第11話ハンターと大事なもの
この前まで時雨に困らされたり、ドキマギさせられたりと、今も継続中で大変だけども、今度はまふちゃんの行動でわたしは大いに戸惑っている。
一体どう言うつもりだろうか。
いや、出雲ちゃんになら、好き好きオーラも出てるしわかるんだけど、まふちゃんはいつもわたしの事を見守ってくれてる優しくて綺麗な子って認識だったから、ちょっとそんな風に振る舞うとは予想外だった。
キスしてくれた・・・・・・って事だよね。
それはそう言う感情を持ってくれてると思っていいんだろうか。それは素直に嬉しい。わたしも思えば、まふちゃんの事は尋常じゃないくらい好きだからだ。
それにそう言う感情も込められていたんじゃないかと、今考えてみて確信とまではいかないけど思う。
だけど何だかそれで舞い上がるだけならいいんだけど、浮かんで来るのが時雨の顔なのだ。あいつにどう思われてるか。
もしかしてもうわたしには興味を失っただろうか。それともただロリ同士の百合だって言って、一人で楽しんでいるのかな。
そうだとすると、わたしだけ一人で悶々として馬鹿みたいじゃない。そうよ、わたしはどう思ってるか、時雨にも悩んで欲しいわ。そう言う悶絶もあってもいいでしょう。
そんな訳だから、学校ではドン・キホーテを新たに書いたとか何との短編を読んでいた気がするけど、全然読んでいた記憶がなかった。
出雲ちゃんも傍にいたかすら、全く記憶にない。いや、それどころか給食の牛乳の味も覚えていないぞ。どうなってるんだ、わたし。
帰って来て、一人で居間にいるものの、膝を抱えてうんうんと唸っているようで、どうも混乱しているからか、ボーッとしていたように思う。
お姉ちゃんが心配そうにしてこちらを伺っていたけど、お姉ちゃんは珍しく居間で本を読んでいて、それもあっはとかぷふいだの面白いフレーズが出て来る形而上学小説を読んでいたのに、そんなのではわたしと一緒で頭に入らないんじゃないか。
「どうしましたか、お嬢さま。ずっと今朝からボンヤリされて」
時雨も心配してくれるのか、些か顔が曇っている様な。これはわたしのフィルターがそう見せているだけ?
ちょっと前に会ったばかりの時雨が、わたしの事を本気で心配などしてくれるだろうか。そもそも、何でわたしは会って間もない時雨にこんなに気を揉んでいるんだ。
それこそ人見知りのわたしからしたらおかしいはず。それともそう思わせない、凄く接しやすい空気が時雨にはあると言う事?
わからない。だから、自分でも突拍子もない事を時雨に言ってしまった気がする。
「ねえ、ちょっと。ほっぺにキスしてみてくれる?」
「はい? お、お嬢さま。それ、本当にいいんですか?!」
向こうでお姉ちゃんも息を呑んでいる。家族がいる前ではマズかったかな。
「とにかくしてみてよ。気になる事があるから」
「は、はい・・・・・・・! 今すぐにさせて頂きます。お嬢さまの命とあれば、何なりと」
ぷるぷる震えてこっちに近寄って来るメイド。大丈夫だろうか。緊張しすぎではないかな。
あ。そうか。こいつそれほどまでに、わたしの事が好きだから、そうなるんだ。
だとすると、まふちゃんもそんな風に緊張していたのかな。それなのに、精一杯に平静を装っていたのかも。う、少しわたしも強ばって来たかも。
優しい気持ちがあるのはわかっていたけど、時雨は大分遠慮がちにそっと、軽くわたしの頬にその唇を触れさせる。
ああ、柔らかい感触。そして、不思議と嫌じゃない。
ううん、何だか嬉しい気持ち。それもまふちゃんのに感じたのとは、微妙に違うものを感じる。
そこでわたしは自分ならどうだろうかと、こう言う行動に出る事にした。
「じゃあ、ちょっとそのままでじっとしててね」
「え? お嬢さま、一体?」
まだ少し緊張気味の時雨。こっちにまでそれが伝わってしまいそうだ。
大体、アンタはいつもそう言うのとは無縁にくっついて来たり、血を吸ったりしていたのに、どう言う風の吹き回しよ。
と、とにかく。やってみないと。
「ちゅ。これでどうかしら?」
「な、な、な・・・・・・! お嬢さま!! ついにお嬢さまが! ああ!!」
