第16話もう一度、一緒にお風呂
最近、お嬢さまが私にどうも距離が近い。凄く信頼してくれている様なのです。
でも私は最初に暴走していたせいで、少し煙たがられていたと思うのですが、料理とか諸々生活面で役に立ったのが幸いしたのでしょうか。
それとも私が危険に瀕したのを、何か気に病まれたとか、持ち前のお優しい心で同情的になられたのか。
私は昔家庭教師だった先生に恋していたように、大人も守備範囲ではある。しかし基本的にロリコンだ。
だからこそ、時に傍でいつもは遠くから少女を見守るだけでいいと思っていましたけど、お嬢さまを写真で氷雨さんに見せられてから、どうにもおかしくなってしまったみたいです。
そしてやはり節度は守りたいと思い始めてから、あまり嫌われる様な事はしないでおこうと思いました。
だから出来るだけ吸血行為もしない方がいいと考えていましたし、キチンと礼儀を弁えたメイドでいようと思っていましたのに。
お嬢さまから血を吸って欲しいと言うなんて。それに何だか期待してしまう様な言動が目立って来ました。
いつまででもお仕えする気持ちはありますが、この気持ちを発露させていいとは考えられませんでしたので、少なくともお嬢さまが大きくなられるまでは、出来るだけお嬢さまを性的に見てしまっても我慢して、忠実なメイドとして役目を全うしたかった。
性的な高ぶりは、自分で処理すればどうとでもなると、今までの経験から高を括っていましたので大丈夫かと思っていましたが、お嬢さまにああもアプローチされると、抱き締めたりするくらいなら、幾らでもしたくなってしまいます。
それにお嬢さまは知的な女性です。
何より本を読むのが趣味ですし、勉強もそれほど今までは熱心にはやっていなかったみたいですが、私もちゃんと教えてあげれば飲み込みもいいですし、かなり熱心にもやってくれるので教え甲斐があると言うものです。
だからこそその知性をもっと伸ばして欲しい。
その為には、あまり私に執着し過ぎないように導いて差し上げた方がいいのではないか。私が妨げになるようではいけない。
知的な女性と言う物はいいですよ。お嬢さまは眼鏡属性でもありますし。
そんな風に考えていたのですが、お嬢さまはどこまでも懐いてくれています。
そうなると、もっと私もお嬢さまの望む事ならしてあげたいし、そうしてあげる方がお嬢さまも喜ばれる。
それなら、そうする事で勉学にも身が入るだろうし、余計に悶々とさせるなどして読書の邪魔になる邪念を起こさせてもいけない。
そんな事を考えて、お嬢さまから教わった最近聴いているプログレのアルバムを幾つか聴いていました。
お嬢さまはジャズ・ロックと言う物だけでなく、ファンタジックなのとかを中心としたシンフォニック・ロックなんかもお好きだそうで、それは幼い頃から氷雨さんにクラシックなんかを色々聴かされていたせいで、曲の時間が長い組曲だとか、演奏が延々と続いて歌に全然入らないのとか、普通に聴けてしまう為に、いつしかそう言うジャンルの音楽が好きになったそうなのです。
だからか、あまり流行の音楽、特にヒットチャートの物なんかを聴いている姿なんかは見られません。
ある意味で子供らしくないのかもしれませんけど、そこが背伸びしているお嬢さまの個性であり、可愛い所なのです。
それもあってか、洋楽が好きなのが伝わって来るほど、私に必死に英語を教えて貰いたい旨を切々と訴えるのが、何とも愛おしかった。
だから、単語の勉強も段階を追ってやるようにして、文法の授業を定期的にしてあげると、めきめき学習して喜んで下さいます。
ああ、こう言うのが教育者の喜びでしょうか。それとも親の喜びに近いのでしょうか。
しかし私の場合、どこか邪な目で見ているのも事実なので、私の理想的な好みの知的な女性にお嬢さまが近づく喜びも大きいかもしれません。
客観的に見れば、もしかしたら私は光源氏と同じ様な立場だと見做されるかもしれませんね。
