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某所では高級食材らしいです

今回は人によってはゲテモノを食べる描写があります、苦手な方はご注意下さい

デストさんのノロケを聞いて2時間後……あたし達はイノシシを処理する為に森に入ります。


メンバーはあたし、デストさん、ビートさん、リベンさん、翡翠さんとピーニャ、何故か付いて来たイブ、アーチさんの知り合いだという剣士の女性、魔導師(マジシャン)の男の子、アプさんと同じタンクらしいマッチョ男の9人と1匹です。


正直人手不足感が否めませんが奴隷商の規模が不明ですし、拐われた人達の保護を考えれば仕方ないでしょう。


因みに此方の指示はデストさんに丸投げさせて頂きました。


「よし、あの川を拠点にしてイノシシを誘き寄せよう」


「水があれば赤の被害は最小限に抑えられますし、肉や内臓の血抜きも楽に出来ますからね……そうしましょう」


ネットで猟師はイノシシを仕留めたら皮を剥いでお腹を割いてから川に沈めて血抜きするという記事を読んだ覚えがあります。


まさかそれを実践する時が来るとは思っていませんでしたが……


「あんた達の料理の腕はアーチから聞いてるし、疑う訳じゃないんだが……本当にイノシシなんて食えるのか?」


「アタシは味に拘りなんてないが、流石に不味すぎるのは嫌だよ?」


「僕は別に……口に出来れば何でもいいです」


うん、三者三様のご意見ありがとうございます。


それにしてもこの男の子……見た所イブやナクアちゃんと同じぐらいの歳でしょうに、どんな生き方をすればこんな仕事中の社畜じみた発言が出来るんですか?


まあ食べさせるからには美味しくするつもりではいますけど。


「大丈夫です、キュア様の料理を食べればあんな事、2度と言えなくなります!」


イブの信頼が重過ぎるんですがそれは……というか敬語は止めて下さいよ本当に。




さて、休憩所代わりにテントを張ったし作業開始といきますか。


「イノシシはなるべく深い所で、首を跳ねてから腹を割いて仕留めろ!無理そうなら腹の中身だけでも沈めてくれればいい!」


「よし、誘き寄せるぜ……【挑発】!」


ゲームではタンク役が必ず使っているのを見る挑発……盾でドラミングしているみたいですがあんな感じだったんですね。


そういえばアプさんが今まで挑発を使う所を見た事ありませんが……


「姐さんが挑発を使うとドMまで誘き出しちまうからな……お嬢の教育に悪いからって普段は封印してるらしいぞ」


納得しました。


「おりゃあっ!」


「……【氷刃(アイスブレード)】」


女剣士の太刀筋も見事ですがあの男の子の氷魔法も中々の威力ですね。


もしかしてあの氷の刃で魚を捌ければ鮮度を損なう事なくお刺身に出来るのでは?


