子爵は隠居したらしいです
アバズレメイドもどきとの遭遇で情報を得た翌朝…思い出すだけでムカムカします!
じっとしてるのも落ち着かないし何故かロウとコカちゃんがあたしを見て怯えてしまっているのでアプさんと手合わせしています。
それにしてもアプさんはタンクなだけあって物凄く防御が上手いです。
耐えて、受け流して、絶妙なタイミングで仕掛けるカウンターはどう崩せばいいのか判りません。
「ったく、段々動きが雑になってるよっ!」
「わっ…ぐひゅっ!」
ヤケクソ気味に出したパンチを受け止めたかと思いきやそのまま270度回転…
はい、顔面から地面に叩きつけられました…鼻がいたい。
「ふぅ、そろそろ昼だ…ここまでにするよ」
「ふぁい…ありがとうございました」
ぐぬぬ…結局有効打を当てられませんでした。
大分冷静になれたし手合わせをお願いして正解でした…鼻が痛いけど。
それにしてもアプさんは防御も凄いけど攻撃もかなりの物ですね…ボクシングと合気道を複合した様な攻めでした。
そんなこんなでお昼です、今回もあたしが作れる状態でなかったのでコカちゃん作です。
「えっとね…ロウくんに聞いて…クックーと…ビフーを…ミンチにして…混ぜてみたの」
うん、つまりハンバーグですね。
本来ならポクーを混ぜる所ですが…この世界じゃ高級過ぎて手が出せませんからね。
「ウフフ、2種類の肉を混ぜるという発想も面白いですが…この柔らかさに肉汁…美味しいですね」
サーグァ様もお気に召した様で何よりです。
それにしてもロウの説明だけでここまで再現してみせるとは…実はコカちゃんって優良物件なのでは?
「因みにこの料理…ハンバーグというのですが魚で作っても美味しいのですよ」
「へぇ、魚って塩塗って丸焼きにするだけじゃないんだねぇ」
いや塩は振りましょうよ…塗ったら塩辛くて食べれませんからね?
「さて、それでは今後の予定なのですが…」
そうでした、あのアバズレメイドもどきの作ったモンスターが何処に居るのか分からない以上、当座の目的であるサーグァ様をボリアまで護衛せねばなりません。
元々ボリアを目指していたあたしとロウの目的とも一致してますし、報酬が貰えるなら言う事なしです。
「地図だと後2つ村に入る必要があるな…ここからだと海辺のルイエか、山沿いのグヌットのどっちかになるけど」
「距離はどちらも変わりませんし、美味しい物さえあれば文句は言いませんよ」
ブレませんねサーグァ様…どれだけ美味しい物が好きなんですか。
「あのね…グヌットは…止めた方が…いいよ…というか…ボク、グヌットにだけは…行きたくない」
おや?コカちゃんが反対するのは珍しいですが何かあったんでしょうか?
「ああ、そういやグヌットは女性上位主義者の村だったな…男を連れてったらミイラになるまで絞られちまう」
何ですかそのアマゾネス的な村は…でもそうなるとロウを連れて行く訳にはいきませんね。
ロウもそれを想像したのか震えてますし…
「それに、コカの自称がボクだろう?それで勘違いした奴等がな…まあ残らず叩きのめしてやったんだが」
アプさんは強いし怒らせると怖い…キュア、覚えた。
「うん、ルイエに行こう、そうしよう」
そんなこんなで旅立ち前の買い物です。
ここからはアプさんとコカちゃんが一緒ですし、行商人だけあって立派な荷車をお持ちでした…まあ人力なんですけどね。
アプさんの値切り術も学ばせて貰えましたし、お陰で食料も余分に、しかも安く買えました。
「今回はあんたらの持ってる鞄のお陰で酒と食料のスペースを考えなくていいからねぇ…商品を余分に買えたよ」
お役に立てた様で何よりですが…お酒は売らないって言ってたのできっとアプさんが飲む分なのでしょう。
余り飲み過ぎないで下さいね?
「やけにビフーの皮が多いんだけど…これ何に使うんだ?」
「ビフーの皮はね…靴や、鞄になるから…他の村や町で…よく売れるんだよ」
ふむ、この世界でも皮製品はあるんですね…ってそういえばロウの胸当ても皮製でした。
「後は…クックーの羽毛かな…枕に詰めると…グッスリ寝れるって…聞いた事があるよ」
食肉として評価が低い割にやけに多く育ててると思ったらそういう事ですか…。
そういえば昔は日本でも羊が同じ扱いだったと聞いた事がありますね。
「よし、仕入れはこんなもんでいいな…そしたら少し早いが飯食って寝るぞ」
明日はいよいよ出発ですからね…早めに休んだ方がいいでしょうし反対意見もありませんでした。
因みに夕飯はサーグァ様のリクエストで再びハンバーグになりました。
~早朝の墓地~
1年振りだね、パク…済まないねぇ、色々あって来るのが少し遅くなっちまったよ。
ああ、コカは立派に育ってくれてる…親離れするのもそう遠くはないだろうさ。
まだ早いんじゃないかって?あんたが死んでもう13年も経ったんだ…むしろ遅いぐらいだよ。
それとな…最近コカと同じ年頃の仲間も出来たんだ…はは、次はちゃんと連れてきてやるよ。
安心しとくれよ…行商人だったあんたが残した故郷の家と、商売のイロハはちゃんと受け継がせたからさ。
それじゃあ…また、1年後に来るよ…絶対に。
アプさんは一途な人です