そう言えば、ここの所色々あって、服も作りかけでしたし、お嬢さまに着せてなかった。今なら飛び切り可愛い服もお嬢さまも喜んでくれるでしょうか。
でも絶対に恥ずかしがって、内気なその態度を必死に私を褒めたりしながら、不器用にもいい方向に向けて下さるのがお嬢さまです。
ああ! やはりお嬢さまは素晴らしい。
だって眼鏡だって愛らしいし、外している時も寝顔が美しいですし、いえ寝顔だけでなく知的な趣が素敵ですし、眼鏡を拭いている姿も何とも惚れ惚れとしてしまうのです。
私は些か、目が曇っていてお嬢さまを崇拝し過ぎているのかもしれませんが、もう私にとってお嬢さまは宝以上の何かなのですよ。
一目惚れだったのかもしれませんが、今となっては全てが愛おしくて、お嬢さまが素晴らし過ぎて、お嬢さまなしの生活など考えられません。
そう考えると、ローリン・ストーンにこのオン・リフレクションを貰ったのは感謝しなくてはいけません。
昔読んだご先祖様の言葉を翻訳した文献とやらでは、スピリット能力はどうやら世界の管理者なる概念上の存在に対抗する為に、存在者がそこから逸脱しようと発生して来た物だったそうですが、ローリン・ストーンはそれを促す何かの選定者の意志が反映されているのかもしれません。
その結果、私の様な何の役に立たない能力でも、吸血鬼が人間と同じように生活出来る能力を与えられたのは、何かの運命があるのかと思ってしまいます。
ご先祖様の封印が解けたら、もっと色々な話を聞いてみたいものですが、ご先祖様が回復するのはまだ先でしょうし、私の吸血鬼としての力が向上するメリットはと言えば、お嬢さまをお守りするのに都合がいいくらいでしょうか。
しかしお嬢さまは、眼鏡がコンプレックスとの事ですが、小柄な体系はあまり気に病んでいらっしゃらないみたいです。
その小さい体躯も大変可愛らしいですし、それだからこそ必死に色々な事を頑張る姿が健気にも見えて来ると言う見方も出来ましょう。
私だってそんなに大きくはないですが、まだまだ子供のお嬢さまからしたら、大人な私は大きいでしょうし、それだからちゃんとお嬢さまに合わせた態度を心掛けなくてはいけません。
だってそうしないと、お嬢さまがまた捻くれてしまっては困りますし、私もお嬢さまを困らせたくないですからね。
それにしてもお嬢さまは日に日に美しくなっていかれる様な気が致します。
それももしかして、私と関係が深まって来て、私にお嬢さまの魅力がどんどん理解の深まりがあって、マイスターにでもなれそうなくらいになって来ているからでしょうか。
勿論、ずっと一緒にいた木の葉様には負けるでしょうし、それでも愛の深さでは負けていない、いえ負けたくないとも思えるのですが。
オルゴールの歌だとか、巨大ブタクサの襲来の歌だとか、ギリシャ神話由来の泉の歌だとか、そんな変にうっとりする歌を聴きながら、私はお嬢さまの写真を眺めます。
仕事の合間にはいつもお嬢さまの写真を見つめている気がしますし、お嬢さまがいる時は彼女をジッと見ていると癒やされます。
そう言えば、お嬢さまも私の写真を欲しがって撮影していましたけど、あれはやっぱり私と同じように使用しているんでしょうか。
まさか写真を入手しておしまいなんて事もないですし、眺めたり溜め息を吐いたりしてくれてるといいのですが。
いやいや、それはもしかして思い上がりでは。
お嬢さまから好かれているとは言っても、そんなにメロメロになって貰うまでに期待してはいけません。
あくまで私はメイドでもありますし、お嬢さまのお心を奪うと言うのは何か罪作りな気さえして来ます。
そうこうしていて、夕飯の下準備をしていると、お嬢さまが本を閉じて意を決したように、こちらにモジモジしながら向かって来ます。
先程から本のページも進んでいないみたいでしたが、何か悩んでいたのでしょうか。
お嬢さまが私のメイド服の裾を掴んで、上目遣いに見つめて来ます。
