中ボス戦が発生しました
いよいよ明日が転職の日…
とは言っても特に準備する事がないのですけれど…強いて言えば緊張しているので解したい、ぐらいでしょうか?
「なあキュア、アトラさんとナクアを見なかったか?」
「そういえば…朝から見かけませんね」
「アトラなら昨夜城へ報告に行くと言ってたが…それにしては遅いな」
「…あれ?お城で…何を報告…するんだろう?」
言われてみれば…アトラさんとナクアちゃんはサーグァ様のメイドと聞きましたし、夕飯毎に王様と一緒にここに来ているからその時でも良い筈ですよね。
それに報告だけなら1人でもいい筈、なのにナクアちゃんまで居ないのも引っ掛かります。
「嫌な予感がするな…探しに行くか」
「兄貴、俺も行くよ」
「あたし達も行きましょう」
「う、うん…」
あ、留守番は…明け方まで飲んでて寝ているアプさんにお任せします。
1時間程探し回って、2人のメイドが郊外に向かっていたという話を聞いたので急いで追ったら…
確かにアトラさんとナクアちゃんは居ました…何故か宙に浮いていましたけど。
その下には…胸にメロンを摘めてるのかと言いたい程にデカい脂肪を蓄えた人が?
「…あら?もう来ちゃったのねぇ」
「貴方は何者ですか?アトラさんとナクアちゃんに何をしているのですか?」
「初めまして、貴方はトゥグアちゃんの使途のキュアちゃんね?」
あたしの名前を知っててトゥグア様をちゃん付けで呼ぶ…まさか!
「私がアルラよ、詳細はクティちゃんから聞いてるでしょ?」
「地と楽の女神…何でここに!」
「ふぅん…報告は聞いてたけど本当に解ってなかったのねぇ」
報告?
一体誰がしていたと?
「確かキュアちゃんの居た世界では私達の名前は邪神の名前に似てる、だったわよね?」
唐突に何を…確かにこの女神はとある混沌だったりスライムの名前は怠慢の邪神の眷属のもじりだったりしていますが。
というか貴方、あたしの居た世界に随分詳しいですね!
「そこで問題、この娘達の名前は?」
2人の名前って…
アトラさんとナクアちゃん…アトラとナクア…え?
「…この娘達に何をしているか、だったかしら?」
唐突に2人が光りだした!
「この娘達は、私の可愛い眷属であるクティちゃんを裏切ろうとしていた…だから最後ぐらいは役に立って貰う為、本来の姿に戻していたのよ」
本来の姿…もう嫌な予感しかしませんが。
光が収束して…出てきたのはアトラさんの上半身に大蜘蛛の下半身なモンスター!?
しかもアトラさんの胸がクティ並に膨らんでる!
「これがクティちゃんの最高傑作、2つの黒から生まれた2人で1匹のモンスター、【アトラ・ク・ナクア】よ」
アトラク・ナクア…深淵の谷間に巣を貼ると言われる大蜘蛛の邪神!
これ…本来ならラスボスになってもおかしくないんですけど?
というか名前はもう少し捻れなかったんですか?
「本当なら死人が出ない様に町中で暴れて貰いたかったんだけど…まあ、お目当ての1人が来たから良しとしましょう」
「…狙いはあたしとロウですか?」
「正確にはトゥグアちゃんの加護を受けた全員よ…ま、殺しはしないから安心してね」
殺しはしない、はまあその通りなんでしょうね。
仮にも女神ですし…
成程、クティが性格に難があると言ってましたが実感しましたよ。
「殺しはしないけど、そうねぇ…貴女の初めてはこの子に散らして貰おうかしら?」
絶対にゴメンです!?
元の姿ならまだしもその姿でそんな事されたらトラウマ所じゃないですよ!
コカちゃんだったらその場で自殺までありえますよ!
「ん?それだとロウはどうするつもりなんですか?」
「男にだって穴はあるでしょ?」
あたしとコカちゃんの純血とロウのお尻が大ピンチです!