クラクラとその場に座る時雨。デレの瞬間だわとお姉ちゃんがいい、デレとは何じゃとマルちゃんが聞いている。君ら、そんな深い意味はこれにはないと言うのに。
「いや、ううん。どうなんだろう。こうしてもでも嫌じゃないな。こんな感じで、ちゃんと距離を測りながらだったら問題ないのかな。いつも強引だからこっちも身構える訳で。ううん、でも何か違う気がするなぁ」
うーんとうんうん唸っていると、何か庭の方から呻き声が聞こえて来る。何だと構えてそっちを見ると、ああやっぱり。
出雲ちゃんが涙を流して、その光景を恨めしげに眺めていた。とりあえず窓を開けてあげよう。がらり。
「うわーん! お姉さま、やはりそのメイドにゾッコンラブなのですわね。わたくしには目はないのですの? 愛は芽生えていなかったんですの? わたくしは妹分として、こんなにも小春お姉さまの事をお慕いしていると言うのに」
いやー、君のやり方で落ちると思ってた方が不思議だよ。でもどうも、こうも真剣に自分の事を思って泣かれるとやりづらいし、可哀想になってくるなぁ。
って言うか、この子の場合はわたしに一目惚れしたって事だよね。どこがそんなに良かったのか。
ってああ、血か。それと今までにない反応が返って来たって事実。
「それにしてもいつの間に庭の方に回ってたんだか。って覗いたら駄目でしょ。勝手について来てるのもめっ」
「ああ、それでこそ小春お姉さまですわ。もっとわたくしを叱って下さいまし」
本当に違う意味でも大丈夫かな? 何だか変な扉開いてしまっている気がするのだけど。
いやまぁ、わたしも周りを放置しすぎたのは、今日の反省点だな。いや、本来はこれだけですぐに回復してしまう出雲ちゃんがおかしいと思うけど。
それでふと我に返ると、外は大分暗くなって来ていた。こんな時間にわたしの家にいちゃあマズいんじゃないか、出雲ちゃんは即行でカリスマさんに迎えに来て貰うべきでは。
「そうですわね。わたくしは大丈夫です。カリスマには用を言いつけていますし、しばらく連絡は取れませんし、帰る旨だけメールを入れておきますわ」
「それなら、私が家まで送らせて頂きましょう。少し頭を冷やさないといけませんしね」
立ち直ったのか、時雨復活。精一杯、普段の落ち着いた姿を保とうとしているのが、どこか可笑しくて可愛いと思ってしまう。
「じゃあ、待ってるよ。夕飯はその後でいいから、送ってあげて。って家はどこかわかるの?」
「お任せ下さい。お嬢さまのご学友の情報は、逐一更新しながらちゃんと把握しております。不可能な事以外、このメイドに不可能はございません」
「何ですの。寒気がするくらい、何だか恐ろしい気がしますわ」
若干引いてる出雲ちゃん。そして、面白い言い回しする時雨。中々いい言い回しするじゃない。
「それでは行きましょう、出雲様」
「はいはい。しょうがないですわね、貴方に送らせてあげますわ」
そうして玄関から出て行った二人を見送って、わたしは暫しボケッとしていた。
「良かったわね、仲良し度が上がって」
うわぁ、と驚いたら、隣にお姉ちゃんが立っていた。心臓に悪いなぁ、もう。
「そんなんじゃ、ないと思う。別にこれまでと変わらないし、わたしはそんなに好かれる人間だとも思ってないから、皆反応見て楽しんでるだけだよ」
ちょっと卑屈になるわたし。どうもコンプレックスが邪魔して、素直になれなくて、その困る。
「ふふ。いつも自信がないのね、小春は。でもお姉ちゃんはずっと見て来たから、どんどん小春は成長してると思うわよ。それは真冬ちゃんもわかってるんじゃないかしら。ええ、だから少し寂しくて、関係は変わっていかざるを得ないのね」
わたしはずっと自分が凄い人に囲まれてるせいで、自分に対して自信を持てなかった。
でもお姉ちゃんはいつだって、わたしはわたしのままで、わたしのペースでゆっくり何でもやっていいよって言ってくれた。
それがやっと、あんな風な強引なメイドでも、ガードがかかるはずの他人に心を開きかけてる。
