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居候人は冒険者で店員さん  作者: ルド
第一章『冒険者な彼の約4分の1日』
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【突然の依頼その6】

「く……どこだ!?」


もう1人の暗殺者を探して、おれは護衛対象がいるフロアに戻って来ていた。


『ヴィット、どこいる? 何故殺し屋から離れた?』

「すいません! でもすぐに護衛対象の方に来てください! もう1人います!」

『なんだと!? オイ────』


その途中、返事がなかったアーバンさんから連絡がきたが、おれはすぐに用件だけ告げて通信を切り、捜索に全力をあげていた。一応もう1人の暗殺者のことも話しておいたが、見つけてくれるかは正直怪しい。


「どこにいる?」


大勢の人の中で護衛対象が無事であることは確認できた。とりあえずおれは周囲に目を配り、能力でもう1人の暗殺者を探し出してみる。

……だが。


「……いない」


能力で探っているが、まだここにはいない。ここではやらないのか?

別の場所でも探してみようか検討してみたが、おれは懐から先ほど調べていた男の通信機を取り出した。


「これで調べてみるか」


ふと思い付き先ほど会話以外の記録がないか、分析スキルの“アナライズ”で探ってみることにした。


……したのだが。



────会話履歴………………1件のみ。

さっき見つけた会話記録しか残っていなかった。


「使い捨ての通信機だったかっ」


冷静に考えれば同じ魔法使いであれば、おれのように記録を調べれることもできる。

前もって記録を削除していたのか、それとももったいない考え方かもしれないが、使い捨てのマジックアイテムであったかもしれない。……マジックアイテムって高いんだけな。


まぁ、この場にまだいないのはほぼ間違いない以上、今のところは安心かもしれない。もう少しすればアーバンさん率いる、他の警備隊の人達も駆けつけてくる。

警戒していれば、まず踏み込むのは困難となる筈なのだ。


だが、それを見て計画を変更する可能性もまだある。

もしかしたらこの場は一旦退いて、次の機会を狙うかもしれない。


もしそうなるとおれもさすがに厳しいことになる。

臨時である上、おれのような冒険者はいつまでも仕事を続ける訳ではない。

普通に護衛期間はあるしおれに至っては今夜だけだ。……帰った後に狙われたとしても責任は取れない。


「……仕方ない」


やはり見つけるしかないが、どうやって見つけるか。

見ていても一向に見つからないし、視界じゃ厳しいか?

ここは一旦、聴覚での探索に絞るか。


第六感も含めたすべての感覚強化のスキル────“カウンター・センス”


おれの能力は人や物の心を感じて届かせる異能だ。

先程までも視覚だけなく、他の器官でも探索していたが、広い館中では通常のやり方では厳しいと予想して、より音を拾えるように聴覚のみに能力を上乗せした。


おれは能力の感覚器官をを一点に絞り、聴覚による範囲を広げ出した。


心の光と違い、音の種類は沢山存在している。

特に対象が物などはなく、人であれば種類もさまざま。

さっきまでの話し声はもちろん、呼吸音、足音などあり、見極めるための手段は大幅に広がってくる。……が、代わりに雑音も耳に入ってしまい、長く使っていると頭痛がするので加減が必要なのだ。


まぁ、慣れているのでそこまで無茶をしないか、調整を狂わせない限りは問題ない。

……ところが。


「げっ!! ───っ!」


油断して頭に酷い痛みが走ってしまった。……く、しまった。

周囲に気を配りながら能力を使っているおれであったが、避けていた、できれば遭遇したくなかった者達を見つけてしまった。てか、タイミング悪いわ!


「カインさんこちらは魔力の異常ありません」

「索敵サンキューなルリ。……この辺りにはまだ怪しい者は居ないようです。ラウン・ディール様」

「そうかご苦労。助かるよカイン君」

「いえいえ、頼りになる仲間がいますから!」


なんでカイン達まで来てんの!

なんでいんの? 分かれて館の中を警戒してるんじゃなかったのかっ!?


なんと親友(?)、でもあるカインが自身のパーティーと一緒に、このフロアにやって来て館の主人と会話をしていた。

見た目だけは貴族の紳士にも見えなくもないカインの姿に、周りの女性達がうっとりとしているが、その度にカインのパーティー仲間の女性陣がキッと睨んで散らしていた。


……どこの番犬隊だ? なんでアイツに寄ってくる女は、みんな一癖も二癖もある濃い連中なんだ。


つい捜索も忘れて呆れた眼差しでカインの女性陣を眺める。

前から知ってはいるが、カインの周りにいる女性達には共通点があって、基本的に面倒な性格の者達ばかり、こんな場所でも隠れて牙を見せるあたりが、おれが近付きなくない理由でもある。……関わるとロクでもない目に遭いかねない。



───だからこそすぐに警戒して離れるべきであった。


おれは無意識にそこにいない彼女のことを失念してしまっていた。


───同時に自身の能力の欠点にも気付くべきであった。


悪意を含ませているであれば、たとえ知り合いでも気付けたであろうが、普段と変わらないままふいに近寄られた際、慣れているために気付けない時があることを。


「たく、カインもカインだ、少しは周りのことも「───ヴィットさん」っ───!?」


よく聞く声音が、おれの心拍を大きく跳ね上がった。


突然背後から声をかけられたおれは緊張のあまり、高い裏声で返事をしてしまった。……動揺しているのが丸分かりだよっ!

