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最後の戦い(比喩)が始まります

ptブクマありがとうございます

クックーの丸焼きを作った翌朝……


ようやく完治したあたしはアプさんと組手をしているのですが……何故か何時もより身体が軽い気がします。


普段なら寝込んだ翌日は思う様に動けなかったりするんですが……これも翡翠さんの薬の効果でしょうか?


「っと……ふぅ、やられちまったねぇ」


あれ?


いつの間にかアプさんの膝が落ちて……


ムーでの組手からずっとお互いが全力でやっていますから油断した訳ではない筈……


そもそもアプさんは手加減はしても相手を侮るって事だけはしないんですけど。


「まさかアプさん、クティのモンスターと戦った時に傷が?」


「いや、あたいが不調って訳じゃないよ……キュアが強くなったのさ」


……ってあたしが初めてアプさんに勝てた!?


嬉しい筈なのに喜びが全く湧かないのは何故でしょうか?


「それはキュアに【絶対に負けたくない相手】ってのが現れたからだろうねぇ……強くなる為の目的が変わっちまったんだろ」


絶対に負けたくない相手、ですか……まあ心当たりはありますけども。


つい3日前にその相手と戦闘()り合ったばかりですし。


「しかしクティにだけは負けたくないとは常々思っていた筈なのですが……」


「実際に戦った後で変わる物もあるさ、人という生き物はそういった切っ掛けで成長しちまう事があるんだよ」


成程……確かにクティとは拳を交えて解った事もあります。


勉強が苦手だとかタマネギが苦手だとか……戦闘にはほぼ関係ない事ばかりでした。


やはり引き分けではない、ちゃんとした決着を着けたいですね……でも眷属であるクティともう1度戦うには同じ土俵に立たねばなりません。


しかしこんな理由で眷属になるのは女神様に失礼でしょうし……


「あの女神達ならキュアの作った食い物を渡せばちょっと戦うぐらい目溢しをすると思うけどねぇ……」


……全くもって否定が出来ませんね、皆さん食いしん坊ですし。


その内お供えしながら聞いてみた方がいいでしょうか?


「キュアちゃんの料理と引き換えならウチ等所かヨグソ様でも構わん言うと思うで?」


「……また唐突に現れましたねトゥール様」


本当に神出鬼没ですね……女神なのに自由過ぎるというか何と言うか。


「まぁまぁ、今回はええ物持って来たさかい、朝ご飯と引き換えに渡したるわ」


前も良い物を頂きましたけどやっぱりご飯は食べるんですか……


朝食は今ライコが作っている最中なんですが……まあ、あたしのレシピだから大丈夫でしょう、多分。






「さて、ロウとナクアはまだ来てないがいつまでも休憩所を占領する訳にはいかないし……キュアとクティも動ける様になったからイレムへ向かうよ」


休憩所は旅人全員の共有スペースですからね……


元々イレムで集合する事になっていたのでここに居なければ真っ直ぐ向かって来るでしょう。


地図もロウが持っているから迷ったりしないでしょうし。


「確かイレムは山羊の飼育をしていると聞きましたが……」


「うん……ヤギのミルクは、ビフーのミルクより……高いけど、美味しいって……評判なの」


確かヤギミルクは牛乳よりアレルギーが出難いとも聞きましたし、ビタミン等も豊富で日本ではペット用のミルクとして使われるだけでなく健康食品としても注目されていましたね。


あたしは粉のヤギミルクしか見た事ありませんし実際に飲んだ事はありませんが。


理由?値段が高かったからです。


「……所で何故わたくしは簀巻きにされていますの?」


「こうでもしないと逃げるでしょ?ロウくんと合流するまで居て貰わないと困るからね……」


「此方の負けが確定しているこんな状態で逃げませんわよ!」


「お嬢様がそうでもアルラ様はどうだかね……あ、因みにその紐は転移防止の効果があるらしいから」


突然現れたトゥール様が置いて行った紐ですね。


ライコが朝食に作ったおかわり用のご飯とおかずを食べて帰りましたけど、満足された様ですし問題はない筈です。


確かその紐はセバスチャンさんがトゥール様を縛る為に作ったとか何とか言ってましたね……SとMな関係が頭を過りましたが違いそうだし、今度詳しく教えて貰いましょう。


まあ自由過ぎるトゥール様を留めるのに使っていた、っていうのが正解でしょうけどね。


後は何か翡翠さんにサーグァ様と話していましたけど……確かハイドラ様とトゥール様は仲が悪かった様な?


「大体の事情はハイドラ様から聞いてるからね、キュアちゃんのお陰で仲直り……とまでは行かなかったみたいだけど、普通に話をするぐらいにはなったらしいし」


そういう事でしたか……


でもあたし、特に何かをした覚えがないのですが?


「それと私が送った水晶は2つ共ハズレだったと言ってたよ……その後は予測通りで、魔法陣が8割方出来上がっちゃったとか」


成程……それは大事な話です。


あたし達の目的はその魔法陣の完成の阻止ですから。


最もあたしの目的はロウを死なせない事とクティを倒す事になっていましたが……これでは信者失格と言われても仕方がないですね。


これからは更なる信仰を捧げなければ……


「キュアの場合、少しぐらい信仰心を下げた方がいいんじゃないかい?」


「だよねぇ……むしろ下げた方がトゥグア様の為になりそう」


「うん……最近は、落ち着いてるけど……祈ってる時のキュアちゃん……怖いし」


え……酷くないですか?


