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居候人は冒険者で店員さん  作者: ルド
第二章『店員で冒険者な彼の約3日間』
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【通常営業その4】

「なぁヴィット、久しぶりに一緒に仕事しないか?」

「は? なんの?」

「──! 兄さん、もしかして……」


その夜は久々にみんなが食卓に集まっている。

みんなと言うのは当然のこと寮暮らしのカインも帰ってきて、体験でカインのパーティーに付いていたリアナちゃんもテーブル席についていた。


(こうして見るとやっぱり全員整った顔つきだよな)


キッチンの方で料理するアリサさんも薄オレンジ髪も綺麗で顔つき、スタイル共に完璧だが、妹のリアナちゃんも負けてない。

体つきはアリサさんと同じくらいだが、青白髪をしてアリサさんと違いツーサイドアップにして可愛らしさも見える。


(カインは…………無視でいいか?)

「ちょっとーー? ヴィット聞いてる?」

「あ? ああ、聞いてる聞いてる」


少しばかり寂しげな表情で聞いてくるカインにおれは、浮かんでいた思考を切って返事する。……時々、犬に見えるんだよなコイツは。


「で、なんだ依頼関係か?」

「あ、んーーそうなんだが……」


すると一度持っていたフォークを置いて話を切り出してきた。


「3日後の春祭りは知っているよな」

「ああ、いつものアレだろ? 年に2回やる街の」

「ああ、そこでオレ達は、当日にやってくるとある(・・・)チームと、共同で祭りに参加するんだが……」


どこか言いにくそうにして告げるカインに不審に感じながら、真っ先に疑問に思ったことを聞いてみる。


「とあるチーム?」

「依頼者側の都合で機密…………なんだ」

「そうかそうか、ところでなんで目を逸らす」

「うっ、い、色々あるんだ」


機密なのは分かるが、どうしてか目が泳いでいる気がする。

後ろめたさだと推察してみるが、だがどうしてなのか見当がつかない。


(けど、まぁいいか)


「内容はなんだ? 受けるにしてもまずそこだろ」

「あ、ああ、そうだな!」


そう言ってカインに仕事内容を聞いてみることにしたが、内容はそこまで難しくはなさそうに聞こえた。


「ようは街の警備みたいなものか」


内容自体はよくある警備依頼だ。

この時期を考えれば珍しくないし、このタイプの依頼に関しては規模が大きいほど楽になる。

なぜなら、もしある特定の人物のみを警護しろ言われれば、常にその人に集中して目を光らせなければならない。

しかもその場合は余程位の高い人でない限り、大抵が警備あたる人数も少ないことが多く、その為1人の責任が大きいので何が起きてもいいように神経を張り巡らせないといけない。


だが今回のように街規模の大きなものであれば、当然のように警備の人数も多く1人にかかる負担の少なくて済む。


ここまでならおれも受けていいと思ったが、続いて追加された内容を聞いてカインの正気を疑った。


「正確にはその日来てくれる関係者の人たちの周りをな。それもオレのパーティーを引っぱりつつだ」


前半の部分はまだいい、特定と言っても複数であればまだこちらの警備に当たる人間も多いはずだ。

だが、その後のセリフについては残念ながら流すことは無理があった。


「マジでか……」


カインは祭りの日に街を盛り上げるためにと、模擬試合のようなことすることになったそうだ。

カインが通う学園の学園長とそして街の領主からの頼みだそうだから当然断れないが、本人にその気があるので全然気にしてない。


ただ、その仕事には街の警備も含まれていたそうで、いくら模擬(・・)試合であっても見せ物である以上ヘタなことはできず、さすがに集中して守るのは厳しいというのがカインの気持ちであった。


だが、全員が模擬試合に参加するわけではなくカインだけのようなので、カインだけは試合に集中して残りのメンバーだけで補えばいいのでは? というのがまず初めに浮かんだ疑問であったが、


「だからさヴィット、オレが試合する初日だけでいいからオレの仲間と一緒に警備に参加してほしいだよ。オレの仲間ってどうしてかオレがいない(・・・・・・)とすぐ暴走して、気がついたら貴族でも近寄ってきたら平気で絞りカスしてるから放置しておくとあとが怖いんだよ」