うわ。もう可愛いなんて言葉では言い表せないくらい、この気持ちの高まりは何なのかと言うほど、もう尊いご尊顔です。
「あの、さ。今日、久しぶりに、って行っても二回目なんだけどさ。一緒にお風呂に入ってくれない? 流しっこしたいの。わたしにも時雨の背中洗わせて欲しい・・・・・・」
ああ、これを言う為に悶々としておられたのですね。でもそれって私の理性は持つのだろうか。前も胸に触って怒られた様な気が・・・・・・。
「え、ええ。私は構いませんけど、私と一緒でお嬢さまはいいのですか。前はそんなにいい感じの反応は貰えませんでしたけど」
「い、今はいいの! 寧ろ、時雨とがいいって言うか。わたしが裸の付き合いがしたいって言ってるんだから、嫌だとは言わせないわよ!」
うーむ、やはり強がって強行に出られるのは、いつ見てもかなり萌えポイントです。
お嬢さまにはそのままでいて頂きたい。変にスレすぎって皮肉屋とかにはならないで欲しいし、逆に口説き上手なイケてる女にもならないで貰いたい。
と言うのは押しつけがましい欲望でしょうか。
「じゃ、じゃあ入りましょう。頭も洗って差し上げますよ。あ、お風呂上がりにマッサージなんかもしてあげますね。本読む人って肩凝るって言いますから」
「そうね、お願い。結構勉強とかあれこれあって、わたしも最近疲れ気味だし、時雨に癒やして貰いたいな」
うー、何てありがたいお言葉。
お嬢さまのお気に召す行為なら、何だって私は身を粉にしてでも奉仕させて頂きます。
しかし、そう考えるとお風呂の件は、凄く私自身が前と違う環境に緊張して来てしまう。
ちゃんと対応出来ますかね。お嬢さまを満足させられるといいのですが。変にセクハラになる事はしないでいるように、ちゃんと心掛けて置かなくては。
食事の味がしなかった様な、あっという間にこの時が来てしまった様な。
私の方がお嬢さまより緊張しているのではないかと思うのですが、脱衣所に一緒に入るとお嬢さまも心なしかモジモジしてるのがいつもより倍増って感じです。
仕方なく脱いでいくも、妙にお嬢さまの視線が恥ずかしい。胸元を見て来るのは、そう言うのに興味があるお年頃なんでしょうか。
「うーん、時雨みたいにわたしも成長したら立派な体になれるかなぁ」
そう言う事ですか。
しかし、そうやって成熟した体として扱われるのも、どこか気恥ずかしいものがありますね。
「大人になれば出る所はある程度出ますし、その成長が人より少なくても、私はその、お嬢さまの事を愛せる自信、ありますよ?」
なんか恥ずかしい言葉を言ってしまうと、全て勢いで脱いでしまう。お嬢さまはまだ脱がない。
「そんな恥ずかしい事、最近あまり言ってくれなかったよね。もっと嬉しい褒め言葉とかなら言っていいんだからね」
そして徐々にもたもたと脱いでいくお嬢さま。
私はそれを固唾を呑んで見守り、思わずゴクリと唾を飲み込んでしまいます。やはり子供の体でも少し膨らんで来てる。いいです。
「お嬢さま、綺麗です・・・・・・。お嬢さまの美しさの前には、私なんて霞んでしまいます。少し出かけている発育具合がまた素敵・・・・・・」
思わず全て脱いだお嬢さまに見惚れて、そう呟いてしまいます。そうするとお嬢さまは、真っ赤になってわーっと言います。
「あ、だからそんなに見ないでってば。変なセリフも駄目! 眼鏡も外すから、向こう向いててよ」
えーっと言いながら、素直に従う。そしたら、お嬢さまは脱衣所に眼鏡を置き、ほらと手を取ってくれます。
「入りましょ。あんまり見えないから、その辺は安心でしょ。まぁ、アンタからはわたしは丸見えでしょうけど」
ああ、眼鏡を外したお嬢さまも何て美しい。
子供らしい愛らしさを含んだお顔なのに、知的な眼差しが見せる大人びた顔も見せていて、そこが大人と子供の間で揺れ動くお年頃特有の良さを醸し出します。
連れられてかけ湯をしてから、湯船にまず浸かり温まります。見ると、お嬢さまがうっすらと微笑んでいます。