「よし、俺等もやるか……嬢ちゃんは解体しながらあいつらも手伝ってやってくれ」


「解体自体はデストさんの方が慣れていますからね……イブは皆さんに支援魔法、状況次第で回復もして下さい……それと焚き火を絶やさない様に注意していて下さいよ」


「は、はい」


おっと、その前に……


「【障壁(バリア)】、【結界(シールド)】、【擬態(ミラージュ)】」


障壁(バリア)は物理攻撃をある程度防いでくれる魔法、結界(シールド)は魔法攻撃を防いで、擬態(ミラージュ)は一定時間敵意を持つ相手から姿を隠してくれる魔法です。


イノシシに気をとられている間はイブが無防備になってしまいますからね……その間に拐われでもしたら危険ですし。


「その魔法陣の内側に居れば安全ですから、なるべく動かない様に」


「わ、解りました……」


これで良し……ではイノシシ狩りといきましょう。


「何だかんだ言いながら面倒見がいいな……今回のはちょいと過保護な気もするが」


自覚はしていますよ……うん。




「はいキュアちゃん、そっちに行ったわよ」


リベンさんなら自分で仕留められるんじゃ……って7匹に囲まれていましたか。


なら仕方ないですね。


「魔拳:雷(中)!」


よし、後は腹を割いて内臓と赤を取り出して……と。


流石に手持ちの包丁ではイノシシの首は落とせませんからね……


「ピーニャ、【風刃】」


「グルッヒャー!」


以前にもイノシシの首を落としてくれたあの魔法……ピーニャの技能だったんですね。


翡翠さんの指示なしで使ってくれたピーニャに感謝して次にクックーを料理する時はリクエストを聞いてあげましょう。


それにしてもさっきからビートさんが静かだと思ったら……突進してきたイノシシの首を掴んで捻り切って、手刀で腹を割いていました。


何ですかこの人間凶器……リベンさん以外の皆さん、ピーニャまでもがドン引きしていますし。


そりゃこんな人(?)に鍛えられればアプさんも強くなりますよね……あたしも鍛えて貰った方がいいでしょうか?


「止めとけ……それで強くなってもロウが泣くだけだぞ」


……容易に想像出来ましたので止めておきます。




「……これで何体目でしたっけ?」


「さぁな……200体目から数えるのが馬鹿らしくなって止めちまったよ」


時刻は大体オヤツの時間辺り……お昼も食べずにずっとイノシシを狩っては解体していましたよ。


どんだけ埋め込んだんですか奴隷商共は!


「流石に疲れたな……イノシシは粗方片付いたし一旦飯にするか」


「賛成です……いい加減お腹が空きました」


飯と聞いたからか他の皆さんもテントに集まりましたし、手早く作りましょう。


あ、皆さん焚き火に群がったら料理が出来ないから少し離れて下さいよ。


「全員ずっと水に浸かってたし……嬢ちゃんは豚汁ならぬ猪汁を頼むわ、豆腐と野菜、それと醤油に味噌にジンジャーは俺の荷物に入ってるぜ」


「解りました」


お肉や出汁を取る骨は腐る程ありますからね……たっぷり使わせて頂きます。


それにジンジャーがあるなら身体を温めるのには効果的ですし。


「それと俺は……嬢ちゃんでも食った事がないだろう特別料理を食わせてやる」


元肉屋の息子が作る特別料理……非常に気になりますね。


デストさんの料理の腕は実証済ですし、期待しておきましょう。


「イブは……おにぎりは出来るか?」


「あ、それぐらいなら……出来ます」


ンガイに向かう道中にあたしとコカちゃんが教えましたからね……焼きおにぎりも作れる様になっていますよ。


「イブちゃんだけじゃ大変だろうし、ワタシも手伝うわよ」


リベンさんは料理出来たんですね……アプさんがアレだったからてっきり出来ないとばかり思っていました。


絶対に口には出しませんけど。


さて、おにぎりも出すならすいとんを入れる必要はないですしパパッと作りますか。


今回は時間がないから下処理をしたイノシシの骨を砕いて、布で包んでから出汁を取って……と。


こうすれば短時間で美味しい出汁が出ます。


小まめに灰汁を取りながらイノシシの肉を半分入れて、野菜を切って入れたら骨を包んだ布を取り出して残りの肉を炒めて、野菜が煮えた所で味付けしてから加えて……と。


仕上げに豆腐を千切りながら入れて、少し煮込めば出来上がりです。


「なあ……あのお嬢ちゃん、イノシシの骨を素手で砕いて、というか握り潰してなかったか?」


「やっぱそう見えた……よねぇ」


「……怖い」


そこ、失礼な事は言わないでくれませんかね?