リーダー的、そして色んな意味で重要な存在であるカイン無しの場合、あのパーティー(カイン以外)がしっかり機能するかと考えれば彼の焦って真っ青になった顔も理解できてしまう。


(病名はカイン依存症だな。しかも中毒性の高い)


あの連中はほっといたら本当に何するか分からない。

おれも全員と直接面識があるわけではないが、それも噂は嫌という程耳にしてきた。


なので、結論から言うとおれの返答はこうだ。


「うん! 超断る!」

「なっ」


力強く頷いて問答無用で拒否した。

まぁ、当然でしょう?


しかし、カインもどうしても退がらない。

テーブルに身を乗り出しておれに詰め寄ってきた。


「ホント頼むって!」

「他当たれ」

「お前しかいないんだよ!」

「ムリ。あんな連中のお守りとかありえないから」

「そこをなんとかっ! さすがに祭りの最中で問題になったらオレたちでもヤバイんだって!」


まぁ言いたいことは分かる。

もし祭りのためにやってきた、よその偉い貴族とかにナンパされていつもようにスリ潰してしまったら…………いくらここでも顔が効いて副リーダー的な貴族のマリアさんがいても終わるかもしれん。


あの人も基本気品ある令嬢みたいな雰囲気があるんだが、カイン争奪戦になると別人のようになるからな。……以前、話した時も色々とヤバかったし、今回はカインがいないから余計危ないだろ。


「無茶言うな。それなら始まる前によーく言い聞かせおけばいいだろ? アイツらだってバカじゃないんだ、ちゃんとお前がしっかり言っておけば言うこと聞くんじゃないか」


「それができたら最初から頼まないって」

「そりゃそうだ」


言われなくても分かるが、だからやると言うわけにはいかない。

あんな面倒な連中の相手は御免だと、再度断りを入れようとするおれだが、


「ヴィットさん、私からもお願いします」


カインと同じように食事の手を止めていたリアナちゃんからもお願いされてしまった。

り、リアナちゃん? まさか君もか?


「私もまだ兄さんのパーティーに入ったばかりですが、やはり皆さんちょっと兄さんのことになると感情の抑えが効かなくなって……」


どうやら彼女も警備に参加するようで同じように悩んでいたそうだ。

不安そうな顔して拒否するおれに口にしてきた。


「決して悪い人たちではないんですが、張り合って頑張ろうとしてしまうんです。私ではそんな皆さんを止めるのは無理なんです」


「いや、けど、おれはな……」


言葉を濁しそうになるが、そこでリアナちゃんの心労の色がおれの目に映る。

まだ入ったばかりだと言っていたが、どうやら既に相当苦労しているようだ。


「ヴィットさん」

「……」


カインのことは別にどうでもいい。

けど、リアナちゃんがここまで困っている。

おれにとってアリサさんと同じくらい大事な存在である彼女がだ。


【ヴィット……】


ああ、分かってる。

それならもう答えは決まっている。


先程とまったく違う答えで、あとあと後悔することになりそうだが、おれはリアナちゃんとカインに向けて諦めに近い頷きで答えた。


「分かった。どこまでできるか知らないが、やれるだけやってみる」


そう告げるとリアナちゃんは嬉しそうに頬を染める。

心なしか楽しそうに見えるが、そういえば彼女と一緒に組むのは久しぶりだなぁと思い出す。


「おおおおおおーー!! ヴィットォォォォ!!」

「喧しい!!」

「食事中に何騒いでいるの!!」


途中感動した様子のカインが飛び込んできたのでグーパンチで、そこを料理を運んできたアリサさんが熱したフライパンでハエのように叩き落とされる。


「う、うう……あ、ありがと───がくり」


殴り飛ばされそして叩き落とされたカイン。

床に叩きつけられるもまるで芋虫のように体を引きずりおれに近付いくると(軽く引いた)、最後の力を振り絞って礼を言い上げていた顔を落として、ゴトッと音を立てて気絶した。


面倒であったが、邪魔だとアリサさんに言われて、仕方なく部屋まで運ぶことにした。


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