番外編 かつての3人
今回はミラ視点でお送りします
神子が神殿に勤める様に…
または魔術師が魔術ギルドに、学者が研究所に籍を置く様に、無頼者にもそういった組織の様な物があります。
そこは金次第で殺し以外なら何でもする…いわゆる何でも屋という奴ですね。
無頼者になったばかりの私はそこで雑用なんかをしていました。
そんな時にやって来たのがまだヒーラーだったジェネでした。
「転職資金を稼ぐ手伝いねぇ…確かにウチは何でも屋ではあるが、支払いの不明な依頼を受ける訳にはいかん」
今もそうですがヒーラーはお金を稼ぐには向かない職業です。
1人ではモンスターを倒せませんし、籍を置いた神殿によっては規律で行商をする事すら出来ない場合もあります。
ジェネが籍を置いた神殿は特に厳しい規律のせいで、在籍している神官の9割が初級職でした。
殆どの職業は成人前に済ませる転職ですが、ヒーラーの場合40を過ぎても転職出来ない事が珍しくありません。
死ぬまで初級職のまま、という人も居るぐらいです。
「そう、ですか…」
「…おいミラ、暫く休みをやる」
「え?ああ…そういう事ですか」
このリーダーは話が解る人でしたが…今は引退してしまった様で残念です。
「あの…本当に宜しいのですか?」
「構いませんよ、私もリーダーも、困っている人を見過ごす趣味はありませんから…所でジェネさんはどうして転職しようと?」
「はい…恥ずかしい話ですが、私の勤める神殿は一部の神官だけが甘い汁を啜る為に存在している様な物でして…神子になれなければ発言する権利すらないのです」
まあ、よくある話です…清貧に励むのが神官の条件だった筈なのですが。
「だから…私が上に立って、現状を覆してやろうと思ったんです!」
「中々肝の座った人ですね…気に入りましたよ」
まあ、そんなこんなで私とジェネは親友になれたのです。
そこから1ヶ月は2人で旅をしていたのですが、ある日突然の大雨に降られまして…
「…はぁ、丁度良く小屋があって助かりましたね」
「人の気配はありませんし、暫く雨宿りしましょう」
「服を乾かさないと…暖炉もあるし火を付けますね」
「薪は…ありますね、とりあえず服を絞って干しましょう」
ガタッ
「ったく、急に五月蝿くなったと思ったら雨が降りやがったのか…薪が濡れたらどうするって……んだ?」
「「あ…」」
その時は気付きませんでしたが、小屋には地下室がありまして…そこから出て来たのがデストだったのです。
ええ、人が居ないと思い込んでしまい…2人共生まれたままの姿でした。
思えば私が悲鳴を上げたのは…この時が初めてでした。
「うう…パパにも見せた事なかったのに…」
「いや、マジでスイマセン…」
「まあ、いいです…人が居ないと決め付けた此方にも落ち度はありますから」
「お詫びと言っては何だが…何か困っている事があるなら手伝うぞ?」
「ではジェネ…この子の転職資金、2万ハウトを下さい」
「ちょっとミラ!幾ら何でも私達の裸で2万ハウトは」
「…言ってみただけです、まあ払ってくれるならありがたく頂きますけれど」
「…さっきまで作ってた短剣が全部売れても4000ハウトにしかならん、分割払いでいいか?」
「言っておいて何ですが本当に払うつもりですか?って短剣を作ってた?貴方は鍜治師だったんですか?」
「一応、行商もしてるぞ」
「なら…ジェネの転職資金が集まるまで私達に同行してくれますか?」
「ああ、いいぜ…で、俺はデストというんだがお前の名前は?」
「ミラです、呼び捨てで構いませんよ」
「さっきから言われてたけどジェネです、私も呼び捨てでいいですよ」
まあ、今思えば最低な出会い方でしたが…最高の仲間に恵まれました。
ジェネが支援して、私が撹乱して、デストが止めを刺す。
町や村ではジェネが無償で怪我人を治しながら、私が情報を集め、デストが屋台で稼いで…それがとても楽しい旅でした。