だったら、それは喜ばしい事として、自分の成長として、わたし自信を認めてあげてもいいんじゃないのかな。
いや、でもわたしは一人では何も出来なくて、今もまふちゃんに頼ってしまいそうになるのを必死に堪えてる、と自己否定に入ろうとする。
そうやってウジウジするわたしを、お姉ちゃんは黙って、頭を撫でながら抱き締めてくれる。
ああ、このわたしを無条件で受け止めてくれて、それで全然否定や批難をしないからお姉ちゃんは、わたしにとってヒーローなんだ。
妹だからって言うのはあるだろうけど、だからこそお姉ちゃんの妹になれたのは嬉しい。
そうやって、お姉ちゃんの事が好きになっているみたいに、時雨の事も受け入れていくのかな。
そう思うと、ちょっと不安な気持ちにもなる。わたしが他人と心を通わせられるのか。
まふちゃん達みたいに、小さい時に友達になった子とは違うんだよ。だからこそ、出雲ちゃんには今一つ壁を作っているんだし。
・・・・・・そうやってお姉ちゃんの隣に座って、時雨の事を考えていたら、早く帰って来ないかなと真剣に時雨に気持ちがいってしまっていた。
別に好きだから、一日千秋の思いで待ってる訳じゃないもん。そう、これは心配。心配なだけ。
そうだ。結構悶々としてたけど、やけに帰って来るの遅くないかしら。出かけてからもう一時間は経っている様な。
そう思案し始めた時に、チャイムがなったので、インターフォンを取ってみると、そこには出雲ちゃんのメイドさんである、カリスマさんが。
やけに血相変えているので急いで玄関に出ると、カリスマさんは剣幕がいつもの冷静さとは違う顔だ。
と言っても、表面上はいたって冷静な様子を保っているのだけど。
「お嬢さま方が、ヴァンパイアハンターに襲われました! マルちゃんさんの力は借りられませんか?」
その時悟った事は、やはり吸血鬼は狙われる存在なのだと言う事。
時雨はあの通り、スピリット能力は戦闘にそれほど役に立たないと思われるものだから、ゾッと青ざめてしまうくらい心配になった。
これだけ平和になっていても、まだ魔物怪物と忌み嫌われるのか。
「よし、行きましょう。マルちゃん、大丈夫だよね。マルちゃんみたいな宇宙生命の力なら、助けられるよね」
マルちゃんは腰に手を当てて、何だかのんびりしているが、不敵にも見える顔をしている気がした。
「ふむ。まるで回復なんぞしとらんが、その辺の地球人相手なら、どうとでもなるじゃろう。エ・フェスタを使えばすぐじゃ。あれを使うのは、本来この星では禁じられておるのじゃがな。儂も鬼じゃない。世話になっとる人間には、恩返しはせんと」
決まりだ。その目的の場所に案内して貰う為に、わたし達はカリスマさんについて行った。
勿論、お姉ちゃんも話を聞いていたので、能力を持っていると言う事で、ついて来た。
「なるほど。カトレア・フォールンリーヴスとやら。わたくし達が組織の殲滅対象だからと、害のない存在だと知りながら狙って来たのですわね」
「報酬も出るから、と付け加えておこう。君達に恨みはないが、虚実機関は進化した者を管理するか排除しないと、人間社会の秩序は保てないと認識しているらしいからな」
そうして、カトレアと名乗っていた女性が手をかざすと、私達の目の前に空間に何やら大きな手に握られた光線銃の様な物が現れて、いきなり発砲して来た。
「わっ。これは吸血鬼の反射神経がなければ、私の様なスピリット能力が足しにならない場合、即座にやられていますよ」
まぁ、吸血鬼だから狙われているのだろうけど。出雲様はご自慢のウォッチャー・オブ・ザ・スカイズを出して応戦する。
スススと動いて、あちこちから放射される光線銃。それを懸命に相殺していく出雲様。小春お嬢さまに聞いた話だと、あれは動く物を探知しているんだとか。
私も何かしなくてはと思い、そこをかいくぐりながら、影で姿を見えなくしてから、吸血鬼の身体能力を活かして、スッと爪を生やすと進んで行く。
もう少しで届くと思われた刹那、カトレアさんが何かに反応したようにこちらを向き、
「甘い。〈エレクトリック・フューネラル〉!」
