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君とキミと私

近くの幼馴染 〜君に告白する〜

作者: 華美

  俺には、幼馴染がいる。笑顔の眩しい、幼い頃からの付き合いのある女の子。


  「はる…や、晴也!」


 突然呼びかけられ、ドキリと心臓が跳ねる。強くこちらを見る視線に、目を合わせることが出来ずに、何だよ、と返すことしかできない。


  「あっち見て、ほら、早く!」


 幼馴染の言う言葉に、チラリと指を指す方を見ると、あきらかに絡まれている、同級生らしき女の子の姿が見えた。


  「行くよ、晴也」


  「おいっ、柚葉!」


 幼馴染の柚葉はお人好しで、困っている奴がいると、すぐに助けに行く。少し面倒臭いことでも、柚葉は正面から真っ直ぐ立ち向かってしまう。


  「ちょっと!私の友達いじめないでくれる?」


  「はぁ?なんだよ、てめぇ。めちゃくちゃうぜーんですけど?」


 こんな厄介事にも巻き込まれる。目の離せない幼馴染に俺は頬をひくつかせた。


  「友達だよねっ!ねっ、キミちゃん」


 知ってる奴なのだろうか。迷いなくちゃん付けで呼び、笑顔で、泣いていただろう女の子の腕を引っ張る。


  「え、あ、その…う、うん」


 睨みつける男達をみて、女の子は救いを求めるように、柚葉の後ろへと身を隠した。


  「へぇ…友達なんならよー、ちょっと一緒に遊ぶ?俺等もその子とお友達?なんだよねー」


 ほかの男が口を開く。相手は3人。それぞれ明るく髪を染め、いかにもチャラチャラした奴らは柚葉の、腕を掴んだ。


  「ーーおい、待てよ」


 俺はいつの間にか動いていたらしい。柚葉を守るように、その腕を払い除ける。


  「いってぇー。おい、折れたらどーすんだよ?邪魔してんじゃねーってのっ!」


 伸びてきた拳をまたも払い除け、大きく1歩、踏み出した。


  「そんくらいで折れるんじゃ、よっぽど軟弱だな?」


 皮肉に笑いながら、その肩を男の仲間の方へ強く押す。怯んだその一瞬で、俺は咄嗟に柚葉と、キミちゃん、という女の子の腕をとった。


  「ほら、逃げんぞ」


 一瞬、震えが掴んだ腕から自分に伝わるのがわかった。だが、一切顔は見ないようにする。きっと見せたくないだろう、そうわかっていたからだ。


  しばらくして速度を落とすと、ぜぇはぁと、柚葉とキミちゃんという女の子が膝をつき、酸素を求めるように上を向いた。


  「おい、大丈夫か?柚葉…とそこの人。無理しすぎたか?」


  「ホントだよ!も…死にそ…はぁ」


  「いえっ、大丈夫です…その、ありが、とう、ございますっ…!私は、キミと申します…。キミちゃん…と」


 呼んでいただければ。そう言ってキミちゃんはようやく立ち上がる。既に立ち上がっていた柚葉が手を貸し、ニコリと笑う。


  「自己紹介の時と一緒だね!キミちゃんだ、可愛いから覚えてるよ!晴也は初めてだもんね?ほら、私の部活の後輩」


  「へぇ。キミちゃんでいいのか?」


  「はい!」


 少しばかり、気後れしながらも柚葉の部活の後輩ならば、と思い、キミちゃん、と呼ばせてもらうことになった。


  「晴也はほんと、頼りになるから困ったら何でもいいなよ!」


  「他人任せかよ…お前は」


  「もうっ!お前って言わないでよね!私と晴也で助けるからいーのっ」


 柚葉が怒りながら、こちらを小突く。それを避けながらも笑うと、キミちゃんが口元を抑え、笑った。


  「仲がいいんですね、お二人共」


  「まぁ一応幼馴染だしねー、でもほら、キミちゃんも今日からお友達じゃん?」


  「こいつが迷惑ばかりかけるが、頑張れよ」


  「…ふふ、はい、先輩方、お願いします」


 ふわふわとした笑顔でキミちゃんはぺこりと頭を下げた。


  そして、1年ほど経った。キミちゃんとも仲良くなり、帰りや休みに会うことも多くなった。その分、柚葉とも共にいる時間が長くなる。俺は自然に柚葉とも話せるのを嬉しく思った。そんなある日、キミちゃんに呼ばれ、屋上へと行くと、柚葉の姿はなく、キミちゃん1人だけだった。