金槌はデストさんが使っていたから、ついでで鋼の特訓をしただけですよ。


「そういやお嬢ちゃんはデュロックとかいうオークから技能を習ったとか聞いたな……あの魔拳ってのがそうなのか?」


「はい、それで光、雷、鋼があたしに使える属性みたいです」


「鋼とはまた珍しい属性を使える様になったな……普通はドワーフか、俺みたいな鍛治師(スミス)にしか習得出来ないらしいんだが」


この世界はエルフやオークが居ますし、そりゃドワーフだって居ますよね……今まで会った事ありませんが。


ってその口振りだとデストさんも鋼属性持ちなんでしょうか?


「一時的に武器を強化する【硬質】って技能があってな……そこら辺の木の棒すら鉄パイプみたいに硬く出来るぞ」


あたしの鋼に似た技能ですね……此方は自分の拳にしか効果がありませんけど。


おっと、そろそろおにぎりも出来上がりますね……とりあえず食べましょう。




「あぁ……冷えた身体にこの熱々のスープが沁みるなぁ」


「これは本当にイノシシの肉かい?こんなに柔らかくて美味いなんて」


「……美味しい」


やはり寒い時に食べる具沢山の豚汁は格別ですね……これ豚じゃなくて猪ですけど。


おにぎりは味噌を塗って焼いてある様で、何だか懐かしい味がします。


「それじゃこいつも食ってみないか?」


これがデストさんが作った特別料理……


「イノシシの脳ミソを塩茹でして、スライスしてからレモン果汁と醤油で作ったポン酢を掛けてある」


まさかのイノシシの脳ミソ!?


「肉はある程度熟成させた方が美味いが、内臓や脳ミソは新しい方がいいんだ……仕留めたその日の内なら格別だぞ」


成程……解体までする肉屋なら食べる機会は沢山あったでしょうからね。


あたしも一度は食べてみたいと思っていましたけど、ロウが難色を示していたから諦めていましたが……まさか今日食べられるとは思いませんでしたよ。


「他にも商品にならないが美味い部位に膀胱があるんだが……このメンバーにはオススメ出来ねぇな」


ああ、人によってはセクハラ扱いになりますからね……


それにイブやナクアちゃんに説明を求められたら羞恥プレイになりかねません。


まあそれはさておき、今は脳ミソを味わいましょう。


「むむ……白子みたいなネットリとした食感に濃厚な旨味、それがポン酢でサッパリと幾らでも食べられますね」


「ほう、こりゃ美味い……だがどういう訳か、食う程に酒が欲しくなるなぁ」


「気持ちは解るが今は我慢しなよ……アタシまで飲みたくなっちまう」


「これは美味しいわねぇ……キュアちゃんから醤油を貰っているし、家でも作ってみましょう」


「うむ……終わったらまたイノシシ狩りに行かんとな」


ビートさん、多少味が違うかもですが、これはビフーの脳ミソでも作れますからね?


「……僕はちょっと、苦手かも」


「私もちょっと……美味しいとは思うんですけど」


ふむ、イブとあの男の子は苦手ですか……となるとナクアちゃんとコカちゃんにも受けないかもですね。


というか貴方は先程、口に出来れば何でもいいとか言ってませんでしたかね?


「うーん……私もちょっと苦手な味かな」


「ウマイ、ウマイゾ!」


ピーニャはがっついてますが翡翠さんは苦手みたいですね。


「この様子からすると……嬢ちゃんは間違いなく姐さんに匹敵する酒豪になれるな」


それはどういう意味ですかねぇ?


そりゃお酒には興味がありますけど。




その後は少し休憩してから再びイノシシを夜中まで狩り続けて……


何度か往復しながら大量の肉と骨を村まで運び、徹夜でトンコツならぬイノシシスープ作りに精を出しましたよ。


まあデストさんや領主邸の料理人達も手伝ってくれましたけど。


ロウ達が帰って来たらこのスープでラーメンを作りますからね……たっぷり仕込まねば。

「あたし達、結局何頭のイノシシを狩ったんでしょうね……」


「疲れた……暫くは解体したくねぇ」

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