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第3話 イケメンは格差を目の当たりにする


「さて、風呂に入ってさっぱりして、身だしなみも整えたぞ」


 本当なら自分で髪も切ってやりたかったが、そうもいかん。今は時間がない。

 ワックスを使って髪をガッチリと固めたかったが、そういうおしゃれの類のものも、このノブタカは所持していない。


 水とドライヤーでなんとか形を整えるので精いっぱいだ。


 ノブタカの所持している服も、なにやらアニメのキャラがプリントされたものばっかりでセンスの欠片もない。

 その中で、マシに見える衣装を手に取って、着替えた。



「それじゃ、行ってきます」



 靴を履いて、俺はお金を握り締めて外に出る。



「そういや、この辺の地理がまったくわからんな。………。」


 出ていく前に聞いておけばよかったか

 でもまあ、イケメンの俺にはまったく問題のない話だ


「サクラ!」

『はいはーい』


 脳内に声が響いてくると同時に、目の前に一人の天使が舞い降りる。


『シノブくん、無事に憑依できたみたいだね』


 天使のサクラだ。栗色のゆるふわ髪の毛に純白の翼。どこからどう見ても天使だ。


「ああ。おかげさんでな。スーパーまで行きたい。どっちの方角かだけでも、教えてくれ」

『うふふん、デブに命令されてもうれしくないけど、シノブくんはイケメンだから教えちゃう』


 サクラが夕陽の方向を指さす。西か。

 イケメンは、わからない時に人に頼ることを怠らない。


『ついでに言うと、そっちの方角で小さな女の子が泣いていたよ』



 そして、サクラは反対を指さす。東か

 イケメンは、小さい女の子が泣いているとわかれば、全力で助ける。

 耳をすませば、たしかに少女のすすり泣く声が聞こえてくるではないか


「なるほど。じゃあ東だな」

『さっすがシノブくん! 今の姿では完全にロリコンの不審者だけど女の子の味方だね!!』

「抜かせ、イケメンに不可能はない」


 重いからだをのしのしと揺らして走る。



 くっ、全盛期なら何の問題もないのに、たったの10歩で息切れだと!?


 この身体、どうなってやがる

 筋トレしているわけではないし、怠惰な生活でブヨブヨになれば、ここまで動きづらくなるものなのか!



