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姉より強い妹は存在……しました

ptブクマありがとうございます


今回はロウ視点

えっと……浜辺で昆布?を並べてる魚人が居るって事はここ、ルルイの近くか?


何でこんな所に居るのかは……まあクティの仕業で間違いないとして、何でルルイなんだ?


忍者のザトーと戦うんなら森か山、見通しの悪い岩場辺りかと思ってたんだが……


「あ、ロウお兄ちゃーん!」


「ミャー!」


「ナクア……一緒に来てたのか」


そういえば頭が軽いと思ったらトウカはナクアと一緒に居たんだな。


ってトウカ、早速頭に乗ろうとするのはいいけど爪を立てるな。


「ここに来たのは俺達だけか……そろそろ出てきたらどうだ?」


「……待ってた」


やっぱり俺の相手はザトーだったか……ってオイ!?


「何で水着なんだよ!?」


確かに目の前は海だけど、それほぼ紐じゃねーか!


忍者なら黒装束を着ろよ!


童貞(ロウ)には、これが効果的、理由、童貞だから」


いや、それは例え童貞でなくても大抵の男に効果があるから!


とはいえ俺が直視出来ないのは確かだが……キュアに知られたら絶対殴られるぞこれ。


「……お姉ちゃん、だあれ?」


「グハァッ!?」


あ、やっぱりか……


話を聞く限りだとザトーが最後にナクアと会ったのは7年前……当時3、4歳だったナクアが覚えている可能性は低いよなぁ。


ましてや契約した時に一部の記憶が消えてたから更に低くなるだろうし。


ぶっちゃけナクアはクティの事も覚えてなかった。


というかザトー、コカの魔法でもほぼ無傷だったのにナクアの一言が血を吐く程に効くのか?


気持ちは解らんでもないけどな……俺もキュアに同じ事言われたら絶対に血反吐を吐く自信がある。




「おのれ童貞(ロウ)、よくもナクアを……絶対殺す!」


酷い言いがかりだな!


まあいい、俺のやるべき事は変わらないし。


「1つだけ聞かせろ……お前、俺を殺した後はどうするつもりだ?」


「ザトーは、最後の鍵……水晶となって、トゥグアの元、向かう」


予想通りか。


アトラさん、ナクアと契約した時に2つの内1つの水晶から感じた何か……


正直最初は気のせいかと思ってたがザトーに再会した時はその何かをより強く感じたし、何かしらあると思ってた。


……自分で言ってて良く解らん説明になったがそうとしか言い様がないんだから仕方ない。


多分、幻獣使いになった事で感じられる様になったんだろうけど……命を狙われるのは予想外だったが、ナクアとアトラさんを救えたから結果的になって良かったと思うよ。


だからこそ死ぬ訳にはいかないし、あいつは絶対に倒す訳にはいかないな。


「お前はトゥグア様の元には行けないぞ……俺が契約するからな」


童貞(ロウ)……アトラ姉さまと、ナクアだけでなく、ザトーまで、辱しめるつもり?」


俺=性欲の塊、みたいな扱いをするんじゃねぇ!


もしそうならこの世界に来てすぐに童貞を卒業してるわ!


というか、アトラさんを辱しめた覚えはねーよ!?


「ロウお兄ちゃん、どーてーって何?」


「……ナクアがそれを知るのは5年ぐらい早い物だぞ?」


まだお子様のナクアに言える訳がない。


言ったらアトラさんにアプさん、コカとキュアから何をされるか解った物じゃないし……今なら兄貴の折檻まで付いてくるからな。


「……トウカにリコッタ、お前達も教えるんじゃないぞ?」


「ミャッ!」


「ピー!」


本当に頼むぞ?


怒られて殴られるのは俺なんだからな?





「無駄話、ここまで……殺す!」


さて、と……まずはどうにかしてあいつに触る必要があるんだがどうした物か。


「ロウお兄ちゃん苛めちゃダメーっ!?」


「グッ……ナクア、ちょっと、退いて」


ナクア……ザトーがナクアに危害を加えるとは思わないけど、危ないから下がってような?


それと今は一応シリアスな場面だから緊張感を崩す様な事は控えて欲しい。


「ロウお兄ちゃん殺そうとするお姉ちゃんなんてキライ!」


「ガハァッ!?」


おいザトー……今の一言が血反吐に加えて血の涙を流すぐらい効いたのか?