そう恐らく能力名だろう呼び名を叫びながら、こちらに手をかざして、先程見えた様な大きな掌が圧力で私を吹き飛ばす。
「うっ。これでは近づくのが困難になりますね。出雲様、その能力で攻撃する事は出来ないのですか」
「うるさいですわね。防御するので精一杯ですわよ! あちらは複数出せるのか知りませんが、わたくしのウォッチャー・オブ・ザ・スカイズはウサギさんのお面一つっきりなのですわ。貴方こそ、何かその影の能力で、相手を動けなくするとか、何かないんですの?」
うーん、そう言われましても。
「いやー、そんな漫画じゃないんですし、影ってそんな物理的な作用は及ぼせませんよ。相手を覆っても何も意味ないですし」
「何て使えないメイドです事。これならカリスマの方が、〈ホライズン〉で一時的にでも逃げられただけ、助けを呼びに行かせるのではなくて、一緒に逃亡したら良かったですわ。貴方など放っておいてね」
そう言う合間にも、相手のエレクトリック・フューネラルによる銃撃は止まない。
いや、銃撃と言っても、レーザーの攻撃みたいで、恐らくこれは我々魔に対抗する為だけの力なんだろうけど。
「私の生活費の為に、くたばって貰おうか。吸血鬼狩りなど、阿漕なものだとは思うがな」
放射に応戦仕切れなくなって、私達はそれの直撃を食らってしまう。
「うっ。やはり服は無事なのに、私達だけにダメージがあるようですね。出雲様、ご無事ですか?」
「ううう。痛いですわー! こんなへんちくりんなハンターに、わたくしの様な高貴な吸血鬼がやられてしまうなんて。それもこれも、貴方みたいな訳あり物件が傍にいるからですわ」
濡れ衣ですよ、それ。私自身に何も思い当たる事などないし、こんな人や組織に知り合いもいない。
それを言うなら、あなたの様なハイデイライトウォーカーさんの方が、狙われる理由としては妥当な線として考えられるのでは。
そう思ったが、口には出さないでおく。
「やはり私の才能では、要さんみたいに一発退治とはいかないか。しかし、弱った吸血鬼なぞ、恐れはしない。これでようやく初仕事完了だ」
何やらもう殺した気になっていらっしゃる。でもかなりピンチです。
まさか、カリスマさんがすぐに応援を連れて戻って来る訳もないし、万事休すです、か。
ああ、お嬢さまに最後に一目会いたかった・・・・・・。
「ああ、やられそうになってる。二人とも、倒れてるじゃない」
あろう事か公園で戦ってたよ、この人達。子供がいない時間で良かった。
いや、そう言う問題でもないか。それですぐにマルちゃんがそっちに向かうが、何やら驚愕の眼差しを時雨がこちらに向けている。
「お、お嬢さま。どうしてこんなに早く」
「うーん、説明してる暇はないけど、即の説明するなら、カリスマさんが制限つきだけど、瞬間移動が出来るホライズンって能力を持ってたから、すぐにわたし達に知らせてくれたの。それで走って皆で来たんだから。本当に、大丈夫なの。ううっ」
何だかさっきからの緊張が解けてしまったのか、わたしは涙を流していた。まだ余談を許さない状況なのに。
「勝手に死んだら許さないわよ。アンタはわたしのメイドなんだから、いつだってわたしの傍にいる義務があるんだから」
鼻を啜るわたしに狼狽える時雨。
「す、すみません、お嬢さま。ガチ泣きされたら困っちゃいます。しかし、こればっかりは私の様な者を傍に置いている宿命だと思って頂かなくては」
「知らないっ。ぐすっ。マルちゃん、何とか出来るんだよねぇ・・・・・・」
スススと近づいていっているマルちゃんが、こちらに掌で作る丸マークでいける事を示す。
「ああ、儂の能力を使うまでもないかもしれんが、念には念を。そして、圧倒的な力を見せて引き下がらせる意味も含ませなくてはな。殺さんようにした方がいいんじゃろう」
わたしはそうだと言う意味で、大きく輪っかを作る。
「じゃあやるかの。エ・フェスタ!」
ピンと何か空気が張り詰めたかと思うと、即座に何か見えない物に縛られて、スーツの女の人が転がってしまう。
「な?! 何が起こったのだ」
はははと乾いた笑いで、傍に歩いて行くマルちゃん。え? あれ何したの?