絶対に負けられない…ですが2人と戦うのは嫌です。
何とか元に戻す方法は…
「考え事してる最中に申し訳ないけど…この子、そろそろ動くわよ?」
っ…やるしかないのですね。
「「キィィィ!」」
「【減速】!【低下】!そして【障壁】!」
減速は速度を、低下は筋力を下げる魔法…障壁は文字通り魔力の壁を作る魔法ですが…
8本の内1本の足の一撃で障壁は破壊されてしまいました。
続けて4本の足が次々と!
「っく…【耐久】!【加速】!【上昇】!」
とりあえず支援魔法を使えるだけ使ったにも関わらず戦う所か膠着状態に持ち込む事すら出来ない…
それに4本の足の攻撃は一撃が重過ぎるし、捌き切れない!
「「キィィィ!」」
しまった…蜘蛛の口から糸が!
「【炎壁】!」
炎の壁…コカちゃんの魔法!
「キュアちゃん…大丈夫?」
「ええ、助かりました…」
神話ではあの糸はどんな事をしても切れないとか言ってた気がしますが…どうやら火には弱い様ですね。
なら捕まる事だけはなさそうですが…
「よくもキュアちゃんを…炎」
いけない!通じるかどうかは解りませんが火に弱いのは確かです。
コカちゃんを正面から抱き締めて止めます!
「待って下さい!あのモンスターと戦ってはいけません!」
「キュアちゃん…ボク、虫は苦手だけど…キュアちゃんの為なら」
「違います!あのモンスターは…アトラさんとナクアちゃんなんです!」
「え…ええ!」
「詳しくはあたしも知りません…ですが2人はあたしの目の前であの姿に」
って説明してる余裕はありませんね!
コカちゃんをお姫様抱っこしながら距離を取ります。
…まさかロウにされる前にあたしがコカちゃんにする事になってしまうとは。
まあ緊急事態ですからね…仕方ありません。
とりあえず町から離れる事は出来ましたが…ロウにデストさんと合流するのが難しくなってしまいました。
あ、そう言えばジェネさんから習った魔法に【交信】というのがありましたね。
文字数制限とやらで30字が限界らしいですが…やらないよりはマシですね。
「コカちゃん、2人の周りを炎で囲めますか?」
「うん、【炎壁】!」
よし、これで時間は稼げますね。
「今の内に…【交信、ロウ、デスト】!」
【コウガイニテコウセンチュウ、アイテハアトラサントナクアチャン】
…これで通じるかどうかは解りませんが、最低限の状況は伝えられる筈です。
「「キィィィ!」」
「駄目…抜けられる!」
「っく…走りますよ!」
減速の効果が続いてるお陰か追い付かれる事はありませんが…このままじゃ魔力が切れて動けなくなってしまいます。
何とかしないといけませんが無力化するには強過ぎるし…元に戻す方法は浮かびすらしません。
「コカちゃん、2人を元に戻す方法、何か思い付きませんか?」
「そ、そう言われても…こんな状況…聞いた事もないよ」
まあ、そうですよね…むしろ前例があるんならお金を払ってでも問い質したいぐらいです。
「キュア、お嬢、こっちだ!」
デストさん!
「交信を聞いて急いで来たが…一体どういう状況だ?」
あ、交信の事は知っていましたか…そりゃジェネさんに習った魔法ですし、知っててもおかしくはないですね。
解る限りの事を早口で説明しましたが…
「アトラとナクアでアトラクナクア…洒落にしては笑えねぇぞ、って危ないなオイ!話してる時ぐらい待てよ!」
所がどっこい、これが現実なんですよ…
それで待ってくれるなら苦労はありませんから。
「まずはロウと合流しよう、無い知恵を搾るなら頭数があった方がいい」
言いたい事はありますが否定は出来ないので従っておきます…
それと夕飯にピーマンが入るのを覚悟して下さいね?