まあ気持ちは解るんだけど……解る俺もどうかとは思うが。


……あ、そういう事か。


ザトーと戦うと覚悟してからずっと感じていた何とかなるって自信……ようやく理解した。


こいつ、俺の同類なんだな。


それならやり様は幾らでもある。


「おーい、大丈夫か?」


「ナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに嫌われたナクアに……」


こえーよ、でもチャンスだし今の内に触っておこう。


で、肩に触れても反応ないし……どんだけショックだったんだ?


最初はザトーの攻撃を避けつつ隙を見て触れて、そこから10分逃げ回るつもりだったんだけど……


ナクアのお陰で苦労する事なく時間を稼げちまったな。


というか、ザトーはナクア1人で倒せるんじゃないかって気がしてきたんだが?


っと、いつ正気に戻るか解らないし……


「ナクア、【粘糸】」


「はーい!」


「トウカ、【水縛】」


「ミャッ!」


で、青の矢で水縛を氷らせて……これで良し。


仮に正気に戻ってもこれなら更に時間を稼げるだろ。


……本当に緊張感の欠片すらない戦いになっちまったなぁ。


これを戦いと呼んでいいのかは疑問だけど。





とりあえず暇だからナクアと遊んでいたら……ザトーが氷の檻と粘糸を燃やして脱出しやがった。


やっぱりあの糸は火に弱いんだな……知ってたけど。


ってザトーが着てた水着まで燃えてあられもない事になってやがる。


「ゼー、ゼー……やっと、出れた」


「うん、まあ何だ……ナクアの教育に悪いから服を着ろよ」


「……ナクアの為、それなら、仕方ない」


お前、ナクアが絡めば素直だな。


っと、大体7割って所か……もう少しかかるな。


「今度こそ……殺す!」


もう着替え終わったのか。


流石に同じ手は通じないだろうし……次はアレで行くか。


「トウカ、ナクアの所に行ってくれ」


「ミャッ」


「ナクア、【融合・トウカ、リコッタ】」


「はーい!」


これぞナクアの戦闘形態、猫耳天使モード(命名・キュア)だ。


ザトーもこの技能については知らなかっただろ。


普通ならどれだけ可愛かろうと惑わされる事はないだろうが……


「ナクアが……余りの可愛さに、天使に、なった?」


俺の同類なザトーになら通じるよな。


これで更に時間を稼げる。


「ナクア、暫く辺りを飛んで回ってくれ」


「解ったー!」


さて、これで8割ぐらいか……後2~3分って所だな。


ピーニャとロシンが居れば確実に戦わず稼げた時間だが……まあ居ない物は仕方ない。


これでナクアの技能は打ち止めだし、後は俺自身で何とかしないとな。





「ナクアの、余りの可愛さに、我を忘れた……でももう、惑わされない、覚悟して」 


鼻血を出しながら言ってもなぁ……全然締まらないぞ?


とりあえずナクアにはそのまま飛んでて貰ってるし、ようやくシリアスになりそうだ。


ナクアはおよそ9分も稼いでくれたからな、後1分ぐらいは真面目に付き合ってやるよ。


「【忍術・火遁】!」


やっぱり忍術は使えるのか……粘糸を燃やしたのもあの火遁だろうな。


「俺に火は通じないぞ、【水壁】!」


よし、相変わらずナクアの技能は疎通以外が使えないけどトウカの技能なら一通り使える。


付き合いはナクアの方が長いんだけど何でだろうな……まあ俺がトウカと融合したって需要ないだろうし、粘糸は便利そうだけど生態に関係があるのかもだし。


「火が通じないのは、知ってる、火遁は、囮……【忍術・雷遁】!」


こいつ、電流も使えるのかよ!


電流を避けるなら緑の矢……って、砂浜じゃ植物は育たない!


なら鉄の矢を避雷針代わりに……よし、上手くいった!


「む……なら、【影縛り】!」


影縛り……って確か相手の足を止める術か!?


「そのまま、ジッとしてて……大丈夫、一瞬で、首をはねる」


全然大丈夫じゃねーよ!


えっと確か影縛りの弱点は……黄色の矢!


こいつを俺の影に射てば光で拘束が解ける筈だ!


「……躱された」


危ねぇぇ……後少し遅かったら首と胴体が永遠にお別れする所だったぞ。


「それなら……【分身】!」


今度は分身の術かよ!


とはいえザトーの動きは目で追えない訳じゃない……背後に陣取ったバイコの方が脅威だったぐらいだ。


回避に専念してれば何とかなる。




「ハー、ハー、しぶとい、いい加減、死んで」


「ゼー、ゼー……まだ、死ぬ訳には、いかないんだよ」


大分長く戦ってる気がするんだが……まだなのか?


そろそろ体力も限界が近いんだけど。


「……でも、結局、ザトーが勝つ」


……何だ?身体が重い?