  「あれ、柚葉は?」


  「ふたりで…話したいんです」


 キミちゃんはまつげを伏せ、長い黒髪を風に飛ばされないように片手で抑え、緊張した声でそう言った。俺は、無言で続きを待つ。


  「あの時のこと、覚えてますか?不良達から、守ってくれた初めてあった日のことを」


  「あぁ、柚葉が助けにいったときのあれか?」


 言葉を返すと、後悔したような、悔しそうな表情をして、キミちゃんは真っ直ぐに俺を見た。


  「私には、今まで守ってさえもくれる人がいませんでした。腕をとってくれた人さえも。晴也くんが、取ってくれるまでは」


 あれは。そう言おうとする俺を、キミちゃんはさらに言葉を重ね遮った。


  「柚葉さんのためだとしても!私にはとても嬉しかったんです…。私の気持ち、受け取ってもらえませんか…今だけでも」


 涙を堪え、立つキミちゃんは、とても俺には止めることはできなかった。


  「あの時から、好きでした。けれども、叶わないこともわかっていました。晴也くんは、柚葉さんしか見えてないから。でも、一緒にいるほど、心が辛くなって…」


 ズキリ、と胸に痛みが走る。俺も、言えていない。仲良くさえしていれば満足だなんて、思って。


  「だから、せめて伝えたい、と思いました。返事は、どちらでもいいんです。私の、わがままですから」


 ガツンと頭を殴られたようだった。俺は、咄嗟に言葉が出ず、キミちゃんを見ることしかできなかった。


  「…すみません、晴也先輩。柚葉先輩にも、悪いなって思ったんです。……すみません、失礼します」


  「待て。もう少し、言葉を考えさせてくんね?勇気出して言ってくれたのに、何も言わずにいんのはかっこ悪い」


 去ろうとするキミちゃんを留め、そう言うと、キミちゃんは泣き笑いをしながら、


  「先輩はずるいです」


 と言って、止まってくれた。正直、まだぐちゃぐちゃで何言ったらいいかなんてわかるはずもない。だが、自然に言葉が出てきていた。


  「俺は、柚葉が好きだ。昔からずっと。だから、ごめん。正直バカなとこも、真っ直ぐなところも、笑顔も、そんなあいつが、柚葉が好きなんだ。俺はずるいし、かっこ悪いし、まだなんも言えてねぇ。だからさ、キミちゃん。気持ちはめっちゃ嬉しい。けど、柚葉じゃねーとだめだ。自分勝手すぎるけど、ごめん」


  「…勝てないですよ、柚葉先輩には」


 途中から何言ってんだよ、と思いつつ本人じゃねーのに告って何してんだよとか恥ずかしくてたまらなかった。キミちゃんはいつの間にか笑っている。訳がわからなくなって俺は頬をかいた。


  「ありがとうございます、晴也先輩。返事が貰えるなんて、思ってなかったので。」


  「あぁ」

 