「この前よりも落ち着いて入れてる気がする。アンタの事、段々嫌いじゃなくなって来たからかな。これからはもっとわたしの為に、アンタ自身がしっかりしてよね」
「め、面目ないです」
しかしお嬢さまは楽しそう。
私もそんなにしょげている訳ではなくて、お嬢さまから手を握られているのを素直に喜んでいます。
お嬢さまの手は小さくて、本当に可愛いのですが、その手が一生懸命に私を離すまいと掴んで来るのが、より一層愛情を深めます。
「あのさ、ちょっとは抱きついたりしてもいいから。アンタ実は結構いい匂いするってわかったし。でもまふちゃんとか出雲ちゃんと仲良くして、色々するのも許して欲しいの」
心なしか後ろめたい気持ちを表出している様なお嬢さま。そんなの私は気にしないのに。
「前の私の話を気にしてらっしゃるんですか? 私はお嬢さまの傍で一緒にいられて、お嬢さまに嫌われないなら、それでいいんですよ。お嬢さまが好きなように生きて下さい。そこにメイドらしくついて行きますから」
「それは出雲ちゃんにとってのカリスマさんみたいに?」
何とも変な方向から変化球が飛んで来るものですね。お嬢さまの中でどう言う心境から、そんなモヤモヤが渦巻いているのでしょう。
「うーん、あの方も相当出雲様がお好きですよね。血液も提供しているようですし。でも私はメイドですが、一人の人間としても女性としてもお嬢さまが好きですよ。おかしいですかね。そんなに積み重ねもない二人なのに」
「ううん。私もどんどん時雨の事気になって来てるから、変じゃないよ。わたしの事綺麗だとか言ってくれて、凄く嬉しいし。そんなのまふちゃんくらいからしか、冗談半分で言われた事しかなかったから。あ、お姉ちゃんは特別枠だよ。お姉ちゃんは家族の贔屓目があるからね」
そうは言うものの、本当にお嬢さまはお美しくていらっしゃるのですから、偽りを言ってる訳でもないんですが。
それを察して、お嬢さまはうんと頷きます。
「うん。だからそう思ってくれるのが嬉しいの。わたしをそう見てくれるって事実がね。さ、洗いっこしよ」
お嬢さまが立ち上がると、色々な部分が露わになりますが、極力じっくりとは見ないようには心掛けているつもりです。そして私も椅子に座って、タオルを握ります。
泡立ててからまずお互い自分の腕とか足や前面を洗います。
お嬢さまは本当に全てを念入りに洗われますから、凄く綺麗好きなんでしょう。それはいい事ですし、清潔感のある女性は好感度が高いですよね。
「さ、じゃあ先やったげる。背中向けて」
ええ? 私が先ですか。ちょっと心の準備が。
でもそう言う間もなくお嬢さまは場所を陣取り、洗う前に私の背中に手を当てます。
「わっ。お嬢さま?」
「うーん、肌がやっぱり白いなぁ。日に当たらないのって、結構不便な事もあるだろうけど、こう言う利点もあるんだね」
「お、お嬢さまだってインドア派なんですから、充分白いですよ。それに私は遠いご先祖様が大陸の魔族だったので、その辺も考慮して貰わないと困りますよ」
「へぇー、そうなんだ。それなら尚更いいなぁ」
そう言いお嬢さまはつーっと私の肌に指を這わせます。
ああっ! そんな風にされたらいけません。理性がどうにかなってしまいそう。それを何とか押しとどめて、くるりと振り向きます。
「さ、次はお嬢さまですよ。変な事してないで、早く洗いましょう」
素直に頷いて背中を向けるお嬢さま。うーむ、何と綺麗な肌だろう。まだ肌荒れなど知らないとでも言わんばかりのきめ細かい肌。
子供らしい肉付きなのに、普段は華奢に見えるせいか、裸になっている今は余計にその肉感的な体がエロティックにも見えて来てしまいます。
だからはぁと聞こえないくらいの溜め息を吐きながら、お嬢さまの肌をゴシゴシと擦っていきます。
「どうしたの? そんな溜め息なんか吐いちゃって」
あら。聞かれてました? そうなったら白状しない訳にもいきません。
「いえ、お嬢さまの体がとても魅力的で、その溜め息なんです。こんなにも私の心に直撃するお嬢さまの肢体が、とてつもなく素晴らしくて感動しているんです」