いや、違う……身体が動かせない!


「ザトーの技能、【傀儡】……ようやく、捕まえた」


傀儡……確か初めて会った時に、倒れた貴族の私兵に使っていたアレか!


まさか意識のある者まで操れるとは思わなかった。


童貞(ロウ)は、ザトーの手で、殺したかった……でも、避けられ続けたから、諦める……だから、仕方ない、自分の手で、死んで」


こいつ、俺を操って短剣を……


ぐっ……駄目だ、自分の意思じゃほんの僅かに動きを遅くするので精一杯だ。


後、少しだってのに……


「……さよなら」


「ダメーっ!」


ナクア?


って短剣を俺の両腕ごと粘糸で簀巻き状態に!


「ロウお兄ちゃんは絶対に死なせない!」


流石に操られていてもこう縛られたら動かし様がないよな。


まあ……ナクアには色々と言いたい事はあるけど、結果的に助かったからいいや。


「思わぬ邪魔、入った……でも、その状態なら、簡単に、殺せる」


「残念だが……ようやく時間だ」


「時間?……な、何?身体が……熱い?それに、首輪!?」


「【強制契約】……魔力を込めながら触れてから数えて10分で契約が完了する、幻獣使いの禁じ手だ」


本来なら合意の元で、意識を1つにしながら接触する事で契約するべきなんだけどな。


その為の手っ取り早い手段がキスな訳なんだが……ザトーは確実に避けるだろうし、あえて油断させつつ近づいて契約前に刺されてたかもしれないし、最悪自害する可能性もあった。


ザトーの水晶が地の女神の目的の要なのは察していたから倒せないし殺せない、となればこれしか方法がなかった。


とはいえこの強制契約は本来の契約に比べて拘束力が弱いし、ザトーの持っている技能は俺には使えないらしい……ちょっとだけ忍術は使ってみたかったが仕方ない。


加えて3回の命令で契約が切れる、というデメリットがある。


つまり俺がザトーに命令を出せるのは2回が限度って訳だ。


「【強制命令・自他の命を奪う事を禁ずる】!」


これでザトーはもう誰も殺せない。


だが契約が切れたらこの命令も解除されるし、再契約は今回みたいに上手く行かないだろうから気を付けないとな……


その場合はキュアが拳で教育するんだろうけど。


「くっ……不覚…………クティ……様、ごめん……なさい」


……気を失ったか。


ま、これでもう大丈夫だろ。


でも念の為に指輪の中へ収納しておこう。






「ナクア……そろそろこの粘糸を解いてくれないか?」


「やだ」


何故だ!?


ってナクア……ナクアさん?


もしかして凄く怒っていらっしゃる?


「ロウお兄ちゃん、最近ずーっと訓練ばっかりで、ナクアと遊んでくれなかった!」


まあ、俺の命がかかっていたからな。


死ぬ気で訓練せざるを得なかったのは解って欲しい。


「それで、今日のナクアは役に立ったよね?」


はい、滅茶苦茶助かりました。


正直言ってナクアが居なかったら殺されていた可能性が高い。


「だからぁ、ご褒美ちょーだい」


「そういう事か……いいけどその前に、荷物からスクロールを出してくれないか?終わった事を報告しないと」


「うん!これでいい?」


これは翡翠さん宛か……よし、スクロール発動っと。


【ケイヤク、カンリョウ】


コカとアプさんと翡翠さんは……まあ楽勝だろうな。


問題はキュアだが……せめて無事で居てくれよ。






「まあ何だ、イレムまではゆっくり行くか」


「えへへ、ロウお兄ちゃんと2人っきりー!」


トウカとリコッタが居るから2人きりではないと思うんだが……


って誰だ肩を叩くのは……魚人?


「ギョギョ、ギョー、ギョ」


「えっと、ムーまでで良ければ海路で送るから翡翠の姉御にこれを渡してくれ、か?」


疏通が使える様になって良かった……


これは前にも貰った乾燥昆布と……樽に摘めた海水か?


まあ渡せと言うなら渡すけど。


そういやムーにはキュアが干しダコとスルメの作り方を教えたドワーフのおばちゃんが居たっけ。


祭りの日にぎっくり腰で倒れた人だとは聞いたけど。


「ムーで水晶を換金して一泊して、釣りをして干しダコ買ってから戻るか?」


「うん!ナクア、またタコ食べたい!」


決まりだな……それじゃお言葉に甘えて送って貰うか。


釣りとタコで時間を取られそうだけど、少なくとも今から歩いて戻るよりは早いしな。

多分これが1番緊張感のない戦い……

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