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居候人は冒険者で店員さん  作者: ルド
第一章『冒険者な彼の約4分の1日』
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【突然の依頼その7】

「……」


そしてふと思った。

初めは関わりたくないからと距離を取っていた、カイン含めるハーレム軍団だが、これは本当にほっといてもいいのか?


「ヴィットさん?」


アイツは確かに凄く強い、魔法の才もこの街で随一で将来はSランク冒険者になれるんじゃないか、と噂されていた。……本人にその気があるかどうか知らないが。


だが、そのアイツもハーレムに危機が迫ってしまうと、そっちに優先してまう弱点がある。


もし敵が女性陣を狙ってそれでカインの奴が、護衛対象からの守りを緩めてそれが原因で殺されてしまったら。


「ヴィットさん? ヴィットさーーん?」

「うん、聞こえてるからリアナちゃん。耳元で呼びかけなくていいからね?」


リアナちゃんが小首を傾げてるけど、それどころではないよねこれは。


あの通信機に残っていた情報を調べた限り、敵はかなり荒っぽいやり方をしてくる。

その過程で護衛しているカインの女性陣たちが危ういかもしれない。まぁ、魔法使いもいるようだから、たぶん大丈夫かもしれないが。


けど失敗した時のことを考えると、少々不安が残る。


大問題になるかもしれないし、ヘタしたら罪に問われるかも……。

貴族達はそこの辺りにかなり煩い。少しのミスでも何かと理由を付けてくるんだ。


おれは殆ど接点なかったが、カインの奴は強かくて周りに美少女ばかり連れていた上、平民育ちだった。

学園に入る前からよく、冒険者の依頼関係などで同じ冒険者や貴族などから因縁を突き付けられていた。

まぁアイツも遠慮しないタイプだからその度に返り討ちにしていったし、女性陣の中に偉い貴族の令嬢も混ざっていたから、罪には問われなかったようだが。というか逆にキレてしまった女性陣たちが圧力かけて、狙ってきた貴族を潰してしまった…………とかなんとかあったけど、おれもカインも当然知りません。知らないと言ったら知らないっ!


カインはこの街でも有名人であるが、本人は普通の庶民だ。

実力も付いて有名になった今でも、貴族との関係はあまり良くなく学園でも、度々難癖付けられていると以前、相談を受けたことがあった。


これだけの要素を考えれば、ミスった時のリスクは回避しないとな。


しかし、どうやって大人しくしてもらうか、だな、問題は。


と言ってもおれが直接言いに行くわけにはいかない。言いに行ったところで騒ぎになってアウトだろうな。


「……」

「? ……なんでしょうか?」


……となると、ここでリアナちゃんに頼んでカインを抑えてもらうのも、いいかもしれない。


おれはリアナちゃんのみ聞こえるように、顔を近付けて耳元で頼んでみることにした。

その際、リアナちゃんの頰がピクっと反応したが、おれは気付いていない。


「もうじき他の警備の人も来る。リアナちゃんはカインと一緒に対象の側にいてくれ。……その方がおれも安心だ」

「それは構いませんが、ヴィットさんは?」

「実は既に1人は捕まえている。情報が確かならもう1人いてそろそろ仕掛けてくる。だからその前に見つけて、警備の人と一緒に取り押さえる。リアナちゃんはその間、カインたちが動かないようにそれとなく抑えててほしい」


これ以上隠してもしょうがないと一通り話しておく。

そしてリアナに話し終えたおれはフロアの外に出ようと歩き出すが、その行動はリアナちゃんからの袖掴みによって止められてしまう。


「でも、私は……」


服のふちを掴んだまま、顔を上げておれを見るリアナちゃん。

心配そうな表情と決意の色を混ぜた顔で、おれを見上げている彼女を見て、困ったような笑みで慰めるように彼女の頭を撫でつつ、しっかり釘を刺しておいた。


「ダメだよ、ここから先は、たとえリアナちゃんのお願いでもダメ」

「っ、どうしてもですか……?」

「大人しく、カインの側にいるんだ」


本当は手伝いたいリアナちゃんであるが、おれはそれを危険だと許さない。

元々荒っぽいことを苦手な彼女が何故、上位ランク冒険者でもあるカインたちのチームに入ってこんなところにいるのか。


『う、ひっく……! も、もう、ぜったい傷つけさせないからっ! わたしがヴィットお兄ちゃんを、守るから……! だから……!』


───側にいてっ!!