そんな時、新しく出来たというダンジョンの噂を聞いて…
「新しいダンジョンか…もしかしたら白があるかもしれないな」
「確か死んでさえいなければどんな怪我や病も癒してしまうという水晶…でしたっけ」
「白が見つかれば一気に転職資金が稼げますが…どうしますか?」
余談ですが当時の白の相場は6万ハウト、今は…ちょっと判りませんね。
「もし見つからなくてもそれなりの額で売れる物が見つかる可能性はある…行かない手はないだろ?」
「ですね、金属や武器ならその価値はデストの技能で解るし、罠は私が察知出来ます…ジェネが回復と支援をしてくれれば安全に進めるでしょう」
「うん、転職はしたい…でも、不謹慎かもしれないんだけど、皆でダンジョンに行くの、凄く楽しみなんだけど」
「安心しろ、俺も楽しみなんだ」
「勿論、私もですよ」
まあ、その時行ったダンジョンにはロクな物がなかったのですけどね。
それ以来ダンジョンの噂を集めてはせっせと潜って…8つ目のダンジョンの最下層で、デストが私達を庇って怪我をしてしまったのです。
「デスト!しっかりして!」
幸い回復魔法が間に合ってくれて大事にはなりませんでしたが…背中に深い切り傷が残ってしまいました。
多分今も…残ってしまっている筈です。
「っつぅ…2人とも、無事か?」
「貴方は自分の心配をしなさい!私達を庇わなければあのモンスターを倒せたでしょう!」
「馬鹿言うな、お前達があんな攻撃受けたら…死ぬかもしれないだろ?それに…俺は女を盾にしてまで、生き延びたくはねぇ!」
「「っ!」」
ええ、我ながらチョロいと思いますが…この時のデストがとても格好良く見えて…デストの事が好きなんだと、自覚してしまいました。
ジェネもこの時に自覚したと言ってました。
その後、デストに怪我をさせたモンスターの討伐には成功しまして…落とした水晶は白だったのです。
まあ、6万ハウトをポンと払える金持ちが中々現れず…手に入れてから半年間、ずっと探し回ってたのは余談ですね。
「と、こんな感じです」
「それで…転職してからはどうなったのですか?」
「ジェネは転職してから…白を売った残りの4万ハウトを元手に味方を増やしまして、老害と化した神官を追い出す事には成功したのですが…発言力まで増やし過ぎた為にボリアの神殿に転籍させられたのです」
「本末転倒ではないですか…」
「本人はまた老害を叩き出してやると意気込んでましたけどね…つい最近それが達成されましたが」
「ああ、王様のお陰で、ですね」
「デストは皆さんの方が詳しいでしょう…そして私は元居た町に戻る為の路銀を得ようと侵入した悪徳貴族の屋敷でマリー様に出会い、今に至ります」
「成程…素敵なお話をありがとうございました」
ふぅ、満足してくれましたか。
振り返ってみればあの頃が懐かしく、出来るなら戻りたいとさえ思いますね。
でも今の生活に不満がある訳ではありませんし、それに…
「「デスト!私達と結婚して!」」
「ちょっと待て!何でそうなった!」
「だって、このまま別れるなんて嫌だもの!」
「そうは言うが、ジェネが転職するまでって約束だったし、神殿に戻らなきゃいけないんだろ?」
「…やっぱりデストは旅を続けたいの?」
「まあ、な…言っとくがお前達が嫌いって訳じゃないぞ?だがそれとこれとは話が別で」
「嫌いじゃない…ならチャンスはありそうですね?」
「そっか…嫌いじゃないって事は好きって事よね?」
「ゑ…間違ってはいないが、好きにもライクとラブの違いがあるんだg」
チュッ…
「フフフ…今は頬で許してあげますし、返事は再会した時で構いませんよ?」
「その代わり、ちゃんと会いに来てね?」
「あ、はい…」
結局まだ返事が来ないばかりか1人追加されてしまいましたが…
デスト、私達は死ぬまで貴方を諦めるつもりはありませんからね?
~その頃の男子達~
「兄貴、その背中の傷はどうしたんだ?」
「昔ちょっとヘマをしてな…今はいい思い出だよ」