ロウとはすんなり合流出来ましたが…2人に追い回されている状況に変わりはなく、そろそろあたしの体力も限界が近いのですが。
因みにコカちゃんはとっくに限界を迎えてあたしが抱き抱えています。
「っ、止まれ!」
何かあったのでしょうか…って目の前に蜘蛛の巣が!
「やられた…アトラの奴、追いかけながら辺りに糸を撒いていやがった!」
逃げるのに必死で気付きませんでしたが…まんまと誘導されてしまいましたか。
「「キィィィ!」」
しまった!足を止めたせいで回避出来ない…
「デストさん!コカちゃんを!」
「キュアちゃん!」
「お、おい!」
投げ渡す事になってしまったのは申し訳ないのですが緊急事態です、生きて戻れたらキスするから許して下さい。
あ、殺すつもりはないと言ってましたから…正気でいられたら、に訂正します。
「くそっ!止めろぉっ!」
ピタッ、という擬音が聞こえそうな程に見事な静止…
一体どうして?
「キィ…」
もしかして…大蜘蛛になったナクアちゃんにロウの声が届いているのですか?
「キュア、急いで離れろ!」
「わ、解りました!」
とりあえず距離は置けましたが…
「ナクアちゃん…ロウくんの言う事…聞いたの?」
「もしかして…ロウは本当にナクアちゃんにフラグを?」
「待て、マジで身に覚えがないんだが」
まあ、フラグで止まってくれるんならデストさんの待てよって一言でも止まってくれた筈ですし…となると何が原因なのでしょうか?
「待てよ…ロウ、一か八かだが作戦がある、上手く行けば2人は元に戻れるかもしれん」
「マジか兄貴…俺は何をすればいい?」
「成功した時、キュアにぶん殴られる覚悟だ」
あたしがロウを?
一体ロウに何をさせようって言うのですか!
「……………行けるな?」
「ああ、それで全員助かるなら安い物だ」
「キュア、ロウに支援魔法を掛けろ」
「解りました、【加速】!」
「お嬢、一瞬でいいから足止めを」
「うん、【炎弾】!」
いつもの炎球ではなく、それより速度のある攻撃魔法ですか…
魔法は手前の地面に当たりましたが火に弱いのは確認済です、足は止まりましたね。
その隙にロウが2人の上に乗って…
「それはそうと、ロウに何をさせるつもりなんですか?」
「全部が終わったら説明してやる…今は成功する様に祈っとけ」
よく解りませんが祈って成功するならいくらでも祈りますよ。
「ナクア、すぐに戻してやるからな…少しだけ大人しくしててくれよ」
「キィ…」
「悪い、アトラさん…元に戻れたら好きにしてくれ!」
ロウが…ロウがアトラさんにキスしたぁ!?
「…【我、汝と契約を結ぶ者、我が名はロウ、汝、アトラとナクア、我が命に応えよ】!」
え、一体何て言ったんですか?
間違いなく日本語じゃなかったのですが…ロウは英語すら出来ないのに?
「「キィィ…」」
ロウの指輪から青い光が…って2人も青く輝いてる!
「最初の命令だ…元の2人に戻ってくれ!」
光が収まった…あ、2人が元に戻ってる!
それは嬉しいのですが…何故トウカと同じ青い宝石の付いた首輪をしているのですか?
「…成功、だな」
「ロウお兄ちゃん…ごめんなさい」
「ロウさん…申し訳ありません」
「いいよ、全員無事だったからな」
黒い水晶が2つ…ロウの手元に?
クティの話が本当ならあれは2人の心臓とも言える物では?
1番詳しいだろう地の女神は…いつの間にか居なくなっていますね。
「さて、帰るか…」
「ロウ」
「…はい」
「説明、してくれますよね?」
「帰ってからな…」
逃げたりしたらタダじゃおきませんからね?
「所でキュア…殴らないのか?」
「殴って欲しいんですか?という冗談はさておき、あたしにはコカちゃんという嫁が出来ましたからね…とやかくは言えませんよ」




