、心の中でうねうねと気持ちがのたくっていて、それでどれだけ長い時が過ぎたのかと体感時間がとてつもなく長く感じていたら、ようやくそのキスは終わった。
ああ、全然息とか気にしてなかったけど、普通に大丈夫だったな。で、時雨はこれで元に戻れるのかな。
「うーむ。計測してみよう。ふむふむ。おお! これくらいの値なら、余の波動が流れても平常を保てるだろう。さて、目を覚ますぞ。用意しよう」
ええと、今度はどうするのかと思っていると、ソーニャさんは皆で手を繋いで目を瞑るんだと言うから、言われた通りにする。
二人が屈んでくれるから、助かるわね。グニャグニャと今度は視界が歪んでいって、時雨の奇天烈な部屋がフェードアウトする。
これ現実でもこんなんなってるんじゃないでしょうね。・・・・・・あり得るわ。
目が覚めると、わたしは時雨の胸の所に顔を埋めていた。
何よもう、そんなに飢えてる訳じゃないのに、恥ずかしいなぁ。でもしばらく抱きついたまま離れたくない。
時雨の気持ちのいい匂いを嗅いでいると、時雨がううんお嬢さま?と目を覚ます。
わたしは咄嗟に離れる事も出来たけど、ギュッとしがみついて幼児退行をしたように、仰向けに寝ている時雨にギューッとする。
「あのう、お嬢さま。それじゃ起きられないんですけど。でもそうですね、お嬢さまには本当に頭が上がらないくらいお世話になりっぱなしなので、好きなだけ私を好きにしていいですよ。お嬢さまの気の済むまで戯れているなんて、私にとっても極上の時間です」
うん。そりゃあそうでしょうね。
でもわたしは自分の心が信じられない訳じゃないけど、妙に自覚的になったら、あれこれの言動がもうオチてるみたいなものだったと感じて、顔から火が出るほど真っ赤っかになっている。
だからか時雨の服に顔を埋めて、こちらを見られないようにしているのだ。もう知らない。
「ふむ。やはり主従はこれくらい繋がりが深くなくてはな。そうだろう、そこのお二人もそう思わんか」
やっぱり現実では子供の姿なソーニャさんが、ニヤニヤして楽しんでいる。
「大変素晴らしいと思います。小春がこれだけ人に懐くなんて、お姉ちゃん成長を見られて感激だわ。ああ、あわよくば私ももっと小春に慕われたい」
「ほう、それくらい地球人は体を密着させるのじゃな。親密の度合いと言うものも、朧気ながら理解して来た。なるほど、恋愛と言うのは生殖だけを主にするのではないのか」
ギャラリーも二人それぞれ感想を言っている。うーん、好きな事を言ってくれてるけど、まぁいいか。
この先、わたしは契約まで結んでしまって、この時雨さんとどう付き合っていけばいいのだろうか。
ちょっと色々気持ちが沸き上がって来て、止まらないんじゃないかと思われるので、次はどうなってしまうかわたしも予測がつかないのである。
それにソーニャさんと言う新しい居候も出来てしまった事だし。ってこれ氷雨さんにもお母さんにもちゃんと言わないと。お姉ちゃんが一緒に聞いてるから、まぁ大丈夫だよね。
でも部屋割りとかどうしようか。余ってる部屋なんてそんなにないぞ、実際。
物置にしてる部屋とかを片付けたりするなら、皆でやらないとなぁ。