途端に黙ってしまわれるお嬢さま。しばらくして、お嬢さま?と聞いてみると、洗い終わった途端にクルッとしてから、真っ赤な顔で落ち着きなくこちらを向きます。
「だからそんな直球で言わないでよ。まだそんなに慣れてないんだから。それになんかやっぱりエッチな目で見てるんじゃないの。別に何もしないならいいけどさ、身を任せても大丈夫なんでしょうね・・・・・・」
ええー、そう取られてしまいますか。中々、少女の心は難しいですね。
「いやー、だからあまり欲望を発露しないように気をつけてたんですけどね。それでもお嬢さま、割と受け入れてくれるんですね。前だったら気持ち悪がられてたと思うんですけど」
「ま、まあね。嫌じゃないようになったって事。アンタももうちょっと変態的なのを出さないで、それで素直に感情を表現出来るようにしないさいよ。わたしも何も言って貰えないと不安になるから」
何とも健気なお嬢さまです。でもちょっと面倒くさい本性の様なものも見えます。
しかしそこがいいですし、お優しい性格もバッチリ出ています。本当に名前通り、冬の寒い時に訪れる温かい日光の様なお方だ。
「はい! 小春お嬢さま、頭洗ってあげますよ。さあ、また後ろ向いて下さい」
「あ。うん! お願いね」
名前を呼ばれて嬉しそうで何よりです。ここぞと言う時に名前を上につけて正解でした。
そうして、私はお嬢さまの頭皮をゴシゴシとシャンプーを泡立てて刺激していきます。これはリンスインシャンプーなので一度でいいようですが、どうも手っ取り早く出来るのが好きな焚火様のご趣味だとか。
ジャーッと流すと、お嬢さまが気持ち良さそうに少しぶるぶるっとされます。
私も急いで髪を洗ってしまい、そうしてからまた湯船に浸かって、私達は脱衣所に出て行きます。
まずお嬢さまの頭を拭いてあげると、何だか嬉しそうなキャーッと言う悲鳴が。
これだけ心を許してくれているのは、本当に心から喜ぶべき事です。
何でもお嬢さまは人見知りでもあったみたいですから、頑なだった最初から比べて、本当にほぐれて来たと言えるのではないでしょうか。
私も体を拭いて着替えます。お嬢さまもドライヤーで乾かしてあげましょう。キチンとケアをしなくてはいけませんからね。
先にお嬢さまの髪を乾かしてから、私も乾かします。
お風呂上がりのお嬢さまもまた何とも乙なものですが、私の眼差しに傍らの木の葉様も同意の目線を送って来られます。
それにしてもお嬢さまのパジャマ姿は可愛すぎじゃないでしょうか。青い水玉模様の薄い色合いで素敵です。
そうだ、と思って少しお願いしてみる事にしてみます。
「お嬢さま、お願いがあるのですが」
ん?と無防備に私を見つめて来るお嬢さま。このあどけない感じがまたいい。
眼鏡を掛けていてもまだ幼い感じが、お風呂上がりには見られるのが堪らない。
「その、パジャマ姿の写真を撮らせて頂けないでしょうか。嫌ならいいのですけど・・・・・・」
「それ、私も撮りたい!」
木の葉様が乗っかって来ます。木の葉様の方がノリノリで、姉妹だから許される軽さは、凄く羨ましいです。私もあんな風に打ち解けたいな。
お嬢さまはんーと思案して、じゃあさと提案して来ます。
「それなら、時雨のそれも写させてよ。黒地に見えにくい様な字で、Anarchyとか格好いいしさ」
思わず撃ち込まれてしまいました。弾丸は上手く胸に命中してしまったみたいです。
いいですともと請け合い、それじゃあとスマホとカメラも用意します。
「うわ。念入りだなぁ。ってお姉ちゃんも? いいけど、アンタらその写真何に使うつもりなの」
「そ、そんな使うだなんて! 眺めてうっとりするだけよ。可愛い妹だもの。変な事言わないでよ小春」
木の葉様が言い訳しています。あれは他にも写真に向かって何かしていらっしゃいますね。私は素直に白状して置いた方が良さそうです。