 しかたないか



「呼吸法・息吹」



 コォ―――………


 これは、スポーツや武術などで用いる呼吸法。

 乱れた息を、酸欠状態でも構わずにゆっくりと全て(・・)吐き出し、無理やり(・・・・)呼吸を整える呼吸法。


 ちなみに、精神統一と心を落ち着かせる効果もあります。


 ドムドムと足音を響かせながら、走ること30秒。


「ハァ、フゥー………ごくっ、はぁ、はぁ、だいじょうぶ、んふー。大丈夫、かい、お嬢さん、じゅる、げほっ、ふぅー………」


 息を切らせながらも、俺は少女の元へとたどり着いた

 少女は5歳くらいの女の子。瞳に涙をためて、こちらをまんまるとした眼で見上げると―――


「ひやああああああ! おばけーーーーーーー!!!」



 少女は立ち上がり、全力で去っていった。


「おばけ………だと!!? このイケメンが! お化け!」

『アハハハハハ!! 予想通りのことになったね、シノブくん!』



 空中でふわふわしながらケラケラと腹を抱えて笑うサクラ。


 生まれてこの方、イケメンだったからか、不細工の時の相手の反応がいまいちわからない。


 そうか、デブサイクのうんこ製造機というのは、こういう反応をされてしまうモノなのか



「これは、確かにショックが大きいな。親切心で動いても冤罪になりかねない。早く痩せなければならんな」

『その精神の太さは尊敬するよ、シノブくん』

「ちなみに、少女はなぜ泣いていたのだ?」

『転んだんだって』

「そうか、なら放っておいても大丈夫か」


 早くイケメンにクラスチェンジしなくては、元の体に戻ったノブタカがふたたびデブニートになりかねん。


 俺の努力を無にさせないためにも、お前は痩せられるのだと自信をつけさせねばなるまい。



                  ☆




「ふぅ、ふぅ、息を切らせながらも、スーパーに到着したぞ」

『本当にきつそうだね、その肉体』

「これも依頼だからな。イケメンならば、こんなもの、苦ではない」



 ぜいぜいと小走りをしながら到着したスーパー。

 そんな俺を心配そうに見つめるサクラ。

 うむ? 周囲の人は、俺から少し離れて行動しているぞ。どういうことだ。



「む? なぜだ? イケメンの頃はよく群がってきていたはずだが」

『あー、それはきっと、汗のにおいだね』

「ふむ。イケメンのフェロモンとブタのダシでは違うということだな」


「「ぶふっ!」」


 買い物かごを片手にそんなことを自虐でぼやいていると、周囲の鼻を押さえていた客が噴き出した。

 デブが面白いことをいっても、ただそれだけだ。


 体臭がよくなるわけではない


「母上殿からのおつかいは、コーラだったか。よし、ではコーラと野菜ジュースだ」

『無視しちゃっていいの?』

「野菜ジュースは俺が飲むし、母上殿がのんでも仔細なし。むしろ飲んでもらった方が、母上殿も、サキも痩せるだろう」

『たぶん飲まないだろうけどね』

「誰も飲まなかったときは俺が飲むだけだ。イケメンである、この俺がな」


 周囲の人は思った。この独り言を呟くおデブの少年の、どこがイケメンなのだと。

 しかし、その堂々とした姿に、一同は「なんでやねん」と心の中でツッコミを入れるのだった。


「タンパク質は肉ではなく、すべて大豆で摂取する」


 俺はおからを大量にかごに入れ


「キャベツを2玉」


 キャベツを2玉かごに入れ


「玉ねぎは血をサラサラにする」


 玉ねぎ5つ入りをかごに入れる


「キウイはビタミンミネラルが豊富だとかなんとか。野菜ジュース(スムージー)にして飲もう」


 キウイやらバナナやらリンゴやら、安いのをかたっぱしから入れていく。


「肉は………家に大量にあるから、それでいいか」



 あとは、もうミネラルやカルシウムが足りなかったらゴマを振って、鉄分が足りなかったらアサリを、どんな料理にも混ぜてしまえばいい。

 食物繊維が足りなかったらキノコやキクラゲをどんな料理にでもぶち込め。

 そしたらたいていバランスはよくなる。


『お菓子は買わないの?』

「菓子など買うわけがなかろう。脂肪を蓄えて何になる。脂ぎったうんこを製造するだけだ」


 迷わず菓子コーナーを抜けながらそうつぶやくと、周囲からは「その蓄えた腹の脂肪はなんだ」という心の声が聞こえてくるようであった

 そんなものはシノブの知ったことではないので、努めて無視することにする



……………

………



「あっ!」


 レジ待ちしていると、一つ前の精算していた女性が財布の中身をぶちまけた


「おっと、手伝いますよ」


 俺は即座に買い物かごを地面に降ろして、転がる小銭の行先をかごと足でせき止めてからしゃがんで小銭を拾う。

 ぐう、しゃがみにくい。思わぬ弊害!


 俺がなんとか拾えたのは50円玉一つと10円玉3つだ。


「あ、ありがとうござい………あ、あんたは!」

「ご老体、申し訳ないが、足元を失礼する」


 女性がこちらを見下ろして目を見開くが、俺の背後にいた老人の足元に転がっていたので、とりあえず、急いで拾わねば、ほかのお客様にもご迷惑になってしまうからな。


「今度は落とさぬよう、気を付けるのだぞ」


 俺は学んだ。人間は、デブとの接触を嫌う。

 たとえ不潔でなくとも、デブと不細工はそれだけで醜く映ってしまうモノなのだ。

 差し出された手に触れぬよう、ギリギリからその手にお金を置いた。


「………。」

「なに、礼には及ばん。」


 何か言いたげな表情の女性に一声をかけて俺は買い物かごを地面から持ち上げる。


「………キモ」


 ぽつりと呟かれる女性の声に、ノブタカの魂が泣き叫ぶようにキリキリと痛み出した。


「ふむ、どこのどなたかは知らんが、たとえそれが豚であっても、親切を受けたら礼を言っておくものだ。礼儀がなっていない娘だな」

「………チッ!」


 言い返した俺に、若干目を丸くしたものの、舌打ちをしてから会計を済ませて足早に去っていった。

 美少女の類に入る娘なのだろうが、いささか性格に問題があるな。こちらがデブであるというのも要因だがな。


 あの頃の年の娘は気難しい。まあ、イケメンにかかれば一発で落ちるだろう。


「早く痩せてイケメンにならなければならないな」

『そうだねー』




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