 晴れ晴れとした表情でキミちゃんは黒髪を上げると、足早にこちらに近づいてきた。


  「それじゃあ、晴也先輩は、柚葉先輩に告るんですよね?」


  「は?」


 キミちゃんが、悪い表情でニコリと笑うと、視線を下へ向けた。その手にはスマホを持ち、なにやら打つような仕草をした。


  「私、全力でフォローするので、もう気持ち伝えた方がいいです」


  「キミちゃん…!?」


 スッキリしたような表情でなんということを言うのか。俺はさらに混乱し、頭を抱える。


  「柚葉先輩も晴也先輩も私を使いすぎですよ!少し踏み出せばいいのに…好きなんですよね?柚葉先輩のこと」


  「………あぁ」


 自分で1度言ってしまったので、もう一度答える。顔が熱くて仕方ない。


  「もう、今日はいいです。帰ってください」


 正直言って、キミちゃんが何を考えているのか、さっぱり分からなかった。


  それから、しばらく経ち、キミちゃんから突然の連絡が来た。


  『先輩…助けて、くださ』


 突然切られ、俺は慌てて外に出る。位置情報が送られていて、またあの不良達かと、走り急ぐ。


  「キミちゃん!」


 夜の公園に足を踏み入れ、俺は足を止めた。ホロホロと涙を流すキミちゃんが、ベンチで座っていた。


  「晴也、先輩」


 こちらを見て、さらに泣き出すキミちゃんに、俺は慌てて駆け寄りティッシュを渡した。


  「今日、幼馴染が来たんです」


 キミちゃんはしばらくして話し始める。俺もよく会う後輩の幼馴染が、キミちゃんに付きまとう不良達に出会い、ボコボコにされたらしい。それで俺に連絡したのだが、不良達は警察と勘違いし逃げ出し、幼馴染は、ボロボロなのに、帰ってしまった。どうしたらいいか分からず、泣いていた。と。


  「ちょっと待ってろよ」


 俺は部活での後輩でもあるキミちゃんの幼馴染に電話し、病院にいると聞き、電話を終えた。


  「病院だと。平気らしいぞ、キミちゃん」


  「…良かっ!良かったぁ…どこかで倒れてしまってたらどうしようって…無事でよかった…会いたいです…会いたいです」


  「泣くな、キミちゃん」


 慰めるために、背中に優しく触れると、足音がした。不良達か、と咄嗟に後ろを向くと、柚葉がスマホを片手に放心したようにそこに立っていた。


  「柚葉…?おーいっ!おーい!」


 声を掛けても、ビクリと震えただけで動かない。キミちゃんを見ると、小さくいってください、と呟かれた。走ってそばによって行くと、柚葉は突然顔を上げ、怯えたように、


  「ごめん、来ないでほしい」


 と言った。雷で打たれたような衝撃が走り、俺は混乱する。まだ柚葉が話しているが、あまり聞き取れなかった。


  「じゃ、ね」


  「待てよ」


 何、と返され心が苦しくなる。意味わかんねぇ、なんでだよ、なんかしたか、俺。

  何とか説得し、キミちゃんを送り届け、二人だけとなった。険悪な雰囲気のなか、俺は切り出そうと声を出した。


「お前さぁ」


 咄嗟に言った言葉も遮られ、柚葉は自分を責めるように話し始めた。


  「私って馬鹿だからさ…」


 何言ってんだよ、そこがお前だろ?そこが好きなんだよ、わかれよ、いい加減。


  (少し踏み出せばいいのに)


 あぁ、そうか。これが逃げだったのかもな。結局俺も言えてねぇんじゃん。これ以上逃げたら、取り返しはつかない。言うなら、今だろ。


  「柚葉!」


 柚葉は名前を呼ばれ、驚きながらもこちらを見た。


  「何なんだよ、お前はーー」


 あぁ、くそ。なんで出るの文句なんだよ。下手くそか俺は。恥ずいし、心臓がやばいって。


  「好きなんだよ、柚葉ー」


 いつの間にか腕を掴み、暴露してゆく。柚葉は驚きながらも顔を赤く染め、こちらを大きな瞳で見つめている。


  「かっこ悪い俺だけど…ゆず、付き合ってほしい」


 もう顔が見れず、自分も赤くなっていると自覚しながらも俯く。だが、柚葉は急に裏返る声で


  「で、でもキミちゃんは…」


 と言う。俺は顔を上げ、その表情を見て、肩を大きく落とした。緊張しすぎた自分が恥ずかしい。そう思いながらも説明した。


  「で?どうなんだよ、返事は」


 柚葉は呼吸がしにくそうに大きく息を吸い、さらに顔を赤くし、俺の名前を呼んだ。


  「ーーーっ!」


 視界が少し遮られ、唇に触れた感触に、俺は顔が爆発した。柚葉は目を閉じたままで離れていく。恐る恐る目を開けた柚葉と目が合い、俺は思わず笑ってしまった。そして、まだぬくもりが消えない内に、柚葉に近づき、もう一度キスをした。




 

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