「その・・・・・・私、実は写真にキスしたりしてしまう事もあるんですけど・・・・・・。駄目でしょうか?」
ボッと赤くなるのがわかる様な、お嬢さまの表情の変化。こう言う所はわかりやすいです。
「時雨も?! そ、そっか・・・・・・。そんな事するんだ・・・・・・。わ、わたしもさ。そうしちゃった事あるから、罪には問えないわね。だって出来心起こっちゃうわよね」
「そう、そうなのよ! 小春もそれがわかる年頃になったのね。お姉ちゃんも小春の写真、何枚も焼き増ししないといけないくらい、キスしたり頬ずりしたりしちゃうもの!」
ああ、ゲロってしまわれました。
半ば誘導尋問にもならないくらい、自分から自爆していかれましたが。こうなると、私の方がお嬢さまからの視線は痛くない。
「お姉ちゃん・・・・・・。いつも言ってるけど、もっとわたし自身にくっついて来てよ。お姉ちゃんなら大歓迎だって言ってるじゃない。もっとお姉ちゃんと仲良くしたいんだから。年が離れてるから、お姉ちゃんはわたしと遊んでも楽しくないかもしれないけどさ」
おや? 何だか予想外の反応をお嬢さまは見せます。
そうでしたね。お嬢さまはシスコン気味だから、木の葉様ならオールオッケーなのでしたね。
それはそれで姉妹百合として楽しめますが、これは口に出さないでいる方が賢明ですね。
「そんな事ないわ。小春といるだけで満たされるもの。・・・・・・じゃあギュッてしてもいいのね? 小春にキスしてもいいのね? い、一緒にお風呂、私も入ってもいいのかしら」
「うん、いいってば。時雨とだけだと恥ずかしいから、そんなに広くはないけど、お姉ちゃんも入ってよ」
うるうるしている木の葉様。本当に木の葉様にも小春お嬢さまと幸せな一時を過ごして欲しいものです。
その為には私ももっとサポートしなくては。そして私もそのおこぼれに与れれば嬉しいのですけど。
「小春ぅ~! ああ、もう。冷静なお姉ちゃんではいられないわ! んー。こんなにしても怒らない?」
抱きついてキスの雨を降らせる木の葉様。心なしか普段の姿を解き放っている気がします。それにお嬢さまも嬉しそうで何より。
「わ。お姉ちゃん、くすぐったいよ。そんなに焦らなくても、いつでもスキンシップしていいからぁ」
で、その。写真撮影はどこに行ったのでしょうか。
そう私が呟くと、ハッとしたように二人が我に返って、そうだったとそのまま撮影会に移行します。ちょっと木の葉様は恥じらっておられます。
幾つかポーズを取って貰ったり、私も指示通りに色々してみたり。
それから木の葉様のパジャマ姿もついでに収めておこうと、小春お嬢さまの提案で、私のカメラとスマホのフォルダにも入る事になりました。
後で、色々加工したり編集して、また部屋に飾ろうと思います。姉妹揃ってとか、私と一緒にしてなんかもいいかもしれません。
と言えば、ツーショットもあれこれ撮る事にもなりましたから、歓喜の瞬間とはあるのですね。
この後、お嬢さまと木の葉様と楽しくお話ししてから、寝る事になりました。
二人はやはり本の話なんかで盛り上がるようで、それを傍らで聞いているだけでもほくほくするのですが、私ももっと会話に参加出来るように、幾つか予習している必要があるかもしれません。
寝る前にお嬢さまが部屋に帰ろうとして、私を振り返ってとことこと寄って来たのが印象的です。そしてそこからがまた電撃的でした。
「じゃあ、おやすみ、時雨。明日もよろしくね」
そこからすかさず頬にチュッとされてしまいました。あらら。こんなに私の望み通りの行動をお嬢さまにさせてしまっていいのでしょうか。
しばらくその場で悶々として、しかも傍目からは呆然としている様な感じだったと思います。
木の葉様が、あんなに無邪気にされたら、こっちが狼狽えちゃいますよねー、などと同意してくれて、ああ同志がいると言うのはいいなと思うのでした。
木の葉様とはある意味で、小春お嬢さまファンクラブみたいな会が立ち上がってる様なものですしね。