あたしの信仰心に何の問題があるというのですか!


というか、時々目からハイライトを消すコカちゃんに怖いと言われたくないですよ?






何だかんだでイレムが見えてきた……辺りでサーグァ様(分体)が点滅なさっていらっしゃる?


魔力が不安定というか、朧気というか……本体に何かあったのでしょうか?


少なくとも食事はいつも通りに食べていたので体調不良ではない筈ですが。


「皆さんがボリアに戻ってから驚かせようと思って黙っていましたが、実は先週本体が3ヶ月と診断されまして……」


3ヶ月……あ、成程……オメデタでしたか。


まあエリナ様にマリー様も妊娠していましたからね……あの嫁を平等に愛する王様の元でサーグァ様だけまだというのもおかしな話でしたし、納得しました。


「どうやら妊娠の影響で魔力が上手く使えない様です……姉さんの指示は果たせましたし、後は報告を聞けば済む話ではありますが」


やはり姉であるトゥグア様と地の女神の企みの結末は気になりますよね。


とはいえ今はお腹の子供を大事にした方が……


「本体の食欲が低下している分、この分体で思う存分美味しい料理を食べたいんですけど……お腹の子の事を考えると後3日が限度でしょう」


本当にブレませんねサーグァ様!?


姉より食欲が大事なんですか!


って流石のサーグァ様も妊娠したら食欲が落ちるんですね……何故か安心してしまいました。


「なのでキュアさん、イレムに着いたら……分体が消える前にから揚げとラーメンをお腹一杯になるまで作ってくれませんか?」


あたしが作った料理の中でもサーグァ様が特に気に入っていらっしゃった2品ですか。


ボリアに戻るのはおおよそ4ヶ月後……妊娠しているのも考慮すれば当分食べられませんからね。


ラーメンは屋台で出すのと同じでいいとして、から揚げは……まあ醤油味でしょうね。


「……から揚げに添えるのはマヨネーズとタルタルソースのどちらがいいですか?」


「もちろん両方で、それと塩に……デストさんが付けていた味噌とナクアさんが掛けていた粉チーズもお願いします」


……要するに全部ですか。


まあ、サーグァ様には随分と助けられましたし王様との縁も繋いで頂きましたからね……作れというなら作りますよ。


「アプさん、イレムに着いたら買い出しと厨房の使用許可を得るのを手伝って下さい」


「それは構わないが……サーグァ様が満腹になるまでって、金が足りるのかねぇ?」


今回ばかりはサーグァ様を満腹にするまで作らざるを得ませんからね……


幸か不幸かクックー肉は人気がない分安いし、ラーメンに欠かせないクックーの骨は無料(タダ)、小麦粉も安く買えます。


肉を柔らかくするリンゴや出汁と薬味に使う野菜等はリーアさんに量産して貰えばいいし、醤油は手持ちの物で足りるでしょう。


後はひたすら作り続けるだけなんですが……サーグァ様の食べるペースを考えると確実にあたし1人では追い付きません。


「出来れば仕込みからお願いしたいのですがコカちゃんはラーメン、ライコはから揚げを作るのも手伝って下さいね?」


「う、うん……頑張る」


「ウギィ!」


長らく一緒に料理をしていたコカちゃんと、あたしの弟子と言っても過言ではないライコの腕は信頼出来ますからね……


味を落とさず作るには頼れる助っ人です。


とはいえ3人、もとい2人と1匹でもキツい物があるしここは……


「クティ、貴方にも仕込みから手伝って貰いますからね?」


「何故わたくしが……」


逃がす訳がないでしょう?


この場で料理出来るのは3人と1匹しか居ないんだから、仕方ないではありませんか。


というか有無を言わせず、絶対に手伝わせますけどね。


「翡翠さんにはクティの監視をお願いしたいのですが……報酬としてライコにイチゴジャムとホットケーキとアイスクリームのレシピを教えますので」


「任された!」


「何で躊躇いなく任されてしまうのですか!?」


何気に翡翠さんも甘い物が好きですからね……特にイチゴジャムを塗ったホットケーキがお気に入りみたいですし。


それにハイドラ様もアイスクリームを大層お気に召された様ですから、ライコが作れる様になれば何時でも食べられるでしょう。


だからこそ協力してくれると信じていましたよ。


「アプさんにはライコに教えながら作るアイスクリームを差し上げます」


「任せな、ついでに肉や小麦粉も値切ってやるさ」


甘党のアプさんに渡す報酬はこれで良し……余分に作ってコカちゃんにもあげますけどね。


細かい打ち合わせはイレムに着いてから、買い出しを終わらせた後でいいでしょう。


後はあたし達が力尽きるのが先か、サーグァ様が満腹になるのが先か、はたまた食材が尽きるのが先なのか……





って、宿敵(クティ)の力も借りながら強敵と戦うという、物語ならば定番中の定番である胸熱な場面……にも関わらず何で料理する話になっているんですかね!


確かに3升ものお餅に加えて色んなオカズを食べ尽くした時や、トンコツラーメン18杯に替え玉54玉を食べて更にオヤツと夕飯まで頂いていた時ですら腹八分目とか言っていたサーグァ様の胃袋は強敵ではありますけど!


これは……これは何かが違いませんか!?

~その頃のロウとナクア~


「ナクア、そろそろムーから出発しないと……キュア達に追い付けなくなるぞ?」


「はーい!」


「……この釣りまくったタコはドワーフのおばちゃんに渡しておくか」

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