あの日、死にかけたおれに臆病で嫌っていた彼女はずっと付き添ってくれた。そして変わろうと彼女は動き出した。

あの頃から彼女は苦手としていた攻撃魔法を必死に覚えて、それとなくカインやおれから組手などの手習いを受けてきた。


実戦での実力はまだまだであるが、あの時の彼女からしたら驚くべき成長であった。冒険者ランクもDランクで、あと少しでCランクに上がれるほどだ。


だがそれでも頼まない。

どれほど彼女が強く願い思っていても、おれは彼女を自分と同じ場所に立たせなくなかった。


───コツ……コツ……


なぜならそう告げているおれの耳に、先程までは聞こえなかった。

刃のように研ぎ澄まされた、悪意の足音が遠い廊下の先から届いていたからだ。


まだ微かであるが、おれには聞こえている。

危険な音だ。さっきの男以上の強い悪意を感じ取れる。……恐らく、こちらがメインだ。濃密された殺意の抱いた相手では、どう考えても実戦を苦手なリアナちゃんには厳し過ぎる。


「……」

「……わかりました」


おれは目でリアナちゃんに念押しておくと、再び皆がいるフロアから出て、近付いている悪意の方へ駆け出していった。




「……」


そんな彼の後ろ姿を眺めているリアナは、不満そうなそして不安げな瞳で、不承不承であるも彼の言われた通り、兄がいる場所まで戻っていった。





危険度Bランクの殺し屋“剣殺”は標的がいるフロアに歩く中、どう斬り刻むか想像していた。


(やはり首は綺麗に斬らねば美しさが欠けるな。四肢はどうするか? 細切れも悪くないが……)


生き物を斬ることに、常に美学を求めている剣殺。

たとえ相手がか弱い子供や手こずるであろう強敵であっても、このやり方だけは決して曲げない。


殺しの中でのみ彼は自身の剣が輝くのだと信じ込んでいるのだ。

そこにどんな苦難があろうと必ず成し遂げようとする。今から向かうところに邪魔者が沢山いるであろうが、彼は迷いはしない。


カインを含むパーティーと到着しているであろう、アーバン率いる警備隊が立ち塞がっても剣殺は斬り裂き、突き進んで殺してみせる自身が彼にはあった。


今までの仕事でもまとめて斬り裂いていくことなど、何度もあったのだ。

中には厄介な相手もいたが、自身の剣技と魔法を駆使して敵を薙ぎ払い続けた。


そして付いた二つ名は“剣殺”

ひたすら剣で人や魔物を斬り刻み、そこに死を残していくことから付けられたものだった。


「で……何者かな? ぬしは」

「なんでもない、ただの低ランク冒険者だ」


だからこうして行く先を阻むように前に立っているヴィットを見ても、持っている杖を捨てると剣殺は動揺せず、懐から刃渡り20センチはあるサバイバルナイフを取り出してみせる。


「纏えよ雷」


短な詠唱でナイフの刃に雷属性を付与させる。……黄色の電光が刃に帯びていた。

魔法師である剣殺は慣れた手つきで、雷を付与させているナイフを片手でクルクルと回して、自然に立ち塞がるヴィットに近付いていく。


ナイフを持っていながらも殺気はなく、自然な歩行と共に近付いたところで……。


「邪魔だ、失せよ」


迷いのない手捌きで首元を斬り裂くようにナイフを横に一閃。

そしてナイフにまとわせていた、小さな電光が軌跡となってヴィットの首元を走らせた。


───ように見えた。


「なに?」

「っと、危ないな」


軌跡を起きても血しぶきは起きない。

不意打ちとも言えるナイフの一閃であったが、ヴィットはそれを上体を少し退げるだけで躱してみせたのだ。


大半の者なら殺気もない、落ち着いている剣殺の雰囲気に呑まれて、呆然としたまま討ち取られていたであろう。


だが、彼は違っていた。

彼も剣殺のように殺気を出さず、何気ない動作で懐からチョークサイズの小さなナイフを数本持ち。


迷いなく、投げナイフとして放ち剣殺の四肢の関節部を狙いにいった。


「──っ! ふっ!」


虚を突かれたよう四撃であったが、ほんの少し遅れはあるも、剣殺は持っているナイフですべて叩き落とした。


「……ぬしは」


僅かばかりに驚きの瞳をして、剣殺はヴィットの動きを窺うように見る。

この少しの交戦だけで剣殺は目の前の邪魔者を、ただの邪魔者ではないと改めた。


「なるほどな。おまえが二つ名持ちか」


そしてヴィットもまた、この数手で相手の力量をだいたい掴めてきた。

“アナライズ”を使い剣殺を捕捉して、彼は素手で構えを取ると告げた。


「もう一人の男は魔法師じゃなかったんだが、そうか、そっちは魔力持ちでもあったか」


別段、残念そうにも嬉しそうにもない声音で、彼は口にすると体内の煌気を身体中に巡らせていった。


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