とにかく逃げねばと考えて、後ろを振り返れずに一目散に離れようとする。


───が


「逃がしませんよ?」

「あっ」


ガシッと片腕を掴まれて移動を封じられてしまった!

さらに恐ろしいことに、掴んできた女性は両腕で抱えるようにおれの腕を捕獲して────おうっ!? こ、こりゃ、スヴァラシイィィィィ!?


すなわち現在おれの腕には、女性の柔らかな部位が完全に身着した状態であるということだ!!


しかもかなりの力で抱き締めれているため、豊満な部分が餅のように変形しておれの腕を捕らえてしまっている……!

一応下着を着けているようだが、腕には柔らかな軟体生物が暴れているようにしか感じえなかった!


衝撃ですっ! こんな状況なのに感動ですっ!

おれはここで死ぬかもしれない!


こんな生物、今まで相対したことなんてなかったぞ!?

クソォ! 動けない! 良い匂い! 柔らかいよっ!


感触だけでなく、女性特有の甘い匂いに目が回りそうになる。

このままだと本当に堕ちそうだ。


そうして色々とおれが深い思考にふけていると、耳元で彼女の囁きが。


「いい加減にしないと兄さんを呼びますよ?」

「うっ、それは勘弁してほしいな……」


ここでシスコンに出てこられたら面倒でしかない。その言葉だけで正気に戻れたよ。

それにこれはもう諦める他ない。


急いではいるが、仕方ないとおれは一旦逃げるのをやめにした。


「大人しくするから腕を離してくれないか?」

「と、言いつつ逃げるかもしれないので却下です」


捜索に回す能力を解放したまま、抱き締められている腕の方へと振り向いた。

その際、モチモチが変形して感触の変化に悪堕しそうになったが、なんとか堪える。……というか離してくれないの?

それにこの凶器、なんて強敵なんだ。あっという間に心の芯が折れそうですよ。


まったくこの娘はいつのまにこんな立派に育ったんだ。

昔は真っ平らだったのに。


「どうして他人のフリなんてしようとしたんですか? ヴィットさん」

「関わりたくないからだよリアナちゃん」


頬を膨らませて少し拗ねたように睨むカインの妹のリアナちゃんを前に、おれは居心地の悪そうについつい視線を逸らしてしまった。


はぁ、にしても本当に不覚だよ。まったく気付けなかった。

もし相手がカインとかであれば、先読みして隠れたんだけどな……。


けど、それだけ心を許してしまっているって言う、証拠なのかもしれない。

さっきのアリサさんの時も制裁直前で気付いたけど、部屋に入られた時はまったく分からなかったから。


姉妹揃ってなんて恐ろしい女性なんだ。……夜の時はもっとお怖いですが。


「何故ここに居るんですか? そもそも今日は休日の筈でしたよね?」

「……ちょっとこっちでいいかな?」


ジトーとした瞳で問いかける彼女。どうにも答えないと逃がして貰えそうにない様子だ。

おれは能力での捜索を続けたまま、リアナちゃんと一緒に一旦フロアの隅まで隠れるように移動した。


隠れているといっても、人混みでカイン達の視界に入らない位置に移動しただけなんだけど。

そして隠れる際、どういう訳か少し楽しそうにしているリアナちゃんに、おれはどこから話そうか悩みつつ口を開く。


「よし、この辺りならいいか」

「でも急いだ方がいいですよ? 私が居なくなったと気付いたら、兄さんなら全力で探知して駆けつけて来ると思いますから」

「だよねーー。おれも本気になったアイツと対面するのは全力で回避するわ」


話すにしてもカインには絶対バレたくない!

アイツにバレると色々と首を突っ込んで来て面倒だし。そうなると周囲の女性陣もこっちにきて、それが原因でまた何を仕出かしちゃうから、どうなるか分かったもんじゃないからな!


「仕事だ、多分リアナちゃんやカインと同じな」

「……ラウン・ディール様の護衛というわけですね?」


尋ねるように見上げてくるリアナちゃんにおれはコクリと頷く。

そこから考える仕草に入るリアナちゃんを見て、やはりカイン達も護衛の依頼なのかと理解する。


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