「何。事象を弄れば造作もないんじゃよ。貴殿を縛っておるのは、物理的作用でもあるが、それは現象界の有り様を操作する儂の能力だからじゃ。これに対抗出来るのは、自分のフィールドで自由で支配的な力を振る舞える奴だけじゃな」
「うう・・・・・・全く動けない・・・・・・。君も魔物か。こんな小さな子が」
「いやいや、儂はこんなナリじゃが、年なぞ人間に測れんくらいのもんじゃわい。どうじゃろう、このままお主を消滅させる事も出来るが、そうせん為にはお主に撤退して貰わねばならんが」
「うっ。どうして、こんな初任務でここまでの敵と。私はどっちみち生活費がないと生きていけないと言うのに」
そう言う女の人に、ぐぐぐと力を振り絞って、出雲ちゃんが力強く言う。
「それなら、わたくしの家で養って差し上げますから。無駄な攻撃などお止め下さいまし。貴方は魔物に恨みなどないのでしょう。そんな組織など、言う事を聞かなければいいではないですか」
「それなら、嘘の報告をしてしまうと言う手もあると思われますが」
カリスマさんがまた悪い事を言う。それで何とかなる組織なんだろうか。
「うう、しかし」
「死にたくはないでしょう。我々に投降して頂けませんかね」
あ。何気にカリスマさん悪い顔してる。こう言うのノリノリになる人なんだ。どっちが悪役かわからないな、こりゃ。
「ピンチは脱したのですか・・・・・・。お嬢さま、助かりました」
ああ、良かった。時雨に何もなくて。
いや、ボロボロなんだけども。でも死んでない。
ホッとしたのか、まだ相手がどうこう言ってないのに、その場にへたへたと崩れてしまう。
涙もまだポロポロとこぼれ落ちる。そのわたしをお姉ちゃんがそっと抱き留める。
「・・・・・・わかりました。私の負けです。こんなあっさりと、物語の一ページにもならない様なやられ方で情けない限りですが、これからはあなた方には手を出さないと誓いましょう」
「ほう。まぁ念の為、戦えるパワーの分だけ、精神エネルギーを奪っておくかの。儂も回復するし一石二鳥じゃ」
ああ悪い人がまた一人。そんな私利私欲で他人の精神エネルギーを奪っていいって思ってるのか。でもそんな事が出来るのは素直に凄い。
「あああ。っ。・・・・・・これで当分、わたしは戦闘出来ない体と言う訳ですか。解放してくれるのなら、まぁいいでしょう。さあ、去るといい」
わたし達はそうしようとしていたけど、出雲ちゃんはまだ言いたい事があるようだ。
「何言ってるんですの。貴方はこれからわたくしの家の子ですわよ。さっさとわたくしと帰りますわよ。カリスマ、二人を運びなさい」
「了解」
ポカンとするわたし。しかしそれで彼女らに異存はないみたいで、ススっと近くに固まって、じゃあと言ってポーズを取る。
「お手数掛けてすみませんわ、小春お姉さま。このお礼とお詫びは後日」
そう言って、本当にそんな能力だったんだと、ドロンと三人は消えてしまう。
何はともあれ、一件落着。終わってみれば、一体何だったのかってほど、呆気ない。
時雨はまだ尻餅ついてるし、手を貸してあげた方がいいだろうと、わたしとお姉ちゃんで支えてあげると、ようやく立ち上がる。
そう言えば、わたしってば、時雨に本気の涙を見られちゃったじゃない。あいつの為に泣いたんだと思われたかな。
ちょっとショックだったけど、あいつの事そんなにわたしは心配してたんだ。うん。それは認めよう。
でもだからって、そこまで思い入れはまだないんだから。
うん、はず。




